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吸血鬼か、怪物か。
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全方位から迫る血の波。一切の逃げ場は無いが、対処は可能だ。
「血の剣よりも速度は下だな」
流石に洗練されていない以上、動きは鈍い。血がギリギリまで接近した瞬間、俺は思い切り剣を振るって前方を覆っていた血の波を消し飛ばし、空気を蹴ってその向こうへと逃れる。
「言っておくが、この血は無尽蔵だ。いつまでもそうして逃げられはしないだろう」
「降伏すれば、血の奴隷として生かすよう俺から進言します」
全く有り難くない選択肢を心の中で否定しつつ、俺は神力を巡らせた。
「俺は余り器用じゃないからな」
迫る血を、神力を纏うことで退ける。
「私は悪手だと思うが。君も人の身だ。神力も、そう多くある訳ではないだろう?」
俺はニオスの言葉を無視し、血の世界の地面に手を付けて……深く集中した。
「ニオス様、何かやる気です」
「……そのようだな」
ニオスの方から、青い光を帯びた血の槍が飛来する。俺はそちらに視線を向けもせず、神力を纏った剣で槍を消し飛ばした。
「『神術・神化崩界無縁』」
透明な神力が血の世界に染み出していくと、血の世界は外側から脆く崩壊していく。
「……神力で魔術を再現した、か?」
「あぁ、時間はかかったが……戦闘術式の演算能力を使えば可能だった」
元々は結界術の類いを無効化する魔術なのだが、それに使用する魔力を神力で代替した。久し振りにここまで頭を使ったかも知れない。
「ここからは魔術も解禁だ」
「ならば、こちらも……」
ニオスの体が崩れ、その形が変化する。
「チッ」
俺は一瞬で距離を詰めてニオスに剣を振り下ろすが、刃はニオスを守る障壁に弾かれた。
「だが、その程度の障壁……」
「時既に遅し、だ」
俺の剣に文字が迸り、再度剣を振り下ろすも、破られた障壁の内側には怪物が居た。刃は黒い鉤爪に受け止められている。
「……吸血鬼にも見えないな」
それは、黒い棘の生えた甲冑のような甲殻を身に纏った異形。人型ではあるが、黒い甲殻の隙間から見える真紅の肉は気味悪く脈打っていて人間らしさは無い。俺より一回りも大きい怪物は、吸血鬼でも人間でも無い、魔物へと変貌していた。
「ふふ、どうだいニオス。元気かい?」
「えぇ、絶好調ですよ。俺は」
怪物は甲殻の隙間から覗く青い瞳で俺を見た。
「吸血鬼の恩恵を享受しながら吸血鬼としての弱点を捨てた形態だ。最も、根源に至るまでの繋ぎでしか無いが」
現段階での最強形態って訳か。恐らく、元から魔物だったニオスの体に近いのだろう。
「ニオス様。肉体の操作はお任せ下さい」
「あぁ、魔術は私に任せたまえ」
厄介そうだな。俺は溜息を吐き、剣を構えた。
「先ずは、全力で斬るところからだな」
俺は全力で動き、神力を込めた剣をニオスに振り下ろした。凄まじい速度で動く俺にニオスは対応できず、ニオスの黒い甲殻を刃が切り裂いた。
「ッ、現状の肉体速度では対応不可能です」
「分かっている」
ニオスの甲殻が砕け散り、中の赤い肉体がぐちゃぐちゃに潰れるが、直ぐに再生する。
「硬いな」
それに、吸血鬼としての弱点を捨てたってのは本当らしいな。この剣なら傷を付けただけで死んでいる筈だった。
「私は肉体の強化に専念する。どうせ、生半可な魔術攻撃は無意味だ」
「助かります、ニオス様」
警戒するように立つニオス。あの感じ、戦闘に慣れていない……というか、同格以上との戦いを経験していないように見える。
