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#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 01-04

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 無論、彼は手を尽くした。他人の生命を磨り潰し、妻への活力にしようとした事もあった。
 しかして、ハンナはそれを拒んだ。
『         』
 最後の瞬間、ハンナが何を言ったのか。今の彼には思い出せない。
 思い出せないが、ともかくその日を皮切りに、彼は今まで以上の死に物狂いとなった。
 手始めに、まず彼は死にながらも生きる存在、死霊術師へと成り代わった。
 逝ってしまった妻に、少しでも近付くため。残された息子を、全力で守るためだ。
 そして、彼は戦った。影に日向に、家族を守るために。
 第一次Rフィールド殲滅作戦に参加したのもそれが理由だ。金が必要だったのだ。
 そうして彼は史上最大級の魔術災害に挑み――再び死んだ。
 正確には機能停止だ。魂と肉体を分離している死霊術師にとって、肉体とは替えの効くパーツに過ぎない。
 けれども何が原因なのか、Rフィールドで行った戦闘の余波なのか。
 次に目覚めた時、彼は全てを失っていた。息子はとうの昔に自殺した後だった。
 後はもう、絶望しかなかった。自分自身を破壊しようとさえした。
『――痛ましい限りです、心中お察しします。ですが、それを取り戻したくはありませんか?』
 だが。その一言から始まった提案が、彼を凶行から押し留めた。
 それは毒だ。蜂蜜よりも甘く、銘酒のように染み渡る、甘言と言う名の猛毒。
 分かっている。分かり切っている。
 それでも、彼はそれに乗った。
 一抹とはいえ希望である事に違いは無いし、そもそも断る理由が無い。失うものなどもう、何もないのだから。
 ――ぎぃ、と椅子が鳴る。
 その音を目覚ましに、彼は、ギノア・フリードマンはゆっくりと目を開けた。
 アイスランド首都、レイキャビク。
 つい三十分前、巌が雷蔵へ指示を出した国に、ギノアは拠点を構えていた。予想は的中していたのだ。
 ぎぃ、とまた椅子が鳴る。窓から吹き込む風が、ギノアを安楽椅子ごと揺らしているのだ。窓際にいるので尚更である。
「こんな時間に風、か」
 手を伸ばし、窓を閉めるギノア。拠点として借りた安アパートの窓は、がたがたと不満気に声を立てた。
 日本とアイスランドの時差は九時間。なので、ここの現在時刻は二十三時三十分だ。
 国の首都であるレイキャビクに明かりが途切れる事は無いが、深夜かつカーテンを締め切っているギノアの部屋に、外の明かりは届かない。ましてや電気も点けていない。
 けれども困りはしない。床、壁、天井。至る所に刻み尽くされた複雑精緻な術式が、霊力の白光で室内を照らし出している為に。
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