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1:子供時代

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子供というのは実に残酷だ。
特に男の子なんて、酷いものだ。

だって前世の俺だって、思い返せば何が楽しいのか、虫の足を捥いで遊んでいた。
あれは幼いながらに人間に染み付いた征服欲と、善悪のない好奇心が成す残酷な遊びなのだ。


「う~ん」
きっかり5日間寝込んで、俺は全快した。
それはもうケロっと、寝込んでいた日々なんてなかったかのように胃もたれもなく朝からステーキを食べ、剣術の授業にも励んだ。座学は前世の記憶が邪魔をすることもあったけれど、かねがね上等。これもルードが幼いながらにしっかりと王太子教育を受けてきたからだろう。
そして夕方になってようやく与えられた俺の自由時間。俺は手元のノートを見返していた。
そこには俺が熱に浮かされながら書き連ねた子供らしい文字が並んでいる。

【原作でルードがアラクにしたこと】
・犬扱い(10年間ずっと)
・首輪を絶対につけるように命令(10年間ずっと)
・アラクの婚約者をパーティーに招待して、犬のアラクを見させる(時期不明)
・アラクに地面に落ちたご飯を食べさせる
・アラクを召使のように扱う(貴族参加のティーパーティーで)

ルードがアラクにしたことは、作中ではあまり語られない。きっとアラクにとっても思い返したくもない過去なのだろう。しかしヒロインの転生聖女が「あなたの心の傷も一緒に背負いたい」と涙を流した時に、アラクが感情もなくぽつりぽつりと語るシーンが印象的だった。
それがルードがアラクに行った全ての悪事ではないと分かっていつつも、とても印象的だった。アラクはそれにどんな気持ちになった、傷付いただとか己の感情は交えず、ただ史実を述べるかのように淡々と事実だけを言い連ねていったのだ。そしてヒロインが「もうそれ以上言わなくていいよ」(お前が聞いたんだろ)とアラクを抱きしめて、この独白を終えたのだ。

今の俺にとっては「もっとアラクのされて嫌だったこと言ってくれませんか」って感じなのだが、ヒロインにははた迷惑な文句だろう。

さて、このリストの中で決定的に覆せない問題が2つ。犬扱いと首輪。──なんせもう、半年もやっているので。
今更なかったことにはならないよなぁ~なんて、考える。ならないかな。ダメかな。でも俺の国に来た10年のうちの半年でしょ。どうにかならないかな。
だってさ、前世で俺のこと小学生時代3年間虐めてきたやつ、同窓会では何でもなかったかのように俺に話しかけてきてたし。「塾一緒だったよね~」なんて。俺だって大人だったので、お前俺のこと学校でも塾でも虐めてきてたよなぁ~なんて言わず、にこやかに同窓会の雰囲気を壊さず「そうだったなぁ~」とだけ返して、あとは会話はしなかった。そんなもんだろ、きっと。
これからアラクにいろんなことが起きていけば、俺の《犬》をさせられていた半年なんて秒で忘れるだろ。きっと。しつこくない限り。きっと。
いやそうであってくれ。

【嫌なこと忘れるきっかけ → それを些細なことにさせる】
ノートに二重丸で書き込んだ、クソみたいな言葉。だけどこれは俺の実体験なので。
【アラクと友達になる。将来、あんなこともあったなふざけんなよと肩パン程度で許してもらう】

そして俺は、最低にもアラクにこれまでの行いを水に流させるため、まずはアラクの友達になることを目標にしたのだ。
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