上 下
11 / 298

立ち塞がる少年

しおりを挟む
 聴力検査や視力検査、体力測定なんかをかなり手加減して終えた後、暫く建物内で待って合格通知を受け取った俺は建物を出た。免許は明日貰えるらしい。住所を伝えれば配達もしてくれるらしいが、家は無いので断った。

「……何の用だ?」

 振り返ると、さっきの少年が居た。異常なまでの魔素を保有し、純粋な闇の魔力を扱える妙な人物。それが、建物を出たところで待っていた。

「試験官との模擬戦闘、最後の貴方の動きは俺に迫るくらいの速さでした」

 そうか。

「気のせいだな。お前の方が速い」

 俺は言い切り、横を通り抜けようとしたが、阻まれる。

「ビビってるんですか?」

「あぁ、良く分かったな」

 俺はまた横を通り抜けようとするが、阻まれる。

「……逃げないで下さい。俺は、貴方の正体が気になってます」

 知らねえよ。いや、本当に知るか。

「だから、何だ? 俺は早く帰りたいんだが」

 帰る家は無いんだがな。

「貴方の正体を教えてくれれば……俺の正体も教えますよ」

 興味ねえよ。

「興味ねえよ」

「……良いでしょう。先ず、俺の力の正体を話しましょう。それで、俺のことを信用してくれたら貴方のことも教えてください」

 こいつ、無敵か?

「俺の名前は黒岬くろさき 通也つうや。二年前、俺が高校一年生の時……俺は異界化に巻き込まれ、発生したダンジョンに呑み込まれました」

「異界化、そういうのもあるのか」

 名前から察するに、異界接触現象により一部の空間が異界そのものと化してしまうのだろう。多分、そんな感じだ。

「当時の俺はそこがダンジョンであるということすら分からないままその暗い闇の底のような場所をずっと彷徨いました。時間の感覚も分からなくて、数日だったような、数カ月だったような、不安定な日々を過ごしました。異界化の影響か、餓死したりすることは無かったですけど、一筋の光もない空間。出口なんてどこにもなく、頭がおかしくなるかと思いました。でも、希望はありました。ただひたすらに歩き続けていたお陰で……ダンジョンコアを見つけたんです」

 なるほど、コアの発生場所に居たから一瞬でコアを発見できたのか。異界化に巻き込まれたのは不運だが、それはラッキーだな。

「そして、その場所に出口があるとは思えなかった俺は……迷わず、そのコアを破壊しました」

「マジか」

 思わず声が出た。しかし、それで納得がいった。

「それで、お前はくじを当てたって訳か」

「……えぇ。俺は死にませんでした。そして、コアの魔素全てを吸収し、そのダンジョンの性質であった闇の異能を得ました」

 ダンジョンコアは破壊すると、高確率で死ぬ。一般人が破壊なんてしたらもうほぼ確実に死ぬ。何故なら、コアに蓄えられた魔素は生物のそれとは違って尋常ではない量で、しかもコアは破壊されると破壊しようとした者の肉体を新たなコアに変化させようと肉体に干渉してくる。
 結果、殆どの場合は吸収しきれずに死ぬ。そして、コアはその死体を利用して新たにコアを形成するのだ。
 だが、死なない場合もある。膨大な魔素を受け入れられる器のあるものか、コアと波長が合い、コアの魔素に肉体が適応したもの。どちらも稀だが、実例は確かにある。

「だが、闇の異能を得たというのは分からない」

「何がです?」

 コアの魔素を取り込むというのは分かるが、ダンジョンの性質であった闇の異能が謎だ。コアに波長はあっても性質というのは無いはずだ。

「何が分からないのか分からないですけど、コアにはその場所の異界の性質が反映されることが多いです。例えば光の性質を持つ異界なら、そこにあるダンジョンも光の性質を持つとか」

 なるほど、異界接触現象によって生み出されたダンジョンだからそういう事象が発生してるのか。

「なので、俺は闇の異能を手にすることが出来ました」

「闇の異能か。異能者というのは魔法使い……つまり、空気中の魔力を自在に操れる者のことじゃないのか?」

「いや、えぇと、まぁそれも異能者ですけど。半分以上の異能者はそういう力を持ちますけど、残りは違いますよ」

 魔法使いでない異能者がいる?

「例えば、俺みたいに無尽蔵に闇の魔力を生み出し操れる異能や、自由に瞬間移動できる異能、体を刃に出来る異能とか、そういうのです」

「それは、魔力が介在しない異能も存在するってことか?」

「え? はい。術理の無い超自然的な力は全て異能ですから。超能力とか」

 なるほどな。確かに、魔法使いは術理もクソも無い意味不明な奴らだ。言ってしまえば、空気中の魔力を直接操れる異能ということになるのだろう。それで、一括りに異能者とされている訳だな。

「だが、魔力の介在しない異能か……」

 つまり、固有魔術とはまた違う訳だ。魔術にはその本人しか使えない固有魔術というものが存在する。魔術士というのは基本的に全ての魔術を自分用に最適化して使うものだが、固有魔術はどれだけ工夫しようともその本人にしか使えないもので、それを持っているかどうかで魔術士としての格が変わる。

「しかし、妙だな」

 俺が異世界に召喚されたのが原因だとすれば俺の世界と混ざっているものだと思っていたが、異能なんてものは俺の世界になかった。つまり、この世界は俺の居た世界ともまた違う世界とも混ざっていることになる。そもそも、俺の居た世界と混ざっているかすら分からなくなってきた。

「という訳で、それが俺の力の理由です。茨城で発生したあの異界はかなり大きな規模です。あのダンジョンもかなりの規模だったと思います。だから、俺の力は……少なくとも、この日本では最強でしょうね」

 考え込む俺を無視して、通也は話を締めた。

「そうか。良かったな」

 話は終わったらしいので去ろうとするが、肩を掴まれる。

「今度はそっちの番ですよ。まさか、俺にだけ話させて自分は……ってことは無いですよね?」

 滅茶苦茶圧をかけてくるが、知らん。

「そのまさかだ。俺は帰るぞ」

 何度も帰ると言わせないで欲しい。悲しい気持ちになるからな。

「……じゃあ、話さなくても良いですけど。代わりに良いですかね?」

「……何だ」

 まだ聞いていないが、絶対に俺は断るんだろうという予感がする。

「さっきの建物、自由に使える模擬戦闘用の部屋があるらしいんですよ。なんで……そこで、俺と戦って下さい」

「絶対に嫌だ」

 寧ろ、なんで断られないと思ったんだこいつ。

「……嫌、ですか」

 少年は僅かに俯き、手を真っ直ぐ横に突き出した。

「だったら」

 突き出された手の先から、闇がジワリと広がる。まるでこの世界に一滴だけ黒が落ちたように、空間に闇が広がっていく。

「ここで、俺と戦ってもらいます」

 ぬらり、広がる闇に呑まれていた手を引き戻すと、その手には漆黒の刀が握られていた。刀身から柄まで全てが真っ黒だった。

「……正気か?」

「当たり前だ。言っとくけど、逃がしはしない」

 どさくさに紛れてため口になりやがったこいつ。

「そうか。悪いが……」

 こいつに俺の力を見せることすら憚られるが、さっさと転移で逃げるのが良いな。街中での戦闘は流石に避けたい。

「じゃあな」

「ッ、待てッ!!」

 一瞬で俺の目の前まで迫る通也、振り下ろされる漆黒の刀、それは俺の体に触れる寸前で自動発動した魔術に弾かれた。

「なッ!?」

 刀が宙を舞うと同時に、俺は視界の端に映るビルの屋上に転移した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話

三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。 探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。 そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。 ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。   世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。 それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。 彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。 ※全然フィクション

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

処理中です...