72 / 94
Episode7.恋だった。
婚約である。
しおりを挟む
2人で同時に家を出たが、今までのように笑い合って楽しく歩く帰り道、という雰囲気ではなくなった。
私たちの間には微妙な距離があり、お互い反対の方向をじっと見ている。
私もそうだが、きっと梓もなにか話しかけなきゃ話しかけなきゃと思っているのだろうが、そのきっかけが掴めない。
私は勇気を振り絞って梓の方に顔を向けて、
「あの……!」
と言ったが、梓もまったく同じタイミングでまったく同じことをした。
途中まで言いかけてぐっと口をつぐむ。
そして見つめ合っているこの状態のまま、なんだかおかしくなってきて笑った。
結局私たちはそれ以降なにも話さないまま歩いた。
ただ先ほどと違うことがあった。
私たちの影は、主に手のあたりでくっついていた。
つまり、ぎこちないながらも手を繋いで帰った。
私の部屋は明かりが点いていた。
もう仲直りしたので家に帰りたくないとかそういう感情はない。
梓は私を、私の部屋の前まで送ってくれた。
「今日はおめでとう、そして俺のこと受け入れてくれてありがとう。
これからは彼氏として……よろしくね?
あとずっと思ってたんだけど、出来るとき、敬語なしで話してみて欲しいな」
「は……いえ、うん……!
こっこちらこそ私なんかを選んでくれて、勇気をくれて、喜びをくれて、ありがと」
「おう! んじゃあな、また明日学校で」
彼はそう言って私の頭を撫でてくれた。
じゃあね、と言って彼は下に降り……ようとした。
いきなり私の部屋のドアが勢い良く開かれ、中からお兄ちゃんと唯紅が顔を覗かせた。
びっくりしている私たちに2人同時に手招きし、梓もともに私の部屋へと足を踏み入れた。
私たちは一つのテーブルを囲んで座っている。
お兄ちゃんは正面にいる梓に深く頭を下げた。
梓は手を横にぶんぶん振って、
「いえいえ! 僕も口が悪くなっちゃってすみませんでした」
と言ってにこっと笑った。
その笑顔によってこの場が和んだように感じたのは気のせいだろうか。
お兄ちゃんは姿勢を正し、正座に変わった。
ここからが本題だよ。
そう言ってお兄ちゃんが言ったのは、
「葵、お前は梓くんと付き合ってるのか? 想いは伝えられたのか?」
というストレートな言葉だった。
私と梓、そしてなぜか唯紅も飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになる。
「み、碧さん? 今話さなくても……」
「そうよ、梓くんの前で告白まがいのことさせなくても……」
2人はお兄ちゃんに苦言を呈したが、そんな2人を私は手で制した。
「梓さん、唯紅さん、お気遣いありがとうございます。
でもお兄ちゃんには元から伝える予定でしたので……。
うん、私はグランプリを獲得した後にしっかり想いを伝えて、お互いの想いも知り合うことが出来たよ。
今まで恋なんて関係ないと思っていた私に新しい感情を芽生えさせてくれた梓さんは私のオアシスだよ、ちゃんと分かってるから安心して」
「そうか、俺は葵に後悔させたくなくて全部全部指示してやらなきゃって思ってたんだけどもうお前も成長したんだよな……。
おめでとう、これから葵をよろしく、そしてありがとう」
お兄ちゃんと梓はまたぺこぺこ頭を下げ合っている。
だが私は今日お兄ちゃんと唯紅と会ってから気付いていた。
私はそっと目の前にいる唯紅の服の袖を引っ張る。
それに気付いた唯紅は私に視線を向けて微笑み、どうしたのというような顔をしてみせた。
私は口をぱくぱくさせて言った。
『唯紅さん? 本当のことを言ってください』と。
彼女は驚いたように目をぱちくりさせ、苦笑した。
そしてお兄ちゃんを小突いて、
「ねぇ碧。葵ちゃんには全部勘付かれてるけど?」
と言った。
なにもわからない梓は私の方を向いたがひとまず無視する。
唯紅とお兄ちゃんは腕を組み、素晴らしい笑顔になった。
「私たち、私の誕生日に結婚することになったの」
その言葉を聞いた梓は、口を開いたままになっていた。
「……ん?」
私たちの間には微妙な距離があり、お互い反対の方向をじっと見ている。
私もそうだが、きっと梓もなにか話しかけなきゃ話しかけなきゃと思っているのだろうが、そのきっかけが掴めない。
私は勇気を振り絞って梓の方に顔を向けて、
「あの……!」
と言ったが、梓もまったく同じタイミングでまったく同じことをした。
途中まで言いかけてぐっと口をつぐむ。
そして見つめ合っているこの状態のまま、なんだかおかしくなってきて笑った。
結局私たちはそれ以降なにも話さないまま歩いた。
ただ先ほどと違うことがあった。
私たちの影は、主に手のあたりでくっついていた。
つまり、ぎこちないながらも手を繋いで帰った。
私の部屋は明かりが点いていた。
もう仲直りしたので家に帰りたくないとかそういう感情はない。
梓は私を、私の部屋の前まで送ってくれた。
「今日はおめでとう、そして俺のこと受け入れてくれてありがとう。
これからは彼氏として……よろしくね?
