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魔力の波動
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強烈な魔力の波動。誰もが口を閉じ、施設内が静寂に包まれる。
「なんだ、今の」
訪れた静寂の中、誰かが呟いた。
「ぞわっと来たよな、何か」
「今の、魔力だろ。しかも、尋常じゃない」
「な、なぁ、怖えし、今日もう帰らね?」
静寂が終わり、魔力の波について話し始める群衆。だが、俺には分かる。
「……またか」
今の魔力は、悪魔だ。
「間違いなくこの施設内だな」
しかも、この渋谷ハンターズハント……結界によって閉じられたな。
「今の魔力の波に気を取られて誰も気付いていない、か?」
とはいえ、もう暫くすれば気付き出すだろう。
「下、だな」
魔力の波動は下からだった。閉ざされた施設内に召喚された悪魔。このまま行けば当然死者が出るだろう。流石に放置は出来ないな。
「行くか」
しょうがない、靴は後だ。
エスカレーターを降りると、一階では阿鼻叫喚の光景が広がっていた。
「クソッ、どうなってんだよッ!!」
「誰かッ、結界解ける奴いないのッ!?」
「無理だ……この結界、複雑すぎてとてもじゃないけど解けない」
薄っすらと青い魔力に覆われた壁。当然出入り口もそうなっており、そこには沢山の人間が群がっている。俺はそれを尻目に更にエスカレーターを降りた。
「……何だ?」
地下一階。何やら皆がざわつき、半数以上が上へ逃れようとしている。何より、地下二階まであるこの施設だが、明らかに下から戦闘音が聞こえている。音と気配だけで分かる。これは乱戦だ。悪魔が一体居るとして、これは変だ。
「おいッ、戦える奴は全員下に来てくれッ! 頼むッ!!」
下からエスカレーターを駆け上ってきた男は大声で叫び、更に上へと向かって行った。
「急ぐか」
俺は地下二階に繋がるエスカレーターを飛び降りた。
「……人、か」
武器を持って戦う狩猟者たち。その相手は、同じ人間だった。
「クソッ、何だこいつらッ!」
「ダメージ喰らった奴は下がれッ、死ぬぞッ!」
「ぶっ倒れろッ、イカレ野郎共がッ!!」
黒いローブを纏った者たち。焦点の定まらないその目は赤く染まり、開いたままの口元からは涎が垂れている。まるで、彼らには理性が無いかのようだった。
「ギャハハハハハッッ!!!」
「コロセッ、コロセッ、コロセッ!」
「アァアアアアアアッッ!! 焦火槍ッ! モエロッ!」
数の差があるというのに、凄まじい身体能力で狩猟者たちを追い詰めるローブ達。知能はあっても、理性は無いな。こういうのは何度も見てきたので察しが付く。理性と引き換えに能力を上げているのだろう。問題は、彼らから僅かに悪魔の気配がすることだ。
「人の多い場所で発動するのは良くないが……この状況なら良いか」
完全なる不可視。俺の姿はこの世界から掻き消えた。そのまま、戦場全体を視界に捉える。
「落ちろ」
一瞬で、黒いローブを纏った者たちの体が崩れ落ちる。
「ッ!? 何だ……急に倒れたぞ? 死んだのか?」
「おい、誰がやったんだ? それとも、自滅か?」
「いや、今のは魔術だ。間違いない。けど、何の魔術か一切分かんねぇ」
「何にしろ、有難いことこの上ないな。取り敢えず、怪我人を治療しよう」
死んではいない。意識を失わせただけで命に別状はない筈だ。一応、洗脳や肉体を操作されているだけの可能性もあったので気を使っておいた。少し、妙な感じがしたからな。今回は分かりやすく敵全員が同じ格好をしていたので助かったな。
「……しかし、この分なら少し死んでいそうだな」
ここだけでも重症の人がかなり居る。狩猟者ばかりの空間なだけあって、回復薬を持っている奴は少なくないようで死んでさえいなければ命は助かるだろう。だが、ここ以外がどうなっているかは分からない。
「進むか」
俺はローブ共の倒れている場所を超え、更に奥へと歩みを進めた。
♦
渋谷HuntersHuant、その地下二階の最奥部。飲食店しかないその階層の中で、そこは中華料理店だった。
「……一人で来るべきじゃなかったですね」
しかし、今やその場所は中華料理店ではなく、ただの戦場に変わろうとしている。相対するは齢が二十くらいの若い女と、狂った形相のローブを纏った者たちだ。
「ギャハハッ、コロシテヤルヨォ!!」
「シネヤァッ!!」
「クモツニナレッ、クモツニィッ!」
悪魔の気配を辿り、敵に見つからないように進んで来た女だが、遂に悪魔が潜んでいると思しき料理店に踏み込んだ瞬間、隠形を破られた。こうなってしまえば、もう戦うしかない。
「銃砲刀剣類取扱者甲種」
女の体からジャラジャラと数多の武器が現れる。その中から二丁の黒いテーザー銃のようなものが両手に導かれ、握られた。それと同時に他の武器は彼女の体内に沈んで消える。
「申し訳ないですが、武力を持って鎮圧します」
飛び掛かるローブ達。その手に握られた武器はどれも握りの部分が凹んでしまっている程に強い握力が籠っている。
「二つ」
数メートル離れた場所から一瞬で距離を詰めたフード達。しかし、先頭の二人は二丁の銃から放たれた射出体が突き刺さり、倒れた。棘が生えた射出体からは強力な電撃が発生するようになっている。本来のテーザー銃と違うのはその電撃が強力であるのと、銅線によって本体と繋がっていないところだ。
「四つ」
更に、射撃。恐れを知らないローブ達は倒れた二人を見ても構わず突っ込んでくるが、無防備なその体に棘が突き刺さり、また二人倒れた。
「六つ」
後ろの方で魔術を放とうとしている二人に棘が突き刺さる。二人が倒れると同時に、女はテーザー銃を最も近い敵に投げつけた。弾切れだ。
「もう一回」
後ろに跳びながら両手を下に垂らすと、そこにまたテーザー銃が握られる。
「八つ、九つ……終わりです」
バタリ、バタリと倒れていくフード達。振るわれる攻撃を容易く回避しながら、女はあっという間に十数人は居た敵を片付けた。
「なんだ、今の」
訪れた静寂の中、誰かが呟いた。
「ぞわっと来たよな、何か」
「今の、魔力だろ。しかも、尋常じゃない」
「な、なぁ、怖えし、今日もう帰らね?」
静寂が終わり、魔力の波について話し始める群衆。だが、俺には分かる。
「……またか」
今の魔力は、悪魔だ。
「間違いなくこの施設内だな」
しかも、この渋谷ハンターズハント……結界によって閉じられたな。
「今の魔力の波に気を取られて誰も気付いていない、か?」
とはいえ、もう暫くすれば気付き出すだろう。
「下、だな」
魔力の波動は下からだった。閉ざされた施設内に召喚された悪魔。このまま行けば当然死者が出るだろう。流石に放置は出来ないな。
「行くか」
しょうがない、靴は後だ。
エスカレーターを降りると、一階では阿鼻叫喚の光景が広がっていた。
「クソッ、どうなってんだよッ!!」
「誰かッ、結界解ける奴いないのッ!?」
「無理だ……この結界、複雑すぎてとてもじゃないけど解けない」
薄っすらと青い魔力に覆われた壁。当然出入り口もそうなっており、そこには沢山の人間が群がっている。俺はそれを尻目に更にエスカレーターを降りた。
「……何だ?」
地下一階。何やら皆がざわつき、半数以上が上へ逃れようとしている。何より、地下二階まであるこの施設だが、明らかに下から戦闘音が聞こえている。音と気配だけで分かる。これは乱戦だ。悪魔が一体居るとして、これは変だ。
「おいッ、戦える奴は全員下に来てくれッ! 頼むッ!!」
下からエスカレーターを駆け上ってきた男は大声で叫び、更に上へと向かって行った。
「急ぐか」
俺は地下二階に繋がるエスカレーターを飛び降りた。
「……人、か」
武器を持って戦う狩猟者たち。その相手は、同じ人間だった。
「クソッ、何だこいつらッ!」
「ダメージ喰らった奴は下がれッ、死ぬぞッ!」
「ぶっ倒れろッ、イカレ野郎共がッ!!」
黒いローブを纏った者たち。焦点の定まらないその目は赤く染まり、開いたままの口元からは涎が垂れている。まるで、彼らには理性が無いかのようだった。
「ギャハハハハハッッ!!!」
「コロセッ、コロセッ、コロセッ!」
「アァアアアアアアッッ!! 焦火槍ッ! モエロッ!」
数の差があるというのに、凄まじい身体能力で狩猟者たちを追い詰めるローブ達。知能はあっても、理性は無いな。こういうのは何度も見てきたので察しが付く。理性と引き換えに能力を上げているのだろう。問題は、彼らから僅かに悪魔の気配がすることだ。
「人の多い場所で発動するのは良くないが……この状況なら良いか」
完全なる不可視。俺の姿はこの世界から掻き消えた。そのまま、戦場全体を視界に捉える。
「落ちろ」
一瞬で、黒いローブを纏った者たちの体が崩れ落ちる。
「ッ!? 何だ……急に倒れたぞ? 死んだのか?」
「おい、誰がやったんだ? それとも、自滅か?」
「いや、今のは魔術だ。間違いない。けど、何の魔術か一切分かんねぇ」
「何にしろ、有難いことこの上ないな。取り敢えず、怪我人を治療しよう」
死んではいない。意識を失わせただけで命に別状はない筈だ。一応、洗脳や肉体を操作されているだけの可能性もあったので気を使っておいた。少し、妙な感じがしたからな。今回は分かりやすく敵全員が同じ格好をしていたので助かったな。
「……しかし、この分なら少し死んでいそうだな」
ここだけでも重症の人がかなり居る。狩猟者ばかりの空間なだけあって、回復薬を持っている奴は少なくないようで死んでさえいなければ命は助かるだろう。だが、ここ以外がどうなっているかは分からない。
「進むか」
俺はローブ共の倒れている場所を超え、更に奥へと歩みを進めた。
♦
渋谷HuntersHuant、その地下二階の最奥部。飲食店しかないその階層の中で、そこは中華料理店だった。
「……一人で来るべきじゃなかったですね」
しかし、今やその場所は中華料理店ではなく、ただの戦場に変わろうとしている。相対するは齢が二十くらいの若い女と、狂った形相のローブを纏った者たちだ。
「ギャハハッ、コロシテヤルヨォ!!」
「シネヤァッ!!」
「クモツニナレッ、クモツニィッ!」
悪魔の気配を辿り、敵に見つからないように進んで来た女だが、遂に悪魔が潜んでいると思しき料理店に踏み込んだ瞬間、隠形を破られた。こうなってしまえば、もう戦うしかない。
「銃砲刀剣類取扱者甲種」
女の体からジャラジャラと数多の武器が現れる。その中から二丁の黒いテーザー銃のようなものが両手に導かれ、握られた。それと同時に他の武器は彼女の体内に沈んで消える。
「申し訳ないですが、武力を持って鎮圧します」
飛び掛かるローブ達。その手に握られた武器はどれも握りの部分が凹んでしまっている程に強い握力が籠っている。
「二つ」
数メートル離れた場所から一瞬で距離を詰めたフード達。しかし、先頭の二人は二丁の銃から放たれた射出体が突き刺さり、倒れた。棘が生えた射出体からは強力な電撃が発生するようになっている。本来のテーザー銃と違うのはその電撃が強力であるのと、銅線によって本体と繋がっていないところだ。
「四つ」
更に、射撃。恐れを知らないローブ達は倒れた二人を見ても構わず突っ込んでくるが、無防備なその体に棘が突き刺さり、また二人倒れた。
「六つ」
後ろの方で魔術を放とうとしている二人に棘が突き刺さる。二人が倒れると同時に、女はテーザー銃を最も近い敵に投げつけた。弾切れだ。
「もう一回」
後ろに跳びながら両手を下に垂らすと、そこにまたテーザー銃が握られる。
「八つ、九つ……終わりです」
バタリ、バタリと倒れていくフード達。振るわれる攻撃を容易く回避しながら、女はあっという間に十数人は居た敵を片付けた。
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