「狩りやすいな」
今まで一方的な蹂躙しか経験してこなかったような相手は、一番楽だ。俺は魔術を刃に流し、またニオスへと肉薄した。
「ッ、速――――」
受け止めようとする鉤爪も間に合わず、剣はニオスの腕を斬り落とす。今度はそのまま攻勢を止めず、斬り刻んでいく。
「再生阻害どころか再生無効の魔術を使ってるんだが、効いてる気配は無いな」
肉塊どころか血だまりと化したニオスの体は凄まじい速度で再生し続ける。斬った側から元の姿を取り戻すその様子は悍ましいと言う他ないだろう。
「消滅させるしか無さそうだな」
どうやら、斬撃では殺せそうにも無い。神力を使っても、聖なる斬撃を食らわせても、同じだ。弱点の消えた不死身と言うのは恐ろしい。
「ふふ、どうだ。根源の力によって強化された真祖の力、そして魔術によって促進された再生能力。素粒子の単位まで切り刻まれようと再生は可能だよ」
「幾ら俺を斬っても、全く無意味です」
斬るのをやめた俺に、ニオスが笑って言った。
「どうだろうな」
あれだけ斬り刻んだのは単なる攻撃の意味だけではない。
「……そういうことか」
俺はニオスの肉体を切り裂くことで戦闘術式による解析を進め、そして一つの目標を達成した。
「鬱陶しいことをしてくれたな」
「ッ、ニオス様。根源との同化が……」
それは、同化の遅延だ。接続を斬るまでは出来なかったが、ラインに干渉して俺の神力を流し込むことは出来た。これで、少なくとも同化までに数時間はかかる。
「九割くらいだったな。惜しかったんじゃないか?」
「……神力か、忌まわしい」
同化を阻害する神力、それを除去することは難しいだろう。特に、神力を扱えそうにも無いこいつにはな。
「この時代ではタサイドンの力も借りられん……仕方なし」
ニオスを覆う黒い甲殻に、青い紋様が走っていく。
「先ずは、君を殺す」
「殺害します。老日勇」
漸く、安心して殺し合いが出来そうだ。
「血の剣よりも速度は下だな」
流石に洗練されていない以上、動きは鈍い。血がギリギリまで接近した瞬間、俺は思い切り剣を振るって前方を覆っていた血の波を消し飛ばし、空気を蹴ってその向こうへと逃れる。
「言っておくが、この血は無尽蔵だ。いつまでもそうして逃げられはしないだろう」
「降伏すれば、血の奴隷として生かすよう俺から進言します」
全く有り難くない選択肢を心の中で否定しつつ、俺は神力を巡らせた。
「俺は余り器用じゃないからな」
迫る血を、神力を纏うことで退ける。
「私は悪手だと思うが。君も人の身だ。神力も、そう多くある訳ではないだろう?」
俺はニオスの言葉を無視し、血の世界の地面に手を付けて……深く集中した。
「ニオス様、何かやる気です」
「……そのようだな」
ニオスの方から、青い光を帯びた血の槍が飛来する。俺はそちらに視線を向けもせず、神力を纏った剣で槍を消し飛ばした。
「『神術・神化崩界無縁』」
透明な神力が血の世界に染み出していくと、血の世界は外側から脆く崩壊していく。
「……神力で魔術を再現した、か?」
「あぁ、時間はかかったが……戦闘術式の演算能力を使えば可能だった」
元々は結界術の類いを無効化する魔術なのだが、それに使用する魔力を神力で代替した。久し振りにここまで頭を使ったかも知れない。
「ここからは魔術も解禁だ」
「ならば、こちらも……」
ニオスの体が崩れ、その形が変化する。
「チッ」
俺は一瞬で距離を詰めてニオスに剣を振り下ろすが、刃はニオスを守る障壁に弾かれた。
「だが、その程度の障壁……」
「時既に遅し、だ」