あとずっと思ってたんだけど、出来るとき、敬語なしで話してみて欲しいな」
「は……いえ、うん……!
こっこちらこそ私なんかを選んでくれて、勇気をくれて、喜びをくれて、ありがと」
「おう! んじゃあな、また明日学校で」
彼はそう言って私の頭を撫でてくれた。
じゃあね、と言って彼は下に降り……ようとした。
いきなり私の部屋のドアが勢い良く開かれ、中からお兄ちゃんと唯紅が顔を覗かせた。
びっくりしている私たちに2人同時に手招きし、梓もともに私の部屋へと足を踏み入れた。
私たちは一つのテーブルを囲んで座っている。
お兄ちゃんは正面にいる梓に深く頭を下げた。
梓は手を横にぶんぶん振って、
「いえいえ! 僕も口が悪くなっちゃってすみませんでした」
と言ってにこっと笑った。
その笑顔によってこの場が和んだように感じたのは気のせいだろうか。
お兄ちゃんは姿勢を正し、正座に変わった。
ここからが本題だよ。
そう言ってお兄ちゃんが言ったのは、
「葵、お前は梓くんと付き合ってるのか? 想いは伝えられたのか?」
というストレートな言葉だった。
私と梓、そしてなぜか唯紅も飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになる。
「み、碧さん? 今話さなくても……」
「そうよ、梓くんの前で告白まがいのことさせなくても……」
2人はお兄ちゃんに苦言を呈したが、そんな2人を私は手で制した。
「梓さん、唯紅さん、お気遣いありがとうございます。
でもお兄ちゃんには元から伝える予定でしたので……。
うん、私はグランプリを獲得した後にしっかり想いを伝えて、お互いの想いも知り合うことが出来たよ。
今まで恋なんて関係ないと思っていた私に新しい感情を芽生えさせてくれた梓さんは私のオアシスだよ、ちゃんと分かってるから安心して」
「そうか、俺は葵に後悔させたくなくて全部全部指示してやらなきゃって思ってたんだけどもうお前も成長したんだよな……。
おめでとう、これから葵をよろしく、そしてありがとう」
お兄ちゃんと梓はまたぺこぺこ頭を下げ合っている。
だが私は今日お兄ちゃんと唯紅と会ってから気付いていた。
私はそっと目の前にいる唯紅の服の袖を引っ張る。
それに気付いた唯紅は私に視線を向けて微笑み、どうしたのというような顔をしてみせた。
私は口をぱくぱくさせて言った。
『唯紅さん? 本当のことを言ってください』と。
彼女は驚いたように目をぱちくりさせ、苦笑した。
そしてお兄ちゃんを小突いて、
「ねぇ碧。葵ちゃんには全部勘付かれてるけど?」
と言った。
なにもわからない梓は私の方を向いたがひとまず無視する。
唯紅とお兄ちゃんは腕を組み、素晴らしい笑顔になった。
「私たち、私の誕生日に結婚することになったの」
その言葉を聞いた梓は、口を開いたままになっていた。
「……ん?」
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる