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番外
追加の一品:ソルベフランボワーズ・サヴールシャンパーニュ(有紀side)
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僕は今最高に幸せだ。今までの人生で一番幸せだと感じてる。
嫌な事も悲しい事もあったけれど、別にずっとずっと不幸だったわけじゃない。
僕はフランスで皆より一年遅れでコレージュを修了した後、すぐに尊敬する師匠のもとに弟子入りした。製菓の専門学校に通いながらだったけど、日本で言えば最終学歴は中卒。だから頭はそんなに良く無いって自分でもわかってる。でも、手に職があれば生きていけるという考え方がフランスでは当然だったので、そんなに困ったことはなかった。
新作が思った通りの味や色に出来たときも幸せ。僕の得意なシュクル(飴細工)が綺麗に出来たときも幸せ。そして僕の作ったお菓子を食べて、美味しいって食べた人が笑ってくれた時も幸せ。
色んな小さな幸せがあるけれど、それでもやっぱり今が一番幸せなんだと思う。
一年前、本当に好きな人に会えたから。
それまでも好きだと思う人はいた。心から愛した人も。でも今度は少し違う。僕は今まで年上の人を好きになった事はなかったけれど、その人は僕と十八も違って、父が生きていたらそんなに歳がかわらない。
好きっていうのは色々あると思うんだ。ただ単に嫌いじゃなくて好意が持てるっていう好きとか、尊敬してるっていう好き……敬愛とか。こう一時も離れたく無いって思うような激しい愛とか、ただ単に体の相性が良いとか、頼りたくて縋りつきたい気持ち、逆に守ってあげたいと思う気持ちとか。好きだからいじめたい泣かせたいってのもあるし、逆に好きだから泣かないで欲しい笑って欲しいっていうのもある。
清さんは、そんな色んな好きを全部集めたくらいの好き。
そんな事あるわけ無いじゃないかと言われた事もあるけど、本当に一目惚れなんだよ。
最初真はどんな人を連れて来るんだろうって結構さめてた。でも店のお客の大半を占めるきゃっきゃうるさい女性達の中で、その人は一人浮いてた。第一印象は暴力団の組長でも来たのかと思ったよ、ホント。
きっちり着こなした紺色の和服のよく似合う、ちょっと怖そうな人だった。すっと通った鼻や薄めの唇、額の感じ、切れ長の目がとってもクールで、まるで仇でも見るみたいな難しい顔で僕の作ったガトーを眺めてる。なぜかこちらも目が離せなくて見てたら、やっぱり眉間に皺を寄せた難しい顔で一口食べたんだ。
次の瞬間にほわんと笑ったその顔を見た瞬間に、僕は心臓に矢が刺さったと思った。
……反則だと思った。何、その笑顔。蕩けそうな笑顔だった。
僕のお菓子でこの人を幸せな気分に出来た。それはパテシェにとって最高の事なんだけど、僕はその時初めてお菓子に嫉妬したかもしれない。あの笑顔を僕の方に、僕だけに向けたいってそう思ったんだ。
清さんはすごく可愛い。年上に可愛いって言うなって叱られるけどでもやっぱり可愛い。
見た目はどっちかっていうと渋くてカッコいい部類だと思う。サムライっていうよりその持ってる日本刀みたいだ。背は百八十ある僕とそうかわらないし、肩幅は清さんのほうが広い。地黒で筋肉質のガッチリした体とかとても男らしい精悍な感じなんだけど、僕に言わせるととても可愛いんだ。
一言で言えば大型犬だ。シェパードやドーベルマンみたいな。キリッとしてて強そうな犬がデレってするとギャップで余計に可愛く思えるみたいな。
アレの後なんかホントにそう思う。いつもが大人っぽくて強い男のイメージがあるだけに、僕の前でしか見せない無防備な顔で、それがもう何とも言えなくて、泣かせたくて、でも大事に守ってあげたくて、ずっとずっと撫でてたいくらい。
でも仕事には厳しいから、一緒には住まないんだけど。そんなメリハリが余計に僕には刺激的でいいなと思える。寂しくもあるけどね。
そんな可愛い清さんに会いに、今日も僕は夕方の町に自転車を走らせる。昨日は忙しかったから二日ぶり。ああ、早く会いたいな。
僕の車は大きくて目立つから、店の駐車場に停めると邪魔だって清さんが嫌がるのと、運動不足を解消するために自転車を買ったんだ。イタリアの今乗ってる自動車と同じメーカーのスポーツバイク。色も同じ赤。休みの日にお揃いで乗りたいと思って二台買ったのに、何故か清さんは派手すぎるって受け取ってくれなかった。似合うと思ったのに残念だ。
すぐに自分の事をおじさんだ歳だって言うけど、男は四十過ぎてからが深みが出ていいんだと思うんだけどな。赤だって本当に似合うのに。日本だけだよ、歳いったら地味な格好するなんて。フランスじゃおばあさんやおじいさんだって肌や髪がくすむぶん、明るい色の服を好んで着る人が多いのに。清さんに赤の着物はどうって言ったら、さすがに還暦はまだだとちょっと怒って言われたけど、意味はわからない。
赤といえば、店の庭のフランボワーズがいっぱい成ったから、今日はリュックに沢山持ってきたんだ。甘酸っぱくて刺激的ででも深く落ち着いた赤は清さんみたいだ。
……などと、もう清さんの事ばかり考えてる間に、千頭和菓子店の前に着いた。
暖簾が出て無くて、木の桟が渋い引き戸の向こうに白いカーテンが引かれている。灯りも点いて無い。今日は僕のところは売切れてしまったから早くに店を閉めたけど、清さんのところもそうなんだろうかとも思った。でもよく見たら「臨時休業」の札が出ていた。
珍しいな、清さんが定休日以外に店閉めるの。
裏口に回ると、そこも鍵が掛かってた。灯りも見えないけど留守かな?
ノックしてみても返事が無い。軽トラックはあったけどな。近くに出てるのかな?
こういう時、スマホを持っててくれるとありがたいのに、いくら言っても清さんはよくわからんと言って携帯は持たない。最近はすごいお年寄りでもほとんど持ってるのに。化石みたいな人だよね、清さんは。
来たよって店に電話しかけた時、咳だろうか、声が奥から聞こえた。
清さん、いるんじゃないか。
「清さーん。有紀だけど」
でも返事が無い。へへ、でもいいんだ。合鍵を持ってるから。勝手に入るけどゴメンね。
裏口を開けるとすぐ仕事場。いつもは休みでも餡を炊いてる湯気や豆を晒す水音が聞えるのに、しーんと静まって火を使ってた気配も無い。
なんだか違和感がじわじわと濃くなってきた。清さん、どうしたんだろう。
またげほげほいう咳が聞えた。奥の居間みたい。
初夏、日も長いし今日は晴れだったから外は結構暑いけど、日本の建物は少しひんやりしてる。土間から靴を脱いで畳の間に上がると、やっと奥に人のいる気配を感じた。
襖を開けると、いつもは二階に寝る清さんが居間に布団を敷いて座ってた。
「有紀か。すまん、出られなくて」
「寝てたの? ゴメン、勝手に入って来て。今日はお店休んだんだね」
「昨夜からちょっと調子悪くてな。咳出るし、鼻が詰まってて味がわからないから仕事にならないんで仕方なく閉めた」
元々低めの声だけど、掠れててすごくセクシーな声になってる。
「大丈夫なの?」
「なに、ただの風邪だ。置き薬飲んだし、寝てりゃ治る」
そう言いながらまたげほげほ。背中を撫でてあげようと思って近寄ると、手でしっしっとやられた。
「こら、あんまり近寄るんじゃねえよ。お前にもうつるぞ。折角来てくれたのに悪いけど、今日は帰ったほうがいい」
「平気だよ。僕は絶対に風邪ひかないって、真も言ってたよ」
「……」
何だろう、ものすごく哀れみを込めた目で見られたんだけど?
「上で寝てると、便所行くのも水飲むのも降りて来ないといけないから。眩暈するから階段怖いんで下で寝てたんだけどな……」
顔色もあまり良くないし、ちゃんとゴハン食べてたんだろうか。
「真は?」
「卒業した製菓学校の講師を頼まれたらしくて、しばらくはこっちに帰ってこない」
そうか。真も忙しくしてるんだな。こういう時、一人で住んでると大変だな。人の事は言えないけど。だから一緒に住もうって言ってるのに……。
辛そうなので横にしてあげようと触れてびっくりした。
「うわ、すっごい熱い!」
「あー、体温計どこかわかんねぇから計ってないけど……」
すごい熱があるじゃないか。計らなかったって普通じゃ無いのがわかるくらい熱い。
「病院に行く?」
「いいよ。すぐ治るって」
本当に大丈夫なのかな。何にもしてあげられないけど、一人でいるよりはいいよね。
「……俺も歳だな。今まで風邪なんざひいたこと無かったけどな」
苦しいのか、清さんは気弱になってるみたい。
ううっ、いつもキリッとしてる目が熱でかウルウルしてて、超美味しそ……色っぽいんですけど! それにシャツも着ないで一枚だけの浴衣は少し肌蹴けていて、逞しい胸が見えてる。目に毒なんで、薄い肌賭け布団を直してあげた。
「うう……」
ぶるるっと肘を抱いて清さんが身震いした。
「寒いの?」
「背筋がゾクゾクする」
ええと、こういう時は……そうだ、温かくしてあげないと! 浴衣だけなんて寒いに決まってるじゃないか。
「待ってて!」
勝手に開けちゃうけどいいよね。階段を駆け上がって、寝室の押入れから毛布をあるだけ出して、冬用なのか湯たんぽを見つけたのでこれも借りる。お湯沸かして、そうだ、何か温かい物を作ってあげよう!
「何か温かい物を食べようね。シチューは時間がかかるから、リゾット?」
「食欲無いからいい……」
うーん、これは相当弱ってるなぁ。とにかく温かくしてあげよう。
「お、おい。一体何枚毛布を……?」
「でも寒いんでしょ? 温かくして安静にしてないとね!」
清さんのステキな体を毛布で丁寧に包んでどさくさに紛れてオデコにちゅってしておいた。
湯たんぽに入れるお湯を沸かしに台所を借りて、早々に毛布の中に入れた後、ついでに生姜をたっぷり入れた甘い甘い葛湯を作ってあげた。
「清さん、葛湯……」
あれ? 清さんぐったりしてる?
なんか……ちょっと見える顔が真っ赤なんだけど。すごい汗かいてるし。慌てて毛布をとると、湯気が立ちそうなほど熱くなった清さんが出て来た。浴衣が汗でびっちょりだ。
「ゆ……有紀……熱、出たときは冷やした方がいいと思うんだ……たぶん」
そうかー! そういえば氷嚢で冷やしてるのを見たことがあるような。
とにかく汗だくの浴衣を脱がせて、絞ったタオルで体を拭いてあげると、やっとほっとしたように清さんが弱々しく微笑んだ。
「気持ちいい……」
そんなにうっとり言わないでよ。なんかイケナイ気持ちになりそう。でも流石に病人相手に乱暴な事は出来無いので、刺激的な体を隠すように新しい浴衣を着せた。
冷めた葛湯を飲んで咳は少しマシになったみたいだけど、熱が高いからかふわふわしてる。
「んー、レセ、ルフロワディル……」
「……日本語で頼む」
「粗熱をとる。そうだね、ショコラやグラセを冷やすときは熱いボウルを氷水で冷やすね」
「いやぁ、俺菓子じゃねぇから」
流石に氷風呂には入れちゃいけないよね。じゃあ他に手っ取り早く熱を下げる方法と言えば。考えろ、僕。
ふとさっき通ってきた作業場を思い出した。僕の店の冷蔵庫も大きいが、ここの冷蔵庫はものすごく大きい。前に寒天冷やすときに奥のをとるのに体ほとんど入った。
「清さんの店の業務用冷蔵庫大きいよね?」
「……まさか俺を冷蔵庫で冷やそうと思ってる?」
そのまさかだけど、駄目……みたいだね。無言で首振りながら後ずさってるよね。気のせいか目が涙を溜めているようにも見える。
「冗談だよ」
「いや、本気の目だった」
バレたか。
誤魔化す様にオデコに手を当てると、清さんは目を閉じて僕のもう一方の手もとって自分の頬に当てた。少し伸びた髭の感触がざらっとしてて、胸の奥がきゅっとなった。
「有紀の手はひんやりして気持ちいいな」
目を閉じた安心しきった顔で。そんな甘い声で。
ああ、ドキドキする……。
「え、えと……そう、待ってて、タオル冷やして来るね」
ずーっと触れていたかったけど、僕が胸のドキドキを隠すみたいに立ち上ると、少し名残惜しそうに清さんの手も離れて行って、更に鼓動が早くなった気がする。僕まで熱が出そうだ。
氷水でタオルを絞っていて、僕はふと思いついた。
そうだ、中から冷やした方が熱が下がるんじゃないかな?
食欲が無いって何にも食べていないみたいだし、何か口に入れたほうがいいよね。熱い時に食べたいもの。さっぱりしてて冷たくて……。
僕のリュックには袋にいっぱいの採れたてフランボワーズ。
清さんに水分をとらせて、タオルを頭にのせると僕は台所に戻った。
勝手に冷蔵庫を開けると、この前僕が持ってきたシャンパンが入っていた。後は……ゼラチンは無くても粉寒天があるし、さっき使った葛もある。レモンも無いけど果実の酸味とシャンパンの風味が強いから大丈夫かな。
ミキサーは使わずに木杓子で叩くようにフランボワーズを潰す。鍋で水に砂糖を溶かし、粉寒天も少し。溶けたら少し冷まして潰したフランボワーズとシャンパンを入れる。
パチパチしゅわしゅわいう、シャンパンの泡の音が心地いい。ふわりとたつ甘酸っぱい香り。軽く掻き混ぜて容器に入れて冷凍庫に。
後は数時間置いておく。出来れば途中でトラヴァイエしに来よう。
温かくなっただろうタオルをもう一度冷やそうと、僕が戻ると、清さんは穏やかな顔でうとうとしていた。良かった、少し顔色も良くなったみたい。
僕はじっとしてるのが苦手で、いつもはぼうっと待ってるのも退屈なのに、不思議と清さんの顔を見ているとそんなの気にならない。ただずっとこうして眺めていたい。
ちょっと固めの短い髪。生え際を撫でると眉がぴくって動いた。起しちゃったかなと思ったけど微睡んだまま。その口元に微かに笑みが浮かんで、またぎゅっと胸を掴れたみたいな気がした。
あの時見た笑顔。幸せな気分の顔。僕は清さんとこうして一緒にいると幸せだけど、清さんもそう思ってくれてるのかな。
少し苦しそうな息遣い、吐く空気さえ熱い気がする。
しばらく清さんを飽きずに見てて、一度冷凍庫に掻き混ぜに行った。流石に業務用だからすでにかなり固まってた。
タオルをまた換えてあげると、少し息が楽そうになってた。でもまだ熱いな……。
今日も僕は仕事で立ちっぱなしだったし、自転車も漕いで来たからちょっと足が疲れた。思わず横に寝転ぶと、熱い手が僕の手首を掴んだ。
「ゴメン。起しちゃった?」
「……冷たくて気持ちいい……」
あーっ、そのかすれた声! 薄っすらだけ目を開けてる顔がたまらない。
そういや、前に病院で僕は体温が低いって言われた。平熱でも三十六度無い。だから冷たくて気持ち良いのかな?
じゃあ、密着しちゃえばじわりじわりと冷やしてあげられるんじゃないだろうか。
そういうわけで、上半身脱いで布団に潜りこんでみた。うわ、熱い。
「なぜ脱ぐ?」
「ん? 人間水まくら。僕が清さんを冷やしてあげる」
腕枕して、ぴっとりくっついてみた。湯たんぽを抱いてるみたいなホカホカ清さん。
「どう? 気持ちいい?」
「ん……」
あれ? なんか照れてる? こういう時この人が可愛くて仕方なくなっちゃうんだ。
唇に軽くキスする。ここも冷やしてあげるね。
「風邪、うつるぞ?」
「いいの。ばい菌だってなんだって、清さんからだったら何でももらう」
もう一度深く深く口を重ねた。いつもより熱い舌、上顎を舐めるとまたぶるっと清さんが震えた。少し離れると追いかけてくる唇。
堪らない……つい夢中になって貪るようにキスを続けると、腕が僕を絡めとるように首に回った。腕も熱い、唇も、何もかも。僕の中にも熱が生まれるみたいに体の奥が疼いた。
ついそのまま首筋にも吸い付いたけど、はぁ、と小さく漏れた吐息にハッとした。いけない、無理させちゃ悪くなる。
でも僕を捕まえてる腕は離れなくて。切ない目が見上げてて。
「無理しない方がいいよ?」
「もう……我慢出来ない……」
そんな事言われたら、僕だって我慢出来無いじゃないか! もう清さんが欲しくて欲しくて、その熱も全部僕に欲しくて。
流石に最後まではしなかったけど、思ったよりぐったりしてない清さんにほっとした。
体から熱が汗や何かと一緒に出たのかもしれないと二人で笑った。
もう一度清さんの全身を綺麗に拭いて、僕はシャワーを浴びさせてもらって、すっかり着替えも済んだ。時計を見るともう三時間も経っていた。
「そろそろ出来たかな?」
「何が?」
「ふふ、元気が出るお薬」
すっかり固まったグラスリーは、綺麗な濃いピンクに仕上がっていた。
荒く潰したフランボワーズの鮮やかな濃紅が、マーブルみたいに上品。大き目の匙で削るように器によそうと、シャンパンの気泡が小さく弾ける音がする。
「はい、あーんして」
スプーンですくって口元に持って行くと、清さんが小さく口を開いた。そっと口に入れてあげると、しばらくしてまた清さんの顔にふわんとした笑顔がのぼった。
「冷たくて、甘酸っぱくて美味い」
「グラスリー(氷菓)を作ってみたんだ。ソルベフランボワーズだよ」
サッパリしていて喉越しがいいからか、清さんはもう一口食べてくれた。
僕も食べてみたけど、代用の材料でも充分舌触りもよく上手に出来ていた。シャンパンとフランボワーズはとても相性がいい。少し大人の味がする……清さんみたい。
「何か色っぽい味がするな。しゅわしゅわするな」
「シャンパンが入ってるから。大人っぽい味でしょ?」
食べ終えると、少し清さんの熱も下がった。体の中から冷やしてビタミンもたっぷり取れるから、こういう時はソルベはいいかもしれない。
「少し元気そうになってよかった」
「汗かいたら早く治るんだよ」
「みたいだね。最初に蒸しちゃったしね」
「殺されるかと思ったけどな。お前、本当に風邪ひいたことないんだな」
「うん」
「馬鹿は風邪ひかないって……本当なのか。だが知らんぞ、思いきり風邪を口移しだ」
何か聞えた気がするのは気にしない。
清さん、ずっとすっと一緒にいたいから、早く元気になってよね。
……でもやっぱり清さんからうつった風邪で、僕が寝込んだのは二日後の事だった。
今度は僕が看病してもらったけどね。
嫌な事も悲しい事もあったけれど、別にずっとずっと不幸だったわけじゃない。
僕はフランスで皆より一年遅れでコレージュを修了した後、すぐに尊敬する師匠のもとに弟子入りした。製菓の専門学校に通いながらだったけど、日本で言えば最終学歴は中卒。だから頭はそんなに良く無いって自分でもわかってる。でも、手に職があれば生きていけるという考え方がフランスでは当然だったので、そんなに困ったことはなかった。
新作が思った通りの味や色に出来たときも幸せ。僕の得意なシュクル(飴細工)が綺麗に出来たときも幸せ。そして僕の作ったお菓子を食べて、美味しいって食べた人が笑ってくれた時も幸せ。
色んな小さな幸せがあるけれど、それでもやっぱり今が一番幸せなんだと思う。
一年前、本当に好きな人に会えたから。
それまでも好きだと思う人はいた。心から愛した人も。でも今度は少し違う。僕は今まで年上の人を好きになった事はなかったけれど、その人は僕と十八も違って、父が生きていたらそんなに歳がかわらない。
好きっていうのは色々あると思うんだ。ただ単に嫌いじゃなくて好意が持てるっていう好きとか、尊敬してるっていう好き……敬愛とか。こう一時も離れたく無いって思うような激しい愛とか、ただ単に体の相性が良いとか、頼りたくて縋りつきたい気持ち、逆に守ってあげたいと思う気持ちとか。好きだからいじめたい泣かせたいってのもあるし、逆に好きだから泣かないで欲しい笑って欲しいっていうのもある。
清さんは、そんな色んな好きを全部集めたくらいの好き。
そんな事あるわけ無いじゃないかと言われた事もあるけど、本当に一目惚れなんだよ。
最初真はどんな人を連れて来るんだろうって結構さめてた。でも店のお客の大半を占めるきゃっきゃうるさい女性達の中で、その人は一人浮いてた。第一印象は暴力団の組長でも来たのかと思ったよ、ホント。
きっちり着こなした紺色の和服のよく似合う、ちょっと怖そうな人だった。すっと通った鼻や薄めの唇、額の感じ、切れ長の目がとってもクールで、まるで仇でも見るみたいな難しい顔で僕の作ったガトーを眺めてる。なぜかこちらも目が離せなくて見てたら、やっぱり眉間に皺を寄せた難しい顔で一口食べたんだ。
次の瞬間にほわんと笑ったその顔を見た瞬間に、僕は心臓に矢が刺さったと思った。
……反則だと思った。何、その笑顔。蕩けそうな笑顔だった。
僕のお菓子でこの人を幸せな気分に出来た。それはパテシェにとって最高の事なんだけど、僕はその時初めてお菓子に嫉妬したかもしれない。あの笑顔を僕の方に、僕だけに向けたいってそう思ったんだ。
清さんはすごく可愛い。年上に可愛いって言うなって叱られるけどでもやっぱり可愛い。
見た目はどっちかっていうと渋くてカッコいい部類だと思う。サムライっていうよりその持ってる日本刀みたいだ。背は百八十ある僕とそうかわらないし、肩幅は清さんのほうが広い。地黒で筋肉質のガッチリした体とかとても男らしい精悍な感じなんだけど、僕に言わせるととても可愛いんだ。
一言で言えば大型犬だ。シェパードやドーベルマンみたいな。キリッとしてて強そうな犬がデレってするとギャップで余計に可愛く思えるみたいな。
アレの後なんかホントにそう思う。いつもが大人っぽくて強い男のイメージがあるだけに、僕の前でしか見せない無防備な顔で、それがもう何とも言えなくて、泣かせたくて、でも大事に守ってあげたくて、ずっとずっと撫でてたいくらい。
でも仕事には厳しいから、一緒には住まないんだけど。そんなメリハリが余計に僕には刺激的でいいなと思える。寂しくもあるけどね。
そんな可愛い清さんに会いに、今日も僕は夕方の町に自転車を走らせる。昨日は忙しかったから二日ぶり。ああ、早く会いたいな。
僕の車は大きくて目立つから、店の駐車場に停めると邪魔だって清さんが嫌がるのと、運動不足を解消するために自転車を買ったんだ。イタリアの今乗ってる自動車と同じメーカーのスポーツバイク。色も同じ赤。休みの日にお揃いで乗りたいと思って二台買ったのに、何故か清さんは派手すぎるって受け取ってくれなかった。似合うと思ったのに残念だ。
すぐに自分の事をおじさんだ歳だって言うけど、男は四十過ぎてからが深みが出ていいんだと思うんだけどな。赤だって本当に似合うのに。日本だけだよ、歳いったら地味な格好するなんて。フランスじゃおばあさんやおじいさんだって肌や髪がくすむぶん、明るい色の服を好んで着る人が多いのに。清さんに赤の着物はどうって言ったら、さすがに還暦はまだだとちょっと怒って言われたけど、意味はわからない。
赤といえば、店の庭のフランボワーズがいっぱい成ったから、今日はリュックに沢山持ってきたんだ。甘酸っぱくて刺激的ででも深く落ち着いた赤は清さんみたいだ。
……などと、もう清さんの事ばかり考えてる間に、千頭和菓子店の前に着いた。
暖簾が出て無くて、木の桟が渋い引き戸の向こうに白いカーテンが引かれている。灯りも点いて無い。今日は僕のところは売切れてしまったから早くに店を閉めたけど、清さんのところもそうなんだろうかとも思った。でもよく見たら「臨時休業」の札が出ていた。
珍しいな、清さんが定休日以外に店閉めるの。
裏口に回ると、そこも鍵が掛かってた。灯りも見えないけど留守かな?
ノックしてみても返事が無い。軽トラックはあったけどな。近くに出てるのかな?
こういう時、スマホを持っててくれるとありがたいのに、いくら言っても清さんはよくわからんと言って携帯は持たない。最近はすごいお年寄りでもほとんど持ってるのに。化石みたいな人だよね、清さんは。
来たよって店に電話しかけた時、咳だろうか、声が奥から聞こえた。
清さん、いるんじゃないか。
「清さーん。有紀だけど」
でも返事が無い。へへ、でもいいんだ。合鍵を持ってるから。勝手に入るけどゴメンね。
裏口を開けるとすぐ仕事場。いつもは休みでも餡を炊いてる湯気や豆を晒す水音が聞えるのに、しーんと静まって火を使ってた気配も無い。
なんだか違和感がじわじわと濃くなってきた。清さん、どうしたんだろう。
またげほげほいう咳が聞えた。奥の居間みたい。
初夏、日も長いし今日は晴れだったから外は結構暑いけど、日本の建物は少しひんやりしてる。土間から靴を脱いで畳の間に上がると、やっと奥に人のいる気配を感じた。
襖を開けると、いつもは二階に寝る清さんが居間に布団を敷いて座ってた。
「有紀か。すまん、出られなくて」
「寝てたの? ゴメン、勝手に入って来て。今日はお店休んだんだね」
「昨夜からちょっと調子悪くてな。咳出るし、鼻が詰まってて味がわからないから仕事にならないんで仕方なく閉めた」
元々低めの声だけど、掠れててすごくセクシーな声になってる。
「大丈夫なの?」
「なに、ただの風邪だ。置き薬飲んだし、寝てりゃ治る」
そう言いながらまたげほげほ。背中を撫でてあげようと思って近寄ると、手でしっしっとやられた。
「こら、あんまり近寄るんじゃねえよ。お前にもうつるぞ。折角来てくれたのに悪いけど、今日は帰ったほうがいい」
「平気だよ。僕は絶対に風邪ひかないって、真も言ってたよ」
「……」
何だろう、ものすごく哀れみを込めた目で見られたんだけど?
「上で寝てると、便所行くのも水飲むのも降りて来ないといけないから。眩暈するから階段怖いんで下で寝てたんだけどな……」
顔色もあまり良くないし、ちゃんとゴハン食べてたんだろうか。
「真は?」
「卒業した製菓学校の講師を頼まれたらしくて、しばらくはこっちに帰ってこない」
そうか。真も忙しくしてるんだな。こういう時、一人で住んでると大変だな。人の事は言えないけど。だから一緒に住もうって言ってるのに……。
辛そうなので横にしてあげようと触れてびっくりした。
「うわ、すっごい熱い!」
「あー、体温計どこかわかんねぇから計ってないけど……」
すごい熱があるじゃないか。計らなかったって普通じゃ無いのがわかるくらい熱い。
「病院に行く?」
「いいよ。すぐ治るって」
本当に大丈夫なのかな。何にもしてあげられないけど、一人でいるよりはいいよね。
「……俺も歳だな。今まで風邪なんざひいたこと無かったけどな」
苦しいのか、清さんは気弱になってるみたい。
ううっ、いつもキリッとしてる目が熱でかウルウルしてて、超美味しそ……色っぽいんですけど! それにシャツも着ないで一枚だけの浴衣は少し肌蹴けていて、逞しい胸が見えてる。目に毒なんで、薄い肌賭け布団を直してあげた。
「うう……」
ぶるるっと肘を抱いて清さんが身震いした。
「寒いの?」
「背筋がゾクゾクする」
ええと、こういう時は……そうだ、温かくしてあげないと! 浴衣だけなんて寒いに決まってるじゃないか。
「待ってて!」
勝手に開けちゃうけどいいよね。階段を駆け上がって、寝室の押入れから毛布をあるだけ出して、冬用なのか湯たんぽを見つけたのでこれも借りる。お湯沸かして、そうだ、何か温かい物を作ってあげよう!
「何か温かい物を食べようね。シチューは時間がかかるから、リゾット?」
「食欲無いからいい……」
うーん、これは相当弱ってるなぁ。とにかく温かくしてあげよう。
「お、おい。一体何枚毛布を……?」
「でも寒いんでしょ? 温かくして安静にしてないとね!」
清さんのステキな体を毛布で丁寧に包んでどさくさに紛れてオデコにちゅってしておいた。
湯たんぽに入れるお湯を沸かしに台所を借りて、早々に毛布の中に入れた後、ついでに生姜をたっぷり入れた甘い甘い葛湯を作ってあげた。
「清さん、葛湯……」
あれ? 清さんぐったりしてる?
なんか……ちょっと見える顔が真っ赤なんだけど。すごい汗かいてるし。慌てて毛布をとると、湯気が立ちそうなほど熱くなった清さんが出て来た。浴衣が汗でびっちょりだ。
「ゆ……有紀……熱、出たときは冷やした方がいいと思うんだ……たぶん」
そうかー! そういえば氷嚢で冷やしてるのを見たことがあるような。
とにかく汗だくの浴衣を脱がせて、絞ったタオルで体を拭いてあげると、やっとほっとしたように清さんが弱々しく微笑んだ。
「気持ちいい……」
そんなにうっとり言わないでよ。なんかイケナイ気持ちになりそう。でも流石に病人相手に乱暴な事は出来無いので、刺激的な体を隠すように新しい浴衣を着せた。
冷めた葛湯を飲んで咳は少しマシになったみたいだけど、熱が高いからかふわふわしてる。
「んー、レセ、ルフロワディル……」
「……日本語で頼む」
「粗熱をとる。そうだね、ショコラやグラセを冷やすときは熱いボウルを氷水で冷やすね」
「いやぁ、俺菓子じゃねぇから」
流石に氷風呂には入れちゃいけないよね。じゃあ他に手っ取り早く熱を下げる方法と言えば。考えろ、僕。
ふとさっき通ってきた作業場を思い出した。僕の店の冷蔵庫も大きいが、ここの冷蔵庫はものすごく大きい。前に寒天冷やすときに奥のをとるのに体ほとんど入った。
「清さんの店の業務用冷蔵庫大きいよね?」
「……まさか俺を冷蔵庫で冷やそうと思ってる?」
そのまさかだけど、駄目……みたいだね。無言で首振りながら後ずさってるよね。気のせいか目が涙を溜めているようにも見える。
「冗談だよ」
「いや、本気の目だった」
バレたか。
誤魔化す様にオデコに手を当てると、清さんは目を閉じて僕のもう一方の手もとって自分の頬に当てた。少し伸びた髭の感触がざらっとしてて、胸の奥がきゅっとなった。
「有紀の手はひんやりして気持ちいいな」
目を閉じた安心しきった顔で。そんな甘い声で。
ああ、ドキドキする……。
「え、えと……そう、待ってて、タオル冷やして来るね」
ずーっと触れていたかったけど、僕が胸のドキドキを隠すみたいに立ち上ると、少し名残惜しそうに清さんの手も離れて行って、更に鼓動が早くなった気がする。僕まで熱が出そうだ。
氷水でタオルを絞っていて、僕はふと思いついた。
そうだ、中から冷やした方が熱が下がるんじゃないかな?
食欲が無いって何にも食べていないみたいだし、何か口に入れたほうがいいよね。熱い時に食べたいもの。さっぱりしてて冷たくて……。
僕のリュックには袋にいっぱいの採れたてフランボワーズ。
清さんに水分をとらせて、タオルを頭にのせると僕は台所に戻った。
勝手に冷蔵庫を開けると、この前僕が持ってきたシャンパンが入っていた。後は……ゼラチンは無くても粉寒天があるし、さっき使った葛もある。レモンも無いけど果実の酸味とシャンパンの風味が強いから大丈夫かな。
ミキサーは使わずに木杓子で叩くようにフランボワーズを潰す。鍋で水に砂糖を溶かし、粉寒天も少し。溶けたら少し冷まして潰したフランボワーズとシャンパンを入れる。
パチパチしゅわしゅわいう、シャンパンの泡の音が心地いい。ふわりとたつ甘酸っぱい香り。軽く掻き混ぜて容器に入れて冷凍庫に。
後は数時間置いておく。出来れば途中でトラヴァイエしに来よう。
温かくなっただろうタオルをもう一度冷やそうと、僕が戻ると、清さんは穏やかな顔でうとうとしていた。良かった、少し顔色も良くなったみたい。
僕はじっとしてるのが苦手で、いつもはぼうっと待ってるのも退屈なのに、不思議と清さんの顔を見ているとそんなの気にならない。ただずっとこうして眺めていたい。
ちょっと固めの短い髪。生え際を撫でると眉がぴくって動いた。起しちゃったかなと思ったけど微睡んだまま。その口元に微かに笑みが浮かんで、またぎゅっと胸を掴れたみたいな気がした。
あの時見た笑顔。幸せな気分の顔。僕は清さんとこうして一緒にいると幸せだけど、清さんもそう思ってくれてるのかな。
少し苦しそうな息遣い、吐く空気さえ熱い気がする。
しばらく清さんを飽きずに見てて、一度冷凍庫に掻き混ぜに行った。流石に業務用だからすでにかなり固まってた。
タオルをまた換えてあげると、少し息が楽そうになってた。でもまだ熱いな……。
今日も僕は仕事で立ちっぱなしだったし、自転車も漕いで来たからちょっと足が疲れた。思わず横に寝転ぶと、熱い手が僕の手首を掴んだ。
「ゴメン。起しちゃった?」
「……冷たくて気持ちいい……」
あーっ、そのかすれた声! 薄っすらだけ目を開けてる顔がたまらない。
そういや、前に病院で僕は体温が低いって言われた。平熱でも三十六度無い。だから冷たくて気持ち良いのかな?
じゃあ、密着しちゃえばじわりじわりと冷やしてあげられるんじゃないだろうか。
そういうわけで、上半身脱いで布団に潜りこんでみた。うわ、熱い。
「なぜ脱ぐ?」
「ん? 人間水まくら。僕が清さんを冷やしてあげる」
腕枕して、ぴっとりくっついてみた。湯たんぽを抱いてるみたいなホカホカ清さん。
「どう? 気持ちいい?」
「ん……」
あれ? なんか照れてる? こういう時この人が可愛くて仕方なくなっちゃうんだ。
唇に軽くキスする。ここも冷やしてあげるね。
「風邪、うつるぞ?」
「いいの。ばい菌だってなんだって、清さんからだったら何でももらう」
もう一度深く深く口を重ねた。いつもより熱い舌、上顎を舐めるとまたぶるっと清さんが震えた。少し離れると追いかけてくる唇。
堪らない……つい夢中になって貪るようにキスを続けると、腕が僕を絡めとるように首に回った。腕も熱い、唇も、何もかも。僕の中にも熱が生まれるみたいに体の奥が疼いた。
ついそのまま首筋にも吸い付いたけど、はぁ、と小さく漏れた吐息にハッとした。いけない、無理させちゃ悪くなる。
でも僕を捕まえてる腕は離れなくて。切ない目が見上げてて。
「無理しない方がいいよ?」
「もう……我慢出来ない……」
そんな事言われたら、僕だって我慢出来無いじゃないか! もう清さんが欲しくて欲しくて、その熱も全部僕に欲しくて。
流石に最後まではしなかったけど、思ったよりぐったりしてない清さんにほっとした。
体から熱が汗や何かと一緒に出たのかもしれないと二人で笑った。
もう一度清さんの全身を綺麗に拭いて、僕はシャワーを浴びさせてもらって、すっかり着替えも済んだ。時計を見るともう三時間も経っていた。
「そろそろ出来たかな?」
「何が?」
「ふふ、元気が出るお薬」
すっかり固まったグラスリーは、綺麗な濃いピンクに仕上がっていた。
荒く潰したフランボワーズの鮮やかな濃紅が、マーブルみたいに上品。大き目の匙で削るように器によそうと、シャンパンの気泡が小さく弾ける音がする。
「はい、あーんして」
スプーンですくって口元に持って行くと、清さんが小さく口を開いた。そっと口に入れてあげると、しばらくしてまた清さんの顔にふわんとした笑顔がのぼった。
「冷たくて、甘酸っぱくて美味い」
「グラスリー(氷菓)を作ってみたんだ。ソルベフランボワーズだよ」
サッパリしていて喉越しがいいからか、清さんはもう一口食べてくれた。
僕も食べてみたけど、代用の材料でも充分舌触りもよく上手に出来ていた。シャンパンとフランボワーズはとても相性がいい。少し大人の味がする……清さんみたい。
「何か色っぽい味がするな。しゅわしゅわするな」
「シャンパンが入ってるから。大人っぽい味でしょ?」
食べ終えると、少し清さんの熱も下がった。体の中から冷やしてビタミンもたっぷり取れるから、こういう時はソルベはいいかもしれない。
「少し元気そうになってよかった」
「汗かいたら早く治るんだよ」
「みたいだね。最初に蒸しちゃったしね」
「殺されるかと思ったけどな。お前、本当に風邪ひいたことないんだな」
「うん」
「馬鹿は風邪ひかないって……本当なのか。だが知らんぞ、思いきり風邪を口移しだ」
何か聞えた気がするのは気にしない。
清さん、ずっとすっと一緒にいたいから、早く元気になってよね。
……でもやっぱり清さんからうつった風邪で、僕が寝込んだのは二日後の事だった。
今度は僕が看病してもらったけどね。
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