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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 14-01
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かちり、こちり。大げさな音を立てて時計が回る。
文字盤が指す時刻は八時二十分、もうすぐ朝のホームルームが始まる時間だ。至近距離に校舎がある翠明寮とはいえ、こんな時間までくすぶっている生徒はそうそういない。
いるとすればそれは病欠か、あるいは何かを待っているかのどちらかだ。
「来ないなぁ」
そして今、玄関先で立ち尽くしている霧宮風葉は、まさに後者だった。
「むぅ」
溜息をつきながら、風葉は力なく壁を蹴る。古ぼけて黄ばんだ漆喰は、やっぱり通り抜けたりしない。堅い感触を返してくるだけだ。
「むぅー」
風葉は待っている。誰あろう、五辻辰巳を。強引かつなし崩し的だったとはいえ、それでも共に激戦をくぐり抜けた友達を。
だがあれ以来、辰巳は一向に顔を見せない。教室どころか、寮の食堂にさえも。
もう三日も経つのに、だ。
「三日、三日かぁ」
時間の流れの速さに辟易しながら、風葉は回想する。この三日間、何度も繰り返したあの後の顛末を。
――零壱式に拘束されたレツオウガは、霊力装甲を解除した後、有無を言わさず拘束された。
それからあっと言う間に転移術式で凪守の基地へ連行され、半日の間色んな事をした。
具体的には質疑応答と身体検査だ。他にもあった気はするが、とにかく色々ありすぎたのでよく思い出せない。
そうして確か、午後六時くらいだったろうか。気づくと、風葉は開放されていた。
二度とフェンリルを引き出さぬよう、かつグレイプニル・レプリカを極力外さぬよう、厳重な注意は受けた。
そして、それだけだ。
風葉の手元には、驚くほどあっさりと、いつもの日常が返って来たのだ。
ただ唯一、五辻辰巳の姿を除いて。
「だから待ってるんだけど、ね」
こちり、とまた時計が時間を刻む。針が八時二十六分を指す。そろそろ小走りしないと間に合わない時間だが、風葉は動かない。動けない。
ただ、何気なく事務室の窓を見る。
誰もいない窓枠の中に、自分の姿がぼんやりと映る。
いつもの制服に身を包んだ、黒髪のポニーテール。とっくに見慣れた、けれどほんの少し違和感のある髪。
フェンリルの憑依が離れたわけではない。ただグレイプニル・レプリカの効力で、犬耳や尻尾共々見えなくなっているだけだ。
丁度、辰巳や凪守の動きと同じように。
「ああもう、なにやってんだろ」
辰巳も、凪守も、自分自身でさえも。
足踏みすら出来ない現状に、一際大きなため息をつく風葉。
同時に、こち、とまた分針が風葉を急かす。そろそろ限界だ。
「いい加減のんびりしてらんないなぁ」
「そうみたいだな」
踵を返した直後、後ろからかかってきた声が一つ。
がば、と風葉は振り向く。
「……まぁ、なんだ。おはよう」
ばりばりと。バツが悪そうに頭をかく辰巳が、そこに立っていた。
勿論、日乃栄高校指定の男子制服姿だ。
「……うん。おはよう」
はにかみながら、風葉は微笑んだ。
文字盤が指す時刻は八時二十分、もうすぐ朝のホームルームが始まる時間だ。至近距離に校舎がある翠明寮とはいえ、こんな時間までくすぶっている生徒はそうそういない。
いるとすればそれは病欠か、あるいは何かを待っているかのどちらかだ。
「来ないなぁ」
そして今、玄関先で立ち尽くしている霧宮風葉は、まさに後者だった。
「むぅ」
溜息をつきながら、風葉は力なく壁を蹴る。古ぼけて黄ばんだ漆喰は、やっぱり通り抜けたりしない。堅い感触を返してくるだけだ。
「むぅー」
風葉は待っている。誰あろう、五辻辰巳を。強引かつなし崩し的だったとはいえ、それでも共に激戦をくぐり抜けた友達を。
だがあれ以来、辰巳は一向に顔を見せない。教室どころか、寮の食堂にさえも。
もう三日も経つのに、だ。
「三日、三日かぁ」
時間の流れの速さに辟易しながら、風葉は回想する。この三日間、何度も繰り返したあの後の顛末を。
――零壱式に拘束されたレツオウガは、霊力装甲を解除した後、有無を言わさず拘束された。
それからあっと言う間に転移術式で凪守の基地へ連行され、半日の間色んな事をした。
具体的には質疑応答と身体検査だ。他にもあった気はするが、とにかく色々ありすぎたのでよく思い出せない。
そうして確か、午後六時くらいだったろうか。気づくと、風葉は開放されていた。
二度とフェンリルを引き出さぬよう、かつグレイプニル・レプリカを極力外さぬよう、厳重な注意は受けた。
そして、それだけだ。
風葉の手元には、驚くほどあっさりと、いつもの日常が返って来たのだ。
ただ唯一、五辻辰巳の姿を除いて。
「だから待ってるんだけど、ね」
こちり、とまた時計が時間を刻む。針が八時二十六分を指す。そろそろ小走りしないと間に合わない時間だが、風葉は動かない。動けない。
ただ、何気なく事務室の窓を見る。
誰もいない窓枠の中に、自分の姿がぼんやりと映る。
いつもの制服に身を包んだ、黒髪のポニーテール。とっくに見慣れた、けれどほんの少し違和感のある髪。
フェンリルの憑依が離れたわけではない。ただグレイプニル・レプリカの効力で、犬耳や尻尾共々見えなくなっているだけだ。
丁度、辰巳や凪守の動きと同じように。
「ああもう、なにやってんだろ」
辰巳も、凪守も、自分自身でさえも。
足踏みすら出来ない現状に、一際大きなため息をつく風葉。
同時に、こち、とまた分針が風葉を急かす。そろそろ限界だ。
「いい加減のんびりしてらんないなぁ」
「そうみたいだな」
踵を返した直後、後ろからかかってきた声が一つ。
がば、と風葉は振り向く。
「……まぁ、なんだ。おはよう」
ばりばりと。バツが悪そうに頭をかく辰巳が、そこに立っていた。
勿論、日乃栄高校指定の男子制服姿だ。
「……うん。おはよう」
はにかみながら、風葉は微笑んだ。
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