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#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 11-02

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 いつもそうだ。日乃栄高校に進学を決めた時もそうだった。
 つい二年前まで通っていた光橋中学は進学校であり、どこへ行くかはおおむね決まっていた。
 だが風葉はそれを蹴り、他の皆が進む進学コースから、一人外れたのだ。
 無論、両親からは渋い目で見られた。担任の先生からも反対された。
 けれども風葉はそれを押し通し、日乃栄高校に入学したのだ。
 かつて見た自分の夢を、叶えるために。
 そうして届いた制服に初めて袖を通した日と、今の風葉は同じ心情であった。
「やらかしちゃった、かな」
 そう独りごちたのは、これで一体何度目だろう。
 要するに未練だ。もっと良い選択が他にあったんじゃないかという、もしもを探す後ろ髪だ。
「けど――」
 未練はあっても、後悔はない。するわけにはいかない。納得は、既に済ませているのだから。
「――ううん。だからこそ、ちゃんとやらなきゃ」
 始動キーを回す。ハンドル及びフットレストを介し、霊力がレックウの車体に循環する。エンジンに霊力という血液が流れ込み、鋼の心臓がにわかに脈を打つ。
 アクセルを吹かせば、猛るマフラーが息を荒げて風葉を急かす。
 そして、それ以上に。
 風葉の胸中。同調しているフェンリルが、声もなく言うのだ。
 戦え、と。食わせろ、と。
 それは闘争本能だ。神話の時代、神々の黄昏を終わらせた獣性が、風葉を突き動かすのだ。
 その声に、風葉は疑問を差し挟まない。
 辰巳を助けるために、風葉自身がその力を望んだのだから。
『よし、少し待っていてくれ。この準備が終わったら、僕も今から――』
 通信機越しにいわおが何か言っている。だが胸の中の魔狼は、そんなものに耳を貸すなとせっつく。
「ごめんなさい」
 今は風葉もそれに同意見であり、小さく謝って通信機を切った。
 もう、一秒たりとも待っていたくないのだ。
「す、ぅ」
 一つ、息を吸う。
 胸の奥、霊力を司るもう一つの心臓。それを司る魔狼に任せて、風葉は吼えた。
 轟。
 膨大な圧力を伴う霊力の風が、辺りを薙ぎ払った。
 風葉としてはやけっぱちと気合い入れで「ぎゃおー」と叫んだつもりだった。しかし闘志を込められた魔狼の咆吼は、もはや一個の攻撃術式と化していたのだ。
 後にソニック・シャウトと名付けられる自分の叫びに風葉は目を剥き、その直撃を食らったRフィールドが表面を波打たせたので更に目を丸めた。
 本当にフェンリルにとって、Rフィールドは紙細工も同前なのだ。
「我ながら、すごいコトになっちゃったな――!」
 すぐさま気を取り直し、風葉はレックウを発進。
 民家の屋根を即席のジャンプ台とし、数レックウは跳んだ。一直線に、Rフィールドへ向かって。
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