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東方は拘束から身を乗り出し、カラスとステラを睨みつけた。
「おい。マジで行くんじゃねえぞ?」
「えぇ、分かってますよ」
東方は溜息を吐き、そしてメイアの方を見た。
「しかし、アカシアとバラカの娘か。それなら、人の血を吸わずにここまで強くなれたのも納得できるな」
「別に、人の血を吸っていない訳じゃないわよ」
メイアの言葉に東方は首を傾げるも、直ぐに気が付いた。
「……パートナーか」
「そうよ」
吸血鬼で言うパートナーとは、協力関係にある血を提供してくれる人間のことだ。それを聞いた東方は、しみじみと頷いた。
「じゃあ、今は幸せか?」
「そうね。後悔のない人生とは言えないけれど、今は幸せに暮らせてるわ」
東方は、月の浮かぶ夜空をゆっくりと見上げた。
「そう、か……だったらもう、心残りも無いな」
東方の口から漏れた不穏な言葉に、メイアは眉を顰める。
「心残りが無いって……何をする気なの?」
「……何でもねぇさ」
そう言い残し、東方は話を打ち切った。
「おいおい、その話の切り方で察せない訳ないだろ?」
「死相が見えますよ」
微笑んで言うステラに、東方は息を吐く。
「俺はダンピールだ。常に、周囲の吸血鬼の位置を把握できる。尚且つ、潜伏することも得意だ。俺ならば、敵に気付かれずに目標を達成できる可能性がある」
「目標と言うのは、具体的に?」
「アカシアの救出は難しい。アカシアの血はあるが……どうすれば根源から呼び覚ますことが出来るかは分からない。だが、バラカに関しては救出出来る可能性が高い。吸血鬼の封印となれば、恐らくあの石の中だ。そして、封印は絶対に館の中にある。それなら、俺でも何とか出来る」
絞り出すような説明に、ステラは険しい目を向ける。
「調子に乗らないで下さい」
「ッ」
想いもしていなかった言葉に、東方は言葉を詰まらせた。
「貴方の説明を聞いている限り、貴方一人で目標を達成することは不可能に近いです。何より、隠密行動で封印を突破するのであれば私達の方が向いています」
「……やってみなければ、分からない。それに、俺はもう未練も無い。最後にアイツらの為に死ねるなら……俺の人生にも、少しは意味がある」
東方の言葉に、ステラは呆れたように息を吐く
「情報を抱え落ちするのは止めて下さい」
「だが……」
渋るような東方に、メイアが微笑む。
「単純な話よ。協力すれば良いじゃない」
「……ダメだ。俺達で力を合わせても絶対に足りない」
「別に、私達だけなんて言ってないわ。私のパートナーは、私よりも強いわよ」
「それは、どのくらいだ?」
その問いに、メイアはニヤリと笑う。
「私じゃ、足元にも及ばないくらいね」
「……本気で言ってるのか?」
三人が全員頷き、東方は呆然と口を開けた。
「煙草を、吸わせてくれ……ちょっと、考える」
影の拘束が外れ、東方は煙草を取り出して火を付けた。
♢
という訳で、俺の前には三体の使い魔と一人の男が座っていた。
「あー、申し遅れました。東方です」
「敬語は止めてくれ。歳上だろう」
使い魔達から連絡を受け、共有を受けた俺は、取り敢えずこの男を家に招いた。謝罪と挨拶を聞いたが、敬語に不慣れさのようなものを感じたのでやめさせた。
「そうかぁ? んじゃ、遠慮なく」
「それと、先に言っておくが……俺達の情報を他の奴に漏らすようなことがあれば、殺すことになる。そもそもそれが出来ないように、契約もしてもらう」
「あぁ、分かってるさ。俺は口は堅い方だぜ?」
「分かった。じゃあ、後で契約を頼む」
口が堅かろうが軽かろうが、契約すれば同じだ。勿論、契約を突破されるという可能性も無くは無い訳だが。
「それで、聞いたぜ。お前は相当強いんだろ?」
「……まぁ、そうだな」
今更、否定するのは不可能だし、その必要も無い。
「良し、じゃあ期待させてもらうぜ……先ず、俺が知ってるのは館の位置とある程度の間取り、それと何人かの敵の能力だな」
「取り敢えず、敵で一番強いのは誰だ?」
俺のその問いに、東方は即答した。
「ニオス・コルガイ。敵の親玉だ。高い魔術や科学の技術を持っている、恐らく真祖の吸血鬼だ。アイツの真に恐ろしい所は知識だ。アイツは俺達の知らないようなことを沢山知っている。アイツがいつから生きているかは知らないが……アイツが吸血鬼の頂点の座に立ったのは、知識の力が大きいだろう」
「……知識、か」
魔術等において、知識というのはそのまま力に直結する。俺達が相手にするのは、単純な力押しの怪物とは思わない方が良いだろう。
「それと、間取りに関しては変化している可能性もある。余り、信頼しないで欲しいが……根源の位置に関しては動いていない筈だ」
「……その、根源ってのは何なんだ?」
話には出ていたが、その正体に関しては良く分からなかった。
「あぁ……根源ってのは、血の根源だ。全ての吸血鬼の祖とでも言うべき物体だな。始祖の吸血鬼は消滅した時、その根源に還る。上位の吸血鬼はストックを……つまり、自分の血を非常用に保存しておいて、そこから復活するんだが……始祖の吸血鬼にとっては、根源がそのストックになる」
「……それなら、アカシアは復活している筈じゃないのか?」