俺の剣に文字が迸り、再度剣を振り下ろすも、破られた障壁の内側には怪物が居た。刃は黒い鉤爪に受け止められている。
「……吸血鬼にも見えないな」
それは、黒い棘の生えた甲冑のような甲殻を身に纏った異形。人型ではあるが、黒い甲殻の隙間から見える真紅の肉は気味悪く脈打っていて人間らしさは無い。俺より一回りも大きい怪物は、吸血鬼でも人間でも無い、魔物へと変貌していた。
「ふふ、どうだいニオス。元気かい?」
「えぇ、絶好調ですよ。俺は」
怪物は甲殻の隙間から覗く青い瞳で俺を見た。
「吸血鬼の恩恵を享受しながら吸血鬼としての弱点を捨てた形態だ。最も、根源に至るまでの繋ぎでしか無いが」
現段階での最強形態って訳か。恐らく、元から魔物だったニオスの体に近いのだろう。
「ニオス様。肉体の操作はお任せ下さい」
「あぁ、魔術は私に任せたまえ」
厄介そうだな。俺は溜息を吐き、剣を構えた。
「先ずは、全力で斬るところからだな」
俺は全力で動き、神力を込めた剣をニオスに振り下ろした。凄まじい速度で動く俺にニオスは対応できず、ニオスの黒い甲殻を刃が切り裂いた。
「ッ、現状の肉体速度では対応不可能です」
「分かっている」
ニオスの甲殻が砕け散り、中の赤い肉体がぐちゃぐちゃに潰れるが、直ぐに再生する。
「硬いな」
それに、吸血鬼としての弱点を捨てたってのは本当らしいな。この剣なら傷を付けただけで死んでいる筈だった。
「私は肉体の強化に専念する。どうせ、生半可な魔術攻撃は無意味だ」
「助かります、ニオス様」
警戒するように立つニオス。あの感じ、戦闘に慣れていない……というか、同格以上との戦いを経験していないように見える。
「狩りやすいな」
今まで一方的な蹂躙しか経験してこなかったような相手は、一番楽だ。俺は魔術を刃に流し、またニオスへと肉薄した。
「ッ、速――――」
受け止めようとする鉤爪も間に合わず、剣はニオスの腕を斬り落とす。今度はそのまま攻勢を止めず、斬り刻んでいく。
「再生阻害どころか再生無効の魔術を使ってるんだが、効いてる気配は無いな」
肉塊どころか血だまりと化したニオスの体は凄まじい速度で再生し続ける。斬った側から元の姿を取り戻すその様子は悍ましいと言う他ないだろう。
「消滅させるしか無さそうだな」
どうやら、斬撃では殺せそうにも無い。神力を使っても、聖なる斬撃を食らわせても、同じだ。弱点の消えた不死身と言うのは恐ろしい。
「ふふ、どうだ。根源の力によって強化された真祖の力、そして魔術によって促進された再生能力。素粒子の単位まで切り刻まれようと再生は可能だよ」
「幾ら俺を斬っても、全く無意味です」
斬るのをやめた俺に、ニオスが笑って言った。
「どうだろうな」
あれだけ斬り刻んだのは単なる攻撃の意味だけではない。
「……そういうことか」
俺はニオスの肉体を切り裂くことで戦闘術式による解析を進め、そして一つの目標を達成した。
「鬱陶しいことをしてくれたな」
「ッ、ニオス様。根源との同化が……」
それは、同化の遅延だ。接続を斬るまでは出来なかったが、ラインに干渉して俺の神力を流し込むことは出来た。これで、少なくとも同化までに数時間はかかる。
「九割くらいだったな。惜しかったんじゃないか?」
「……神力か、忌まわしい」
同化を阻害する神力、それを除去することは難しいだろう。特に、神力を扱えそうにも無いこいつにはな。
「この時代ではタサイドンの力も借りられん……仕方なし」
ニオスを覆う黒い甲殻に、青い紋様が走っていく。
「先ずは、君を殺す」
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