30 / 162
#1 レツオウガ起動
Chapter01 邂逅 04-04
しおりを挟む
一帯を包む薄墨色の空間、そのものへと。
ぱぎん、というガラスが砕けるような音とともに、亀裂を走らせる薄墨のベール――もとい、幻燈結界。
その光景を二重の意味で呆然と見つめながら、風葉はとぼとぼと窓際に近付く。そして、同じく窓際でそれを見ていた辰巳に、風葉は聞いた。
「なに、あれ」
「だから、ウチに帰るつもりなのさ。スペクターの本体が待ってるどこかへ向かって、この幻燈結界に穴を開けてな」
「ああ、なるほど」
ぽふ、と手を叩く風葉。
「……って、えぇー!? 壊せるもんなの!? ていうか、さっき悪者はやっつけたじゃない!」
「さっき倒したのは、スペクターが自分の意識を投射した身代わりの術式――分霊ってヤツさ。だから、本体は今もどこかでピンピンしてるだろうよ」
言いつつ、辰巳は腕の中を見下ろす。人質兼霊力フィルタに利用された泉は、未だにピクリとも動かない。
「そう、なんだ」
納得いかないような、ホッとしたような。微妙な表情を浮かべながら、唇を噛む風葉。
そんな風葉の隣で、辰巳はじっとキクロプスを見据える。
違和感が、ある。
霊地から引き出した霊力を、強大な突破力を持つキクロプスへと変換。その力で幻燈結界に穴を開け、脱出させて回収。しかる後どこかに潜伏しているスペクター本体が、元の霊力へと再変換して『夢』のために利用する。
行動の筋書きとしては、概ねこんな所だろう。
「だからこそ、おかしいんだ」
仮にキクロプスがこのまま幻燈結界を破壊したとしよう。十中八九そのまま逃亡を続けるのだろうが、そうすれば間違いなく一般人に存在を知られてしまう。
おかしいのはそこだ。古今東西を問わず魔術を少しでもかじった事があるなら、『神秘は秘匿されねばならない』という不文律は嫌でも知っているはずだ。
霊力を扱う者としての常識を自ずから破り、あまつさえ衆目へ積極的にアピールしようものなら、凪守はおろか全世界の退魔組織から狙われても文句は言えなくなる。
そんな状況に陥って、果たして『夢を成す』事が出来るのだろうか。
あるいは、そうなる事自体がヤツの『夢』とやらなのか――などと考えていた辰巳の思考は、再び振り上げられたキクロプスの拳によって中断する。
「何にせよ、今は考える状況じゃないか」
ぱぎん、というガラスが砕けるような音とともに、亀裂を走らせる薄墨のベール――もとい、幻燈結界。
その光景を二重の意味で呆然と見つめながら、風葉はとぼとぼと窓際に近付く。そして、同じく窓際でそれを見ていた辰巳に、風葉は聞いた。
「なに、あれ」
「だから、ウチに帰るつもりなのさ。スペクターの本体が待ってるどこかへ向かって、この幻燈結界に穴を開けてな」
「ああ、なるほど」
ぽふ、と手を叩く風葉。
「……って、えぇー!? 壊せるもんなの!? ていうか、さっき悪者はやっつけたじゃない!」
「さっき倒したのは、スペクターが自分の意識を投射した身代わりの術式――分霊ってヤツさ。だから、本体は今もどこかでピンピンしてるだろうよ」
言いつつ、辰巳は腕の中を見下ろす。人質兼霊力フィルタに利用された泉は、未だにピクリとも動かない。
「そう、なんだ」
納得いかないような、ホッとしたような。微妙な表情を浮かべながら、唇を噛む風葉。
そんな風葉の隣で、辰巳はじっとキクロプスを見据える。
違和感が、ある。
霊地から引き出した霊力を、強大な突破力を持つキクロプスへと変換。その力で幻燈結界に穴を開け、脱出させて回収。しかる後どこかに潜伏しているスペクター本体が、元の霊力へと再変換して『夢』のために利用する。
行動の筋書きとしては、概ねこんな所だろう。
「だからこそ、おかしいんだ」
仮にキクロプスがこのまま幻燈結界を破壊したとしよう。十中八九そのまま逃亡を続けるのだろうが、そうすれば間違いなく一般人に存在を知られてしまう。
おかしいのはそこだ。古今東西を問わず魔術を少しでもかじった事があるなら、『神秘は秘匿されねばならない』という不文律は嫌でも知っているはずだ。
霊力を扱う者としての常識を自ずから破り、あまつさえ衆目へ積極的にアピールしようものなら、凪守はおろか全世界の退魔組織から狙われても文句は言えなくなる。
そんな状況に陥って、果たして『夢を成す』事が出来るのだろうか。
あるいは、そうなる事自体がヤツの『夢』とやらなのか――などと考えていた辰巳の思考は、再び振り上げられたキクロプスの拳によって中断する。
「何にせよ、今は考える状況じゃないか」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
銀河辺境オセロット王国
kashiwagura
SF
少年“ソウヤ”と“ジヨウ”、“クロー”、少女“レイファ”は銀河系辺縁の大シラン帝国の3等級臣民である。4人は、大シラン帝国本星の衛星軌道上の人工衛星“絶対守護”で暮らしていた。
4人は3等級臣民街の大型ゲームセンターに集合した。人型兵器を操縦するチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦に臨むためだった
4人以下のチームで出場できる大会にソウヤとジヨウ、クローの男3人で出場し、初回大会から3回連続で決勝進出していたが、優勝できなかった。
今回は、ジヨウの妹“レイファ”を加えて、4人で出場し、見事に優勝を手にしたのだった。
しかし、優勝者に待っていたのは、帝国軍への徴兵だった。見えない艦隊“幻影艦隊”との戦争に疲弊していた帝国は即戦力を求めて、賞金を餌にして才能のある若者を探し出していたのだ。
幻影艦隊は電磁波、つまり光と反応しない物質ダークマターの暗黒種族が帝国に侵攻してきていた。
徴兵され、人型兵器のパイロットとして戦争に身を投じることになった4人だった。
しかし、それはある意味幸運であった。
以前からソウヤたち男3人は、隣国オセロット王国への亡命したいと考えていたのだ。そして軍隊に所属していれば、いずれチャンスが訪れるはずだからだ。
初陣はオセロット王国の軍事先端研究所の襲撃。そこで4人に、一生を左右する出会いが待っていた。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
サイバーパンクの日常
いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。
派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。
楽しめたところがあったら、感想お願いします。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる