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#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 11-01

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 光のカーテンが溶けていく。天来号てんらいごう利英りえいの研究室から送られた転移術式の残光だ。
 地面に落ちるよりも先に、風にさらわれてかき消える光の淡雪。
 その中心に、風葉かざははいた。バイク型霊力武装レックウにまたがる彼女は、ハンドルを握り直しながら素早く周囲を見回す。
 場所は、どこかの民家の屋根の上。見渡せば、同じような高さの民家が道なりにひしめいている。奇しくも以前、辰巳たつみが等身大の竜牙兵ドラゴントゥースウォリアー達と戦った住宅街の一角だ。
 利英が勝手に作ったいびつな転移術式は、それでも無事に機能を全うした訳だ。
 次いで、風葉は正面を見る。
 幻燈結界げんとうけっかいの薄墨に沈む、ごくごく平凡な町並み。
 それを百メートルほど進んだ前方に、巨大な赤色が切り立っていた。
 ビルというべきか、山というべきか。縦幅も、横幅も、肉眼では確認しきれないくらいに途方もなく巨大な、赤い光のドーム――人造Rフィールド。
 見間違えようがない、現在進行形で凪守なぎもりを悩ませている、赤色の災厄。
 一見すると表面はガラスのようになめらかだが、薄皮一枚下には乱気流のような激しさを見せる霊力が、絶えず渦を巻いている。
「これは、すごいな」
 莫大な量だ。理屈でなく、直感で風葉はそう理解した。言わんや、フェンリルとの同調がもたらした賜物である。
 あの壁を正攻法で破るとなれば、なるほど確かに大変だろう。いかんせん竜巻に穴を開けるような所業だ。
 ――犬耳の方をすませば、聞こえて来る。Rフィールドを右手に回った、ずっと向こう側。苛立たしげに動き回っている、足音や人の声が。
 派遣された凪守の正規部隊が、陣形を展開しているのだ。
 遠からずエッケザックスから送られてくるだろう、風葉とは別のフェンリルを用いた術式。彼等はその到着を待っているのだ。
 Rフィールドを消し飛ばすために。
 オウガへ、自壊術式を送るために。
「……」
 だから風葉はそれに先んじて、辰巳に接触する。同調完了したフェンリルと、レックウの機動力を合わせれば、そう難しくはない。
 今こうして間近で見ても、風葉の目にはやはり紙細工のようなもろい壁にしか見えないのだ。
 ブチ破るのは、きっと障子戸よりも簡単だろう。
 だが。
「は、は」
 知らず、乾いた笑いが口からこぼれた。
 今更ながら、本当に今更ながら、風葉は少し後悔していた。
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