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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 10-03
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「……。どうにか、出来るってのかい。キミが」
怒りも笑いもなく、努めて真顔で視線を向ける利英。
一語ずつ、区切りながら確かめるその問いかけに、風葉は淀みなく頷いた。
――本家と違い、地上の、しかも霊地の上に出現した人造のRフィールド。今はまだ幻燈結界でどうにか隔離できているものの、放っておけばどんな悪影響が出るか分かったものではない、危険な存在。
しかして今の風葉の目には、その赤は障子紙より華奢な紙細工にしか見えないのだ。
「私なら、アレを壊せます」
まず利英を、次いで巌を、風葉はまっすぐに見据える。
「だから、お願いします。五辻くんを、助けて下さい」
『……』
沈黙。風葉は拳を握りしめ、巌は手を組んで、画面越しにお互いを見据え合う。
言外に、風葉はこう言っているのだ。
私の力を使って下さい、と。
絡み合う視線。意地と、怒りと、信念と、打算とが、画面越しに音もなく渦を巻く。
室内の空気は秒単位で重さを増し、じわりと締め付ける重圧に利英が声を上げそうになった頃――ふ、と巌が一つ息をついた。
『まったく。資料以上に……』
跳ねっ返りだな、という続きを巌はすんでのところで噤む。
そして、考える。どの選択が最良なのか。
実際、ここで風葉の懇願を突っぱねる事も出来るのだ。Rフィールドを突破するだけなら、エッケザックスから送られてくるだろう術式を、冥に持たせれば済む話だ。後は予定通りオウガの自爆まで持っていけばいい。
そうなれば試験運用と観察の対象は全て消滅し、晴れてファントム・ユニットは解散。責任は追求されるだろうが、それでも巌は凪守本隊へ復帰できる事だろう。
二年前の贖罪を、一つも果たせないままで。
何も、何ひとつも為せないままで。
『……』
程無く、結論は出た。
『……理由はどうあれ、一般人に荒事をさせるわけにはいかない』
まぁ当然だ。道理である。
「そんな!」
歯噛し、それでも風葉は食い下がろうとする。
「でも、私は五辻くんに――!」
『ところで、凪守は半民半官の組織でな。霊力の高い一般人をスカウトする事態がある』
そんな風葉の機先を、巌は絶妙なタイミングで制した。
実際、巌の言葉に嘘はない。風葉のように禍に憑依され、何かの拍子でそれを使いこなしてしまう一般人はたまにいる。
それをスカウトし、戦力として迎え入れる事もままある。
だが、そんな一般人を鉄火場へ即時投入する状況など、果たして過去にあったろうか。
『……なってみるかい。五人目のファントム・ユニットに』
どうあれ、巌はその選択肢を示した。心の隅に、わだかまりをおいやりながら。
「はい!」
そうして、風葉は了承した。心の中に、迷いは一切無かった。
自分とは違う、若人らしいまっすぐさに、巌は小さく笑う。
しかる後、巌もまた迷いを捨てた。十全とはいかなくとも、せめてその決意には応えねばなるまい。
怒りも笑いもなく、努めて真顔で視線を向ける利英。
一語ずつ、区切りながら確かめるその問いかけに、風葉は淀みなく頷いた。
――本家と違い、地上の、しかも霊地の上に出現した人造のRフィールド。今はまだ幻燈結界でどうにか隔離できているものの、放っておけばどんな悪影響が出るか分かったものではない、危険な存在。
しかして今の風葉の目には、その赤は障子紙より華奢な紙細工にしか見えないのだ。
「私なら、アレを壊せます」
まず利英を、次いで巌を、風葉はまっすぐに見据える。
「だから、お願いします。五辻くんを、助けて下さい」
『……』
沈黙。風葉は拳を握りしめ、巌は手を組んで、画面越しにお互いを見据え合う。
言外に、風葉はこう言っているのだ。
私の力を使って下さい、と。
絡み合う視線。意地と、怒りと、信念と、打算とが、画面越しに音もなく渦を巻く。
室内の空気は秒単位で重さを増し、じわりと締め付ける重圧に利英が声を上げそうになった頃――ふ、と巌が一つ息をついた。
『まったく。資料以上に……』
跳ねっ返りだな、という続きを巌はすんでのところで噤む。
そして、考える。どの選択が最良なのか。
実際、ここで風葉の懇願を突っぱねる事も出来るのだ。Rフィールドを突破するだけなら、エッケザックスから送られてくるだろう術式を、冥に持たせれば済む話だ。後は予定通りオウガの自爆まで持っていけばいい。
そうなれば試験運用と観察の対象は全て消滅し、晴れてファントム・ユニットは解散。責任は追求されるだろうが、それでも巌は凪守本隊へ復帰できる事だろう。
二年前の贖罪を、一つも果たせないままで。
何も、何ひとつも為せないままで。
『……』
程無く、結論は出た。
『……理由はどうあれ、一般人に荒事をさせるわけにはいかない』
まぁ当然だ。道理である。
「そんな!」
歯噛し、それでも風葉は食い下がろうとする。
「でも、私は五辻くんに――!」
『ところで、凪守は半民半官の組織でな。霊力の高い一般人をスカウトする事態がある』
そんな風葉の機先を、巌は絶妙なタイミングで制した。
実際、巌の言葉に嘘はない。風葉のように禍に憑依され、何かの拍子でそれを使いこなしてしまう一般人はたまにいる。
それをスカウトし、戦力として迎え入れる事もままある。
だが、そんな一般人を鉄火場へ即時投入する状況など、果たして過去にあったろうか。
『……なってみるかい。五人目のファントム・ユニットに』
どうあれ、巌はその選択肢を示した。心の隅に、わだかまりをおいやりながら。
「はい!」
そうして、風葉は了承した。心の中に、迷いは一切無かった。
自分とは違う、若人らしいまっすぐさに、巌は小さく笑う。
しかる後、巌もまた迷いを捨てた。十全とはいかなくとも、せめてその決意には応えねばなるまい。
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