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#1 レツオウガ起動

Chapter02 凪守 02-01

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 ファントム・ユニットの司令室は、オフィス用区画の端っこにあった。
「ここだ」
「ここだ、って……」
 思わず、風葉かざはは今しがた通り過ぎた扉を振り返る。結構離れているが、それでも通路奥にある大きな両開きの自動ドアは、ここからでも良く見えた。名前は知らないが、とにかく他の部隊の部屋だ。
 次いで翻り、風葉は正面の扉を見る。
 材質こそ違えど、見た目はそれこそ翠明すいめい寮にさえある、ごく普通のドアだ。いかにもとってつけたようなドアノブと蝶番が悪目立ちしている。
「……物置じゃないの?」
「元はそうだったよ。ファントム・ユニットが出来た時に改装されたのさ」
「何でまた?」
「そりゃあ、俺達ファントム・ユニットが問題児の集まりだからさ」
「……なんか、大丈夫なの? 色々と」
 不安になる風葉。その矢先、扉がガチャリと開いた。
「♪~」
 鼻歌を歌いながら出て来たのは、やたら筋肉質の大男だった。
 身長は辰巳たつみよりも大きい。一九○センチは確実にあるだろう。
 やや赤みがかった、燃えるような金髪とアゴ髭。猫のように瞳孔の細い、同じ色の大きな瞳。
 鼻はやたら角張った鷲鼻であり、口は現在進行形の鼻歌に合わせて何かの歌詞を口ずさんでいた。
 肌は浅黒く、破裂しそうな服の下には、力と筋肉が充ち満ちているのが分かる。
 そんな大男の姿に、風葉は釘付けられた。
 何せエプロンを着込み、掃除機を持っているのだから。
「いや、なんで?」
 固まる風葉の傍ら、辰巳はごく普通に大男へ声をかける。
雷蔵らいぞうさん」
「ん、おお、辰巳! 着いたのか! と言う事は、後ろのお嬢さんが件のフェンリルだな?」
 辰巳の存在に気付いた大男――もとい雷蔵は、その巨体にふさわしい胴間声で風葉を迎えた。
「いやぁ重畳! 今丁度掃除が終わったところでな!」
「掃除、してたんですか」
 おっかなびっくりな風葉に、うむ、と雷蔵は頷く。
「客人が来るなら、いつも以上に清潔にしておくのが当然だろう? さて、儂は茶の準備をして来るからの。辰巳共々ゆるりと待たれよ」
「あ、はい」
 思わず即答してしまった風葉を背に、雷蔵はのしのしと廊下を歩いて行く。良く見れば、掃除機は高性能で有名なサイクロン式だった。
 その背中が曲がり角に消えてから、ようやく風葉は辰巳に聞いた。
「……ねぇ、五辻くん、あのひとは?」
西脇雷蔵にしわきらいぞう。俺の同僚で、コールサインはファントム2。部隊内で一番家事炊事が得意なんだ」
「なんか、すごく、見かけによらないひとだね」
「是非言ってあげてくれ。凄く喜ぶ」
 言いつつ、辰巳はファントム・ユニット司令室の扉を開く。
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