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腕試し
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背の高い木々が並ぶ異界の森。どこか気味の悪さを感じるその場所には本来、無数の魔物が溢れている。しかし、カラス、メイア、ステラの散らばるその森には居る筈の魔物が居らず、ハンターも居なかった。
「カァ、先ずはアイツらを探すとこからだな」
ここは老日の創り出した模造の世界だ。先程まで居た異界の森を模倣して創られた異空間。その為、異界の生物は居らず、ハンターも存在していない。更に、ここでの死は偽物だ。命を失っても現世に影響は無い。
そんな世界で、彼らは敵同士となっている。目的は新しい力の試用と、お互いの能力の確認だ。しかし、全員がこの戦いに強い意志を持って挑んでいる。理由は当然、プライドだ。
「行け、お前ら」
カラスが羽を広げると、そこら中の影から真っ黒いカラスが次々に現れ、羽ばたいていく。
「実体化した影の鴉は疑似的なオレの使い魔……獣も居ないこの森でメイアは眷属を作れない。監視カメラも無い森の中でステラは情報を得られない」
そして、カラスは影の中にゆっくりと潜り込んでいく。
「情報戦なら、オレに利がある」
木の影に沈み、消えたカラス。影の鴉と情報を共有し、群れを操作している今の状態がカラスにとってベストだ。情報を得られるまで影から出ることは無いだろう。
異界の森、木々の間をすり抜けて飛ぶのは蝙蝠だ。メイアの血から生み出された蝙蝠たちは、各地に散らばって飛んでいく。その数はカラス程は多くない。精々、数十匹と言ったところだろう。
「……不思議ね」
そして、本体であるメイアは木の上に乗り、空を眺めていた。そこには太陽も月も無い。いや、寧ろ空すら無いと言って良いだろう。黒い半球状の空は、この模倣された世界の外殻だ。それなのに、この世界は太陽があるかのように光があり、影がある。不思議な世界だ。
メイアはその黒い空を、ただ眺めていた。
「あら」
そして、メイアは自身の背後から迫る黒い鳥に気付いた。
「カラスね」
メイアが向けた指先。そこから赤い線が伸び、鴉を貫いた。
「ん、バレちゃったわ」
メイアは立ち上がり、そして動きを止め……笑みを浮かべた
「見ぃつけた」
メイアの体が霧となり、森の中を駆けた。
模造の異界。ステラは最初から姿を隠すことも敵を探すことも諦めていた。
「……遂に、来ましたか」
代わりに、ステラは自分にとって有利な領域を構築していた。既に魔術を張り巡らされているその場所に最初に現れたのはメイアだった。
「あら、気付かれた?」
ステラの背後、霧が人の形を取り、黄金色の髪を揺らす吸血鬼が現れる。
「当然でしょう。霧になった程度で誤魔化せると思われていたのであれば、心外という他ありません」
「思うも何もね、私も貴方のその体についてはよく知らないの。しょうがないでしょう?」
吸血鬼とホムンクルス、黄金と白銀。相対する両者はジリジリと睨み合い……突如現れた大量の鴉によってその膠着を解かれた。
「ッ、カラス……ちょっかいだけ出す気ね」
「そうでしょうね。それが、最適解です」
鴉の群れを避けるように飛び退いたメイア。それを追いかけるように飛び掛かったステラは腕を刃に変えて斬りかかる。
「良いじゃない、その腕。良く似合ってるわ」
「えぇ、特注品です」
ステラの刃を避ける為に一歩引いたメイア。その足元に刻まれていた魔法陣が光を取り戻す。
「ッ、これは――――」
メイアの体を噴き上がった炎が呑み込む。しかし、ステラは油断なく炎柱を睨み……飛び出して来た蝙蝠を撃ち抜いた。
「獲った……?」
眉を顰めて言うステラ。瞬間、炎柱の奥からメイアが猛烈な勢いで現れ、その手に握った紅い刃を振り下ろした。
「ッ! やはり、この程度ではダメですか」
「当たり前じゃない。私、生存力だけは自信があるのよ」
メイアの紅い血の刃を、腕の刃で受け止めるステラ。その足元がどろりと溶けて粘度の高い血の沼に変化する。
「血の沼……無意味です」
「へぇ」
ステラの体から淡い青色の光が滲み出し、ステラの体が血の沼を抜け出して空中に浮き上がった。
「――――カァ」
瞬間、風が吹き荒れた。同時に鴉の群れが森の中を駆け抜ける。
「ッ!」
「この風は……ッ!」
メイアは即座に霧となって逃がれ、ステラは風と鴉の範囲外である空中に飛んだ。
「ふぅ……まさか、姿を出すとはね。カラス」
「私も驚きました。あまり合理的な行動とは思えませんので」
驚きを露わにする二人にカラスは笑った。
「いやぁ、確かにずっと隠れてても良かったんだが……ここはそういう場じゃねぇと思ってな」
風は止み、鴉の群れはカラスの周りを守るように飛んでいる。
「これは、言っちまえば腕試しだ。その趣旨から離れたことをするのは……ボスの意に反するだろ?」
勝利よりも目的を優先したカラスはその翼をゆっくりと広げる。
「だからよ」
カラスの翼から、ジワリと闇が滲み出す。
「――――出し惜しみはナシだ」
滲み出した闇は翼を延長するように広がっていく。
「『暗き天翼』」
暗い、昏い、闇を押し固めて作ったような大きな翼が、漆黒の空の下で広げられた。
「カァ、先ずはアイツらを探すとこからだな」
ここは老日の創り出した模造の世界だ。先程まで居た異界の森を模倣して創られた異空間。その為、異界の生物は居らず、ハンターも存在していない。更に、ここでの死は偽物だ。命を失っても現世に影響は無い。
そんな世界で、彼らは敵同士となっている。目的は新しい力の試用と、お互いの能力の確認だ。しかし、全員がこの戦いに強い意志を持って挑んでいる。理由は当然、プライドだ。
「行け、お前ら」
カラスが羽を広げると、そこら中の影から真っ黒いカラスが次々に現れ、羽ばたいていく。
「実体化した影の鴉は疑似的なオレの使い魔……獣も居ないこの森でメイアは眷属を作れない。監視カメラも無い森の中でステラは情報を得られない」
そして、カラスは影の中にゆっくりと潜り込んでいく。
「情報戦なら、オレに利がある」
木の影に沈み、消えたカラス。影の鴉と情報を共有し、群れを操作している今の状態がカラスにとってベストだ。情報を得られるまで影から出ることは無いだろう。
異界の森、木々の間をすり抜けて飛ぶのは蝙蝠だ。メイアの血から生み出された蝙蝠たちは、各地に散らばって飛んでいく。その数はカラス程は多くない。精々、数十匹と言ったところだろう。
「……不思議ね」
そして、本体であるメイアは木の上に乗り、空を眺めていた。そこには太陽も月も無い。いや、寧ろ空すら無いと言って良いだろう。黒い半球状の空は、この模倣された世界の外殻だ。それなのに、この世界は太陽があるかのように光があり、影がある。不思議な世界だ。
メイアはその黒い空を、ただ眺めていた。
「あら」
そして、メイアは自身の背後から迫る黒い鳥に気付いた。
「カラスね」
メイアが向けた指先。そこから赤い線が伸び、鴉を貫いた。
「ん、バレちゃったわ」
メイアは立ち上がり、そして動きを止め……笑みを浮かべた
「見ぃつけた」
メイアの体が霧となり、森の中を駆けた。
模造の異界。ステラは最初から姿を隠すことも敵を探すことも諦めていた。
「……遂に、来ましたか」
代わりに、ステラは自分にとって有利な領域を構築していた。既に魔術を張り巡らされているその場所に最初に現れたのはメイアだった。
「あら、気付かれた?」
ステラの背後、霧が人の形を取り、黄金色の髪を揺らす吸血鬼が現れる。
「当然でしょう。霧になった程度で誤魔化せると思われていたのであれば、心外という他ありません」
「思うも何もね、私も貴方のその体についてはよく知らないの。しょうがないでしょう?」
吸血鬼とホムンクルス、黄金と白銀。相対する両者はジリジリと睨み合い……突如現れた大量の鴉によってその膠着を解かれた。
「ッ、カラス……ちょっかいだけ出す気ね」
「そうでしょうね。それが、最適解です」
鴉の群れを避けるように飛び退いたメイア。それを追いかけるように飛び掛かったステラは腕を刃に変えて斬りかかる。
「良いじゃない、その腕。良く似合ってるわ」
「えぇ、特注品です」
ステラの刃を避ける為に一歩引いたメイア。その足元に刻まれていた魔法陣が光を取り戻す。
「ッ、これは――――」
メイアの体を噴き上がった炎が呑み込む。しかし、ステラは油断なく炎柱を睨み……飛び出して来た蝙蝠を撃ち抜いた。
「獲った……?」
眉を顰めて言うステラ。瞬間、炎柱の奥からメイアが猛烈な勢いで現れ、その手に握った紅い刃を振り下ろした。
「ッ! やはり、この程度ではダメですか」
「当たり前じゃない。私、生存力だけは自信があるのよ」
メイアの紅い血の刃を、腕の刃で受け止めるステラ。その足元がどろりと溶けて粘度の高い血の沼に変化する。
「血の沼……無意味です」
「へぇ」
ステラの体から淡い青色の光が滲み出し、ステラの体が血の沼を抜け出して空中に浮き上がった。
「――――カァ」
瞬間、風が吹き荒れた。同時に鴉の群れが森の中を駆け抜ける。
「ッ!」
「この風は……ッ!」
メイアは即座に霧となって逃がれ、ステラは風と鴉の範囲外である空中に飛んだ。
「ふぅ……まさか、姿を出すとはね。カラス」
「私も驚きました。あまり合理的な行動とは思えませんので」
驚きを露わにする二人にカラスは笑った。
「いやぁ、確かにずっと隠れてても良かったんだが……ここはそういう場じゃねぇと思ってな」
風は止み、鴉の群れはカラスの周りを守るように飛んでいる。
「これは、言っちまえば腕試しだ。その趣旨から離れたことをするのは……ボスの意に反するだろ?」
勝利よりも目的を優先したカラスはその翼をゆっくりと広げる。
「だからよ」
カラスの翼から、ジワリと闇が滲み出す。
「――――出し惜しみはナシだ」
滲み出した闇は翼を延長するように広がっていく。
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