異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

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お化け屋敷

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 道の先、壁から顔が半分出ている。白い、少年の顔だ。

「明らかに進行ルートに居るな」

「進むしかないってことだよね……」

 一歩踏み出すが、何もしてこない。だが、そのまま近付いて行くと幽霊は少しずつ体を壁から現していく。

「ァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

「これは……」

 このドローンこと幽霊、幻の他にも魔術が刻んである。今付けられている腕輪に反応するもので、恐らくは……

「そういうことか」

 幽霊が俺に触れる瞬間、俺は瑠奈の方へと飛び退いた。

「幽霊に触れられれば、その時点でアウトって訳だ。だが、青い炎の近くにはアイツらは寄って来れない」

「……うん」

 瑠奈は何となく微妙そうな顔で頷いた。

「どうした?」

「何ていうか……もうちょっと怖がっても良くない!?」

「流石に、幻だって分かってるからな……」

「私だって幻だってことは分かってても、見破ろうとはしてないからね!」

 なるほどな。瑠奈の場合は先に幻に見えていて、それを見破るかは自分次第って感じなのか。

「見破ったら分かるが、アレはドローンだ」

「こらーっ! ねぇ、台無しだって! 幽霊の正体がドローンとか、知りたく無さ過ぎたよ!?」

 ぷりぷりと怒る瑠奈をなだめる。まぁ、正直今のはわざとやった。

「悪い。からかいすぎた」

「別に、良いけど……もう、あの子供の幽霊が可哀想に見えてきたよ」

 二人で道を進み、少年の霊に近付くと、ドローンがぶぃーんと動いて天井付近の穴に消えていった。



 次々に現れる霊を青い炎で避け、こちらを驚かすような仕掛けを通り抜けて行くと、背後の扉がバタリと閉まり、狭い部屋に閉じ込められた。

「うわ、急に閉まっちゃった」

「前の扉も後ろの扉も開かない……か」

 すると、後ろの扉がガンガンと外側から叩かれる。ガチャガチャと扉を開けようとしているのが伝わって来る。

「同じ人間か、それとも敵かって感じか?」

「でも、人間なら声を発するくらいしても良いと思うけど……」

 瑠奈がそう口にしたと同時に、扉の向こうから低い声が響いた。

「ぐ、ォお……」

「もしかして、ゾンビか?」

 呻くような、くぐもった声。その正体を考えた瞬間、扉から壊れるような音が響いた。

「来るぞ」

「開いちゃった……どうする?」

 扉が開くと、腐敗した死体が現れた。見るからに、さっき転がっていた男の死体だ。しかし、それは見た目だけの幻であり、実際にはこいつもドローンだ。

「時間が経ってアンデッド化したって話か……なんか、あっちの扉も開いたぞ」

「青い炎も効かないし……逃げろってことだよね!」

 瑠奈は燭台の炎を近付けるが、ゾンビは全く怯んだ様子も無い。寧ろ、その火を消してやろうとゾンビは燭台に手を伸ばす。

「炎は近付けると消されそうだな」

「みたいだね……でも、動きは遅いね」

 緩慢な動きで俺達に触れようとするゾンビから逃れ、俺達は独りでに開いた扉から出た。

「この一本道……嫌な予感がする」

「沢山出てきそうだな」

 横に無数の扉が付いた一本道。そこを駆け抜けていくと、通った側から扉が破られ、ゾンビが現れる。もはや群れとなったゾンビに追われながら、俺達は地下へと繋がる階段を見つけた。

「怖そうだけど……ここだよね」

「というか、ここしか道は残されてないな」

 俺が階段を降りると、暗くじめっとした道と、その先にある扉を見つけた。扉には札が無数に貼ってある。明らかにやばそうだ。

「とはいえ、開けるしかないんだろうな」

「うん、開けちゃおう」

 瑠奈が扉に近付き、手を伸ばすと……扉の隙間から無数の白い手が伸びた。

「うひゃっ!?」

「炎を近付ければいけるんじゃないか?」

 瑠奈は恐る恐ると燭台の炎を盾に、扉を開いた。

「きゃぁっ!?」

「夥しいな」

 扉が開くと、そこには部屋の内部を埋め尽くさんばかりの霊が投影されていた。ドローンが一杯ある訳ではないので、恐らくこの霊達はこの部屋から出られないタイプなのだろう。

「進んでみるぞ」

「う、うん……」

 無数の白い顔がこちらを無表情で見つめる中、俺達はその霊を青い炎でかきわけるようにして進み、そして見つけた。

「あ、これって……」

「剣、だな」

 白い剣。持ってみると、とても軽い。

「剣はやっぱり勇が似合うね!」

「別にどっちでも良いが……これは、進むべきなのか?」

 俺達を囲う霊の群れ。後ろから迫るゾンビの群れ。果たして、どちらに進むのが正解なのか。

「戻っても何も無さそうだし……進んでみよ?」

「分かった」

 俺達は青い炎の効果範囲程度に近付いたまま、更に先へと進む。すると、そこには大きな扉と……その扉を守るように立つゾンビが居た。

「やっちゃえ!」

「あぁ」

 俺は一歩踏み込み、ゾンビを軽く斬る。すると、それはいとも容易く浄化され、消滅した。

「うわ、一撃!」

「……待て、よ」

 楽しそうにはしゃぐ瑠奈の横で、俺は硬直した。

「何で、居るんだ……?」

「え、どうしたの?」

 不思議そうに首を傾げる瑠奈。その瞬間、ギィィと音を立てて独りでに扉が開いた。


「――――やぁやぁ、老日勇。早速で悪いが、うちの子を返して貰おうか」


 地面まで伸びる白い髪、美しいブラウンの瞳。間違いない、佐藤甘美だ。
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