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法則
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重力を失い浮遊した世界。まるで地球の物理法則が改変されたかのような光景に全員が混乱する。
「ッ、これは……魔力が」
余りにも遅い魔力の伝達。混乱するステラの背後に転移し、コアを切り裂いた。
「主様、この術は一体……」
思うように動かない体にこちらを仰ぎ見るメイア。俺はゆっくりとメイアに近付いていく。
「ここはもう地球じゃない。世界の外側、別次元の法則だけを取り寄せた空間だ」
俺でさえ上手く使うことの出来ない魔術だが、神力の使えない相手には滅法効く。とは言え、今は俺も神力を使っていないのでこの法則の適用下だ。
「別次元の、法則……?」
メイアは眉を顰めつつも、近付いて来る俺から逃れようと翼をはためかせた。
「先ずは、見極め――――」
後ろに高速で飛ぼうとしたメイアは、凄まじい発光と膨大な熱と炎を伴って消滅した。この世界で速度を出すことはご法度だ。
「大体分かったぜ、ボス」
カラスはゆっくりと無重力の空を飛び、こちらを見下ろした。だが、あのカラスは影で作られた偽物だ。本体は別の場所に隠れ潜んでいるんだろう。
「答えは、何もしないだろ?」
「あぁ、そうだな」
この魔術、当然だが魔力の消費が激しい。法則が適用されている間、常に魔力を消費し続ける。つまり、この状態を維持して不利になるのは俺という訳だ。
「さっきまでは、そうだった」
三人居れば、それでも良かった。だけど、もう詰みだ。答えは何処にもない。
「ラストワン賞はくれてやる」
俺は魔術を解除した。もう、敵は残り一体だ。
「ッ!」
世界が元に戻る。浮いていた世界は下に落ちていく。俺は世界と共に下に落ち、そして指先を少し下に向けた。
「『滅光砲』」
視界を覆うような光が放たれ、影に潜んだカラスを落ちる世界の一部ごと焼き尽くした。
♢
模擬戦は俺の勝利に終わり、俺達は現実の異界で集合していた。
「かなり、悪くなかった」
正直言って、実戦とは程遠い動きを俺はしていたし、相手も蘇生前提の立ち回りではあったかも知れないが、それでも戦闘術式を展開した俺を相手にあそこまで耐え、殺せる可能性を作ったことは評価すべきだろう。
「本当ですか? 主様!」
「あぁ、良かったぞ。俺に近接戦でプレッシャーを与えられたのはメイアだけだった」
「ッ、ありがとうございます……!」
珍しく声を跳ねさせるメイア。実際、死なずに接近し、その上でダメージを与えられるのはメイアだけだろう。
「一級に届くかは分からないが、対抗は出来るようになっただろうな」
「でしたら、一級を超えられるように精進してみせます」
一級越えか。可能ではあるだろうな。今ある能力を磨くだけでも、十分に。
「それと、何か助言など……頂けませんか?」
「そうだな……少し、恐れがあったな。俺の正面に立つのを避ける動きが多かった。だが、メイアなら正面から戦っても霧や再生によって生き残れる筈だ。誰が相手でも、恐れを捨てて戦った方が良い」
メイアは神妙な顔で頷いた。
「いやぁ、傷を付けるくらいはしたかったんだがな。流石にボスには届かなかったぜ」
「あぁ、惜しいところまでは行ってたな」
カラスも、かなり頑張っていた。
「カラスも俺の行動範囲を制限し続ける動きはかなり良かった。だが、もう少し本体を利用した方が良いな。影に隠れたり影になって攻撃を避けることが出来るんだ。囮的な動きをもう少し取り入れれば、他の仲間がもう少し動きやすくなっていたかも知れない」
「カァ、なるほどな。どうやってボスの防御を突破するかしか考えてなかったぜ」
それも大事ではあるが、その隙を作る為にも必要なことだったな。
「では、私についても聞きたいですね」
残りはステラか。
「唯一、俺の命を奪いかけたのはステラだった。闘気の変換が間に合っていなければ危なかっただろうな」
「戦闘術式の障壁については元から情報があったので、その対策についてもこの戦闘が始まる前から考えていました。銀粒砲の術式にその対策を組み込めたのは幸いです」
あぁ、銀粒砲はかなり自分で調整がしやすい方の魔術だからな。まぁ、魔術というか半魔術って感じだが。
「それで、助言だが……まぁ、良くも悪くも情報戦に偏ってるところがあるな。その戦い方は、案外力押しの敵に破られることが多い。だからこうしろって言うのも難しいんだが……そうだな、戦闘経験を沢山積んでおくと良い」
「了解しました」
情報を主体に戦闘を挑むと、予想外の出来事に耐えられないことが多い。だから、地力を付けておけば何とかなるだろう。
「マスター」
ステラはピクリと表情を動かすと、俺を呼んだ。
「富士山が噴火します」
「は?」
思わず声が出た。
「前々から兆候はありましたが、突然早まりましたね……恐らく、異界の影響でしょう」
「待て待て、今から噴火するのか?」
ステラは首を振る。
「もう直ぐ、と言ったところでしょうか。三日程度かと思われます」
「また、急だな……」
「一応、噴火が近付いているとはお伝えしましたが」
「……そうだったか」
世間話程度に聞いてたな。
「とは言っても、この現代なら被害も完璧に抑えられるんじゃないのか?」
「噴火の被害単体で見れば、そうですね。恐らく国も噴火の予兆を感知していると思うので、魔術による対策も構築しているかと」
じゃあ、大丈夫か。
「ですが、被害が噴火だけで収まるかは不明です。富士異界とそれを取り囲む結界に影響があれば……異界の崩壊が起きる可能性は低くないでしょう」
「富士異界の崩壊、か」
それは中々に不味いな。
「あそこは確か、二級異界だったよな」
「しかも、かなり規模の大きい異界です。区域によっては二級ですら立ち入れない場所があります」
つまり、魔物の量も質もただの二級異界より上って話か。
「……不味そうだな」
しかも、そろそろ九尾の狐も蘇るって話だったよな。
「タイミングが悪いな」
流石に、少しは俺も動かないと不味いかも知れないな。
「どうするんだ、ボス?」
カラスの問いに、俺は踵を返した。
「まぁ、取り敢えず……帰るか」
今日は全員疲れてるだろうからな。帰ってから考えるとしよう。
「ッ、これは……魔力が」
余りにも遅い魔力の伝達。混乱するステラの背後に転移し、コアを切り裂いた。
「主様、この術は一体……」
思うように動かない体にこちらを仰ぎ見るメイア。俺はゆっくりとメイアに近付いていく。
「ここはもう地球じゃない。世界の外側、別次元の法則だけを取り寄せた空間だ」
俺でさえ上手く使うことの出来ない魔術だが、神力の使えない相手には滅法効く。とは言え、今は俺も神力を使っていないのでこの法則の適用下だ。
「別次元の、法則……?」
メイアは眉を顰めつつも、近付いて来る俺から逃れようと翼をはためかせた。
「先ずは、見極め――――」
後ろに高速で飛ぼうとしたメイアは、凄まじい発光と膨大な熱と炎を伴って消滅した。この世界で速度を出すことはご法度だ。
「大体分かったぜ、ボス」
カラスはゆっくりと無重力の空を飛び、こちらを見下ろした。だが、あのカラスは影で作られた偽物だ。本体は別の場所に隠れ潜んでいるんだろう。
「答えは、何もしないだろ?」
「あぁ、そうだな」
この魔術、当然だが魔力の消費が激しい。法則が適用されている間、常に魔力を消費し続ける。つまり、この状態を維持して不利になるのは俺という訳だ。
「さっきまでは、そうだった」
三人居れば、それでも良かった。だけど、もう詰みだ。答えは何処にもない。
「ラストワン賞はくれてやる」
俺は魔術を解除した。もう、敵は残り一体だ。
「ッ!」
世界が元に戻る。浮いていた世界は下に落ちていく。俺は世界と共に下に落ち、そして指先を少し下に向けた。
「『滅光砲』」
視界を覆うような光が放たれ、影に潜んだカラスを落ちる世界の一部ごと焼き尽くした。
♢
模擬戦は俺の勝利に終わり、俺達は現実の異界で集合していた。
「かなり、悪くなかった」
正直言って、実戦とは程遠い動きを俺はしていたし、相手も蘇生前提の立ち回りではあったかも知れないが、それでも戦闘術式を展開した俺を相手にあそこまで耐え、殺せる可能性を作ったことは評価すべきだろう。
「本当ですか? 主様!」
「あぁ、良かったぞ。俺に近接戦でプレッシャーを与えられたのはメイアだけだった」
「ッ、ありがとうございます……!」
珍しく声を跳ねさせるメイア。実際、死なずに接近し、その上でダメージを与えられるのはメイアだけだろう。
「一級に届くかは分からないが、対抗は出来るようになっただろうな」
「でしたら、一級を超えられるように精進してみせます」
一級越えか。可能ではあるだろうな。今ある能力を磨くだけでも、十分に。
「それと、何か助言など……頂けませんか?」
「そうだな……少し、恐れがあったな。俺の正面に立つのを避ける動きが多かった。だが、メイアなら正面から戦っても霧や再生によって生き残れる筈だ。誰が相手でも、恐れを捨てて戦った方が良い」
メイアは神妙な顔で頷いた。
「いやぁ、傷を付けるくらいはしたかったんだがな。流石にボスには届かなかったぜ」
「あぁ、惜しいところまでは行ってたな」
カラスも、かなり頑張っていた。
「カラスも俺の行動範囲を制限し続ける動きはかなり良かった。だが、もう少し本体を利用した方が良いな。影に隠れたり影になって攻撃を避けることが出来るんだ。囮的な動きをもう少し取り入れれば、他の仲間がもう少し動きやすくなっていたかも知れない」
「カァ、なるほどな。どうやってボスの防御を突破するかしか考えてなかったぜ」
それも大事ではあるが、その隙を作る為にも必要なことだったな。
「では、私についても聞きたいですね」
残りはステラか。
「唯一、俺の命を奪いかけたのはステラだった。闘気の変換が間に合っていなければ危なかっただろうな」
「戦闘術式の障壁については元から情報があったので、その対策についてもこの戦闘が始まる前から考えていました。銀粒砲の術式にその対策を組み込めたのは幸いです」
あぁ、銀粒砲はかなり自分で調整がしやすい方の魔術だからな。まぁ、魔術というか半魔術って感じだが。
「それで、助言だが……まぁ、良くも悪くも情報戦に偏ってるところがあるな。その戦い方は、案外力押しの敵に破られることが多い。だからこうしろって言うのも難しいんだが……そうだな、戦闘経験を沢山積んでおくと良い」
「了解しました」
情報を主体に戦闘を挑むと、予想外の出来事に耐えられないことが多い。だから、地力を付けておけば何とかなるだろう。
「マスター」
ステラはピクリと表情を動かすと、俺を呼んだ。
「富士山が噴火します」
「は?」
思わず声が出た。
「前々から兆候はありましたが、突然早まりましたね……恐らく、異界の影響でしょう」
「待て待て、今から噴火するのか?」
ステラは首を振る。
「もう直ぐ、と言ったところでしょうか。三日程度かと思われます」
「また、急だな……」
「一応、噴火が近付いているとはお伝えしましたが」
「……そうだったか」
世間話程度に聞いてたな。
「とは言っても、この現代なら被害も完璧に抑えられるんじゃないのか?」
「噴火の被害単体で見れば、そうですね。恐らく国も噴火の予兆を感知していると思うので、魔術による対策も構築しているかと」
じゃあ、大丈夫か。
「ですが、被害が噴火だけで収まるかは不明です。富士異界とそれを取り囲む結界に影響があれば……異界の崩壊が起きる可能性は低くないでしょう」
「富士異界の崩壊、か」
それは中々に不味いな。
「あそこは確か、二級異界だったよな」
「しかも、かなり規模の大きい異界です。区域によっては二級ですら立ち入れない場所があります」
つまり、魔物の量も質もただの二級異界より上って話か。
「……不味そうだな」
しかも、そろそろ九尾の狐も蘇るって話だったよな。
「タイミングが悪いな」
流石に、少しは俺も動かないと不味いかも知れないな。
「どうするんだ、ボス?」
カラスの問いに、俺は踵を返した。
「まぁ、取り敢えず……帰るか」
今日は全員疲れてるだろうからな。帰ってから考えるとしよう。
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