20 / 298
犀川 翠果
しおりを挟む
ラボの中はかなり片付いていた。殆どが白一色で、幾つもの器具が並んでいる。俺たち以外の人は居ないように見える。
「ふふ、良くぞいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね」
「その予定はないな」
出来れば早く終わらせたいというのが本音だ。
「……普通、こんな可愛い女子高生に誘われたらもっと嬉しそうにしませんか?」
「普通の基準なんて人それぞれだ」
にしてもこいつ、自画自賛に躊躇が無いな。
「私、結構人気あるんですよ? 顔も可愛くて、頭も良くて、優秀で……」
すたすたと近付いてくる犀川。体が近付き、その手が俺の背筋を通り、首筋に触れる。チリチリと髪の毛に触れる感触がある。
「……どうです?」
上目遣いで尋ねる犀川の両腕を俺は掴んだ。
「どうもこうも無いが、髪の毛は返してもらおうか」
「むぅ、バレましたか」
犀川が諦めたように髪の毛を手渡したので、床にこっそり落とされた一本も拾っておいた。
「それと、だ」
「なんですか?」
俺は犀川を睨みつけるようにして、言った。
「アンタ、俺のこと覚えてるな?」
「気付いちゃいましたか」
隠しもせずに犀川は言った。
「一つは、センサーに引っかからずに素通り出来たこと」
校門には魔術によるセンサーのようなものがあったはずだ。なのに、俺は素通り出来た。
「あぁ、確かに私が細工しましたよ。お店に髪の毛一本落ちてたので、それから魔力の波長を読み取って登録しました」
「それって犯罪じゃないのか?」
俺が聞くと、犀川はきょとんとした顔で首を傾げた。こいつめ。
「一つは、俺に対する執着」
赤の他人の髪の毛をあそこまでして採取しようとすることは普通じゃない。
「さっきも言いましたけど、髪の毛一本は拾えましたから……色々、調査は出来たんです」
「……一応、結果も聞いておく」
犀川はニヤリと笑い、一枚の紙を鍵のかかった引き出しから取り出した。
「これ、見てください」
なんと、その紙には無数の単語が並び、その横に数字が連ねられていた。説明させよう。
「あぁ、良く分からん。説明してくれ」
「……魔術には精通してるのに、そういう知識は無いんですね」
犀川は目を細めてこちらを見たが、俺が表情を変えずにいると目を逸らした。
「まぁ、良いですけど……凄く簡単に言うと、人間では有り得ないレベルの魔素を取り込んでいることが分かりました。恐らく、現在確認されている中でこれ以上の魔素を含んでいる人は居ません」
「そうだろうな」
あっさりと答えた俺に、犀川はまた目を細めた。
「ここまでの階位に至るにはどれだけの魔物を殺す必要があるのか……老日さん、貴方って何者なんですか?」
「さぁな」
何故か記憶を保持していた以上、喋る訳にはいかない。
「そういうアンタは、どうやって記憶を保っていたんだ? 魔術の発動は完璧だった筈だが」
「別に記憶を失ってない訳じゃないですよ。詳しくは秘密ですけど……老日さんについて教えてくれるなら話しますよ?」
じゃあ、別に良いな。
「それで、俺をここに招いてどうするつもりだ?」
「良く分からないから調べたいが一番ですね。体をスキャンとかさせて欲しいです。勿論、報酬も出します。ちょっと寝てるだけで大金が貰えるなんて中々ないですよ?」
それはそうだが、乗り気にはなれないな。
「悪いが、断る。アンタが俺のデータを何に使うか分からないからな。犯罪に使われるかも知れない。俺のデータを公表するかも知れない。そのリスクがある以上、受ける気にはなれない」
「じゃあ、それはしませんよ」
あっさりと犀川は言った。
「魔術契約しても良いですよ。私は私自身の興味を満たす為と、私の研究に活かすため以外のことに老日さんのデータを使う気は無いので」
「……アンタの研究が犯罪に使われない保証も無い」
「はぁ。そんなこと言ったら何も出来ませんよ。包丁だって人を刺して殺せますし、悪用される危険性に怯えてたらなんの研究も出来ません」
犀川は初めて苛立ちのような表情を見せた。こういう口出しをされるのが嫌いなんだろう。
「そもそも、アンタは何の研究をしてるんだ?」
「異界接触現象が起きないようにする研究をしています」
なるほど、大きく出たな。
「それは……難しいんじゃないのか?」
「難しいですよ。なので、今はちょっと停滞気味です。とはいえ、これは死ぬまでに結果を出せれば良いと思ってるので、別に良いんです」
まぁ、そうだろうな。次元の揺らぎそのものを止めるか、それによって起きる現象を無効化するか、どちらも容易じゃなさそうだ。
「という訳で、現状進めてる研究は異界生物……魔物の駆除や異界の浄化に関するところですね。こっちはそこそこ結果も上がっているのでこうしてラボを頂けているという訳です。本当は偉い人からもっと凄いラボに移らないかって話もあったんですけど、自分の研究をしたかったので断りました」
「なるほどな」
自分で言うだけあって、優秀らしいな。
「そんな感じですけど……どうです? 協力してくれる気になりました?」
「いや……正直、金に関してはもう困る予定が無い。大金を貰っても、それを使う予定も無い」
俺がそう言うと、犀川はニヤリと笑った。
「じゃあ、戸籍についてはどうですか?」
犀川の言葉に、俺は思わず目を細めた。
「ふふ、良くぞいらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね」
「その予定はないな」
出来れば早く終わらせたいというのが本音だ。
「……普通、こんな可愛い女子高生に誘われたらもっと嬉しそうにしませんか?」
「普通の基準なんて人それぞれだ」
にしてもこいつ、自画自賛に躊躇が無いな。
「私、結構人気あるんですよ? 顔も可愛くて、頭も良くて、優秀で……」
すたすたと近付いてくる犀川。体が近付き、その手が俺の背筋を通り、首筋に触れる。チリチリと髪の毛に触れる感触がある。
「……どうです?」
上目遣いで尋ねる犀川の両腕を俺は掴んだ。
「どうもこうも無いが、髪の毛は返してもらおうか」
「むぅ、バレましたか」
犀川が諦めたように髪の毛を手渡したので、床にこっそり落とされた一本も拾っておいた。
「それと、だ」
「なんですか?」
俺は犀川を睨みつけるようにして、言った。
「アンタ、俺のこと覚えてるな?」
「気付いちゃいましたか」
隠しもせずに犀川は言った。
「一つは、センサーに引っかからずに素通り出来たこと」
校門には魔術によるセンサーのようなものがあったはずだ。なのに、俺は素通り出来た。
「あぁ、確かに私が細工しましたよ。お店に髪の毛一本落ちてたので、それから魔力の波長を読み取って登録しました」
「それって犯罪じゃないのか?」
俺が聞くと、犀川はきょとんとした顔で首を傾げた。こいつめ。
「一つは、俺に対する執着」
赤の他人の髪の毛をあそこまでして採取しようとすることは普通じゃない。
「さっきも言いましたけど、髪の毛一本は拾えましたから……色々、調査は出来たんです」
「……一応、結果も聞いておく」
犀川はニヤリと笑い、一枚の紙を鍵のかかった引き出しから取り出した。
「これ、見てください」
なんと、その紙には無数の単語が並び、その横に数字が連ねられていた。説明させよう。
「あぁ、良く分からん。説明してくれ」
「……魔術には精通してるのに、そういう知識は無いんですね」
犀川は目を細めてこちらを見たが、俺が表情を変えずにいると目を逸らした。
「まぁ、良いですけど……凄く簡単に言うと、人間では有り得ないレベルの魔素を取り込んでいることが分かりました。恐らく、現在確認されている中でこれ以上の魔素を含んでいる人は居ません」
「そうだろうな」
あっさりと答えた俺に、犀川はまた目を細めた。
「ここまでの階位に至るにはどれだけの魔物を殺す必要があるのか……老日さん、貴方って何者なんですか?」
「さぁな」
何故か記憶を保持していた以上、喋る訳にはいかない。
「そういうアンタは、どうやって記憶を保っていたんだ? 魔術の発動は完璧だった筈だが」
「別に記憶を失ってない訳じゃないですよ。詳しくは秘密ですけど……老日さんについて教えてくれるなら話しますよ?」
じゃあ、別に良いな。
「それで、俺をここに招いてどうするつもりだ?」
「良く分からないから調べたいが一番ですね。体をスキャンとかさせて欲しいです。勿論、報酬も出します。ちょっと寝てるだけで大金が貰えるなんて中々ないですよ?」
それはそうだが、乗り気にはなれないな。
「悪いが、断る。アンタが俺のデータを何に使うか分からないからな。犯罪に使われるかも知れない。俺のデータを公表するかも知れない。そのリスクがある以上、受ける気にはなれない」
「じゃあ、それはしませんよ」
あっさりと犀川は言った。
「魔術契約しても良いですよ。私は私自身の興味を満たす為と、私の研究に活かすため以外のことに老日さんのデータを使う気は無いので」
「……アンタの研究が犯罪に使われない保証も無い」
「はぁ。そんなこと言ったら何も出来ませんよ。包丁だって人を刺して殺せますし、悪用される危険性に怯えてたらなんの研究も出来ません」
犀川は初めて苛立ちのような表情を見せた。こういう口出しをされるのが嫌いなんだろう。
「そもそも、アンタは何の研究をしてるんだ?」
「異界接触現象が起きないようにする研究をしています」
なるほど、大きく出たな。
「それは……難しいんじゃないのか?」
「難しいですよ。なので、今はちょっと停滞気味です。とはいえ、これは死ぬまでに結果を出せれば良いと思ってるので、別に良いんです」
まぁ、そうだろうな。次元の揺らぎそのものを止めるか、それによって起きる現象を無効化するか、どちらも容易じゃなさそうだ。
「という訳で、現状進めてる研究は異界生物……魔物の駆除や異界の浄化に関するところですね。こっちはそこそこ結果も上がっているのでこうしてラボを頂けているという訳です。本当は偉い人からもっと凄いラボに移らないかって話もあったんですけど、自分の研究をしたかったので断りました」
「なるほどな」
自分で言うだけあって、優秀らしいな。
「そんな感じですけど……どうです? 協力してくれる気になりました?」
「いや……正直、金に関してはもう困る予定が無い。大金を貰っても、それを使う予定も無い」
俺がそう言うと、犀川はニヤリと笑った。
「じゃあ、戸籍についてはどうですか?」
犀川の言葉に、俺は思わず目を細めた。
118
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで
あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話
三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。
探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。
そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。
ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。
世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。
それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。
彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。
※全然フィクション
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる