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全てを一つに
お城にさようなら
しおりを挟む平気かなと思ってたけど、僕はいつの間にか眠って(気を失って?)しまってたみたいで、気がつくとふかふかのベッドに寝かされていた。
灯りがついていて明るい部屋は、一階下の部屋みたい。
最初に顔を見たのはフィランさんだった。
「あれ……まだお城?」
「うん、動かせそうに無かったから。本当は城付きの治癒魔法を使う医者に見せたかったけど……」
「騒ぎになると厄介だから、そんなに得意じゃないけど私と王子でなんとかしてみた。リンドが早く処置してくれてたから助かったし。傷は塞がったと思う。だけど血の気が足りないかも」
この声はお姫様っ?
「部屋に入った瞬間の悲鳴は城中に聞えそうだったぞ」
「だって、そろそろ上手く行ったかなと確めに行ったら、血だらけのシスは目を覚まさないし、男二人泣きながらおろおろしてるし。あれでリンドとルイドがいなかったら、私が羽根男とヘタレ王子を斬り捨ててたわよ」
そうですか、そんな事になってましたか……。
何だかすっかりお姫様とフィランさんが馴染んでるね。
フィランさんもお姫様から見たら、面倒でも助けたくなる対象なんだろうな。お姫様って人を構うの好きだし、懐かれるし。
起き上がっても傷は確かに痛まなかった。でもくらっとする。
「ええっと、お姫様はどうしてここに?」
「お客として堂々と王にお招きいただいたのよ。夕方からいるわ」
わあ、女らしい綺麗なドレス姿のお姫様久しぶりに見た。えっと、横の美人のお姉さんは?
……う、この顔は知ってる。
「マルクさん、ラルクさんのどっち?」
「……酷いなぁ、マルクの方だよ」
ひゃあああ。なんで女の人になってるのっ? すっごい似合うけど。
「え? 侍女では無いのか?」
すっかり騙されていたらしいフィランさん。
「貴方に顔を覚えられていてはまずいと思っての変装です」
「ああ、そういえば一緒にいた双子……」
フィランさんはかなり落ち着いたみたいでほっとした。
僕が眠っている間に、お姫様達と話をしていたみたいで、それはまだ続いているよう。
「王もアトス様もシスの存在には気がついていない。皆が気がつけば大変な騒ぎになってしまうわ。あなた、一応お世継ぎの王子なわけだし。だから夜が明ける前に来た時同様、空から逃がしてやってちょうだい」
「でも……」
お姫様の言葉に、フィランさんが俯いた。そんなに歳が違わないけど、お姫様の言葉は素直に聞いてるみたい。
一生懸命話をしているので、そちらはお姫様に任せるとして、僕は部屋を見回した。流石にルイドはいないけど、ユシュアさんやリンドさんもいない。起きるのに手を貸してくれたマルクさんに尋ねてみた。
「ユシュアさんは?」
「上で待ってるよ。明るい所で姿を見られたく無いって。リンド様とお兄ちゃんは先に外に出て、ラルク達と合流してる」
そっか。ユシュアさん、やっぱり気にしてるんだね。早く呪いを解いてあげないと。
「私は別にいいと思うんですけど。いいよねあの羽根。カッコイイ」
「でしょ?」
マルクさんが賛同してくれたのでちょっと嬉しい。
「あ、そうだ。まだ夜は明けてないよね? もし飛んで出るなら夜明け前で無いと羽根が消えちゃう」
わぁ、僕の馬鹿~! 暢気に寝てる場合じゃ無いじゃない。
「その事なんだけど……」
マルクさんが耳に口を寄せたのでひゃっとなったけど、フィランさん達に聞かせたくなかったのかもしれないので我慢した。
「聖者様からもらった変身を抑えるお守りを破ってしまったから、もう日の光を浴びても戻れなくなってしまったって……」
「え? 戻れないの?」
そうなんだ。じゃあ昼間でもあのまんまって事?
