93 / 94
Episode7.恋だった。
大きなプレゼントである。
しおりを挟む
出産後、時が経つにつれて私はみるみる元気を取り戻し、妊娠中と比べると食欲もだいぶ回復してきた。
産んですぐに赤ちゃんの元気な声が聞こえたあとすぐに別室に連れて行かれてしまったから、私は我が子の顔を見ていない。
出産からおよそ3時間、穏やかな2回のノックが聞こえた。
梓と看護師が病室に来てくれたのだった。
「どうですか? どこか気になるところはありますか?」
「いえ、だいぶ良くなってきました」
「それなら大丈夫ですね。……はい、たくさんたくさん可愛がってあげてください」
微笑んだ看護師は、ベッドに私を挟むようにしてタオルを2つ置いた。
……いや、あまりに小さくて気が付かなかったが、タオルは赤ちゃんをくるんでいた。
まだうにゃうにゃとしていて目も見えていないような状態だったが、彼女らは温かく、胸に耳をつけると心臓の音が聞こえた。
「命を持っているんですね……」
私は当たり前のことをつぶやき、2人の赤ちゃんをそっと撫でた。
ふと気が付いたことがある。
「……そうだ、この子たちの名前は?」
名前を決めるための話し合いさえしていない。
私は慌てて梓の服の裾を掴んだのだが、彼は思っていたよりも慌てる様子はなく、反対ににやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
頭の上にたくさんクエスチョンマークを浮かべる私の前に、梓は2枚の半紙を広げた。
そこには筆で大きく2つの文字が書かれていた。
「『りの』、『ほの』……これが俺らの子供の名前。どう、RIHOさん?」
「もしかして、私のRIHOっていう名前からとったのですか……?」
「そうそう! あの子たちにも、葵ちゃんみたいに自分の好きなことに出会って欲しい。
自分の好きなことに全力で打ち込んで欲しい。
そういう願いを込めて考えてみたんだよ。相談せずにごめんね、驚かせたくて」
梓の思惑通り驚く私を見て、彼はふふっと笑っていた。
りのちゃんとほのちゃん……私の第二の名前に由来して付けられた新しい名前。
もちろん私が気に入らないわけもなく、すぐにその名前に決まった。
「りのちゃん、ほのちゃん、よろしくね」
そう言うたびに2人は無邪気な笑い声を上げているように聞こえた。
「産まれてきてくれて、ありがとう」
そう言うと、今度は優しく微笑んでくれたような気がした。
看護師にお世話の仕方を教えてもらっていると、ばたばたとたくさんの足音が聞こえた。
それと同時に、病院内は静かにしてください、というお叱りの声も聞こえる。
ガラガラッと突然ドアが開かれ、そこには楓や碧や柚葉といった私たちの仲間の姿があった。
全員が今までに見たことのないくらい明るい笑顔だった。
「おめでとう! 大変だったんでしょ?」
「おめでとうございます! 元気な女の子たちと聞き、僕らみんな安心しました」
それぞれが思い思いの祝福の言葉をかけてくれた。
そして色とりどりの花を病室のベッド横にある花瓶に挿してくれた。
「みなさんありがとうございます……!
私、みなさんの支えがなかったらこの仕事も始めていないですし、この人とも出会うこともなかったですし、この子たちは産まれなかったのですから……本当に感謝してます。
みなさんには私の人生を変えていただきましたから」
「なに言ってるのよ! オーディション合格は葵ちゃん自身の力でしょ!」
「……楓、なにか報告はないのか?」
涙ぐむ私の背中をばしっと叩く楓に、梓が言った。
楓は途端に顔を紅く染め、嬉しそうに微笑んだ。
「私たち、婚約しました! 今すぐではないけれど……」
私はせっかく涙を我慢していたというのに、思わず涙を流してしまった。
それからは堰せき止められないまま泣き続けていた。
本当に全員が幸せになったし、私たちの出産を心から喜んでくれた。
高校1年生までの私だったらとても考えられなかった未来だろう。
私は幸せに包まれて生きている。
これまで支えてくれたみんなと、新しいりのとほのという私の子供たち……全員に私はたくさんの大きなプレゼントをもらった。
笑顔、そして幸せというプレゼントを。
それから、りのとほのは順調に成長していった。
ミルクをあげたり、おむつを替えたりと普通の母親らしいことをしているうちに、本当に親になったんだという実感が湧いてきた。
2人が1歳半になったとき、私は仕事復帰することを決心した。
それまでは2人と密度の高い日々を過ごしていこうと思い、たくさん話しかけるようにしたし、スキンシップもたくさんしていた。
私はまだお腹が大きいままだが、次の会見が決まった。
会見は来週水曜日……私たち夫婦の『なるべく早くしたい』という意向に沿って決めた日にちだった。
その日、私たちはまたたくさんの記者に囲まれて話すことになる。
それがきっと最後の会見となるであろう。
産んですぐに赤ちゃんの元気な声が聞こえたあとすぐに別室に連れて行かれてしまったから、私は我が子の顔を見ていない。
出産からおよそ3時間、穏やかな2回のノックが聞こえた。
梓と看護師が病室に来てくれたのだった。
「どうですか? どこか気になるところはありますか?」
「いえ、だいぶ良くなってきました」
「それなら大丈夫ですね。……はい、たくさんたくさん可愛がってあげてください」
微笑んだ看護師は、ベッドに私を挟むようにしてタオルを2つ置いた。
……いや、あまりに小さくて気が付かなかったが、タオルは赤ちゃんをくるんでいた。
まだうにゃうにゃとしていて目も見えていないような状態だったが、彼女らは温かく、胸に耳をつけると心臓の音が聞こえた。
「命を持っているんですね……」
私は当たり前のことをつぶやき、2人の赤ちゃんをそっと撫でた。
ふと気が付いたことがある。
「……そうだ、この子たちの名前は?」
名前を決めるための話し合いさえしていない。
私は慌てて梓の服の裾を掴んだのだが、彼は思っていたよりも慌てる様子はなく、反対ににやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
頭の上にたくさんクエスチョンマークを浮かべる私の前に、梓は2枚の半紙を広げた。
そこには筆で大きく2つの文字が書かれていた。
「『りの』、『ほの』……これが俺らの子供の名前。どう、RIHOさん?」
「もしかして、私のRIHOっていう名前からとったのですか……?」
「そうそう! あの子たちにも、葵ちゃんみたいに自分の好きなことに出会って欲しい。
自分の好きなことに全力で打ち込んで欲しい。
そういう願いを込めて考えてみたんだよ。相談せずにごめんね、驚かせたくて」
梓の思惑通り驚く私を見て、彼はふふっと笑っていた。
りのちゃんとほのちゃん……私の第二の名前に由来して付けられた新しい名前。
もちろん私が気に入らないわけもなく、すぐにその名前に決まった。
「りのちゃん、ほのちゃん、よろしくね」
そう言うたびに2人は無邪気な笑い声を上げているように聞こえた。
「産まれてきてくれて、ありがとう」
そう言うと、今度は優しく微笑んでくれたような気がした。
看護師にお世話の仕方を教えてもらっていると、ばたばたとたくさんの足音が聞こえた。
それと同時に、病院内は静かにしてください、というお叱りの声も聞こえる。
ガラガラッと突然ドアが開かれ、そこには楓や碧や柚葉といった私たちの仲間の姿があった。
全員が今までに見たことのないくらい明るい笑顔だった。
「おめでとう! 大変だったんでしょ?」
「おめでとうございます! 元気な女の子たちと聞き、僕らみんな安心しました」
それぞれが思い思いの祝福の言葉をかけてくれた。
そして色とりどりの花を病室のベッド横にある花瓶に挿してくれた。
「みなさんありがとうございます……!
私、みなさんの支えがなかったらこの仕事も始めていないですし、この人とも出会うこともなかったですし、この子たちは産まれなかったのですから……本当に感謝してます。
みなさんには私の人生を変えていただきましたから」
「なに言ってるのよ! オーディション合格は葵ちゃん自身の力でしょ!」
「……楓、なにか報告はないのか?」
涙ぐむ私の背中をばしっと叩く楓に、梓が言った。
楓は途端に顔を紅く染め、嬉しそうに微笑んだ。
「私たち、婚約しました! 今すぐではないけれど……」
私はせっかく涙を我慢していたというのに、思わず涙を流してしまった。
それからは堰せき止められないまま泣き続けていた。
本当に全員が幸せになったし、私たちの出産を心から喜んでくれた。
高校1年生までの私だったらとても考えられなかった未来だろう。
私は幸せに包まれて生きている。
これまで支えてくれたみんなと、新しいりのとほのという私の子供たち……全員に私はたくさんの大きなプレゼントをもらった。
笑顔、そして幸せというプレゼントを。
それから、りのとほのは順調に成長していった。
ミルクをあげたり、おむつを替えたりと普通の母親らしいことをしているうちに、本当に親になったんだという実感が湧いてきた。
2人が1歳半になったとき、私は仕事復帰することを決心した。
それまでは2人と密度の高い日々を過ごしていこうと思い、たくさん話しかけるようにしたし、スキンシップもたくさんしていた。
私はまだお腹が大きいままだが、次の会見が決まった。
会見は来週水曜日……私たち夫婦の『なるべく早くしたい』という意向に沿って決めた日にちだった。
その日、私たちはまたたくさんの記者に囲まれて話すことになる。
それがきっと最後の会見となるであろう。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる