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#1 レツオウガ起動
Chapter01 邂逅 01-08
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まるでフィルターでもかけられているかのような日乃栄高校は、しかしまったく変わらない日常を過ごしている。現に今も、先生方が各々の教室へ入っていくところだ。
きっとこれからいつもと同じ朝のホームルームが始まるのだろう。視界を埋め尽くす薄墨色の存在に、少しも気付くこと無く。
「なんなの、これ」
もう一度つぶやいて、風葉は自分の声の大きさにぞっとした。
今四つあるはずの風葉の耳には、今まで当たり前にあったざわめきが、少しも届かないのだ。
喧騒は、確かにそこにあったはずなのに。
まるで、全てが幻だったかのようだ。
だが、どちらが? こっちか? それとも向こうか? そもそもなぜこうなった? それに辰巳はどうしている――?
「そ、そうだ! 五辻くん!?」
脳裏を過ぎる不安が、風葉を弾かれたように振り向かせる。
「千客万来だな、今日は。てか次の客はどこだよ?」
だが風葉の予想に反し、辰巳はまったく精彩を失っていなかった。薄墨に溶けない髪をかきながら、辰巳はすたすたと窓際に歩み寄っている。
だったら、と思った風葉も制服を見下ろす。やはり、風葉の身体もフィルターがかかっていない。
少しだけホッとする風葉。だが、状況はまったく変わっていない。
「ちょ、ちょっと五辻くん!? 聞きたいことが――」
そうして一歩踏み出しかけた矢先、風葉の前に白髪頭の先生が現れた。奇しくも二年二組の担任である温井先生だ。
年々増して来る腹の丸みを隠しもしない温井先生は、プリントの束を脇に抱えながらすたすたと歩く。まるで、風葉が見えていないかのように。
「わ、わ、ちょっと待って先生!?」
避け切れず、思わず先生の肩に手を伸ばす風葉。
そうして肩を叩こうとした手は、しかし何の感触も残さずにすり抜けた。頭の犬耳と同じように。
「え、えぇっ!?」
足を止め、自分の手と先生を交互に見つめる風葉。だが、変わった様子はどちらにもない。
途方に暮れる風葉だったが、状況はそんな彼女に構うこと無く加速しはじめる。
「やれやれ、ここかよ。参ったな」
耳に飛び込む辰巳のぼやき。その刺激で我に返った風葉は、現状で唯一意思疎通ができる相手のそばへと急いで駆け寄る。
「ねぇ五辻くん! これって――!?」
かくして視界に飛び込んで来た窓の外、北校舎に挟まれた物置を見下ろす中庭に、風葉は今度こそ言葉を失った。
光の柱が、一直線に立ち上っていたのだ。
きっとこれからいつもと同じ朝のホームルームが始まるのだろう。視界を埋め尽くす薄墨色の存在に、少しも気付くこと無く。
「なんなの、これ」
もう一度つぶやいて、風葉は自分の声の大きさにぞっとした。
今四つあるはずの風葉の耳には、今まで当たり前にあったざわめきが、少しも届かないのだ。
喧騒は、確かにそこにあったはずなのに。
まるで、全てが幻だったかのようだ。
だが、どちらが? こっちか? それとも向こうか? そもそもなぜこうなった? それに辰巳はどうしている――?
「そ、そうだ! 五辻くん!?」
脳裏を過ぎる不安が、風葉を弾かれたように振り向かせる。
「千客万来だな、今日は。てか次の客はどこだよ?」
だが風葉の予想に反し、辰巳はまったく精彩を失っていなかった。薄墨に溶けない髪をかきながら、辰巳はすたすたと窓際に歩み寄っている。
だったら、と思った風葉も制服を見下ろす。やはり、風葉の身体もフィルターがかかっていない。
少しだけホッとする風葉。だが、状況はまったく変わっていない。
「ちょ、ちょっと五辻くん!? 聞きたいことが――」
そうして一歩踏み出しかけた矢先、風葉の前に白髪頭の先生が現れた。奇しくも二年二組の担任である温井先生だ。
年々増して来る腹の丸みを隠しもしない温井先生は、プリントの束を脇に抱えながらすたすたと歩く。まるで、風葉が見えていないかのように。
「わ、わ、ちょっと待って先生!?」
避け切れず、思わず先生の肩に手を伸ばす風葉。
そうして肩を叩こうとした手は、しかし何の感触も残さずにすり抜けた。頭の犬耳と同じように。
「え、えぇっ!?」
足を止め、自分の手と先生を交互に見つめる風葉。だが、変わった様子はどちらにもない。
途方に暮れる風葉だったが、状況はそんな彼女に構うこと無く加速しはじめる。
「やれやれ、ここかよ。参ったな」
耳に飛び込む辰巳のぼやき。その刺激で我に返った風葉は、現状で唯一意思疎通ができる相手のそばへと急いで駆け寄る。
「ねぇ五辻くん! これって――!?」
かくして視界に飛び込んで来た窓の外、北校舎に挟まれた物置を見下ろす中庭に、風葉は今度こそ言葉を失った。
光の柱が、一直線に立ち上っていたのだ。
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