26 / 86
籠の鳥
夜が明けたら
しおりを挟むこの声は……。
「お兄ちゃん?」
怖くて目を閉じてたけど、お尻に当るモノも腰を押さえてた王様の手も無くなった。
代りにばさばさっていう羽根の音と、どかんっ、とぶつかる音がして、目を開けて振り返ると、まず白い翼が見えた。飛んでいった王様の足も。
……こんなの、前にもあったような。
「ルイド? どうして……」
ばーん!
ルイドが答える前に、今度は部屋の扉が激しく音を立てた。
「シスっ! 無事か!?」
ええっ? リンドさん?
だけじゃない。ばたばたと大勢の足音が。
僕こんな格好で……!
慌てて体を起そうとしたけど、膝が震えて、お酒のせいもあってか仰向けになるのがやっとだった。弄られてたお尻がまだ気持ち悪い。
横ではルイドが王様に襲い掛かっていた。
「弟に何する! 何だ、この黒いデカイのは。こうしてやるっ!」
ルイド……本能はわかるけど、なぜいつもソコを狙う……。
「いいわよ、どんどんつつきなさい!」
こ、この声はお姫様?
「大丈夫か?」
リンドさんにそっと起されると、部屋の中は大変な事になっていた。
うーんと……まず、僕の背中を起してくれたリンドさんがいるでしょ。王様は気を失ってるのか、床でほとんど裸で大の字でひっくり返ってるでしょ。で、お姫様がそれを冷めた目で覗き込んでるでしょ。ルイドはその横で王様のアレをつっついてるでしょ。マルクさんとラルクさんまでいる。僕に服を掛けてくれたよ。
窓壊れてるね。テーブルもひっくり返ってるし、扉全開だし。
何がどうなってるのか、さっぱりわからないんだけど。
「……あり?」
「あり? じゃないよ。痛いの? ふらついてるし辛そうだけど……」
マルクさんが心配そうに僕の顔を拭いてくれた。涙出てたみたい。
「えっと、これは酔ってるから?」
「お父様ったら!」
あのぉ、お姫様久しぶりに見るけど何でここに? ルイドもどう見ても魔法に掛かってる様に見えないね。お姫様、魔法を解いてくれたの?
「人間のこれは噛み噛みしやすくていいな」
わあ、ルイド咥えて引っ張ってるね、王様のアレ。気に入っちゃった? 思わず、姫様を除く皆で自分のを隠す。リンドさんは知ってるもんね、同じ目にあってるから。
「はっ! な、何じゃ? 鳥っ?」
あ、王様が目を覚ました。
「これっ! は、放さんかっ! もげるっ! 大変な事になるっ!」
王様が大変なので僕は止めようとする。
「ルイド、もげたら大変だからもう放してあげて」
「もうちょい、楽しませろ」
でもお兄ちゃんは止まらない。
「おおおおおおぅ!」
あ、王様の……出た。
僕は今自分の部屋のベッド。
頭ががんがんしてフラフラで足が立たなくて、リンドさんに抱えられてお風呂で洗ってもらった。髪とかベタベタだったし。
服をちゃんと着せてもらって、酔い覚ましのお薬という苦いのを飲まされると、少しすっきりした。
「王様、怒ってるでしょ?」
「大丈夫。今、姫様が話をしてるから。心配しなくていいよ」
リンドさんにふわっと抱きしめられて、胸が痛くなった。何でだろ……。
「すまなかった」
リンドさんの声は震えてる。泣いてるの?
