61 / 94
Episode6.新たな恋と情熱だった
初の横浜デートである。
しおりを挟む
今日は土曜日。
オーディション本選の前日、ということもあるが……。
「梓! どう思う、このファッション! おかしくない?」
「おかしくないから、大丈夫だから」
「本当に? 嘘とかいいから、本音言って!?」
「だーかーらー、嘘じゃないってば!」
「なに怒ってんの? 意味わかんない、茜ちゃんと大違いだね、あんた。
……えへっ今日茜ちゃんと会えるんだっ」
梓が苛立っているのは仕方がないのでは、と側で見ていた私でさえ思った。
楓は何度も何度も梓に服は大丈夫か、髪は崩れていないか、メイクははみ出していないかと同じことを聞いていたのだ。
茜とは違うと言ってからまた彼のことを思い出したらしく、にやけが止まらなくなって来ていた。
今は好きの気持ちがピークに達して溢れ出している。
そんな少しにやけた顔のまま、楓はデートへと出かけていった。
場所は……横浜。
メイク道具を見に行くデートらしいが、それにはおしゃれな横浜はうってつけらしい。
ついでに2人とも中華料理が好きだということもあるかもしれない。
楓を見送った後、梓が私の耳元でこう囁いてきた。
「なあ、楓のデート、ついていかねぇ?」
「そ、そんなこと、許してもらえるとは、お、思えないのですが……」
「許し? そんなんいらないよ? こっそり後をつけるから」
「それって……尾行、ということでしょうか……?」
「簡単に言うと、な! ちょっと尾行って犯罪みてぇだから」
尾行でしょ、犯罪でしょ、と思いつつなにも言わなかった。
梓はもう止められない。
だって目がこんなにも輝いているのだから。
私は金髪のウィッグを被ってメイクをがっつりと施し、露出が多く、派手な服装を初めて着させられた。
梓はいつもの私のようにセットしないままのマッシュルームヘアに黒いパーカー、黒いTシャツ、黒いズボンという全身黒ずくめ。
彼は大きなメガネもかけていて、かなり梓の派手な雰囲気は消えていた。
という私も、地味さが消え失せて完璧なギャルになっていた。
でもやっぱり人がたくさんいるところは怖いので、大きなヒョウ柄のサングラスをかけた。
「じゃあ行こうか、楓の待ち合わせ場所へのルートとかは調査済み」
すごい用意周到さを見せた梓は、とても悪いことを企んでいるような顔をしてこの家を出て行った。
私も走ってその後を追った。
楓と茜の待ち合わせ場所は近くの駅にある偉そうなおじさまの銅像前。
精一杯おしゃれに可愛らしいスカートを履いた楓は、今までに見たことがないくらいの笑顔を見せて、茜に手を振っていった。
茜はかなりイメージ通りの白いベストとブラウンのパンツという男らしいというよりかは可愛らしい服装だった。
楓たちが照れ合いながらさりげなく手を繋ぎ、はにかんでから電車に乗り込んで行った。
私たちはそれにこっそりついていき、隣の車両に乗った。
初め2人はぎこちなく目を合わせないようにしながら話を頑張って探していたが、そのうち普通に会話を楽しめていた。
横浜に着き、また2人は歩き出した。
茜から手を繋いで歩いていたが、楓はその手を解いて腕を絡ませた。
茜はその密着度に固まっていたものの、とても嬉しそうで仲の良いカップルという印象を受けた。
時刻は10時。
まだ腹ごしらえには早い時間のため、道横に連なる店をゆっくりと見て行っていた。
ウインドーショッピングをしながらずっとずっと歩いて行く。
とある店の前で、2人はほぼ同時に足を止めた。
店の名は『Star t』で星型をモチーフとしたメイク道具や服がずらりと取り揃えられている。
きっと星の意味の『Star』と、始まりの意味の『Start』を合わせているのだろう。
その店に自然と吸い込まれるように入っていった2人。
私たちも同じタイミングで入るわけにもいかず困ったが、店内は思ったより広かったので少し間を空けて入店し、棚に隠れて2人を見ていた。
「これ見て! このチークとアイシャドウ、星型のラメが入ってるんだって!」
「このリップはオレンジと黄色のグラデーションだ!」
「欲しい、けど……買っちゃう?」
「んんん……僕は要らないかなぁ、もっとピンク系のアイテムが欲しいから。
楓さんが欲しいなら……」
茜は楓の手に握られたチークとアイシャドウ、そしてリップを手に取り、レジに向かった。
慌てて引き止める楓をよそに、さっさと会計を済ませる。
これまたおしゃれな紙袋に入った道具を差し出し、
「これ、僕から今日のデートのお礼ってことで。
プレゼントしますよ、使ってくれたら嬉しい……な」
「ありがとう……! 明日使うから楽しみに待ってて!」
「うんっ」
2人は顔を見合わせてにこっと笑った。
そんなハートが飛び交う店内にいた私たちは、どこか気まずかった。
でも2人が幸せそうなのは、見ててとても嬉しく感じた。
オーディション本選の前日、ということもあるが……。
「梓! どう思う、このファッション! おかしくない?」
「おかしくないから、大丈夫だから」
「本当に? 嘘とかいいから、本音言って!?」
「だーかーらー、嘘じゃないってば!」
「なに怒ってんの? 意味わかんない、茜ちゃんと大違いだね、あんた。
……えへっ今日茜ちゃんと会えるんだっ」
梓が苛立っているのは仕方がないのでは、と側で見ていた私でさえ思った。
楓は何度も何度も梓に服は大丈夫か、髪は崩れていないか、メイクははみ出していないかと同じことを聞いていたのだ。
茜とは違うと言ってからまた彼のことを思い出したらしく、にやけが止まらなくなって来ていた。
今は好きの気持ちがピークに達して溢れ出している。
そんな少しにやけた顔のまま、楓はデートへと出かけていった。
場所は……横浜。
メイク道具を見に行くデートらしいが、それにはおしゃれな横浜はうってつけらしい。
ついでに2人とも中華料理が好きだということもあるかもしれない。
楓を見送った後、梓が私の耳元でこう囁いてきた。
「なあ、楓のデート、ついていかねぇ?」
「そ、そんなこと、許してもらえるとは、お、思えないのですが……」
「許し? そんなんいらないよ? こっそり後をつけるから」
「それって……尾行、ということでしょうか……?」
「簡単に言うと、な! ちょっと尾行って犯罪みてぇだから」
尾行でしょ、犯罪でしょ、と思いつつなにも言わなかった。
梓はもう止められない。
だって目がこんなにも輝いているのだから。
私は金髪のウィッグを被ってメイクをがっつりと施し、露出が多く、派手な服装を初めて着させられた。
梓はいつもの私のようにセットしないままのマッシュルームヘアに黒いパーカー、黒いTシャツ、黒いズボンという全身黒ずくめ。
彼は大きなメガネもかけていて、かなり梓の派手な雰囲気は消えていた。
という私も、地味さが消え失せて完璧なギャルになっていた。
でもやっぱり人がたくさんいるところは怖いので、大きなヒョウ柄のサングラスをかけた。
「じゃあ行こうか、楓の待ち合わせ場所へのルートとかは調査済み」
すごい用意周到さを見せた梓は、とても悪いことを企んでいるような顔をしてこの家を出て行った。
私も走ってその後を追った。
楓と茜の待ち合わせ場所は近くの駅にある偉そうなおじさまの銅像前。
精一杯おしゃれに可愛らしいスカートを履いた楓は、今までに見たことがないくらいの笑顔を見せて、茜に手を振っていった。
茜はかなりイメージ通りの白いベストとブラウンのパンツという男らしいというよりかは可愛らしい服装だった。
楓たちが照れ合いながらさりげなく手を繋ぎ、はにかんでから電車に乗り込んで行った。
私たちはそれにこっそりついていき、隣の車両に乗った。
初め2人はぎこちなく目を合わせないようにしながら話を頑張って探していたが、そのうち普通に会話を楽しめていた。
横浜に着き、また2人は歩き出した。
茜から手を繋いで歩いていたが、楓はその手を解いて腕を絡ませた。
茜はその密着度に固まっていたものの、とても嬉しそうで仲の良いカップルという印象を受けた。
時刻は10時。
まだ腹ごしらえには早い時間のため、道横に連なる店をゆっくりと見て行っていた。
ウインドーショッピングをしながらずっとずっと歩いて行く。
とある店の前で、2人はほぼ同時に足を止めた。
店の名は『Star t』で星型をモチーフとしたメイク道具や服がずらりと取り揃えられている。
きっと星の意味の『Star』と、始まりの意味の『Start』を合わせているのだろう。
その店に自然と吸い込まれるように入っていった2人。
私たちも同じタイミングで入るわけにもいかず困ったが、店内は思ったより広かったので少し間を空けて入店し、棚に隠れて2人を見ていた。
「これ見て! このチークとアイシャドウ、星型のラメが入ってるんだって!」
「このリップはオレンジと黄色のグラデーションだ!」
「欲しい、けど……買っちゃう?」
「んんん……僕は要らないかなぁ、もっとピンク系のアイテムが欲しいから。
楓さんが欲しいなら……」
茜は楓の手に握られたチークとアイシャドウ、そしてリップを手に取り、レジに向かった。
慌てて引き止める楓をよそに、さっさと会計を済ませる。
これまたおしゃれな紙袋に入った道具を差し出し、
「これ、僕から今日のデートのお礼ってことで。
プレゼントしますよ、使ってくれたら嬉しい……な」
「ありがとう……! 明日使うから楽しみに待ってて!」
「うんっ」
2人は顔を見合わせてにこっと笑った。
そんなハートが飛び交う店内にいた私たちは、どこか気まずかった。
でも2人が幸せそうなのは、見ててとても嬉しく感じた。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる