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#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 12-03

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「――っ、ぐ、ぅ!?」
 危うくグングニルを取り落としかけつつも、オーディンは姿勢制御を断行。放物線が下降しかけた辺りで辛くも制動をかけ、グラウンドの端の方に着地。
 グングニルを杖代わりにようやく立つその胸部装甲は、歪で巨大なヒビが放射状に走っていた。一撃を貰ったのだ。
「す、ぅ」
 その一撃――左正拳突きを放ったレツオウガは、辰巳の操作に従ってなめらかに残心。
 同時に、背部の霊力装甲からたなびいていた光の粒子が止まる。先ほど二機を覆った霊力の光は、グングニルだけでなくレツオウガの背中からも出ていたのだ。
 だが、なぜそんな場所から残光が発生するのか。その理由を辰巳はつぶやく。
「タービュランス・アーマー、か。ったく、何て趣味的なモノを……」
 正式名称、酒月式試製二型烈風装甲術式。その名の通り鬼才酒月利英さかづきりえい、渾身の一作である。
 Eマテリアルを軸としたこの霊力装甲は、高密度の霊力を収束しているため、高い防御力を誇っている。
 が、その真価があるのはそこではない。
 端的に言えばこのタービュランス・アーマーは、その構成している霊力を、表面から任意に噴射する事が出来るのだ。言わばリバウンダーやラピッドブースターの応用である。
 これにより、レツオウガはいちいち術式を展開せずとも、任意のタイミングで急加速や急制動をかけられるのだ。渾身のグングニルよりも鉄拳が先んじたのは、それが理由だ。
 要するに、レツオウガは全身がブースターの塊なのだ。
 この術式を全力駆動させれば、さながら烈風タービュランスのように強引かつ縦横無尽な機動が可能となるだろう。烈風装甲の名前はそれが所以である。
「なるほど。なるほど、ね」
 胸の応急処置を終え、ゆっくりと立ち上がるオーディン。その動作に不自然なものは見当たらない。
「ち」
 舌打つ辰巳。微妙に軽かった手応え通り、やはり致命傷ではなかった。
 打突の瞬間、オーディンはグングニルの霊力放射方向を変え、衝撃を軽減していたのだ。
「要するに、私のグングニルと同じワケですねぇ」
 言いつつ、オーディンはグングニルを水平に構え直す。鏡のように無垢な刃が、Rフィールドの赤色にぬらりと光る。
「ですがそれを動かす霊力、いつまで持ちますかねぇ?」
 その予測が聞こえているのか、いないのか。
 日乃栄高校の屋上から、レツオウガは一直線に跳躍した。反撃開始である。
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