僕に翼があったなら

まりの

文字の大きさ
上 下
42 / 86
旅の空

きっと上手く行く

しおりを挟む

 色んな事が頭の中をぐるぐるしてて眠れない。
 ルイドとリンドさんの告白も、弓矢の事も、ユシュアさんと一緒にいられなくなるかもって事も。
 でも、今一番気になるのはユシュアさんにナデナデされた時に、誰を思い出しそうになったんだろうって事。それは僕にとって、多分すごくすごく大事な事なんだって思う。
 一つだけわかっているのは、いつも夢で見るあの人だという事。でも夢から覚めたら顔も名前も忘れてしまう、あの人。
 一生懸命思い出そうとすると、また苦しくなってきた。
『まだ早い』
 誰かが心の中で箱の蓋を閉めてしまう。
 また酷く頭が痛くなって枕に顔を埋めた。声を出したら折角寝てる皆を起してしまうといけないから。
「シス?」
 誰かがそっと僕の肩に手を触れた。顔を上げると、双子のどっちか……たぶんマルクさんの方だった。
「起こしちゃった? ゴメンなさい……」
「眠って無かったよ。どうしたの? また苦しいの?」
「ううん……大丈夫……」
 一応言ってみたけど、ホントは結構キツイ。それはマルクさんにはお見通しだったみたい。ラルクさんとリンドさんをうかがう様に見渡してから、そっと僕のベッドに入って来た。
「あまり思い詰めちゃ駄目だよ」
 細い指が僕の髪を梳くように撫でる。とても気持ちいい。
「大事な事……思い出しそうなの。でももう少しのところで頭が痛くなる。まだ早いって誰かに言われてるみたいに……」
 小さな小さな声でお話しする。こうやって誰かの体温が傍にあると落ち着く気がする。
「まだ早いって事は、その時が来れば思い出せるって事だよ。だから今は少し忘れてた方がいいんだよ。ね? 君が苦しむのは見たくないよ」
 そっか……そうだよね。そう言われると何だかすぅっと楽になった。言ってみるものだね。
「ねえ、シスはあの人の事本当に好きなんだね?」
「ユシュアさん?」
「うん。正直に言うとね、君が誰かに恋をしたってわかった時……私はちょっと面白くなかった。とても悲しい君の声が聞こえたから」
「悲しい?」
 僕の声が聞こえたんだ。マルクさんがそういう力があるのを知ってるから今更驚かないし、別に嫌じゃ無いけど……僕は心の中で悲しんでいたんだろうか。
「君を悲しませるなんて、どんな奴なだろうってすごく心配したけど、今はあの人なら許せる気がする。とてもいい人みたいじゃない。あの人もシスの事とっても好きだよ。なのに何故、叶わない恋だって思うの? 何が悲しいの?」
「うーん……それは……」
 どうしようかと思ったけど、眠くもならないし後の二人も寝てるみたいだから、二人でベッドの上に座って、ユシュアさんの事を話した。
 夜になったら変身しちゃうから触れられない事、その呪いを解くために色んな事をしながら旅をしてる事、運命の人を探してるという事。
「……僕がその運命の人なら良かったのにって思ったら悲しくなって……今は傍にいるだけで幸せだけど、その人が見つかったときにはお別れしなきゃいけないかもって……だから」
 窓から差し込む月の光で、ぼんやり浮かんだマルクさんの綺麗な顔が少し悲しげに見えた。
「シス、ぎゅってしていい?」
「うん。して」
 優しくぎゅってされると、ほっとする。何ていうのかな、ルイドやお母さんといる時みたいな感じ。
「やっぱり許せないかも。可愛い君をこんなに悩ませるなんて」
「でも仕方ないもん……」
「わかってるよ。邪魔したりしない。大好きだからね、シス。私もラルクも恋とは違って君が好き。言ったでしょう? お兄ちゃんだから。それにね、何て言ったらいいのかな、私はいつか全てが上手く行くような気がする。不思議とね」
 ふふっと小さな声でマルクさんが笑った。
「慰めじゃないけど……一つだけ教えてあげる。あの人……前はシスと同じ世界の人だったのかも。似てるよ、君達は」
「え?」
「だから諦めないで。今すぐでなくても、きっと上手く行くよ。大事な記憶も時が来れば思い出せる。本当に君があの人の運命の人かもしれないのだから」
 嘘でも嬉しい。もしそうなら……ありがとう、マルクさん。心のつかえがほんの少し軽くなった様な気がする。
 その後も少しお話してて、知らない間に僕は眠ってたみたい。
 寝てると思ってた後の二人も実は起きてて、ずっと聞き耳を立てて、リンドさんなんか泣いてた事、ユシュアさんとルイドもあんな事があったからほとんど寝てない事を知ったのは朝になってからだった。


 皆揃って寝不足の朝。
 正直食欲も無いけど、とりあえず朝食に食堂に行くと、ユシュアさんが待ってた。笑顔が眩しいよぉ。
「あれから変わった事は無かった?」
「うん。そっちは大丈夫だった?」
「何も無かったよ。お兄さんはもう少し寝かせておいてあげて」
 何時もは日暮れと共に眠くなって、日が昇ると同時に起きるルイドが夜寝ないほど緊張してたんだね。ゴメンね、みんな……。
 昨夜宿のおばさんに聞いた弓矢の犯人らしき人の正体を話すと、ユシュアさんの笑顔が消えた。
 そしてやっぱりリンドさん達と同じ事を言った。
「この国から出た方がいいかもな」
「……私達もそう言ったのだが……」
 リンドさんが困ったように僕の方を見る。
「シスはあなたと離れたくないんですよ」
 マルクさんが僕の代わりに言ってくれた。
「オレだって……でもシスを危ない目に遭わせるのはもっと嫌だ。出来ればトトイに連れて帰ってやって欲しい」
「そんなのって……!」
 せっかく一緒に居たい、諦めないって思ったばっかりなのに。
「ずっとじゃ無くてもいいから。きっと向こうも諦めると思うんだ」
「……でも……」
 うう、なんか涙出そうになってきた。
 皆に迷惑を掛けないためには、そうすれば一番いいんだってわかってるけど、でもでも……いま離れたらもう二度と会え無い気がする。
 もしもその間に探してる人がみつかったら?
「な、泣かないでくれよ」
 ユシュアさんがすごく慌ててる。
「泣いてないもんっ」
「思いきり泣いてる顔だよ、シス」
 双子が呆れている。
 僕泣いてなんかいないのに……わあん、やっぱり涙出てるぅ。
「じゃあ、こうしよう。皆でシスを守るって言うのはどう?」
 リンドさんが意見を出した。
「ユシュア君の邪魔はしない。私達は離れてついて行くから」
「見守る会ですからね。あと会員はお兄ちゃんもいるし」
 それは、このまま一緒にいてもいいって事なの?

 でも、見守る会って何?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...