2 / 11
二
しおりを挟む
ステムを持ち、ワイングラスを傾ける。こげ茶の液体がゆらりと揺れた。
――――ああ……とっても美味しそう。
ごくりと唾液を飲み込む。これ以上は我慢できそうにない。
いや、そもそもする必要もなかった。これはもう私のモノなのだから。
微かに残っていた躊躇する気持ちを捨て、グラスに口をつける。ああ、やっぱり……
瞼が震える。目を開くと、見慣れた自室の天井が見えた。
「ああ」
無意識に漏れた名残惜しそうな声色。
ぺろりと己の唇を舐める。特に何の味もしないはずなのにどこか甘い。
「……」
上半身を起こして数秒後。完全に目が覚めたサラは自己嫌悪に襲われていた。
残念なことに記憶はしっかり残っている。気を失う前に何をしていたのかも、先程まで見ていた夢の内容も。
――――今更なかったことには……できないか。それよりも、今後のことを早急に考えないと……そういえば……ファビオは?
ベッドに寝ていたのはサラだけだ。慌てて部屋の中に視線を巡らせれば思いがけない人物と目が合った。
「起きたか」
「義兄、どうしてここに……」
途中で気づいて青ざめる。――――バレたんだわ!
いつのまにかいなくなっているファビオ。それだけならまだしも、普段は研究室にこもってばかりの義兄がここにいるということは……つまりそういうことだ。
ニーノはサラの質問には答えずに手にしていた資料をテーブルの上に置きソファーから立ち上がった。サラに近づき、顔を覗き込む。
思わずビクリと身体が反応してしまい、視線を逸らした。義兄相手に警戒する必要なんてないと頭ではわかっているのに、不安がぬぐえない。もし、ファビオのように義兄まで巻き込んでしまったら……そんな不安がすでに端の方にこびりついてしまっている。
義兄の手がサラに伸びた。咄嗟にぎゅっと瞼を閉じる。首に義兄の冷たい指先が触れた。
「脈は、普通だな。目を開け」
「っ、はい」
「ふむ。特に異常はないように見える。自覚症状はあるか?」
「い、まは特にない……かな」
答えながらも内心いつもどおりの義兄の言動に安堵する。どうやら大丈夫なようだ。少なくとも今は。自分も義兄も。
モノクル越しに見える瞳はいつもと変わらない。あるのは観察対象に向ける好奇心と探究心だけ。
――――よかった。
そうとわかれば、今度は違うことが気になってくる。
「義兄。ファビオは今どこにいるの? 帰った?」
「いや、ファビオなら私の研究室にいるが……ここに呼んだ方がいいか?」
「ううん。なら、私が行く」
ベッドから出ようと床に足をつけた瞬間、ぐらりと身体が揺れた。義兄が咄嗟に支えてくれなかったらそのまま倒れていただろう。危なかった。
「大丈夫か?」
「うん。ただ……ちょっと腕を貸してくれると嬉しいかも」
「……掴まってろ」
てっきりあの状態になれば痛みや疲れなんてない体力お化けになると思っていたけどどうやら違ったらしい。それとも初めてだからだろうか。足に上手く力が入らない。なんなら下半身全部がだるい。痛みこそないがまだ違和感も残っている。
「なるほど」
「え”?」
小さな呟きが義兄から聞こえ慌てて顔を向けたが義兄は何もなかったかのようにまっすぐ前だけを見ている。なんとなく掘り下げない方がいい気がしてサラも聞こえなかったフリをした。
静かな廊下を二人でゆっくりと歩く。まるでパーティー会場で義兄にエスコートされているようだ。実際は義兄がパーティーに参加することなんて稀だし、今のこの状況はどちらかというと介護に近いが。
義兄がおもむろに口を開いた。