俺の問いに、東方は首を振った。
「おい。マジで行くんじゃねえぞ?」
「えぇ、分かってますよ」
東方は溜息を吐き、そしてメイアの方を見た。
「しかし、アカシアとバラカの娘か。それなら、人の血を吸わずにここまで強くなれたのも納得できるな」
「別に、人の血を吸っていない訳じゃないわよ」
メイアの言葉に東方は首を傾げるも、直ぐに気が付いた。
「……パートナーか」
「そうよ」
吸血鬼で言うパートナーとは、協力関係にある血を提供してくれる人間のことだ。それを聞いた東方は、しみじみと頷いた。
「じゃあ、今は幸せか?」
「そうね。後悔のない人生とは言えないけれど、今は幸せに暮らせてるわ」
東方は、月の浮かぶ夜空をゆっくりと見上げた。
「そう、か……だったらもう、心残りも無いな」
東方の口から漏れた不穏な言葉に、メイアは眉を顰める。
「心残りが無いって……何をする気なの?」
「……何でもねぇさ」
そう言い残し、東方は話を打ち切った。
「おいおい、その話の切り方で察せない訳ないだろ?」
「死相が見えますよ」
微笑んで言うステラに、東方は息を吐く。
「俺はダンピールだ。常に、周囲の吸血鬼の位置を把握できる。尚且つ、潜伏することも得意だ。俺ならば、敵に気付かれずに目標を達成できる可能性がある」
「目標と言うのは、具体的に?」
「アカシアの救出は難しい。アカシアの血はあるが……どうすれば根源から呼び覚ますことが出来るかは分からない。だが、バラカに関しては救出出来る可能性が高い。吸血鬼の封印となれば、恐らくあの石の中だ。そして、封印は絶対に館の中にある。それなら、俺でも何とか出来る」
絞り出すような説明に、ステラは険しい目を向ける。
「調子に乗らないで下さい」
「ッ」
想いもしていなかった言葉に、東方は言葉を詰まらせた。
「貴方の説明を聞いている限り、貴方一人で目標を達成することは不可能に近いです。何より、隠密行動で封印を突破するのであれば私達の方が向いています」
「……やってみなければ、分からない。それに、俺はもう未練も無い。最後にアイツらの為に死ねるなら……俺の人生にも、少しは意味がある」
東方の言葉に、ステラは呆れたように息を吐く
「情報を抱え落ちするのは止めて下さい」
「だが……」
渋るような東方に、メイアが微笑む。
「単純な話よ。協力すれば良いじゃない」
「……ダメだ。俺達で力を合わせても絶対に足りない」
「別に、私達だけなんて言ってないわ。私のパートナーは、私よりも強いわよ」
「それは、どのくらいだ?」
その問いに、メイアはニヤリと笑う。
「私じゃ、足元にも及ばないくらいね」
「……本気で言ってるのか?」
三人が全員頷き、東方は呆然と口を開けた。
「煙草を、吸わせてくれ……ちょっと、考える」
影の拘束が外れ、東方は煙草を取り出して火を付けた。
♢
という訳で、俺の前には三体の使い魔と一人の男が座っていた。
「あー、申し遅れました。東方です」
「敬語は止めてくれ。歳上だろう」
使い魔達から連絡を受け、共有を受けた俺は、取り敢えずこの男を家に招いた。謝罪と挨拶を聞いたが、敬語に不慣れさのようなものを感じたのでやめさせた。
「そうかぁ? んじゃ、遠慮なく」
「それと、先に言っておくが……俺達の情報を他の奴に漏らすようなことがあれば、殺すことになる。そもそもそれが出来ないように、契約もしてもらう」
「あぁ、分かってるさ。俺は口は堅い方だぜ?」
「分かった。じゃあ、後で契約を頼む」
口が堅かろうが軽かろうが、契約すれば同じだ。勿論、契約を突破されるという可能性も無くは無い訳だが。
「それで、聞いたぜ。お前は相当強いんだろ?」
「……まぁ、そうだな」
今更、否定するのは不可能だし、その必要も無い。
「良し、じゃあ期待させてもらうぜ……先ず、俺が知ってるのは館の位置とある程度の間取り、それと何人かの敵の能力だな」
「取り敢えず、敵で一番強いのは誰だ?」
俺のその問いに、東方は即答した。
「ニオス・コルガイ。敵の親玉だ。高い魔術や科学の技術を持っている、恐らく真祖の吸血鬼だ。アイツの真に恐ろしい所は知識だ。アイツは俺達の知らないようなことを沢山知っている。アイツがいつから生きているかは知らないが……アイツが吸血鬼の頂点の座に立ったのは、知識の力が大きいだろう」
「……知識、か」
魔術等において、知識というのはそのまま力に直結する。俺達が相手にするのは、単純な力押しの怪物とは思わない方が良いだろう。
「それと、間取りに関しては変化している可能性もある。余り、信頼しないで欲しいが……根源の位置に関しては動いていない筈だ」
「……その、根源ってのは何なんだ?」
話には出ていたが、その正体に関しては良く分からなかった。
「あぁ……根源ってのは、血の根源だ。全ての吸血鬼の祖とでも言うべき物体だな。始祖の吸血鬼は消滅した時、その根源に還る。上位の吸血鬼はストックを……つまり、自分の血を非常用に保存しておいて、そこから復活するんだが……始祖の吸血鬼にとっては、根源がそのストックになる」
「……それなら、アカシアは復活している筈じゃないのか?」
俺の問いに、東方は首を振った。
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