285 / 298
もう一つの力
しおりを挟む
五級異界。俺が立っている海岸沿いのここは、この異界の中でも最も危険な場所だ。理由は海の魔物と森の魔物に挟まれ、森からも海からも視認性が良いからだ。この海岸は、この異界の魔物が最も馬鹿で殺しやすい獲物を捕まえる為の狩場になっている。
「外傷無しで殺さないとな」
居るだけで大量の魔物に襲われるここは、俺の目的を果たすのに最適だった。
「解除」
透明化を解除し、気配も悟られるようになった。これで、少しすれば向こうから襲い掛かって来るだろう。
「来たな」
周囲に人の気配も無い。さっさと始めよう。
「『電撃陣』」
俺の足元を中心に黄色く光る魔法陣が展開される。先ずは森の方から赤い皮膚のゴブリンが群れを成してやってきた。
「グギャッ、グギャギャ!」
「グギャァッ!」
「グギャーッ!?」
先頭のゴブリンが陣の中に入り込み、電撃を食らってバタリと倒れる。俺はそのゴブリンに手を触れ、回収する。
「グ、グギャ……ギャギャ!」
「グギャギャ? グギャ!」
その様子を見ていたゴブリン達は黄色い陣に近付かないように足踏みしている。相当警戒しているようだ。
「残念だが、手遅れだ」
黄色い陣が広がっていき、一瞬でゴブリンの群れを呑み込んだ。一斉に電撃がゴブリンを襲い、全員が同時に倒れた。
「次は……」
「グルルルルッ!」
鉄の皮膚を持った熊が電撃を無視して陣の中に入り込んだ。そのままこちらに走り込んで来たので、魔術で心臓を止めて殺した。
「ヒュォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
「次は海か」
海の中から巨大な細長い青色の魔物が飛び出して来た。翼の生えた蛇のような見た目のそれは、宙を舞いながらこちらに落ちて来る。
「『冥死線』」
黒紫色の光線が海の魔物を貫くと、俺の横に大きな死体が一つ転がった。
「まだまだ足りないな」
警戒するようにこちらの様子を伺っている魔物達に、今度は俺から襲い掛かった。
狩りも一段落し、誰も俺に近付かなくなった頃、何かがそこに居ることに気付いた。
「アンタ、誰だ?」
「凄いですね、何者ですか?」
空中で姿を現したのは、高校生くらいの少女だ。服装はカジュアルなもので、制服では無い。
「俺が先に聞いてるんだが」
「私は……そうですね、メシアとでも呼んでください」
呼びたくないな、普通に。
「それで、貴方は?」
「俺は……老日だ」
相手がメシアを名乗るならヒーローでもブレイブでも良かったが、同じレベルに落ちるのは嫌だったのでやめておいた。
「私、異界に来るのも初めてでこっそり見てたんですけど……特殊狩猟者って皆このくらい強いんですか?」
「皆ではないだろうが、同じくらいのことをやれる奴は割と居るだろうな」
頷きながら、メシアを名乗る女はスーッと空中から地面に降りてきた。
「ところで、天能連って言葉に聞き覚えは?」
「あぁ……」
何だ、敵か。
「アンタこそ、天能連の何を知ってる? メンバーか?」
「ッ、雰囲気変わりましたね。やっぱり何か知ってるってことですか?」
いや、違いそうだな。単純に天能連について嗅ぎ回ってる変な奴か。メシアとか名乗るってことは、宗教的な何かか?
「天能連について教えてやっても良いが、先ずは名前くらい聞けないと話す気にはなれないな」
「鈴木洋子です」
表情は変わっていないが……鎌をかけるか。
「次に嘘を吐いたら二度とアンタと話すことは無い」
「……花房華凛です」
やっぱり、嘘だったか。
「それで、何を教えてくれるんですか?」
「先ずは、何故知りたいかを話せ。情報を悪用しようとするような奴に情報は渡せない」
「話せば長くなるんですけど……」
花房は溜めを作り、少し悩んでから口を開いた。
「――――私、異世界から帰って来たんです」
何だと?
「異世界から、帰って来た……?」
「信じられないかも知れないですけど、本当なんです。証拠に……ほら!」
花房が差し出した手を取ると、脳内に映像が流れ込む。それは、花房が実際に異世界に召喚される瞬間の映像だった。
(中世……時代は俺の方の異世界と同じくらいか?)
同じ世界では無いだろう。同じ時代で他に召喚された勇者が居れば、絶対に気付く筈だ。それに、他の勇者を呼べる程の余裕は女神には無かったように思える。
「……それは、何年前だ?」
「こっちだと三十年前みたいですね」
同じだ。ピッタリ、同じだ。
「……年齢は見た目通りか?」
「え? はい、そうですけど……高校一年生で飛ばされて、異世界で一年ちょっとくらい過ごしたって感じです」
なるほどな。俺とは若干ケースが違うな。
「……待てよ」
そこで、俺は一つの可能性に思い至った。
「アンタの世界には、異能があったのか?」
「そうです。こんな感じに」
花房の周囲に無数の黒い球が浮かぶ。紫色の雷が走るそれらからは、凄まじいエネルギーを感じられる。
「それが何の異能なのかも気になるが……やっぱり、そうか」
異能、魔術。二つの力。それらはやはり、それぞれ別の世界から齎されたものだったらしい。
「外傷無しで殺さないとな」
居るだけで大量の魔物に襲われるここは、俺の目的を果たすのに最適だった。
「解除」
透明化を解除し、気配も悟られるようになった。これで、少しすれば向こうから襲い掛かって来るだろう。
「来たな」
周囲に人の気配も無い。さっさと始めよう。
「『電撃陣』」
俺の足元を中心に黄色く光る魔法陣が展開される。先ずは森の方から赤い皮膚のゴブリンが群れを成してやってきた。
「グギャッ、グギャギャ!」
「グギャァッ!」
「グギャーッ!?」
先頭のゴブリンが陣の中に入り込み、電撃を食らってバタリと倒れる。俺はそのゴブリンに手を触れ、回収する。
「グ、グギャ……ギャギャ!」
「グギャギャ? グギャ!」
その様子を見ていたゴブリン達は黄色い陣に近付かないように足踏みしている。相当警戒しているようだ。
「残念だが、手遅れだ」
黄色い陣が広がっていき、一瞬でゴブリンの群れを呑み込んだ。一斉に電撃がゴブリンを襲い、全員が同時に倒れた。
「次は……」
「グルルルルッ!」
鉄の皮膚を持った熊が電撃を無視して陣の中に入り込んだ。そのままこちらに走り込んで来たので、魔術で心臓を止めて殺した。
「ヒュォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
「次は海か」
海の中から巨大な細長い青色の魔物が飛び出して来た。翼の生えた蛇のような見た目のそれは、宙を舞いながらこちらに落ちて来る。
「『冥死線』」
黒紫色の光線が海の魔物を貫くと、俺の横に大きな死体が一つ転がった。
「まだまだ足りないな」
警戒するようにこちらの様子を伺っている魔物達に、今度は俺から襲い掛かった。
狩りも一段落し、誰も俺に近付かなくなった頃、何かがそこに居ることに気付いた。
「アンタ、誰だ?」
「凄いですね、何者ですか?」
空中で姿を現したのは、高校生くらいの少女だ。服装はカジュアルなもので、制服では無い。
「俺が先に聞いてるんだが」
「私は……そうですね、メシアとでも呼んでください」
呼びたくないな、普通に。
「それで、貴方は?」
「俺は……老日だ」
相手がメシアを名乗るならヒーローでもブレイブでも良かったが、同じレベルに落ちるのは嫌だったのでやめておいた。
「私、異界に来るのも初めてでこっそり見てたんですけど……特殊狩猟者って皆このくらい強いんですか?」
「皆ではないだろうが、同じくらいのことをやれる奴は割と居るだろうな」
頷きながら、メシアを名乗る女はスーッと空中から地面に降りてきた。
「ところで、天能連って言葉に聞き覚えは?」
「あぁ……」
何だ、敵か。
「アンタこそ、天能連の何を知ってる? メンバーか?」
「ッ、雰囲気変わりましたね。やっぱり何か知ってるってことですか?」
いや、違いそうだな。単純に天能連について嗅ぎ回ってる変な奴か。メシアとか名乗るってことは、宗教的な何かか?
「天能連について教えてやっても良いが、先ずは名前くらい聞けないと話す気にはなれないな」
「鈴木洋子です」
表情は変わっていないが……鎌をかけるか。
「次に嘘を吐いたら二度とアンタと話すことは無い」
「……花房華凛です」
やっぱり、嘘だったか。
「それで、何を教えてくれるんですか?」
「先ずは、何故知りたいかを話せ。情報を悪用しようとするような奴に情報は渡せない」
「話せば長くなるんですけど……」
花房は溜めを作り、少し悩んでから口を開いた。
「――――私、異世界から帰って来たんです」
何だと?
「異世界から、帰って来た……?」
「信じられないかも知れないですけど、本当なんです。証拠に……ほら!」
花房が差し出した手を取ると、脳内に映像が流れ込む。それは、花房が実際に異世界に召喚される瞬間の映像だった。
(中世……時代は俺の方の異世界と同じくらいか?)
同じ世界では無いだろう。同じ時代で他に召喚された勇者が居れば、絶対に気付く筈だ。それに、他の勇者を呼べる程の余裕は女神には無かったように思える。
「……それは、何年前だ?」
「こっちだと三十年前みたいですね」
同じだ。ピッタリ、同じだ。
「……年齢は見た目通りか?」
「え? はい、そうですけど……高校一年生で飛ばされて、異世界で一年ちょっとくらい過ごしたって感じです」
なるほどな。俺とは若干ケースが違うな。
「……待てよ」
そこで、俺は一つの可能性に思い至った。
「アンタの世界には、異能があったのか?」
「そうです。こんな感じに」
花房の周囲に無数の黒い球が浮かぶ。紫色の雷が走るそれらからは、凄まじいエネルギーを感じられる。
「それが何の異能なのかも気になるが……やっぱり、そうか」
異能、魔術。二つの力。それらはやはり、それぞれ別の世界から齎されたものだったらしい。
10
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで
あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話
三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。
探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。
そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。
ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。
世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。
それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。
彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。
※全然フィクション
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!
西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。
友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。
しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。
「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」
これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。
週一、不定期投稿していきます。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる