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四 対 百三十
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三十の吸血鬼、百の魔物。対するは四人の良く分からん敵。能力が分かっているのはあのダンピール、そして予想出来るのが獣の血、銀色の女はどうやら高出力の攻撃が可能だということのみが分かっており、残りの目つきが鋭い金眼の男は全く分からない。
「後ろに控えている奴も気にはなるが……」
そいつにまで手を出している余裕は無い。向こうから仕掛けてこない限りは放置で良いだろう。
「取り敢えず、選別するか」
ダンピールが黄金の剣を思い切り振り抜いた。
「なッ」
「避けッ!?」
光の斬撃が放たれて氷の大地を一瞬で駆け抜けた。反応出来なかった者を光は容赦なく切り裂き、そのまま浄化した。背後に居た魔物達も、同じように避けられなかった者は葬られてしまった。
「カァ、半分近く逝ったな」
金眼の男が指先を天に向けると、大気がうねり、風が吹き荒れ、雲が激しく動き始める。
「じゃあ、もう半分と行くか」
寒空を切り裂き、雷が落ちる。正確に敵を狙うその雷撃は、次々に吸血鬼だけを撃ち抜いていく。
「ぐッ、面倒な……ぬォッ!?」
「体が痺れ……がッ!?」
雷によって動作が停止した瞬間を燃える細剣が、銀の奔流が、刈り取っていく。
「不味い、だが……準備は整った」
私の体から膨大な魔力が、大量の血が溢れる。
「『深紅の主』」
潜めていた気配も露わにして、私は奴らの前に歩み出る。濃厚な血の魔力はローブとなって私に纏わりつき、私の手には赤い剣が握られる。
「『深紅の王令』」
そして、私から溢れる血の魔力が形を成して次々と赤い狼や蝙蝠等の獣が創り出されていく。
「ギルガル……その力は」
「ふん。数日動けなくなる程度、ここでの勝利に比べればどうでも良い」
憔悴した表情でこちらを見る仲間。その様子に優越感を感じつつも、私は赤い剣を先頭のダンピールの男に向けた。
「随分と自信があるようだな……高位吸血鬼」
「ッ、私はただの高位吸血鬼ではない……ニオス様に選ばれし、素質ある吸血鬼だ。今回の件が終われば、直ぐにでも最上位吸血鬼……ひいては、真祖に至ってやるとも」
ダンピールは私の言葉を鼻で笑い、黄金の剣をこちらに向けた。
「俺に勝ってから言えよ、ど三一」
「ッ! まぁ良い、そうして吠えていろ……私とて、一人で貴様に勝てるとは思っておらん。見よ、この血の獣達を。貴様が私の相手にかかりきりになっていれば、その間に他の仲間が全滅するぞ?」
血の獣は敵や味方の血を利用して増殖する。倒れた魔物達の血を利用して増えたその数は、既に百を超えている。
「戦力の計算が出来てねぇな……希望的観測で行動する奴は身を滅ぼすぜ? 俺みてぇにな」
笑うダンピール。そこで、私は気付いた。
「……何だ、この闇は……影は」
大量の影が、鴉の形を取って血の獣達に襲い掛かっている。それも、一つ一つが私のものよりも強力な使い魔になっている。
「よそ見してんじゃねえよ」
「クッ!」
振り下ろされた黄金色の刃を回避し、赤い剣を叩き込もうとする。しかし、ダンピールはそれを避けながら銀の弾丸を私に撃ち放った。
「がッ、足が……ッ!」
「おぉ、足だけで済んだか。特殊な対抗呪でも仕込んでありそうだな?」
弾丸は回避しきれず、私の足が消滅した。ぼたぼたと流れる血を制御して傷口を塞ぐ。銀弾の効力か、再生は出来そうにない。
「ッ、こうなれば……」
私は全身を霧に変え、後ろに控えている敵へと駆け抜けた。
「貴様だッ、勝機は貴様しかないッ!」
無表情の男の背後に回り込み、私は肩を掴んで赤い剣をその首筋に添えた。
「動くなよ……貴様は人質だ」
「俺か」
私がそうすると、ダンピールは呆れたような目でこちらを見た。だが、獣の血は怒りに満ちた表情で私を睨んでいる。
「主様に薄汚い手で触れないで」
「ッ!?」
獣の血、その両腕がボトリと地面に落ちると、私の腕も同じように斬り落とされた。
「有り得な、ぐッ、これは……ッ」
腕を再生させようとした瞬間、私の影から大量の腕が伸びて私の体を掴んだ。
「カァ、残念だったな」
「なん、だ……何なんだッ、貴様らはッ!」
影の腕を引きちぎろうとするも、その影は私の体を一瞬にして覆い尽くし、引きちぎることも霧となって逃れることも出来なくなった。
「さぁな、だが分かってるのは……ここでお前は終わりってことだ」
私を覆う影を突き破って、金眼の男の指先が直接私に触れた。
「ぐッ、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」
爆発するように流れ込む電流。それは私の体内を全て焼きながら駆け巡っていく。
「き、り」
きり、に……霧に、ならなければ……電流を、無効化しなければ……。
「カァ、そいつは悪手だな」
私が霧になった瞬間、その声だけが聞こえた。
「後ろに控えている奴も気にはなるが……」
そいつにまで手を出している余裕は無い。向こうから仕掛けてこない限りは放置で良いだろう。
「取り敢えず、選別するか」
ダンピールが黄金の剣を思い切り振り抜いた。
「なッ」
「避けッ!?」
光の斬撃が放たれて氷の大地を一瞬で駆け抜けた。反応出来なかった者を光は容赦なく切り裂き、そのまま浄化した。背後に居た魔物達も、同じように避けられなかった者は葬られてしまった。
「カァ、半分近く逝ったな」
金眼の男が指先を天に向けると、大気がうねり、風が吹き荒れ、雲が激しく動き始める。
「じゃあ、もう半分と行くか」
寒空を切り裂き、雷が落ちる。正確に敵を狙うその雷撃は、次々に吸血鬼だけを撃ち抜いていく。
「ぐッ、面倒な……ぬォッ!?」
「体が痺れ……がッ!?」
雷によって動作が停止した瞬間を燃える細剣が、銀の奔流が、刈り取っていく。
「不味い、だが……準備は整った」
私の体から膨大な魔力が、大量の血が溢れる。
「『深紅の主』」
潜めていた気配も露わにして、私は奴らの前に歩み出る。濃厚な血の魔力はローブとなって私に纏わりつき、私の手には赤い剣が握られる。
「『深紅の王令』」
そして、私から溢れる血の魔力が形を成して次々と赤い狼や蝙蝠等の獣が創り出されていく。
「ギルガル……その力は」
「ふん。数日動けなくなる程度、ここでの勝利に比べればどうでも良い」
憔悴した表情でこちらを見る仲間。その様子に優越感を感じつつも、私は赤い剣を先頭のダンピールの男に向けた。
「随分と自信があるようだな……高位吸血鬼」
「ッ、私はただの高位吸血鬼ではない……ニオス様に選ばれし、素質ある吸血鬼だ。今回の件が終われば、直ぐにでも最上位吸血鬼……ひいては、真祖に至ってやるとも」
ダンピールは私の言葉を鼻で笑い、黄金の剣をこちらに向けた。
「俺に勝ってから言えよ、ど三一」
「ッ! まぁ良い、そうして吠えていろ……私とて、一人で貴様に勝てるとは思っておらん。見よ、この血の獣達を。貴様が私の相手にかかりきりになっていれば、その間に他の仲間が全滅するぞ?」
血の獣は敵や味方の血を利用して増殖する。倒れた魔物達の血を利用して増えたその数は、既に百を超えている。
「戦力の計算が出来てねぇな……希望的観測で行動する奴は身を滅ぼすぜ? 俺みてぇにな」
笑うダンピール。そこで、私は気付いた。
「……何だ、この闇は……影は」
大量の影が、鴉の形を取って血の獣達に襲い掛かっている。それも、一つ一つが私のものよりも強力な使い魔になっている。
「よそ見してんじゃねえよ」
「クッ!」
振り下ろされた黄金色の刃を回避し、赤い剣を叩き込もうとする。しかし、ダンピールはそれを避けながら銀の弾丸を私に撃ち放った。
「がッ、足が……ッ!」
「おぉ、足だけで済んだか。特殊な対抗呪でも仕込んでありそうだな?」
弾丸は回避しきれず、私の足が消滅した。ぼたぼたと流れる血を制御して傷口を塞ぐ。銀弾の効力か、再生は出来そうにない。
「ッ、こうなれば……」
私は全身を霧に変え、後ろに控えている敵へと駆け抜けた。
「貴様だッ、勝機は貴様しかないッ!」
無表情の男の背後に回り込み、私は肩を掴んで赤い剣をその首筋に添えた。
「動くなよ……貴様は人質だ」
「俺か」
私がそうすると、ダンピールは呆れたような目でこちらを見た。だが、獣の血は怒りに満ちた表情で私を睨んでいる。
「主様に薄汚い手で触れないで」
「ッ!?」
獣の血、その両腕がボトリと地面に落ちると、私の腕も同じように斬り落とされた。
「有り得な、ぐッ、これは……ッ」
腕を再生させようとした瞬間、私の影から大量の腕が伸びて私の体を掴んだ。
「カァ、残念だったな」
「なん、だ……何なんだッ、貴様らはッ!」
影の腕を引きちぎろうとするも、その影は私の体を一瞬にして覆い尽くし、引きちぎることも霧となって逃れることも出来なくなった。
「さぁな、だが分かってるのは……ここでお前は終わりってことだ」
私を覆う影を突き破って、金眼の男の指先が直接私に触れた。
「ぐッ、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」
爆発するように流れ込む電流。それは私の体内を全て焼きながら駆け巡っていく。
「き、り」
きり、に……霧に、ならなければ……電流を、無効化しなければ……。
「カァ、そいつは悪手だな」
私が霧になった瞬間、その声だけが聞こえた。
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