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なるように
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九尾の狐が妖怪の群れを引き連れて日本を襲う、か。
「……現代の百鬼夜行だな」
「あはは、そうなるかもね」
だけど、と瓢は続ける。
「そうならない為に、僕は義鷹のことを誘いに来たんだ。老日君、出来れば君も一緒に戦って欲しいんだけど……」
「まぁ、考えておく」
足を突っ込むには、まだ早い。結局、俺はこいつの話しか聞いていないからな。協力するにしても、ステラに調べて貰ってからだ。
「義鷹はどうかな?」
「……良いだろう」
霧生の返答に、瓢はにこりと笑った。
「じゃあ、老日君にはまた会いに行くとして……他の子たちにも声をかけてこようかな」
「待て、瓢。戦の時はいつだ?」
その言葉を聞くと、瓢は少し困ったような顔を浮かべた。
「今の玉藻の居場所を把握出来てないからね……見つけ次第、連絡するよ」
目星はある程度付いてるけどね、と付け加え、瓢はぬらりと地面に沈んで消えていった。
「……変な奴だったな」
「あぁ、そうだろう。昔から変わっておらん」
呆れたような顔をする霧生を、御日が見上げていた。
「おじいちゃん。私は、どうするの?」
「……お前も戦いたいか?」
コクリと頷く御日。
「そうか。ならば、お前も付いて来ると良い」
迷いなく決めた霧生に、俺は視線を送る。
「良いのか、そんなにあっさり決めて」
「孫と言えど、剣士の戦場を奪う真似は出来ん。それに、もう過保護にすべき歳でも力量でもあるまい」
まぁ、そうだな。玉藻と直接戦うなら分からないが、配下の妖怪と戦うくらいなら訳ないだろう。
「じゃあ、俺もそろそろ帰るぞ」
「うむ。また会うとしよう」
「またね、刀の人」
ひらひらと手を振る御日に手を振り返し、家を出た。
♢
家に帰り、ステラに色々と報告を済ませた俺はふと思い立ち、スマホを取り出した。
「……と、これで良いか」
メールを送信し、ポケットに収納した瞬間。ぶるぶるとスマホが鳴り出した。
『ねぇ、何で知ってるの?』
「知り合いから聞いた」
溜息を吐くのは、陰陽師の蘆屋干炉だ。
『その知り合いが誰なのか凄く気になるけど……どうするの?』
「まだ分からん。が、取りあえずそっちの動きがどうなるのか聞いておこうと思ってな」
『こっちは今、大慌てで九尾の居場所を探してるところだけど……まぁ、見つかったら討伐隊が組まれるんじゃないかな?』
「あぁ、そっちも場所は分かってないのか」
『うん。だけど、そう時間はかからないと思うよ。向こうも巧妙に隠れたり逃げたりしてるみたいだけど、九尾の狐の毛はあるし、妖力も記録されてるし、特定の為に必要な要素は十分揃ってる』
あぁ、そりゃ残ってるか。昔に九尾を封印したのは陰陽師らしいからな。
「勝てるのか?」
『多分ね。向こうはずっと寝てたみたいだけど、こっちは技術だって進化してるし、今は魔術だってあるし、戦える人の数も増えてるから』
「……確かに、そう聞くと余裕そうだな」
『勿論、昔みたいに伝説級の陰陽師が居る訳じゃないから、個の質は正直下がってるかも知れないけど……流石に総合力では勝ってるんじゃないかな』
何というか、俺が色々と奔走する必要も無さそうだな。
「一応言っておくが、玉藻前は妖怪の仲間を集めてるらしい。気を付けろよ」
『ふーん……分かった、伝えとく』
この反応、知らなかったかも知れないな。一応、伝えておいて良かった。
『それで、君は戦うの?』
「いや、何もせずともどうにかなりそうだからな。今回は静観する予定だ」
『えー、一緒に戦ってくれればいいじゃん』
「俺は、俺の戦闘を他人に見られたくないんだ」
『そっかぁ……ま、良いけど』
「じゃあ、切るぞ。気を付けろよ」
『うん。じゃあまたね』
「あぁ、またな」
ぷつりと通話を切り、息を吐いた。
「マスター、どう致しますか?」
「取り敢えず、積極的に関与はしない。が、一応情報だけは集めておいてくれ。もしもの為にな」
「では、実際に戦闘する予定は無いということでしょうか?」
「玉藻前に関してはそうだな。一応、御日に付いて行って危険が無いか見守るくらいはしても良いと思ってるが」
ステラの操る小鳥はこくりと可愛らしく頷き、羽ばたいていった。
「まぁ、一級ハンターの誰かしらが関与すれば……問題なく終わるだろ」
一級と言えば、竜殺し……アイツはどうしてるんだろうな。連絡先も知らないから、知りようも無いが。
「ただいま帰りました、主様」
「あぁ」
扉を開けてリビングに入ってきたのはメイアだ。何か色々と買ってきたらしく、両手に袋を持っている。
「よぉ、ボス」
続いて入ってきたのは、黒い髪に黄金色の眼を携えたイケメンだ。鳥のように鋭い目をしたその男は、名前をカラスと言う。
「人化には慣れたか?」
「ハッ、違和感しかねぇ」
そう言うと、カラスは両手に持っていた袋を地面に下ろし、その体を人間からカラスに戻した。
「とは言え、便利ではあるな。俺でも普通に買い物が出来るってんだから笑えて来るぜ」
「……あぁ、バレるなよ」
玉藻前は、きっとこれじゃ我慢出来ないんだろうな。正体を隠し、人のフリをして街を歩く。そこにある後ろめたさのようなものに耐えられないのかも知れない。
「ちょっと、カラス! こんな地面にほっぽり出さないでくれないかしら?」
「んー? あぁ、悪い悪い」
まぁ、何でも良いか。なるように、なる筈だ。
「……現代の百鬼夜行だな」
「あはは、そうなるかもね」
だけど、と瓢は続ける。
「そうならない為に、僕は義鷹のことを誘いに来たんだ。老日君、出来れば君も一緒に戦って欲しいんだけど……」
「まぁ、考えておく」
足を突っ込むには、まだ早い。結局、俺はこいつの話しか聞いていないからな。協力するにしても、ステラに調べて貰ってからだ。
「義鷹はどうかな?」
「……良いだろう」
霧生の返答に、瓢はにこりと笑った。
「じゃあ、老日君にはまた会いに行くとして……他の子たちにも声をかけてこようかな」
「待て、瓢。戦の時はいつだ?」
その言葉を聞くと、瓢は少し困ったような顔を浮かべた。
「今の玉藻の居場所を把握出来てないからね……見つけ次第、連絡するよ」
目星はある程度付いてるけどね、と付け加え、瓢はぬらりと地面に沈んで消えていった。
「……変な奴だったな」
「あぁ、そうだろう。昔から変わっておらん」
呆れたような顔をする霧生を、御日が見上げていた。
「おじいちゃん。私は、どうするの?」
「……お前も戦いたいか?」
コクリと頷く御日。
「そうか。ならば、お前も付いて来ると良い」
迷いなく決めた霧生に、俺は視線を送る。
「良いのか、そんなにあっさり決めて」
「孫と言えど、剣士の戦場を奪う真似は出来ん。それに、もう過保護にすべき歳でも力量でもあるまい」
まぁ、そうだな。玉藻と直接戦うなら分からないが、配下の妖怪と戦うくらいなら訳ないだろう。
「じゃあ、俺もそろそろ帰るぞ」
「うむ。また会うとしよう」
「またね、刀の人」
ひらひらと手を振る御日に手を振り返し、家を出た。
♢
家に帰り、ステラに色々と報告を済ませた俺はふと思い立ち、スマホを取り出した。
