上 下
72 / 162
#1 レツオウガ起動

Chapter02 凪守 04-02

しおりを挟む
 翠明寮の食堂は結構広い。普通の教室の三倍以上はあるだろうか。
 入り口は男女どちらの寮からも入れるよう東西にあり、室内には大きなテーブルが一ダース、整然と並んでいる。
 北の壁は奥にある調理室の配膳カウンターとなっており、寮生や職員達はここから今日の献立を受け取っていくわけだ。
 が、今はまだ誰も居ない。午後四時になったばかりなのだから当然だ。
 晩ご飯は六時からであり、寮生どころかカウンター向こうの厨房すらまだ無人だ。
 一応申し訳程度に小さなテレビはあるが、地デジに対応していない砂嵐を眺めに来る物好きなど居るはずも無い。
 そんな、食事の時間以外はほぼ無人となっている食堂の一角。
 向かい合わせに座りながら、テーブルの上の筆記用具を片付けている男女が一組。
 言わずもがな、辰巳と風葉である。
 つい五分前、ようやく古文の宿題が終わったのだ。
「な、何とかなったか……」
 絞り出す事すら億劫だったため息を、辰巳はようやく吐き出した。
「毎度の事だが、何でこう昔の人間ってのは言い回しが面倒なんだ……」
「平安時代の流行だったからじゃない?」
 ぐったり気味な辰巳とは対照的に、風葉の顔は実に涼しげだ。
「でも意外だなぁ。昨日の戦いとかで五辻くん、相手のことをすぐに見抜いてたじゃない? その流れで古文もスラスラっといけるクチだと思ってたんだけど」
凪守なぎもりの知識で応用が利くのは歴史と地理くらいなもんさ。技術開発系の連中はむしろそっちのが得意だろうけどな、祝詞のりとやら呪禁じゅごんやらを編纂するから」
「へぇ。でも確かにそういうのってむつかしい言葉でしゃべってるよね。えーと、はなをあつめてじんくにとけばー、とか?」
「それは花づくしだろ。まぁ俺も凪守に入って二年目だから、ってのもあるんだろうがな」
「ん、高校入学と一緒なんだ? そういや五辻くんってどこ出身?」
 それは何気ない、ごく当たり前の世間話。
 だがその瞬間、辰巳の表情は色を失った。
「――さぁて、な」
 目を逸らす辰巳。
 言葉にこそしない、けれども明確な拒絶の意志に、風葉は尚も食い下がる。
「県内? それとも県外? 東京とか、兵庫とか、鹿児島とか?」
「てんでばらばらな位置だな。というか、なぜそんな事を聞く」
 露骨に鬱陶しそうな辰巳の目を、風葉はまっすぐに見つめ返す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

果てしなき宇宙の片隅で 序章 サラマンダー

緋熊熊五郎
SF
果てしなき宇宙の片隅で、未知の生物などが紡ぐ物語 遂に火星に到達した人類は、2035年、入植地東キャナル市北東35キロの地点で、古代宇宙文明の残滓といえる宇宙船の残骸を発見した。その宇宙船の中から古代の神話、歴史、物語とも判断がつかない断簡を発掘し、それを平易に翻訳したのが本物語の序章、サラマンダーである。サラマンダーと名付けられた由縁は、断簡を納めていた金属ケースに、羽根を持ち、火を吐く赤い竜が描かれていたことによる。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ホワイトコード戦記1 シンカナウスより

星白 明
SF
「つまるところ、僕は、僕の存在を、ソウルコードを形作った張本人であろう、この知性体をこう呼ぶことにした。遥か昔に忘れ去られた概念――即ち〝神〟、と」 この宇宙が生まれてから『六十七億年』――ある朝、世界が滅ぶ夢を見た。 軍用に開発された戦闘型アンドロイド、μ(ミュウ)。彼女はその日いつも通り訓練をして過ごすはずが、統率個体のMOTHERから、自分たちを設計した天才科学者エメレオの護衛を突如として命じられる。渋々エメレオを襲いくる刺客ドローンや傭兵から守るμだが、すべては自身の世界が滅ぶ、そのほんの始まりにしか過ぎなかった――! ――まずはひとつ、宇宙が滅ぶ。 すべては最後の宇宙、六度目の果て、『地球』を目指して。 なぜ、ここまで世界は繰り返し滅び続けるのか? 超発展した科学文明の落とし子がゆく、神と悪魔、光と闇、五つの世界の滅亡と輪廻転生をめぐる旅路を描く、大長編SFファンタジーの〝プロローグ〟。 2024.06.24. 完。 8月の次回作公開に向けて執筆進めてます。

処理中です...