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#1 レツオウガ起動

Chapter01 邂逅 03-05

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 だが、この時。本当に勝利を狙うなら、フェンリルは気づいておくべきだったのだ。
 一歩引いた辰巳の右足首が、床下へとすり抜けていることを。
 ――知っての通り幻燈結界内部に取り込まれた者は、外部の物体に触れるかどうかを、自分の意志で決めることが出来る。
 そしてこの時、辰巳は階下の天井にある蛍光灯に、右足首を引っ掛けていたのだ。更にこの蛍光灯は、廊下に対して並行に取り付けられている。
 そんな状態で蛍光灯以外の全てをすり抜けつつ、真横から強烈な衝撃を受けたなら、一体どうなるか。
 答えは単純。十字に腕を組んだまま、辰巳は勢い良く、風車のように真横へと回転した。
「えぇっ!?」
「なァッ!?」
 同時に声を上げながら、辰巳が姿を消した床へと釘付けられる、風葉とフェンリルの視線。
 だが素人である風葉はともかく、今まで戦っていたフェンリルは、辰巳がどんな防御をとったのか一瞬で察知した。
 そして、察知しただけで終わった。
 蹴りの反動と、マフラーから噴出する霊力を遠心力に変え、逆側の床から現れる辰巳。
 その左拳は準備していた青色の光を弓のように引き絞っており、右足で床を踏みしめると同時に、完璧なタイミングで放たれる。
 対するフェンリルは無理矢理な空中二段蹴りを放った直後だったため、着地直後で何も出来ない状態だった。
 だから、轟、と。
 胸元へ突き刺さった青い拳が、フェンリルのみならず周囲の空気をも揺るがせたのは、むしろ当然の成り行きであった。
「ゴ、ボ、ッ!?」
 辰巳の膂力のみならず、自身が放った空中二段蹴りの勢いをも返され、苦悶に表情を歪めるフェンリル。
 そうして叩きこまれた辰巳の拳を起点にし、青色の線が疾走を開始する。放射状にフェンリルの体表を刻んでいくその青は、先ほどまで左手首を包んでいた結晶と同じ色だ。
 青は瞬く間にフェンリルの全身を網状に包み込む。呆然と佇む風葉と、内部に取り込まれたフェンリルの真意を置き去りにして。
 そして、辰巳は叫ぶ。
「インペイルッ! バスターッ!」
 その名の通りに刺し貫く青い閃光が、網目にそってフェンリルを内側から爆砕させた。
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