上 下
217 / 233

四 対 百三十

しおりを挟む
 三十の吸血鬼、百の魔物。対するは四人の良く分からん敵。能力が分かっているのはあのダンピール、そして予想出来るのが獣の血、銀色の女はどうやら高出力の攻撃が可能だということのみが分かっており、残りの目つきが鋭い金眼の男は全く分からない。

「後ろに控えている奴も気にはなるが……」

 そいつにまで手を出している余裕は無い。向こうから仕掛けてこない限りは放置で良いだろう。

「取り敢えず、選別するか」

 ダンピールが黄金の剣を思い切り振り抜いた。

「なッ」

「避けッ!?」

 光の斬撃が放たれて氷の大地を一瞬で駆け抜けた。反応出来なかった者を光は容赦なく切り裂き、そのまま浄化した。背後に居た魔物達も、同じように避けられなかった者は葬られてしまった。

「カァ、半分近く逝ったな」

 金眼の男が指先を天に向けると、大気がうねり、風が吹き荒れ、雲が激しく動き始める。

「じゃあ、もう半分と行くか」

 寒空を切り裂き、雷が落ちる。正確に敵を狙うその雷撃は、次々に吸血鬼だけを撃ち抜いていく。

「ぐッ、面倒な……ぬォッ!?」

「体が痺れ……がッ!?」

 雷によって動作が停止した瞬間を燃える細剣が、銀の奔流が、刈り取っていく。

「不味い、だが……準備は整った」

 私の体から膨大な魔力が、大量の血が溢れる。

「『深紅の主クリムゾン・ロード』」

 潜めていた気配も露わにして、私は奴らの前に歩み出る。濃厚な血の魔力はローブとなって私に纏わりつき、私の手には赤い剣が握られる。

「『深紅の王令クリムゾン・オーダー』」

 そして、私から溢れる血の魔力が形を成して次々と赤い狼や蝙蝠等の獣が創り出されていく。

「ギルガル……その力は」

「ふん。数日動けなくなる程度、ここでの勝利に比べればどうでも良い」

 憔悴した表情でこちらを見る仲間。その様子に優越感を感じつつも、私は赤い剣を先頭のダンピールの男に向けた。

「随分と自信があるようだな……高位吸血鬼」

「ッ、私はただの高位吸血鬼ではない……ニオス様に選ばれし、素質ある吸血鬼だ。今回の件が終われば、直ぐにでも最上位吸血鬼……ひいては、真祖に至ってやるとも」

 ダンピールは私の言葉を鼻で笑い、黄金の剣をこちらに向けた。

「俺に勝ってから言えよ、ど三一さんぴん

「ッ! まぁ良い、そうして吠えていろ……私とて、一人で貴様に勝てるとは思っておらん。見よ、この血の獣達を。貴様が私の相手にかかりきりになっていれば、その間に他の仲間が全滅するぞ?」

 血の獣は敵や味方の血を利用して増殖する。倒れた魔物達の血を利用して増えたその数は、既に百を超えている。

「戦力の計算が出来てねぇな……希望的観測で行動する奴は身を滅ぼすぜ? 俺みてぇにな」

 笑うダンピール。そこで、私は気付いた。

「……何だ、この闇は……影は」

 大量の影が、鴉の形を取って血の獣達に襲い掛かっている。それも、一つ一つが私のものよりも強力な使い魔になっている。

「よそ見してんじゃねえよ」

「クッ!」

 振り下ろされた黄金色の刃を回避し、赤い剣を叩き込もうとする。しかし、ダンピールはそれを避けながら銀の弾丸を私に撃ち放った。

「がッ、足が……ッ!」

「おぉ、足だけで済んだか。特殊な対抗呪でも仕込んでありそうだな?」

 弾丸は回避しきれず、私の足が消滅した。ぼたぼたと流れる血を制御して傷口を塞ぐ。銀弾の効力か、再生は出来そうにない。

「ッ、こうなれば……」

 私は全身を霧に変え、後ろに控えている敵へと駆け抜けた。

「貴様だッ、勝機は貴様しかないッ!」

 無表情の男の背後に回り込み、私は肩を掴んで赤い剣をその首筋に添えた。

「動くなよ……貴様は人質だ」

「俺か」

 私がそうすると、ダンピールは呆れたような目でこちらを見た。だが、獣の血は怒りに満ちた表情で私を睨んでいる。

「主様に薄汚い手で触れないで」

「ッ!?」

 獣の血、その両腕がボトリと地面に落ちると、私の腕も同じように斬り落とされた。

「有り得な、ぐッ、これは……ッ」

 腕を再生させようとした瞬間、私の影から大量の腕が伸びて私の体を掴んだ。

「カァ、残念だったな」

「なん、だ……何なんだッ、貴様らはッ!」

 影の腕を引きちぎろうとするも、その影は私の体を一瞬にして覆い尽くし、引きちぎることも霧となって逃れることも出来なくなった。

「さぁな、だが分かってるのは……ここでお前は終わりってことだ」

 私を覆う影を突き破って、金眼の男の指先が直接私に触れた。

「ぐッ、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」

 爆発するように流れ込む電流。それは私の体内を全て焼きながら駆け巡っていく。

「き、り」

 きり、に……霧に、ならなければ……電流を、無効化しなければ……。

「カァ、そいつは悪手だな」

 私が霧になった瞬間、その声だけが聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...