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Episode7.恋だった。

大きなプレゼントである。

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出産後、時が経つにつれて私はみるみる元気を取り戻し、妊娠中と比べると食欲もだいぶ回復してきた。
産んですぐに赤ちゃんの元気な声が聞こえたあとすぐに別室に連れて行かれてしまったから、私は我が子の顔を見ていない。

出産からおよそ3時間、穏やかな2回のノックが聞こえた。
梓と看護師が病室に来てくれたのだった。

「どうですか? どこか気になるところはありますか?」
「いえ、だいぶ良くなってきました」
「それなら大丈夫ですね。……はい、たくさんたくさん可愛がってあげてください」

微笑んだ看護師は、ベッドに私を挟むようにしてタオルを2つ置いた。
……いや、あまりに小さくて気が付かなかったが、タオルは赤ちゃんをくるんでいた。
まだうにゃうにゃとしていて目も見えていないような状態だったが、彼女らは温かく、胸に耳をつけると心臓の音が聞こえた。

「命を持っているんですね……」

私は当たり前のことをつぶやき、2人の赤ちゃんをそっと撫でた。

ふと気が付いたことがある。

「……そうだ、この子たちの名前は?」

名前を決めるための話し合いさえしていない。
私は慌てて梓の服の裾を掴んだのだが、彼は思っていたよりも慌てる様子はなく、反対ににやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
頭の上にたくさんクエスチョンマークを浮かべる私の前に、梓は2枚の半紙を広げた。
そこには筆で大きく2つの文字が書かれていた。

「『りの』、『ほの』……これが俺らの子供の名前。どう、RIHOさん?」
「もしかして、私のRIHOっていう名前からとったのですか……?」
「そうそう! あの子たちにも、葵ちゃんみたいに自分の好きなことに出会って欲しい。
自分の好きなことに全力で打ち込んで欲しい。
そういう願いを込めて考えてみたんだよ。相談せずにごめんね、驚かせたくて」

梓の思惑通り驚く私を見て、彼はふふっと笑っていた。
りのちゃんとほのちゃん……私の第二の名前に由来して付けられた新しい名前。
もちろん私が気に入らないわけもなく、すぐにその名前に決まった。

「りのちゃん、ほのちゃん、よろしくね」

そう言うたびに2人は無邪気な笑い声を上げているように聞こえた。

「産まれてきてくれて、ありがとう」

そう言うと、今度は優しく微笑んでくれたような気がした。

看護師にお世話の仕方を教えてもらっていると、ばたばたとたくさんの足音が聞こえた。
それと同時に、病院内は静かにしてください、というお叱りの声も聞こえる。
ガラガラッと突然ドアが開かれ、そこには楓や碧や柚葉といった私たちの仲間の姿があった。
全員が今までに見たことのないくらい明るい笑顔だった。

「おめでとう! 大変だったんでしょ?」
「おめでとうございます! 元気な女の子たちと聞き、僕らみんな安心しました」

それぞれが思い思いの祝福の言葉をかけてくれた。
そして色とりどりの花を病室のベッド横にある花瓶に挿してくれた。

「みなさんありがとうございます……!
私、みなさんの支えがなかったらこの仕事も始めていないですし、この人とも出会うこともなかったですし、この子たちは産まれなかったのですから……本当に感謝してます。
みなさんには私の人生を変えていただきましたから」
「なに言ってるのよ! オーディション合格は葵ちゃん自身の力でしょ!」
「……楓、なにか報告はないのか?」

涙ぐむ私の背中をばしっと叩く楓に、梓が言った。
楓は途端に顔を紅く染め、嬉しそうに微笑んだ。

「私たち、婚約しました! 今すぐではないけれど……」

私はせっかく涙を我慢していたというのに、思わず涙を流してしまった。
それからは堰せき止められないまま泣き続けていた。

本当に全員が幸せになったし、私たちの出産を心から喜んでくれた。
高校1年生までの私だったらとても考えられなかった未来だろう。
私は幸せに包まれて生きている。
これまで支えてくれたみんなと、新しいりのとほのという私の子供たち……全員に私はたくさんの大きなプレゼントをもらった。
笑顔、そして幸せというプレゼントを。

それから、りのとほのは順調に成長していった。
ミルクをあげたり、おむつを替えたりと普通の母親らしいことをしているうちに、本当に親になったんだという実感が湧いてきた。
2人が1歳半になったとき、私は仕事復帰することを決心した。
それまでは2人と密度の高い日々を過ごしていこうと思い、たくさん話しかけるようにしたし、スキンシップもたくさんしていた。

私はまだお腹が大きいままだが、次の会見が決まった。
会見は来週水曜日……私たち夫婦の『なるべく早くしたい』という意向に沿って決めた日にちだった。
その日、私たちはまたたくさんの記者に囲まれて話すことになる。
それがきっと最後の会見となるであろう。
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