「あのように優しいしっかりした人だから、私達は気にしませんが、あの姿を魔物と恐れる人は大勢います。迫害も受けるでしょう。それでもいいの? シスは」
「全然いいよ? だって好きだし」
人目に触れるのが嫌なら一緒に隠れてればいいもん。
えへへ~。あの素敵な羽根と嘴が昼間でもっ。
……って喜んでる場合じゃないな。そっか、見る人によってはあれを怖がったり魔物と蔑む人もいるんだよね。フィランさんも魔物だって言った。それはユシュアさんが傷ついちゃうね。
マテ。そうだ、呪いが解ければいいんじゃない。僕はもう本当の名前を知ってるもの。後は、まだ課題が終わってないって言ってたからそれさえ済めば。
「大丈夫。僕が元に戻せるから」
「そうなんだ。全部思い出したんだね、シスは」
「うん。もうバッチリ。頭も痛くならないし」
ナデナデ。ああ、なんだかこのマルクさんのナデナデは久しぶりな気がする。こう、お母さんみたいなんだよね。お兄ちゃんっていうよりは。
「歩けそう?」
「うん、平気」
なんかふわふわはするけど、ちゃんと立って歩ける。
早くユシュアさんのところに行きたい。折角迎えに来てくれたんだもの。一人ぼっちで置いておくなんて嫌。
「本当に行ってしまうのか?」
フィランさんがこっちに手を伸ばしかけてやめた。横でお姫様が思いきり睨んでるもんね。
「僕、生きてるんだし。いつだって会えるよ? だから今は行かせて」
「……本当にまた会える?」
「うん、会えるよ」
今度は僕からぎゅーってした。イマイチ力入んないけど。
この何日か、ずっとずっとぎゅーってしてくれた、お兄ちゃん。
最後はやっぱり怖かったけど、でも結構優しかった。
前に僕がフィランさんに似てるって言われた時は嫌だったけど、今は嬉しい。似てて当たり前なんだよね。だってお母さんが一緒なんだから。
「本当は上の王子様にも逢ってみたかった。フィランさんのお兄さんってことは、血の繋がりは無くてもお兄ちゃん。だから大事にして」
「……うん。そのうち会ってあげて」
良くない事をしちゃったみたいだけど、本当は嫌いじゃないと思う。本当に嫌いなら、心が痛くなったりしないはず。だから……信じてる。僕がこの人の心を壊してしまったかもしれないけど、バラバラにはなってない。だから大丈夫だよね?
「絶対また逢えるから」
「約束して」
悲しい顔のフィランさんとお姫様を残して、マルクさんと部屋を出た。
「さ、ユシュアさんが待ってる」
階段の突き当たりのステンドグラスに、ランプの灯りが反射する。
「この絵を見てルイドを思い出したの」
「大聖者様と白い鳥の聖者ホス様、若葉は芽吹きの聖者ジーヘ様の絵ですね。でも大聖者様はもっとお美しい」
マルクさんが説明してくれた。鳥も若葉も聖者様なのか。って!
「マルクさん、大聖者様に会った事あるの?」
「ふふふ、秘密」
やっぱりこの人は謎だな。
ドアを開けると、ユシュアさんがバルコニーに立ってた。
「シス、大丈夫なのか?」
「うん。もう傷塞がったって」
駆け寄ってぎゅってすると、ユシュアさんの目が微笑むように細くなった。はああ、やっぱり素敵……。
「さ、早く。後は私と姫様に任せて」
「すまない。本当にありがとう」
ユシュアさんは跪いてマルクさんの手の甲に軽く口付けた。
「嘴でゴメン。これはラルクにしてもらったお礼」
「ふふ。勿体無い。その素敵な嘴と羽根がすぐ無くなっちゃうなんて」
また、謎な言葉でマルクさんが微笑む。
「シス、きっと上手く行くって言ったでしょう?」
「うん。本当に」
ユシュアさんにお姫様抱っこされて、恥ずかしかったけど身を任せた。
「飛ぶよ、シス」
「うん」
ユシュアさん、大好き。
みんな大好き。
彼方の地平が金色の光に染まりかけた頃、僕達は空に飛び立った。
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