「サラが寝ていたのは半日ほどだ。その間にファビオからあらかたは聞いた。それと、私のところに報告にきたメイドには金を握らせ口止めをしてある。私がいいというまでおまえの部屋には何人たりとも近づけさせないようにとも」
「……お父様とお母様には?」
「あの人達にはサラが体調を崩したから私が診ていると伝えた。感染症の可能性があるから今は近づかないようにともな」
「それなら、よかった」
両親が突撃してきたらどうしようかと心配だったが、さすが義兄だ。……まだ壁はあるようだけど、それでも昔に比べたら義兄と両親の仲も随分良くなったものだ。微かに微笑みながら義兄の横顔を見つめていると義兄が不機嫌そうに一睨みしてきた。バレた。
「わかっているのか? サラが本当にそうなら報告しなければならないんだぞ? あの人達だけじゃなく……国にも」
義兄の言葉に足を止める。
そんなこと、義兄に言われなくてもわかっている。きっと、この世界の誰よりも私がわかっている。だって……私は原作を知っているから……なんて言えないけど。
淑女らしい微笑みを浮かべ、義兄と視線を合わせる。
「もちろん。わかっている」
「ならいいが。で? 確認するのは私でいいのか? 前任の時は魔術具師長が担当したんだが……」
「義兄がいい」
食い気味で即答する。
正直に言うと、義兄に己のあれやこれやの事情を知られるというのは抵抗があるが、背に腹は代えられない。現魔術具師長よりも豊富な知識と実力を持っている義兄の協力はこの先も必要になるはず。
サラの必死さに驚いたのか一瞬義兄が目を見開いた。――――あ。珍しい表情。
我に返ったのか、義兄がサッと視線を逸らした。再び歩き始める。サラもあわせて歩き出した。研究室に向かって。
義兄の研究室、という名の別宅は本邸から続く外廊下の先にある。もはや研究所といっても過言ではない規模だが、人嫌いの義兄はこの研究室に他の魔術具師を招いたことは一度もないそうだ。
扉を義兄が開く。義兄の身体越しに部屋の中が見えた。奥のソファーに誰かが腰かけ本を読んでいるのがわかった。逆光なのと俯いているので顔はよく見えないが、あの長身と特徴的なミディアムパーマはファビオだろう。
――――あ、気づいた。
目が合い、ファビオは持っていた本を閉じた。
「身体は大丈夫か?」
「うん。ファビオこそ大丈夫?」
「ああ」
「むしろいつもより調子が良さそうだ」
途中で口を挟んだ義兄をファビオが睨みつける。義兄にこんな態度がとれる人なんて限られている。相変わらず仲がいいことだ。
「それよりも」とサラも一人掛けの椅子に座って義兄を見上げた。
義兄は普段自分が使っている椅子に腰かけると、長い足を組み、ファビオとサラを順に見た。
「ファビオ、渡した本には全部目を通したか?」
「一通りは」
「おまえならそれで充分だろう。これに魔力を流してみてくれ」
義兄が差し出したのは一枚の紙。何か絵のようなものが描かれている。規則性がありそうなところを見ると、おそらく魔法陣というやつだろう。本来、魔法陣だけでは魔法は使えない。魔術師が造った魔術具を通さないと……ファビオが紙を手にした。
紙に描かれた魔法陣の端っこが光り始めた。一筆書きをするように光が広がっていく。全ての線が繋がると紙が消えた。瞬間、空中に水球が生まれた。
「わぁっ!」
初めて見る魔法に驚いて声を上げる。義兄に視線を向けると、義兄は興味深そうに色んな角度から水球を観察していた。ファビオはというと、集中しているのか珍しく眉間に皺を寄せて水球を睨みつけている。邪魔をしないように口を閉じた。
義兄がデスクの上にあったビーカーを手にする。
「ファビオ。それをこの中に入れてくれ」
「……」
ファビオがコクリと頷くと、ふよふよと水球が動きだした。吸い寄せられるようにビーカーへと入っていく。
「いいぞ」
義兄の声掛けとともに水球がただの液体へと変わった。
何を思ったのか義兄は手にしたビーカーに口をつけた。
「ええ?! 義兄?!」
「ただの水だな」
「いやいや! そんなあっさりっ!」
たまらず声を上げたサラに義兄が横目で視線を送る。
「あの魔法陣はこの魔術具に使っているものと同じだから大丈夫だ」
そう言って、水差しを指さす。
「そういうことじゃ……まあいいか。ていうことは今のは魔法で間違いないんだよね?」
義兄が頷いた。嘆息して今度はファビオに視線を向ける。
ファビオは険しい表情で空になったビーカーを見つめていた。
「ファビオ。どうだ?」
「ああ……魔法陣のおかげか魔法を使うことについてはさほど難しいとは感じなかった。ただ、魔力が抜ける感覚は……なかなか慣れそうにないな」
「なるほど」
義兄が紙に何やら書いている。
「それで、魔力はまだ残っているのか?」
「あくまで俺の感覚だが……まだ半分以上は残っている気がする」
「そうか。なら、ひとまずその魔力は残しておいてくれ。国王陛下にも見せることになるかもしれないからな」
「……わかった」
ファビオとの話は終わったのか、義兄の視線がサラに向く。
サラはじっと義兄の目を見つめた。すでに覚悟は決めているとでもいうように。
「私が次の『クイーン』ってことだよね?」
「ああ。間違いない」
「やっぱり……そうだよね」
はあ、と溜息を吐く。わかりきっていたことだが改めて言われるとなんとも言えない気持ちになる。心配そうな目で見てくるファビオに笑顔を向ける。ファビオの眉間の皺が増えた。
義兄に視線を向ける。
「それで、私はこれからどうするのがいいと思う? 義兄の知恵を借りたいんだけど……私のことはいくらでも研究していいから」
「サラ?!」
ファビオが非難の声を上げるが無視をする。
言いたいことはわかるが、私としてはむしろ徹底的に研究してもらいたいくらいなのだ。義兄にはぜひあの衝動を抑える薬を作ってもらいたい。原作ではそんな薬でてこなかったけど……この世界が原作とは違う展開になっている時点で先のことなんてわからないのだから希望を持ちたい。
それに、考えないといけないことは他にもある。ヒロインが死んだ理由。『クイーン』となった私は絶対に知っていた方がいい。……そんな気がする。
「サラにそこまで言われたらさすがの私も否とは言えないな」
仕方ないなと微笑みながらもその目は輝いている。貴重な義兄の笑みに、ファビオとサラは顔をひくつかせた。――――私、はやまったかもしれない。
――――ああ……とっても美味しそう。
ごくりと唾液を飲み込む。これ以上は我慢できそうにない。
いや、そもそもする必要もなかった。これはもう私のモノなのだから。
微かに残っていた躊躇する気持ちを捨て、グラスに口をつける。ああ、やっぱり……
瞼が震える。目を開くと、見慣れた自室の天井が見えた。
「ああ」
無意識に漏れた名残惜しそうな声色。
ぺろりと己の唇を舐める。特に何の味もしないはずなのにどこか甘い。
「……」
上半身を起こして数秒後。完全に目が覚めたサラは自己嫌悪に襲われていた。
残念なことに記憶はしっかり残っている。気を失う前に何をしていたのかも、先程まで見ていた夢の内容も。
――――今更なかったことには……できないか。それよりも、今後のことを早急に考えないと……そういえば……ファビオは?
ベッドに寝ていたのはサラだけだ。慌てて部屋の中に視線を巡らせれば思いがけない人物と目が合った。
「起きたか」
「義兄、どうしてここに……」
途中で気づいて青ざめる。――――バレたんだわ!
いつのまにかいなくなっているファビオ。それだけならまだしも、普段は研究室にこもってばかりの義兄がここにいるということは……つまりそういうことだ。
ニーノはサラの質問には答えずに手にしていた資料をテーブルの上に置きソファーから立ち上がった。サラに近づき、顔を覗き込む。
思わずビクリと身体が反応してしまい、視線を逸らした。義兄相手に警戒する必要なんてないと頭ではわかっているのに、不安がぬぐえない。もし、ファビオのように義兄まで巻き込んでしまったら……そんな不安がすでに端の方にこびりついてしまっている。
義兄の手がサラに伸びた。咄嗟にぎゅっと瞼を閉じる。首に義兄の冷たい指先が触れた。
「脈は、普通だな。目を開け」
「っ、はい」
「ふむ。特に異常はないように見える。自覚症状はあるか?」
「い、まは特にない……かな」
答えながらも内心いつもどおりの義兄の言動に安堵する。どうやら大丈夫なようだ。少なくとも今は。自分も義兄も。
モノクル越しに見える瞳はいつもと変わらない。あるのは観察対象に向ける好奇心と探究心だけ。
――――よかった。
そうとわかれば、今度は違うことが気になってくる。
「義兄。ファビオは今どこにいるの? 帰った?」
「いや、ファビオなら私の研究室にいるが……ここに呼んだ方がいいか?」
「ううん。なら、私が行く」
ベッドから出ようと床に足をつけた瞬間、ぐらりと身体が揺れた。義兄が咄嗟に支えてくれなかったらそのまま倒れていただろう。危なかった。
「大丈夫か?」
「うん。ただ……ちょっと腕を貸してくれると嬉しいかも」
「……掴まってろ」
てっきりあの状態になれば痛みや疲れなんてない体力お化けになると思っていたけどどうやら違ったらしい。それとも初めてだからだろうか。足に上手く力が入らない。なんなら下半身全部がだるい。痛みこそないがまだ違和感も残っている。
「なるほど」
「え”?」
小さな呟きが義兄から聞こえ慌てて顔を向けたが義兄は何もなかったかのようにまっすぐ前だけを見ている。なんとなく掘り下げない方がいい気がしてサラも聞こえなかったフリをした。
静かな廊下を二人でゆっくりと歩く。まるでパーティー会場で義兄にエスコートされているようだ。実際は義兄がパーティーに参加することなんて稀だし、今のこの状況はどちらかというと介護に近いが。
義兄がおもむろに口を開いた。
「サラが寝ていたのは半日ほどだ。その間にファビオからあらかたは聞いた。それと、私のところに報告にきたメイドには金を握らせ口止めをしてある。私がいいというまでおまえの部屋には何人たりとも近づけさせないようにとも」
「……お父様とお母様には?」
「あの人達にはサラが体調を崩したから私が診ていると伝えた。感染症の可能性があるから今は近づかないようにともな」
「それなら、よかった」
両親が突撃してきたらどうしようかと心配だったが、さすが義兄だ。……まだ壁はあるようだけど、それでも昔に比べたら義兄と両親の仲も随分良くなったものだ。微かに微笑みながら義兄の横顔を見つめていると義兄が不機嫌そうに一睨みしてきた。バレた。
「わかっているのか? サラが本当にそうなら報告しなければならないんだぞ? あの人達だけじゃなく……国にも」
義兄の言葉に足を止める。
そんなこと、義兄に言われなくてもわかっている。きっと、この世界の誰よりも私がわかっている。だって……私は原作を知っているから……なんて言えないけど。
淑女らしい微笑みを浮かべ、義兄と視線を合わせる。
「もちろん。わかっている」
「ならいいが。で? 確認するのは私でいいのか? 前任の時は魔術具師長が担当したんだが……」
「義兄がいい」
食い気味で即答する。
正直に言うと、義兄に己のあれやこれやの事情を知られるというのは抵抗があるが、背に腹は代えられない。現魔術具師長よりも豊富な知識と実力を持っている義兄の協力はこの先も必要になるはず。
サラの必死さに驚いたのか一瞬義兄が目を見開いた。――――あ。珍しい表情。
我に返ったのか、義兄がサッと視線を逸らした。再び歩き始める。サラもあわせて歩き出した。研究室に向かって。
義兄の研究室、という名の別宅は本邸から続く外廊下の先にある。もはや研究所といっても過言ではない規模だが、人嫌いの義兄はこの研究室に他の魔術具師を招いたことは一度もないそうだ。
扉を義兄が開く。義兄の身体越しに部屋の中が見えた。奥のソファーに誰かが腰かけ本を読んでいるのがわかった。逆光なのと俯いているので顔はよく見えないが、あの長身と特徴的なミディアムパーマはファビオだろう。
――――あ、気づいた。
目が合い、ファビオは持っていた本を閉じた。
「身体は大丈夫か?」
「うん。ファビオこそ大丈夫?」
「ああ」
「むしろいつもより調子が良さそうだ」
途中で口を挟んだ義兄をファビオが睨みつける。義兄にこんな態度がとれる人なんて限られている。相変わらず仲がいいことだ。
「それよりも」とサラも一人掛けの椅子に座って義兄を見上げた。
義兄は普段自分が使っている椅子に腰かけると、長い足を組み、ファビオとサラを順に見た。
「ファビオ、渡した本には全部目を通したか?」
「一通りは」
「おまえならそれで充分だろう。これに魔力を流してみてくれ」
義兄が差し出したのは一枚の紙。何か絵のようなものが描かれている。規則性がありそうなところを見ると、おそらく魔法陣というやつだろう。本来、魔法陣だけでは魔法は使えない。魔術師が造った魔術具を通さないと……ファビオが紙を手にした。
紙に描かれた魔法陣の端っこが光り始めた。一筆書きをするように光が広がっていく。全ての線が繋がると紙が消えた。瞬間、空中に水球が生まれた。
「わぁっ!」
初めて見る魔法に驚いて声を上げる。義兄に視線を向けると、義兄は興味深そうに色んな角度から水球を観察していた。ファビオはというと、集中しているのか珍しく眉間に皺を寄せて水球を睨みつけている。邪魔をしないように口を閉じた。
義兄がデスクの上にあったビーカーを手にする。
「ファビオ。それをこの中に入れてくれ」
「……」
ファビオがコクリと頷くと、ふよふよと水球が動きだした。吸い寄せられるようにビーカーへと入っていく。
「いいぞ」
義兄の声掛けとともに水球がただの液体へと変わった。
何を思ったのか義兄は手にしたビーカーに口をつけた。
「ええ?! 義兄?!」
「ただの水だな」
「いやいや! そんなあっさりっ!」
たまらず声を上げたサラに義兄が横目で視線を送る。
「あの魔法陣はこの魔術具に使っているものと同じだから大丈夫だ」
そう言って、水差しを指さす。
「そういうことじゃ……まあいいか。ていうことは今のは魔法で間違いないんだよね?」
義兄が頷いた。嘆息して今度はファビオに視線を向ける。
ファビオは険しい表情で空になったビーカーを見つめていた。
「ファビオ。どうだ?」
「ああ……魔法陣のおかげか魔法を使うことについてはさほど難しいとは感じなかった。ただ、魔力が抜ける感覚は……なかなか慣れそうにないな」
「なるほど」
義兄が紙に何やら書いている。
「それで、魔力はまだ残っているのか?」
「あくまで俺の感覚だが……まだ半分以上は残っている気がする」
「そうか。なら、ひとまずその魔力は残しておいてくれ。国王陛下にも見せることになるかもしれないからな」
「……わかった」
ファビオとの話は終わったのか、義兄の視線がサラに向く。
サラはじっと義兄の目を見つめた。すでに覚悟は決めているとでもいうように。
「私が次の『クイーン』ってことだよね?」
「ああ。間違いない」
「やっぱり……そうだよね」
はあ、と溜息を吐く。わかりきっていたことだが改めて言われるとなんとも言えない気持ちになる。心配そうな目で見てくるファビオに笑顔を向ける。ファビオの眉間の皺が増えた。
義兄に視線を向ける。
「それで、私はこれからどうするのがいいと思う? 義兄の知恵を借りたいんだけど……私のことはいくらでも研究していいから」
「サラ?!」
ファビオが非難の声を上げるが無視をする。
言いたいことはわかるが、私としてはむしろ徹底的に研究してもらいたいくらいなのだ。義兄にはぜひあの衝動を抑える薬を作ってもらいたい。原作ではそんな薬でてこなかったけど……この世界が原作とは違う展開になっている時点で先のことなんてわからないのだから希望を持ちたい。
それに、考えないといけないことは他にもある。ヒロインが死んだ理由。『クイーン』となった私は絶対に知っていた方がいい。……そんな気がする。
「サラにそこまで言われたらさすがの私も否とは言えないな」
仕方ないなと微笑みながらもその目は輝いている。貴重な義兄の笑みに、ファビオとサラは顔をひくつかせた。――――私、はやまったかもしれない。
3
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい!
*
BL
R18BLゲームで、頭弱く魔力最低、きゃんきゃん吠えるだけの残念なちっちゃい悪役、元王子のリユィに転生してしまいました……!
主人公にいじわるされたり、最愛の推しにきらわれたり、溺愛されたりしながら、ざまぁ回避のために頑張ります!
R18なお話には*がついています。
お話の本編は完結していますが、おまけのお話を更新したりします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる