185 / 233
混じり合うは妖
しおりを挟む
現れた妖怪達。それを見た巨人は、自衛隊ごと叩き潰そうと思い切り走り込み、そして自らの身を厭わずに地面に倒れ込んだ。
「や、やばいッ!!」
「こいつッ、纏めて潰す気だッ!」
逃れようとする自衛隊達だが、当然間に合う訳もなく巨人の体が迫る。
「あはは、大丈夫だよ」
先頭に居た少年、ぬらりひょんが迫る巨人を恐れもせずに見上げ……
「じゃあね」
「や、やばッ」
倒れて来た巨人は自衛隊や妖怪たちの体を擦り抜け、そして地面すらも擦り抜け、奈落へと落ちて行った。
「……何だと」
「俺達の体を……擦り抜けた?」
自衛隊達が少年を見ると、ニヤリと笑った。
「僕はぬらりひょんの瓢。安心しておくれ、僕たちは……人類の味方さ」
その言葉を境に、狸の群れがどこからともなく飛び出し、青い鬼の巨人が立ち上がった。
♢
自衛隊と妖怪の連合軍が魔物の群れとぶつかり合う頃、陰陽師の集団が鈴鹿山へと向かっていた。
「……これは、どういう状況なんだ。天明」
「見ての通りよ。こうして俺が調伏したという訳だ」
陰陽師の集団に混じって歩くのは、九本の尾をふさふさと揺らして歩く玉藻前。
「調伏などされておらんわ、戯けが」
「おい、説明しろ」
「説明はしただろう。全員に通達は行っている筈だが?」
ふんぞり返って言う天明を、年行った男が睨みつけた。
「アレを説明と言う気か? 長としての権利で強制通達しただけだろう」
「……まぁ、そうとも言うな」
「ッ! 天明、貴様なぁ……ッ!」
怒りを露わにする男の肩に、更に年老いた男が手を乗せる。
「まぁ、落ち着けや。三善の」
「賀茂の翁……貴様もコレと同じ類の人間だろう」
「心外だのぉ、儂はこんなちゃらんぽらんとは違う」
「何だと爺」
醜く言い争う陰陽師たちを見て、黒い和装の夜叉が溜息を吐く。
「やかましいぞ。今の陰陽師はこうも落ちたのか……」
「そもそも、お前は誰だ鬼もどきッ! 九尾の子分の癖して、一丁前に口を出して来るとは――――ッ」
夜叉が刀を抜き、三善と呼ばれた男の首筋に刃を突きつける。
「自己紹介が遅れたな。鬼一だ」
「鬼一ッ、鬼一法眼だと……ッ!? あの、京八流のッ!」
頷く鬼一に、三善は慌てた様子で膝を突く。
「これは、まさかあの陰陽剣術の開祖とは……失礼致しましたッ!」
「やめろ。俺など陰陽寮にすら居らん在野の陰陽師だった。舐められるのは好かんが、畏まられるのも好かん」
少し脅かしてやるつもりだった鬼一だが、想像以上の反応に溜息を吐く。
「鬼一。この場で刀を抜くのは控えた方が良かろう」
「……確かに、浅慮だったな」
霧生の言葉に、鬼一は刀を鞘に納める。
「ねぇねぇ」
「ん、なに?」
陰陽師の集団の後方、一人の少女が別の少女に声をかける。
「もしかして、剣士?」
「うん。あそこにいるお祖父ちゃんと、同じ」
白い短髪に赤い目の少女が問いかけると、黒い短髪の少女が答えた。
「へぇ、その歳で凄いね……怖くないの?」
「歳は、あなたも同じくらいに見えるけど」
「そうだけど、剣士なら敵と直接斬り合うんだよね?」
「うん。でも、私からすれば……陰陽師として戦う方が、怖い。自分を守る力が、足りないから」
確かに近接戦の不得手な陰陽師ならば、自衛力は剣士よりも格段に劣るだろう。
「ふぅん、なるほどね……ところで、名前聞いても良い?」
「私は、八研御日。あなたは?」
白い方の少女はニヤリと笑い、答える。
「蘆屋干炉。蘆屋道満の血を引く天才陰陽師とは僕のことさ」
「……天才陰陽師なの?」
自信満々に言う蘆屋の頭にポンと手が置かれる。
「こらこら、干炉。他の人に迷惑をかけるのは止めておきなさい」
それは、穏やかな……しかし、どこか疲れが滲んだ表情の男だ。
「あ、お父さん。愛娘の友達作りを邪魔するつもり?」
「そんなつもりは無いさ。ただ、自ら天才などと名乗るのは良くないぞ。実力は言葉で示すものではなく、結果で示すものだ。何度も言っただろう?」
「あー、うん。分かった分かった。もう良いからあっち行ってよ」
「……少し自分勝手なところもある子だが、良い子なんだ。良ければ、仲良くしてあげて欲しい」
それだけ伝えると、干炉の親は前の方に戻っていった。
「因みに、御日ちゃん……不安とかあったりする?」
蘆屋の問いに、御日は首を振る。
「全然、無い」
「へぇ、そうなんだ……実は、僕もなんだよね」
平然と答える御日に、ニヤリと頷く蘆屋。
「でも、相手は大嶽丸だよ? 九尾の狐だって、土壇場で裏切る可能性だってあるし」
「玉藻前が裏切っても、大丈夫」
「へぇ、何で?」
「……詳しくは、言えないけど」
命の危険を伴う戦場に向かいながらも、不安を抱いていない二人。その根拠となる人物は、同じだ。
陰陽師の軍団から数キロ離れた場所、一人の男が無表情で歩いていた。
「……遠足か?」
遠くからでも音を聞くことができる老日は、呑気に話している陰陽師たちの様子を見てそういった。
「不安だが……まぁ、アイツらが居れば大丈夫だろう」
玉藻や霧生、鬼一等の信頼出来る仲間が居るのも確かだ。
「祈っておくか。出番が無いことを」
老日は手を合わせることもなく、ただ空を見て祈りを捧げた。
「や、やばいッ!!」
「こいつッ、纏めて潰す気だッ!」
逃れようとする自衛隊達だが、当然間に合う訳もなく巨人の体が迫る。
「あはは、大丈夫だよ」
先頭に居た少年、ぬらりひょんが迫る巨人を恐れもせずに見上げ……
「じゃあね」
「や、やばッ」
倒れて来た巨人は自衛隊や妖怪たちの体を擦り抜け、そして地面すらも擦り抜け、奈落へと落ちて行った。
「……何だと」
「俺達の体を……擦り抜けた?」
自衛隊達が少年を見ると、ニヤリと笑った。
「僕はぬらりひょんの瓢。安心しておくれ、僕たちは……人類の味方さ」
その言葉を境に、狸の群れがどこからともなく飛び出し、青い鬼の巨人が立ち上がった。
♢
自衛隊と妖怪の連合軍が魔物の群れとぶつかり合う頃、陰陽師の集団が鈴鹿山へと向かっていた。
「……これは、どういう状況なんだ。天明」
「見ての通りよ。こうして俺が調伏したという訳だ」
陰陽師の集団に混じって歩くのは、九本の尾をふさふさと揺らして歩く玉藻前。
「調伏などされておらんわ、戯けが」
「おい、説明しろ」
「説明はしただろう。全員に通達は行っている筈だが?」
ふんぞり返って言う天明を、年行った男が睨みつけた。
「アレを説明と言う気か? 長としての権利で強制通達しただけだろう」
「……まぁ、そうとも言うな」
「ッ! 天明、貴様なぁ……ッ!」
怒りを露わにする男の肩に、更に年老いた男が手を乗せる。
「まぁ、落ち着けや。三善の」
「賀茂の翁……貴様もコレと同じ類の人間だろう」
「心外だのぉ、儂はこんなちゃらんぽらんとは違う」
「何だと爺」
醜く言い争う陰陽師たちを見て、黒い和装の夜叉が溜息を吐く。
「やかましいぞ。今の陰陽師はこうも落ちたのか……」
「そもそも、お前は誰だ鬼もどきッ! 九尾の子分の癖して、一丁前に口を出して来るとは――――ッ」
夜叉が刀を抜き、三善と呼ばれた男の首筋に刃を突きつける。
「自己紹介が遅れたな。鬼一だ」
「鬼一ッ、鬼一法眼だと……ッ!? あの、京八流のッ!」
頷く鬼一に、三善は慌てた様子で膝を突く。
「これは、まさかあの陰陽剣術の開祖とは……失礼致しましたッ!」
「やめろ。俺など陰陽寮にすら居らん在野の陰陽師だった。舐められるのは好かんが、畏まられるのも好かん」
少し脅かしてやるつもりだった鬼一だが、想像以上の反応に溜息を吐く。
「鬼一。この場で刀を抜くのは控えた方が良かろう」
「……確かに、浅慮だったな」
霧生の言葉に、鬼一は刀を鞘に納める。
「ねぇねぇ」
「ん、なに?」
陰陽師の集団の後方、一人の少女が別の少女に声をかける。
「もしかして、剣士?」
「うん。あそこにいるお祖父ちゃんと、同じ」
白い短髪に赤い目の少女が問いかけると、黒い短髪の少女が答えた。
「へぇ、その歳で凄いね……怖くないの?」
「歳は、あなたも同じくらいに見えるけど」
「そうだけど、剣士なら敵と直接斬り合うんだよね?」
「うん。でも、私からすれば……陰陽師として戦う方が、怖い。自分を守る力が、足りないから」
確かに近接戦の不得手な陰陽師ならば、自衛力は剣士よりも格段に劣るだろう。
「ふぅん、なるほどね……ところで、名前聞いても良い?」
「私は、八研御日。あなたは?」
白い方の少女はニヤリと笑い、答える。
「蘆屋干炉。蘆屋道満の血を引く天才陰陽師とは僕のことさ」
「……天才陰陽師なの?」
自信満々に言う蘆屋の頭にポンと手が置かれる。
「こらこら、干炉。他の人に迷惑をかけるのは止めておきなさい」
それは、穏やかな……しかし、どこか疲れが滲んだ表情の男だ。
「あ、お父さん。愛娘の友達作りを邪魔するつもり?」
「そんなつもりは無いさ。ただ、自ら天才などと名乗るのは良くないぞ。実力は言葉で示すものではなく、結果で示すものだ。何度も言っただろう?」
「あー、うん。分かった分かった。もう良いからあっち行ってよ」
「……少し自分勝手なところもある子だが、良い子なんだ。良ければ、仲良くしてあげて欲しい」
それだけ伝えると、干炉の親は前の方に戻っていった。
「因みに、御日ちゃん……不安とかあったりする?」
蘆屋の問いに、御日は首を振る。
「全然、無い」
「へぇ、そうなんだ……実は、僕もなんだよね」
平然と答える御日に、ニヤリと頷く蘆屋。
「でも、相手は大嶽丸だよ? 九尾の狐だって、土壇場で裏切る可能性だってあるし」
「玉藻前が裏切っても、大丈夫」
「へぇ、何で?」
「……詳しくは、言えないけど」
命の危険を伴う戦場に向かいながらも、不安を抱いていない二人。その根拠となる人物は、同じだ。
陰陽師の軍団から数キロ離れた場所、一人の男が無表情で歩いていた。
「……遠足か?」
遠くからでも音を聞くことができる老日は、呑気に話している陰陽師たちの様子を見てそういった。
「不安だが……まぁ、アイツらが居れば大丈夫だろう」
玉藻や霧生、鬼一等の信頼出来る仲間が居るのも確かだ。
「祈っておくか。出番が無いことを」
老日は手を合わせることもなく、ただ空を見て祈りを捧げた。
21
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
強制無人島生活
デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。
修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、
救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。
更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。
だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに……
果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか?
注意
この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。
1話あたり300~1000文字くらいです。
ご了承のほどよろしくお願いします。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる