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相伝、秘伝、その奥義。

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 宙を舞う九尾の狐。それに追い縋るように手を伸ばす大嶽丸。その目に最早理性は無い。

「『神妖術・白炎牢縛』」

 玉藻が空中でくるりと振り向きながら術を行使する。白い炎が大嶽丸の足元から起こり、その全身に絡み付いて行く。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 しかし、その身から溢れる緑の神力が白い炎を破り、消し飛ばす。

「『神妖術・天穿神白剣』」

 その直後に生み出された巨大な白い炎の剣が、大嶽丸の胸を目掛けて真っ直ぐ迫る。

「ォオオオオオオオオオオッ!!」

 思い切り拳を振りかぶる大嶽丸。巨大な剣の先端に拳がぶつかり、白い炎が爆発する。

「ッ、これでもダメじゃと……!」

 大嶽丸の拳は消滅し、その断面からは白い炎が燃え上がっているが、炎は緑の神力によって掻き消され、消滅した拳は一瞬で再生した。

「ォオオオオオオ……ッ!」

 大嶽丸が腕を真っ直ぐ横に伸ばす。すると、その手から神力が溢れ、剣の形を構築していく。

「こやつ……力の使い方を学んでおるッ!」

 その巨人には、理性は無いが知性はある。故に、己に宿る力を理解し、学習しているのだ。

「グォオオ……」

 巨大な緑の神力で象られた半透明の剣。それは、凄まじいエネルギーの集合体だ。

「ォオオ」

 そして、学習する巨人はこそこそと何かをしている陰陽師二人を見た。

「ッ、不味いぞ天明!」

「『南より来たるは赤き凶将』」

 焦る行道。しかし、天明は汗を垂らしながらも詠唱を止めようとはしない。

「ォオオオオオオオオッ!!」

「『神妖術・地壊噴焔』」

 天明に向けて振り下ろされる神力の剣。同時に、地面に大きな穴が開き、そこから白い炎が噴き出して大嶽丸の剣を直撃し、その斬撃を食い止める。


「――――奥義、天照」


 その瞬間、眩い光が閃いた。その斬撃は紅蓮の炎と共に大嶽丸の剣を持つ腕を斬り落とした。

「ォオオッ」

 分かたれた腕。しかし、離れた腕と胴の腕から溢れる神力同士が繋がり、斬り落とされた腕が繋がろうとする。

「『五行・夜叉斬、暴れ蜘蛛』」

 それを阻止せんと宙を駆けた鬼一。振り回された刃は五行の光と共に斬撃を蜘蛛の巣のように撒き散らし、繋がっていた神力を切断した。

「これだけやったのだッ、相応のものを見せろよ陰陽師!」

 叫ぶ鬼一。地面に落ちる神力の剣。それは地面に突き刺さると、そのまま大地を削って下に落ちていく。だが、大嶽丸の攻勢はまだ終わっていない。

「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 大嶽丸は天明の方に走りながら、思い切りその身を投げ出した。このままでは、天明も行道も潰されてしまう。

「ッ、儂では止められぬぞッ!」

「吾でも止められぬッ!」

 叫ぶ霧生。白い炎が大嶽丸を襲うが、それを掻き消しながら大嶽丸は天明に倒れ落ちる。

「『壬来転行』」

 しかし、その身が天明を圧し潰す寸前、天明と行道の体がその場から消え失せた。

「ふぅ……何とか、何とか成功させたぞ天明ッ!」

 精密な儀式を中断させず、展開された陣をそのまま丸ごと転移した行道。それは、正に神業と言える技術だ。陰陽師達の中でも歳を重ねている行道だからこその成功と言えるだろう。

「『十二天将、己換招来』」

 天明は行道の言葉には答えず、代わりにただ詠唱を紡ぎ、手印を結んだ。


「『――――天戒羅刹』」


 現れたのは、鎧を纏い両手に刀を握った鬼武者。頭からは緑と金の角が一本ずつ生えており、背からは赤く美しい翼が炎を纏って生えている。刀は白い刃と黒い刃のものを一本ずつだ。

「これは……成る程な。上手く創ったものだ」

 鬼一が感心するように言う。その正体を、元陰陽師である鬼一は察したからだ。

「土御門家相伝、十二天将……聞こえは良いが、言ってしまえば劣化版のレプリカだ」

 土御門家には安倍晴明が残した十二天将を再現する術式が受け継がれている。しかし、それはオリジナルの十二天将には遥かに劣るものでしかない。

「故に、俺は考えたのだ」

 力の劣るレプリカ。だからこそ、利用できる手段がある。

「混ぜてしまえ、とな」

 劣化版十二天将、その混合体である式神。口で言うには簡単だが、実際にそれを創るとなると凄まじい知識量とセンスが必要になる。だが、天明にはその両方が備わっていた。

「朱雀、青龍、玄武、白虎、太裳、天后、匂陳」

 七体の十二天将を混ぜ合わせた、天明の最高傑作。それが、今解き放たれた。

「天戒羅刹よ、あの巨鬼を殺せ」

「相分かった」

 武者は頷き、大嶽丸の方に駆け抜ける。その間に、大嶽丸の片腕は復活し、その手にはまた神力の剣が握られていた。

「ォォオ……!」

「『白虎・凶猛駆け』」

 大嶽丸の体から緑の神力が溢れ、無数の刃となって武者に放たれるが、白い気を纏い、凄まじい速度で走る武者はそれらを回避しながら大嶽丸へと距離を詰める。

「『朱雀・炎柱昇』」

 大嶽丸の足元、炎の柱が天へと立ち昇り、その中から武者が大嶽丸の眼前に現れた。
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