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奔流

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 ステラの背中から伸びる支腕、そこから展開される無数の刃。それらがドリルと競り合う薙刀の横を通り過ぎ、弥胡に迫る。

「随分、余裕が無いように見えますが」

「くッ!」

 ドリルを薙刀で防いでも、ステラの背中から伸びる無数の刃までは防げない。細い支腕が操る武器である以上、威力はそこまで大きくないが、かといって無視できるものでもない。

「『金霊疾駆』」

「『銀粒砲アルゲントゥム』」

 迫る無数の刃を避ける為、霊体化して後ろに逃れた弥胡。しかし、霊体化は一瞬だけしか使えない。直ぐに実体に戻った弥胡に銀色の奔流が迫り、弥胡はまたそれに黄金の波動を合わせ、それが終わると同時にステラが距離を詰める。

「最早、攻略は完了しています。貴方に他の手札が無い限り、詰みです」

「……そう、ですか」

 ドリルを防ぐ薙刀。続く無数の刃が妖力の防御を超えて弥胡に傷を付けていく。

「それ、なら……」

 弥胡の体から、膨大な妖力が溢れる。全身から放たれる黄金の波動にステラは後ろに跳び退いた。

「これで、どうですか」

 弥胡の茶色い瞳が黄金色に染まり、その体が浮き上がる。

「これで……どうだッ!!」

 空中から手の平をステラに向ける弥胡。そこから黄金の奔流がステラに放たれる。

「『銀粒砲アルゲントゥム出力最大マキシマム』」

 突き出した片手の手首を握り、ステラも銀色の奔流を放った。

「火力勝負で負ける気は、ありません……ッ!」

「玉藻様の力を授かって生まれた私が、負ける訳にはいきませんッ!!」

 ぶつかり合う金と銀。銀が押し、金が押し、輝きを散りばめながら競り合うそれらは美しく、凄まじい迫力があった。

「……この押し合いに勝った方が、この試合の勝者だな」

 呟く霧生に、俺は頷いた。この状況、押し合いに負けた方はそのまま死ぬと考えて良いだろう。

「私は常に、計算し続けています」

 ステラが、ポツリと言った。

「魔力炉が搭載されている私は、この押し合いをまだ続けることが可能です」

 銀が押し、金が押し、天秤が揺れるように、その押し合いは続く。

「ですが、妖力の使い方が不安定な貴方はどうでしょうか」

「ッ!」

 黄金の奔流、その勢いが弱まった。妖力が、枯れようとしている。

「くッ、不味い……ッ!?」

 弥胡から無尽蔵のように溢れていた妖力が弱まり、勢いの変わらない銀の奔流が黄金を押し潰し……弥胡を呑み込んだ。

「リソースの管理は戦闘における重要なタスクの一つです。次までに修正しておくことをお勧めします」

 今度こそ、舞台の上に立つのはステラだけとなった。

「むぅ、まさか弥胡が負けるとはな」

 眉を顰めて言う玉藻。

「しかし、成長する機会となったならば……良いかの」

 玉藻の背後から白沢が舞台に飛び、塵も残さず消し飛ばされた弥胡を蘇生する。

「どうかな、玉藻? そろそろ、危機感を感じて来た頃じゃないかい?」

「ふん、全くじゃの。何体残ろうが、圧倒的な個には敵わぬ。しかも、戦闘形式は一対一……仮に全員残っていたとしても、吾が焦ることは無い」

 圧倒的な自信を見せる玉藻。しかし、二尾であれだけの実力を見せた弥胡を思えば、それも頷けるかも知れない。実際、尻尾の数がどの程度強さに影響しているのかは分からないが。

「玉藻、尻尾がそれ以上増えることは無いのか?」

「……品性に欠けた質問じゃの」

 ふと沸いた疑問を口にすると、玉藻は冷たい目で俺を見た。確かに、俺に品性やデリカシーのようなものは無い。育ちが悪いもんでな。

「じゃが、そうじゃの……これ以上、吾の尾が増えることは無いじゃろうな。吾は九尾の狐、大妖怪たる玉藻前じゃ。既にそういう存在として、吾は固定されていると言っても良い。吾が畏怖を集めておるのは九尾の狐という名の下じゃ。つまり、十や十一となると逆に弱体化する可能性まであるじゃろう」

 なるほど、面白いな。何となく察しては居たが、妖怪の在り方は神仏のそれに近いな。妖力も妙な力だとは思ったが、概念や使い道が固定された劣化版神力だと考えるのが良いかもしれない。

「妖狐は尾の数を増やして強くなっていくのが常じゃが、尾の数が強さとは限らん。天狐などは四尾から増えんし、空狐に至っては尾が無いからの」

「……軽い指標程度に考えておくのが良さそうだな」

 こくりと頷く玉藻。その足元に走り込んで来た弥胡が跪いた。

「申し訳ありませんッ!! 申し訳ありません、玉藻様……ッ!」

「何故謝る、弥胡」

 玉藻から言葉を受けてもなお、弥胡は頭を上げることは無い。

「このような無様をお見せしたこと……そして、玉藻様にご迷惑をッ」

 玉藻は弥胡の顎を持ち上げ、頭を上げさせた。

「其方の無様など吾は見ておらぬ。ただ、面白い戦いじゃった。それに……吾に迷惑をかけたじゃと?」

「ッ、はい……私が勝っていれば、玉藻様の負担も減っていましたから」

 弥胡の言葉を、玉藻は鼻で笑った。

「この吾が一人や二人敵が増えた程度で苦しむとでも思ったかの? 変わらぬ。全員生きていようが、同じことじゃ。その程度で吾に迷惑をかけたなど、烏滸がましい話じゃ」

「ッ! すみません、玉藻様……ありがとうございます……ッ!」

 玉藻は微笑み、弥胡の頭をサラリと撫でた。

「良い。良く頑張ったの、弥胡」

「ッ、ありがとうございます……!」

 涙を流す弥胡。その様子を見ていた俺の肩がとんとんと叩かれた。
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