上 下
198 / 233

めでたし

しおりを挟む
 怒気と妖気が俺の背後から溢れ、蘆屋に向けられる。

「ほう、この玉藻前に向けて……当てつけのつもりか、小娘」

 じろりと睨む大妖狐に、蘆屋は俺の後ろに隠れながら笑った。

「まさか、天下の大妖狐様がこのくらいで怒る訳ないよね? まさかそんなに器が小さいなんて、有り得ないよね!」

「ぐっ、貴様……ッ!」

 九尾の狐を相手にここまで言えるのは凄いな。どんだけ負けず嫌いなんだ。

「……落ち着け。ここで争いを始めたら計画が台無しだ」

 人間と妖怪の宥和を求めてこれだけのことをしたのに、今ここで殺し合いが始まれば終わりだ。

「……勇って、感情とか無いの?」

「失礼だな、お前は」

 白けたような目で言う蘆屋を俺は睨みつけた。


「――――刀の人」


 現れたのは、刀を携えた少女……八研御日だ。

「私、頑張った」

 胸を張って言う御日。実際、その体には無数の傷跡が刻まれている。

「あぁ、良く頑張ったな」

「うん。助けてくれて、ありがと」

 俺は御日の頭に手を置き、軽く撫でた。

「……心が落ち着くな」

「なッ、僕と何が違うの!?」

 悲鳴を上げる蘆屋。お前とは何もかもが違う。主に、純真さとかな。

「ふん。吾という存在が強大過ぎる故に気が休まらぬのは分かるがの」

「……あぁ」

 俺は二人の言葉を受け流し、暗雲の晴れた空を見上げた。



 ♢



 あれから暫くの時が過ぎ、俺はリビングでテレビをボーっと見ていた。因みに、テレビは使い魔達の希望で最近買った。

『さぁ、百鬼夜行です! 妖怪達が、渋谷の街を並んで歩いています!』

 それは、正に百鬼夜行だった。ニヤリと笑うぬらりひょんを先頭に鬼一や旻が並び、おどろおどろしい妖怪達が堂々と街を闊歩している。

『壮観ですねぇ~!』

 呑気に叫ぶリポーターは、恐怖を抱いている様子も無い。恐らく、この世界の住民は怪物に慣れ過ぎてしまったのだろう。

「カァ、皆スマホ向けてやがるぜ。呑気なもんだなぁ」

「カラス、お前は行かないのか?」

 唯一家に残っているカラス。ステラも一応居るが、飽くまで本体は向こうだ。

「行かねえよ。オレはどうせカラスだからな。行っても行かなくても変わらねぇ」

「……まぁ、それもそうか」

 カラスは別に魔物でも無いからな。ただの使い魔である以上、何かアピールする必要も無い。

『うぉおおおおおッ! ステラちゃんだぁあああああ!!』

『俺達の女神ッ! こっちに手を振ってるぞッ!』

『メイアちゃんッ、メイアちゃんも居るぞ!』

 そして、二人並んで歩くメイアとステラ。二人は微笑みと共に手を振っている。

「……楽しそうだな」

「アイツら、どっちも優越感に浸るのが好きだからなぁ」

 俺が呟くと、カラスが答えた。確かに、そうだな。

「さて、飯でも食うか」

「カァ、もう昼だからな!」

 そして、こいつは食うのが好きだ。楽しそうに翼をはためかせるカラスに、俺は久し振りに料理をすることにした。



 机に並ぶ二つの皿。その中身はどちらも炒飯だ。

「うめえ……うめぇな!」

 まぁ、一応は得意料理だからな。

「……久し振りに作ったが、美味いな」

 炒飯自体久し振りに食うが、良いな。

「やぁ」

 地面からぬるりと現れたのは、ぬらりひょんだ。

「僕も頂いて良いのかな?」

「俺のはやらん」

「言っとくが、オレも絶対嫌だからな」

 瓢は溜息を吐き、テレビの前に座り込む。

「全く、薄情だね……君の使い魔の為にも色々頑張って来たって言うのにさ」

「そういえば、三明の剣は返せたのか?」

 大嶽丸を討伐した後、三明の剣を拾った俺は瓢に返却を依頼していたんだが、こいつのことだから忘れていてもおかしくない。

「あはは、勿論! うん、良いになったよ」

「……なるほどな」

 一部の魔物や妖怪の存在、人権を認めるという、政府としては到底承諾しがたい要求を、三本の神器を盾に認めさせたのだろう。

「いやぁ、めでたしだね。気分が良いよ。物事が上手く行くってのは、素晴らしいことさ」

「……妖怪と人間の調和ってのは、アンタの宿願でもあった訳だな」

 俺の言葉に、瓢はニヤリと笑う。

「当然さ。あの頃は、凄く楽しかったからね……あの世界をもう一度創りたいって、僕はずっと思ってたのさ」

「やっぱり腹黒いな、アンタ」

 最初はまるで人類の平和の為に玉藻を止めるんだ、くらいのテンションで来ていたが、どうやら本当の狙いはその奥にあったらしい。
 俺達も玉藻も利用して、自分の目的を達する……天明に警戒されていたのも理解できるな。

「というか、百鬼夜行はまだ途中だろう? 抜け出してきても良かったのか?」

「ん? まぁ、後は本当にただ歩くだけだからね。戻りはするけど、僕が居なくても問題無いよ」

 既に必要なアピールは済んでいるということだろうか。

「しかし……想定以上に、有名になったな」

 俺では無く、メイアとステラの話だ。

「そうだね、色々と記事やニュースにもなってたからね」

「あぁ、アンタのせいだろ?」

「酷いなぁ、それを言うなら僕のお陰でしょ。望まれてやったことだからね」

 ニコニコと笑う瓢。

「そもそも、メディア関連については僕よりもステラちゃんの方が色々やってるからね。文句を言うなら本人に言って欲しいな」

「アイツらが有名になり過ぎると色々困るんだが……まぁ、良いか」

 ステラとメイアの帰ってくる場所はこの家だ。そして、街中を一緒に歩くこともある。そうなれば、俺の存在も露呈してしまう。

「……それで、アンタは何をしに来たんだ?」

「まぁ、落ち着いて話をする機会も無かったから、ちょっと話をしたかったってのと……君について、聞きたくてさ」

 俺は眉を顰めて瓢を見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...