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#1 レツオウガ起動

Chapter02 凪守 01-03

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「……なんか、緩やかなのに強引なひとだね」
「あぁ、良く言われてる」
 言いつつ、辰巳はバツが悪そうに頬をかく。
「何にせよ、明日一緒に来てくれると助かる」
「ん、分かったよ。特に予定も無かったし、早く何とかしたいからね、コレ」
 苦笑する風葉に指差され、ぴこぴこと揺れる銀色の犬耳。スペクターの言葉が正しければ、あの禍はフェンリルであり、凪守ならずとも重要な意味合いを帯びて来るのだが――まぁ、それを当人が知る事はあるまい。
「分かった。じゃあ明日の午前十一時くらいに待ち合わせよう。それと、俺はこれから保健の先生を呼んで来るから、もう少しだけ泉さんを頼む」
「オッケー、って、五辻くんも寮生だったんだ?」
「まぁな。それと、明日待ち合わせるまで俺の事は極力無視してくれ。俺もそうするから」
「? どうして?」
「また教室の皆から喝采を浴びたいかい?」
「あー。そう、だよね」
 微妙な顔で風葉が頷くのもそこそこに、階段を駆け下りていく辰巳。保健室は南校舎の一階にあり、休み時間はあと五分を切っているので、小走りになるのも無理はない。
 そんな足音の木霊を四つの耳で聞きながら、風葉は何となく前髪を一筋つまむ。
「そっか、戻るんだ」
 ほんの少しの名残惜しさと一緒に、風葉はさらさらと前髪を弄んだ。

◆ ◆ ◆

 その後すぐに保険の杉本先生と、担架をかついだ保健委員が飛んで来て、泉を保健室へと運んでいった。
 どうしてこんな場所で、と言うのは一言も聞かれなかった。これも幻燈結界の効果であるらしい。
 後はもう、嘘のように平素通りの一日だ。
 朝の騒ぎの記憶は、辰巳が言ったとおり綺麗サッパリ消えていた。
 三時間目までの欠席は、体調不良という胡散臭い理由が当然のように受け入れられていた。
 友人達もごく普通に、いつもと同じ様子を風葉に見せてくれた。せいぜい違うのは、貧血で倒れた泉を心配する声がいくつかあった事と、風葉しか気にしていない銀髪と犬耳がある事くらいだ。
 本当に、目眩がしそうなくらいにいつもの光景。
 だからこそ、その中で孤独を保っている辰巳の存在が、風葉の目には浮き彫りに映った。
 少し、気になった。
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