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湖に映るのは
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富士山が美しく見えるその場所は、山中湖。富士山の東に位置する大きな湖だ。
「恐れよ! 恐れよ! 恐れよ! 恐れよ!」
その湖のほとりを行進するのはごつごつと硬い真っ赤な皮膚をした人間のような集団。彼らの顔は黒い岩の仮面で覆われており、目も鼻も口も見えない。
「我等、溶焔族。愚かなる只人共に変わりて、我等が真の人間となるのだ!」
傍目からでは特殊な部族にしか見えないが、彼らは人間ではない。少なくとも、生物学上の話では。
「我等は山の怒りの代弁者! 我等は大地の怒りの代弁者! 我等は神の怒りの代弁者!」
行進する溶焔族。その数はこの場だけで百を超え、各方面に散らばった仲間達も含めれば三百は居るだろう。そして、彼らはここに来るまでにハンターの集団を一つ崩壊させている。
「ふふん、ふふん……」
そして、彼らの前に一人の少女が現れる。
「誰だ貴様は! 我等の前に立ち塞がるとは許せぬッ!」
「ふふん、誰でしょう」
ニヤリと笑うのは、黒い短髪の少女。可憐という言葉が良く似合う彼女の頭には、特徴的な星型の髪飾りが付けられていた。
「私はね、あのね……」
少女は右腕を上に掲げる。すると、明るく照らされていた湖が暗くなっていく。天に黒雲が差したのだ。
「魔術師だよ」
黒雲が光り、すかさず雷撃が彼らを襲った。
「ぐぬぉおッ!?」
「魔術だッ、魔術士だッ!」
「『火焔撃ち』」
焦る溶焔族。その中心辺りに集まっていた杖を持つ者達の一人が、空中の黒雲に向けて炎の塊を放った。炎は黒雲を一撃で分散させ、降り注ぐ雷撃を終わらせた。
「へぇ……シャーマンって言うのかな。蘇生も出来るなんて凄いね」
落雷によって死亡した数人の溶焔族が、起き上がる。魔術とは違う、神秘的なシャーマニズムだ。
「退いていろ。お前達」
そして、群れの中から一際体格の良い男が現れる。筋骨隆々で身長が三メートル程あるその男は、ただ歩くだけで凄まじい威圧感を放っている。
「黒岩丈よ! おぉ、偉大なる戦士よ!」
「神よ、どうか彼に加護をッ!」
男の体から溢れる赤い闘気。少女はごくりと息を呑んだ。
「戦士長、黒岩丈だ……只人、お前にも名乗る名はあるだろう」
「うん、あるよ。私はね……若星 瑠奈」
少女の体から、魔力が溢れる。
「魔術結社、第七位……〈黒き海〉」
「ッ!」
少女から放たれるプレッシャー。男は自身が一歩退いていたことに驚き、少女を睨みつけた。
「……ならば、見せてみろ。俺を倒せるような魔術をな」
そう言って男は地面に手を当て、ゴゴゴと轟くような音と共に黒い巨大な棍棒を引き出す。
「ふふっ、じゃあ……見せてあげよっか」
少女は、指を一本だけ立てた。
「『ゆらりゆらり、揺れて沈んで曼陀羅華』」
男の前で詠唱を始めた少女に振り下ろされる黒い岩の棍棒。しかし、少女の姿は幻のように消える。
「『天上は落ちる。黄金の火種も呑み込んで』」
歌うように紡ぐ声。男は湖の上を悠々と歩く少女を見た。
「『星は揺蕩う。懊悩の海、倦むは孤独』」
男は湖を歩く少女に飛び掛かり、それを支援するようにマグマの矢が無数に放たれる。
「『黒星海』」
黒い海が、溢れた。それは迫っていた無数の矢や、飛び掛かる男を呑み込んだ。
「ぬ、ぬわぁッ!?」
「ふふ、ごめんね?」
向こう側の見えない不透明な黒い液体の波。その内側には無数の星のような煌めきが浮かび、まるで液状の宇宙のようだ。
「な、何だ、この……黒い、海はッ!」
「黒岩丈ッ、戦士長はどこに行ったッ!?」