「なんで謝るの?」
「いっぱい嫌な思いをさせて……本当に悪かったと思ってる」
ルイドの事? それとも王様が最後にした事? でも王様と約束したのは僕だし、あれ以外は優しかったよ。
「僕……王様との約束守れなかった」
「いいんだ。ほら、もう『お兄ちゃん』も自由になったし」
うん、まあ……ルイド、そこにいるけどね。
王様の部屋の窓を突き破って入ってきたルイドは、王様を吹っ飛ばしてアレをさんざんつついてひっぱった後、僕についてきた。腰を抜かしたおばさんを追い出し、狭い部屋の入り口をぎゅううっと通って、今部屋の隅で寝てる。隅といってもかなり場所とってるけど。
お姫様が魔法を解いてくれたのはわかった。マルクさんとラルクさんが頼んでくれたんだって言ってた。それは嬉しいけど……。
「約束を破るのは悪い事なんだよ」
「……ああ、そうだな。本当にごめん……」
別にリンドさんを責めたワケじゃないんだけど。
「でもシスは王の所にちゃんと行った。止めなかった私が悪いんだ。何をされたかは知らんが怖かっただろ? まさか酔わせて襲うなんて、王がそこまで酷い事をすると思わなかった」
んと……誤解されてるよね、王様。ちゃんと話してあげなきゃ。
「酷い事なんか無いよ。王様、優しく色々教えてくれたもん。人間は人を食べないとか、オスは卵産まないとか。あとね、どういうのが気持ちいいか教えてくれたの。抱っこやちゅっちゅするのは嫌いじゃないし、すりすりして僕から白いの出してくれたし、ぺろぺろして王様のも出してあげたら顔にかかって、口に入っておえってなっちゃったけど、それでお酒飲んで酔っぱらっちゃったのは僕のせいだし。寝てたらお尻に指突っ込まれてくちゅくちゅされたのは、正直気持ち悪くて痛くて泣いちゃったし、さすがにあの大きいの入れられそうになったのは怖かったけど……」
「ちょ、ちょ、ちょい待てっ! そこまで詳しく話さなくていいっ!」
リンドさん、顔がまた赤くなってる。
「えっと、とにかく王様は酷くないよ?」
「……いや、イかせた挙句、口でさせるとか顔面にかけるとか、充分えげつない。待ってろ、私も姫様と一緒に王と話をしてくる」
赤くなったり怒ったり忙しいね、リンドさん。
部屋を出て行くのを見届けると大きな溜息が出た。なんだかわからないけどすごく疲れた。
ベッドから降りてルイドにくっついた。こうするとホッっとする。
「ルイド、寝てる?」
「ん? 茶色頭は出てったのか?」
茶色頭……リンドさんの事そう呼んでるのか。ルイドはリンドさんの事は悪く思っていないようだ。森で助けてくれたのを覚えてるから。だから一緒にいても怒らなかった。
「うん。魔法解いてくれたのはいいけど、あのお姫様達がルイドに逃げられないようにしたんだよ。何で一緒に来たの? すぐに逃げられたのに」
ルイドは首を上げて、僕の頭をかしかしってした。
「お前を置いて行けるわけ無いじゃないか。あのメスは俺に泣きながら謝った。そして話してくれた。お前が俺をもう一度自由に飛べるようにするために、自分を犠牲にして王とやらの所に行ったって。そうさせたのは全部自分達人間が悪いのはわかってる、でも、シスを助けるのに力を貸してって」
……泣きながら謝った……お姫様が。
「あれ? でもルイド、お姫様の言葉わかるの?」
「魔法というのか? ぼうっとするのを治す代わりに、もう一つ掛けられたみたいだ。人間の言葉がわかるのを」
それっていいのか悪いのかわからないけど……。
「とにかくさ、俺は人間を信用はしないが、今回の事はもう怒ってない。シスも許してやれ」
「うん。ルイドがいいなら……」
う~ん、お兄ちゃんにそう言われるとは思ってなかった。
「じゃあ王様は? 僕は怒ってないよ」
「シスがいいってんならいい。もうつついてやったし」
白い首に抱きつくとふわふわしてて、やっぱりお兄ちゃん好き。
「ルイド大好き。僕、お兄ちゃんが飛ぶのを見たいよ。ねえ、今はまだ暗いから上手く飛べないけど、日が昇ったら帰ってね」
「帰れってお前……お前はどうすんの?」
「僕は行けないよ。飛べないもの」
ルイドはふるふるっと首を振った。
「お前だけ置いていけない。それに巣立った今、もう帰る所なんか無いんだ。なあ、一緒に行こう、どこか遠くへ。俺、お前くらいなら乗せて飛べるぞ」
「え……」
二人で遠くへ。考えてなかったワケじゃないけど、そう言われると胸がドキドキした。
元々、王様が乗るために捕まえられたんだもの。僕だったら王様より軽いからルイドも平気かも。
「僕も行きたい。一緒に」
「決まりだ。夜が明けたらそこの窓から行こう」
王様、お姫様、リンドさん、マルクさんにラルクさん。
僕、行っていい?
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル
こじらせた処女
BL
とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。
若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
騎士の成り損ないと言われた僕は王子の騎士(恋人)に成りました
クロユキ
BL
騎士の家系に生まれた四男兄弟の中で三男のロイは騎士としての素質がなく、兄弟から才能が無いと言われる日々。
騎士としての才能が無くても騎士の家系に生まれたからには騎士に勧めと言われ家を離れ騎士寮へと住む事になったロイの生活が始まった。そんなある日一人の王子が二階の窓から飛び降りてきた!
更新が不定期ですが皆様に読んで貰えたら嬉しいです。
誤字脱字がありますが気にしないよと言って貰えると助かります。ヨロシクお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる