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英雄と勇者
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僅かに吹き飛んだ竜殺し。その瞬間に俺は戦闘術式を展開した。体内に刻まれた魔術や刻印が一斉に起動し、それに連動するように自動で無数の魔術が発動して戦闘態勢を整えていく。
「ッ、それが君の本気……でも、無いのか。恐ろしいな」
「……アンタも、大概だろう」
戦闘術式によって、竜殺しの情報が少しずつ流れ込んでくる。恐ろしい量の秘宝、外付けの力が無数に刻まれている。
「神に愛されてるってところか?」
「……出来るなら、死神に愛されたかったよ」
竜殺しは溜息を吐き、自身の胸を叩いた。
「『竜血禍促』」
竜殺しの脈打つ赤黒い鎧から、更に赤黒く禍々しいオーラが溢れた。魔力と生命力を削り、寿命を消費する……正に禁断の力だな。
「どうだ、英雄の姿には見えないだろう?」
「かもな」
どこか生物的で、グロテスク。色調も赤や黒が強く、正義や英雄と言った言葉とはおおよそかけ離れた外見だ。
「先ず、一当たりさせてもらう」
二本の剣を振り上げて迫る竜殺し。その速度は強化前の数倍はあるだろう。
「障壁か。それも、五段重ねの」
突き刺すものはバルバリウスで弾き、怒りの魔剣は何もせずとも停留障壁に阻まれる。
「あぁ、自慢の障壁だ。考えたのは俺じゃないが」
背理の城塞は俺の固有魔術のようなものだが、考えたのは俺じゃない。仲間だった魔術士が創ったものだ。他人専用の魔術を作るなんて普通は到底不可能だが、アイツは楽しそうに創っていたな。
「この世のどこかに、その障壁の魔術を作った天才が居るのか……世界は広いな」
そこまで呟いて、竜殺しの黄金色の目が俺を捉えた。
「誰が作ったのか知りたかったが……もう、中までは見せてくれないか」
「あぁ、この障壁はそういうのも通さない」
さっきみたいに思考を覗かれるようなことはもう無いってことだ。
「それに……君は、不思議だな」
俺は目を細めながら、突き刺すものだけに注意して攻撃を見切っていく。
「俺は少し先の未来が見えるんだが……君は、そこに映らない」
「悪いが、それは仕様だ」
勇者だからな。未来予知とかで簡単に位置を見られたり、行動を予見されるのは困るんだろう。
「ただ、一つ分かった」
竜殺しは動きを止め、二つの剣を下ろす。
「君を相手にするには……一段階じゃ、全然足りない」
竜殺しは強く自分の胸を叩き、その鼓動を響かせた。
「『竜血禍促』」
赤黒く禍々しいオーラが更に溢れる。
「『竜血禍促』」
更にそのオーラが溢れ、強まる。
「『竜血禍促』」
更にそのオーラが強まり、空間がビリビリと痺れる。
「『竜血禍促』」
更にオーラが強まり、この亜空の世界が不安定に揺れる。
「凄いな、魔王か何かか?」
「いいや……残念ながら、英雄だ」
竜殺しの姿が掻き消え、俺の眼前に現れる。振り下ろされる怒りの魔剣は、適応障壁まで到達した。
「そっちでそれなら……」
「こっちなら貫けるかも知れないな」
突き刺すもの。効果はあらゆる防御の貫通、今の状態の竜殺しならば、背理障壁すら突き破ってくるかも知れない。
「『屠竜之技、天盤破り』」
赤黒いオーラを放つ銀の刺突剣が、俺の胸を貫くように突き上げられる。
「危ないな」
バルバリウスで刺突剣を逸らし、そのまま竜殺しの腹部に膝をめり込ませる。
「ぐッ」
「終わりだ」
呻き声を上げる竜殺し。くの字に曲がり、差し出された首をバルバリウスで刈り取った。
「さぁ、どうなる」
バルバリウスの黒い刃は竜殺しの命を刈り取り……赤い宝石は竜殺しの魂を吸い込まなかった。
「予想通りではある、が……」
地面に転がった竜殺しの首が巻き戻るように浮き上がっていく。
「『――――終わりなき英雄譚』」
竜殺しの首が胴体の上に乗り、その目に光を灯した。
「また、掛け直しか」
竜殺しが自身の胸を叩こうとした瞬間、その腕を斬り落とす。
「『銀鎖の縛り』」
その腕が再生するよりも早く魔術を叩き込み、竜殺しの全身を銀の鎖で縛りつけた。魔術的な効果を阻害する鎖でありながら、巨人の力でも千切れない。
「……参ったな」
竜殺しは自身の体を拘束する鎖を見て、溜息を吐いた。
「もう動けないってことで良いか?」
「いや、そうじゃない。どうにも、君が俺を殺す気にはならなそうだと思ったんだ」
まぁ、そうだな。
「困ったな……」
竜殺しは銀の鎖を力尽くで千切り、体を少し伸ばした。
「どうすれば、君は俺を殺してくれる」
「寧ろ聞きたいが、どうすればアンタは諦めるんだ?」
俺達はお互いに剣を下ろし、一先ず戦闘態勢を解いた。
「そもそも、アンタは何でそう死にたがってるんだ」
「……何故、か」
竜殺しは息を吐き、視線を上げた。
「俺は、仲間達を見捨てて殺したんだ」
ぽつぽつと、竜殺しは語りだした。
「ッ、それが君の本気……でも、無いのか。恐ろしいな」
「……アンタも、大概だろう」
戦闘術式によって、竜殺しの情報が少しずつ流れ込んでくる。恐ろしい量の秘宝、外付けの力が無数に刻まれている。
「神に愛されてるってところか?」
「……出来るなら、死神に愛されたかったよ」
竜殺しは溜息を吐き、自身の胸を叩いた。
「『竜血禍促』」
竜殺しの脈打つ赤黒い鎧から、更に赤黒く禍々しいオーラが溢れた。魔力と生命力を削り、寿命を消費する……正に禁断の力だな。
「どうだ、英雄の姿には見えないだろう?」
「かもな」
どこか生物的で、グロテスク。色調も赤や黒が強く、正義や英雄と言った言葉とはおおよそかけ離れた外見だ。
「先ず、一当たりさせてもらう」
二本の剣を振り上げて迫る竜殺し。その速度は強化前の数倍はあるだろう。
「障壁か。それも、五段重ねの」
突き刺すものはバルバリウスで弾き、怒りの魔剣は何もせずとも停留障壁に阻まれる。
「あぁ、自慢の障壁だ。考えたのは俺じゃないが」
背理の城塞は俺の固有魔術のようなものだが、考えたのは俺じゃない。仲間だった魔術士が創ったものだ。他人専用の魔術を作るなんて普通は到底不可能だが、アイツは楽しそうに創っていたな。
「この世のどこかに、その障壁の魔術を作った天才が居るのか……世界は広いな」
そこまで呟いて、竜殺しの黄金色の目が俺を捉えた。
「誰が作ったのか知りたかったが……もう、中までは見せてくれないか」
「あぁ、この障壁はそういうのも通さない」
さっきみたいに思考を覗かれるようなことはもう無いってことだ。
「それに……君は、不思議だな」
俺は目を細めながら、突き刺すものだけに注意して攻撃を見切っていく。
「俺は少し先の未来が見えるんだが……君は、そこに映らない」
「悪いが、それは仕様だ」
勇者だからな。未来予知とかで簡単に位置を見られたり、行動を予見されるのは困るんだろう。
「ただ、一つ分かった」
竜殺しは動きを止め、二つの剣を下ろす。
「君を相手にするには……一段階じゃ、全然足りない」
竜殺しは強く自分の胸を叩き、その鼓動を響かせた。
「『竜血禍促』」
赤黒く禍々しいオーラが更に溢れる。
「『竜血禍促』」
更にそのオーラが溢れ、強まる。
「『竜血禍促』」
更にそのオーラが強まり、空間がビリビリと痺れる。
「『竜血禍促』」
更にオーラが強まり、この亜空の世界が不安定に揺れる。
「凄いな、魔王か何かか?」
「いいや……残念ながら、英雄だ」
竜殺しの姿が掻き消え、俺の眼前に現れる。振り下ろされる怒りの魔剣は、適応障壁まで到達した。
「そっちでそれなら……」
「こっちなら貫けるかも知れないな」
突き刺すもの。効果はあらゆる防御の貫通、今の状態の竜殺しならば、背理障壁すら突き破ってくるかも知れない。
「『屠竜之技、天盤破り』」
赤黒いオーラを放つ銀の刺突剣が、俺の胸を貫くように突き上げられる。
「危ないな」
バルバリウスで刺突剣を逸らし、そのまま竜殺しの腹部に膝をめり込ませる。
「ぐッ」
「終わりだ」
呻き声を上げる竜殺し。くの字に曲がり、差し出された首をバルバリウスで刈り取った。
「さぁ、どうなる」
バルバリウスの黒い刃は竜殺しの命を刈り取り……赤い宝石は竜殺しの魂を吸い込まなかった。
「予想通りではある、が……」
地面に転がった竜殺しの首が巻き戻るように浮き上がっていく。
「『――――終わりなき英雄譚』」
竜殺しの首が胴体の上に乗り、その目に光を灯した。
「また、掛け直しか」
竜殺しが自身の胸を叩こうとした瞬間、その腕を斬り落とす。
「『銀鎖の縛り』」
その腕が再生するよりも早く魔術を叩き込み、竜殺しの全身を銀の鎖で縛りつけた。魔術的な効果を阻害する鎖でありながら、巨人の力でも千切れない。
「……参ったな」
竜殺しは自身の体を拘束する鎖を見て、溜息を吐いた。
「もう動けないってことで良いか?」
「いや、そうじゃない。どうにも、君が俺を殺す気にはならなそうだと思ったんだ」
まぁ、そうだな。
「困ったな……」
竜殺しは銀の鎖を力尽くで千切り、体を少し伸ばした。
「どうすれば、君は俺を殺してくれる」
「寧ろ聞きたいが、どうすればアンタは諦めるんだ?」
俺達はお互いに剣を下ろし、一先ず戦闘態勢を解いた。
「そもそも、アンタは何でそう死にたがってるんだ」
「……何故、か」
竜殺しは息を吐き、視線を上げた。
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