黒い海に呑み込まれた男は気付けば消え去っていた。溺れ死んだ訳でも無い。
「これはね、私の固有魔術……自慢の魔術なんだよ」
黒い海は少女の意思によって動き、群れの方に向かって行く。
「逃げろッ、来るぞッ!」
「下がれッ、退くのだッ!」
「いや、逃げても間に合わぬぞッ!」
慌てて逃れようとする溶焔族たちだが、波が到達する方が速いだろう。
「時間を稼げッ! 一瞬でも長くだッ!」
「ならば我等が死ぬぞッ!」
前に走っていた者達の一部が踵を返し、その場に留まる。
「『溶焔岩体』」
赤い体が膨れ上がり、黒く大きな岩に変化する。赤く輝くマグマを垂れ流すその溶岩は、巨大な壁となって黒い海を受け止めた。
「凄い、変な生き物……でも、無駄だよ」
黒い海が壁に触れると、溶岩の壁は溶かされるようにして呑みこまれ、あっという間に黒い海は先へと進む。
「止めよッ、神主様の邪魔をさせるなッ! 少しでも役立つぞッ!」
「『掛けまくも畏き火の神よ』」
迫る黒い海に対抗するようにマグマの波が溢れ、ぶつかり合う。しかし、黒い海はあっという間にマグマを呑み込んでしまう。
「死を恐れるな、我等は不死の煙より蘇るのだッ!」
「『不二の頂を拝み奉りて』」
その場に跪いて祈りを捧げる男を全員が囲み、そして全員が分厚い溶岩に変化する。
「『高き尊き浅間大神より、厚き御恵みを辱み奉り』」
「んー、ちょっと抵抗されたかな」
黒い海は溶岩を呑み込むのに数秒を要した。そして、その内側で祈りを捧げる男の姿が露わになる。
「『恐み恐みも白す』」
黒い海が男を呑み込み、残滓のように最後の言葉が響いた。
「……なんだか、良くない感じがする」
少女は男の消滅を確認しつつも、嫌な予感に眉を顰めた。
「あぁ……やっぱり」
少女は見上げた。そこに居たのは、巨大な溶岩の巨人だった。岩の隙間から炎を噴き出す巨人は、まるで全身が燃えているようだ。
「――――我は、浅間大神」
自ら神を名乗る巨人。その足は黒い海に呑み込まれているが、消え去る気配は無かった。
「恐れよ! 恐れよ! 恐れよ! 恐れよ!」
その湖のほとりを行進するのはごつごつと硬い真っ赤な皮膚をした人間のような集団。彼らの顔は黒い岩の仮面で覆われており、目も鼻も口も見えない。
「我等、溶焔族。愚かなる只人共に変わりて、我等が真の人間となるのだ!」
傍目からでは特殊な部族にしか見えないが、彼らは人間ではない。少なくとも、生物学上の話では。
「我等は山の怒りの代弁者! 我等は大地の怒りの代弁者! 我等は神の怒りの代弁者!」
行進する溶焔族。その数はこの場だけで百を超え、各方面に散らばった仲間達も含めれば三百は居るだろう。そして、彼らはここに来るまでにハンターの集団を一つ崩壊させている。
「ふふん、ふふん……」
そして、彼らの前に一人の少女が現れる。
「誰だ貴様は! 我等の前に立ち塞がるとは許せぬッ!」
「ふふん、誰でしょう」
ニヤリと笑うのは、黒い短髪の少女。可憐という言葉が良く似合う彼女の頭には、特徴的な星型の髪飾りが付けられていた。
「私はね、あのね……」
少女は右腕を上に掲げる。すると、明るく照らされていた湖が暗くなっていく。天に黒雲が差したのだ。
「魔術師だよ」
黒雲が光り、すかさず雷撃が彼らを襲った。
「ぐぬぉおッ!?」
「魔術だッ、魔術士だッ!」
「『火焔撃ち』」
焦る溶焔族。その中心辺りに集まっていた杖を持つ者達の一人が、空中の黒雲に向けて炎の塊を放った。炎は黒雲を一撃で分散させ、降り注ぐ雷撃を終わらせた。
「へぇ……シャーマンって言うのかな。蘇生も出来るなんて凄いね」
落雷によって死亡した数人の溶焔族が、起き上がる。魔術とは違う、神秘的なシャーマニズムだ。
「退いていろ。お前達」
そして、群れの中から一際体格の良い男が現れる。筋骨隆々で身長が三メートル程あるその男は、ただ歩くだけで凄まじい威圧感を放っている。
「黒岩丈よ! おぉ、偉大なる戦士よ!」
「神よ、どうか彼に加護をッ!」
男の体から溢れる赤い闘気。少女はごくりと息を呑んだ。
「戦士長、黒岩丈だ……只人、お前にも名乗る名はあるだろう」
「うん、あるよ。私はね……若星 瑠奈」
少女の体から、魔力が溢れる。
「魔術結社、第七位……〈黒き海〉」
「ッ!」
少女から放たれるプレッシャー。男は自身が一歩退いていたことに驚き、少女を睨みつけた。
「……ならば、見せてみろ。俺を倒せるような魔術をな」
そう言って男は地面に手を当て、ゴゴゴと轟くような音と共に黒い巨大な棍棒を引き出す。
「ふふっ、じゃあ……見せてあげよっか」
少女は、指を一本だけ立てた。
「『ゆらりゆらり、揺れて沈んで曼陀羅華』」
男の前で詠唱を始めた少女に振り下ろされる黒い岩の棍棒。しかし、少女の姿は幻のように消える。
「『天上は落ちる。黄金の火種も呑み込んで』」
歌うように紡ぐ声。男は湖の上を悠々と歩く少女を見た。
「『星は揺蕩う。懊悩の海、倦むは孤独』」
男は湖を歩く少女に飛び掛かり、それを支援するようにマグマの矢が無数に放たれる。
「『黒星海』」
黒い海が、溢れた。それは迫っていた無数の矢や、飛び掛かる男を呑み込んだ。
「ぬ、ぬわぁッ!?」
「ふふ、ごめんね?」
向こう側の見えない不透明な黒い液体の波。その内側には無数の星のような煌めきが浮かび、まるで液状の宇宙のようだ。
「な、何だ、この……黒い、海はッ!」
「黒岩丈ッ、戦士長はどこに行ったッ!?」
黒い海に呑み込まれた男は気付けば消え去っていた。溺れ死んだ訳でも無い。
「これはね、私の固有魔術……自慢の魔術なんだよ」
黒い海は少女の意思によって動き、群れの方に向かって行く。
「逃げろッ、来るぞッ!」
「下がれッ、退くのだッ!」
「いや、逃げても間に合わぬぞッ!」
慌てて逃れようとする溶焔族たちだが、波が到達する方が速いだろう。
「時間を稼げッ! 一瞬でも長くだッ!」
「ならば我等が死ぬぞッ!」
前に走っていた者達の一部が踵を返し、その場に留まる。
「『溶焔岩体』」
赤い体が膨れ上がり、黒く大きな岩に変化する。赤く輝くマグマを垂れ流すその溶岩は、巨大な壁となって黒い海を受け止めた。
「凄い、変な生き物……でも、無駄だよ」
黒い海が壁に触れると、溶岩の壁は溶かされるようにして呑みこまれ、あっという間に黒い海は先へと進む。
「止めよッ、神主様の邪魔をさせるなッ! 少しでも役立つぞッ!」
「『掛けまくも畏き火の神よ』」
迫る黒い海に対抗するようにマグマの波が溢れ、ぶつかり合う。しかし、黒い海はあっという間にマグマを呑み込んでしまう。
「死を恐れるな、我等は不死の煙より蘇るのだッ!」
「『不二の頂を拝み奉りて』」
その場に跪いて祈りを捧げる男を全員が囲み、そして全員が分厚い溶岩に変化する。
「『高き尊き浅間大神より、厚き御恵みを辱み奉り』」
「んー、ちょっと抵抗されたかな」
黒い海は溶岩を呑み込むのに数秒を要した。そして、その内側で祈りを捧げる男の姿が露わになる。
「『恐み恐みも白す』」
黒い海が男を呑み込み、残滓のように最後の言葉が響いた。
「……なんだか、良くない感じがする」
少女は男の消滅を確認しつつも、嫌な予感に眉を顰めた。
「あぁ……やっぱり」
少女は見上げた。そこに居たのは、巨大な溶岩の巨人だった。岩の隙間から炎を噴き出す巨人は、まるで全身が燃えているようだ。
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