「……と、これで良いか」
メールを送信し、ポケットに収納した瞬間。ぶるぶるとスマホが鳴り出した。
『ねぇ、何で知ってるの?』
「知り合いから聞いた」
溜息を吐くのは、陰陽師の蘆屋干炉だ。
『その知り合いが誰なのか凄く気になるけど……どうするの?』
「まだ分からん。が、取りあえずそっちの動きがどうなるのか聞いておこうと思ってな」
『こっちは今、大慌てで九尾の居場所を探してるところだけど……まぁ、見つかったら討伐隊が組まれるんじゃないかな?』
「あぁ、そっちも場所は分かってないのか」
『うん。だけど、そう時間はかからないと思うよ。向こうも巧妙に隠れたり逃げたりしてるみたいだけど、九尾の狐の毛はあるし、妖力も記録されてるし、特定の為に必要な要素は十分揃ってる』
あぁ、そりゃ残ってるか。昔に九尾を封印したのは陰陽師らしいからな。
「勝てるのか?」
『多分ね。向こうはずっと寝てたみたいだけど、こっちは技術だって進化してるし、今は魔術だってあるし、戦える人の数も増えてるから』
「……確かに、そう聞くと余裕そうだな」
『勿論、昔みたいに伝説級の陰陽師が居る訳じゃないから、個の質は正直下がってるかも知れないけど……流石に総合力では勝ってるんじゃないかな』
何というか、俺が色々と奔走する必要も無さそうだな。
「一応言っておくが、玉藻前は妖怪の仲間を集めてるらしい。気を付けろよ」
『ふーん……分かった、伝えとく』
この反応、知らなかったかも知れないな。一応、伝えておいて良かった。
『それで、君は戦うの?』
「いや、何もせずともどうにかなりそうだからな。今回は静観する予定だ」
『えー、一緒に戦ってくれればいいじゃん』
「俺は、俺の戦闘を他人に見られたくないんだ」
『そっかぁ……ま、良いけど』
「じゃあ、切るぞ。気を付けろよ」
『うん。じゃあまたね』
「あぁ、またな」
ぷつりと通話を切り、息を吐いた。
「マスター、どう致しますか?」
「取り敢えず、積極的に関与はしない。が、一応情報だけは集めておいてくれ。もしもの為にな」
「では、実際に戦闘する予定は無いということでしょうか?」
「玉藻前に関してはそうだな。一応、御日に付いて行って危険が無いか見守るくらいはしても良いと思ってるが」
ステラの操る小鳥はこくりと可愛らしく頷き、羽ばたいていった。
「まぁ、一級ハンターの誰かしらが関与すれば……問題なく終わるだろ」
一級と言えば、竜殺し……アイツはどうしてるんだろうな。連絡先も知らないから、知りようも無いが。
「ただいま帰りました、主様」
「あぁ」
扉を開けてリビングに入ってきたのはメイアだ。何か色々と買ってきたらしく、両手に袋を持っている。
「よぉ、ボス」
続いて入ってきたのは、黒い髪に黄金色の眼を携えたイケメンだ。鳥のように鋭い目をしたその男は、名前をカラスと言う。
「人化には慣れたか?」
「ハッ、違和感しかねぇ」
そう言うと、カラスは両手に持っていた袋を地面に下ろし、その体を人間からカラスに戻した。
「とは言え、便利ではあるな。俺でも普通に買い物が出来るってんだから笑えて来るぜ」
「……あぁ、バレるなよ」
玉藻前は、きっとこれじゃ我慢出来ないんだろうな。正体を隠し、人のフリをして街を歩く。そこにある後ろめたさのようなものに耐えられないのかも知れない。
「ちょっと、カラス! こんな地面にほっぽり出さないでくれないかしら?」
「んー? あぁ、悪い悪い」
まぁ、何でも良いか。なるように、なる筈だ。
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