僕に翼があったなら

まりの

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籠の鳥

夜が明けたら

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 この声は……。
「お兄ちゃん?」
 怖くて目を閉じてたけど、お尻に当るモノも腰を押さえてた王様の手も無くなった。
 代りにばさばさっていう羽根の音と、どかんっ、とぶつかる音がして、目を開けて振り返ると、まず白い翼が見えた。飛んでいった王様の足も。
 ……こんなの、前にもあったような。
「ルイド? どうして……」
 ばーん!
 ルイドが答える前に、今度は部屋の扉が激しく音を立てた。
「シスっ! 無事か!?」
 ええっ? リンドさん?
 だけじゃない。ばたばたと大勢の足音が。
 僕こんな格好で……!
 慌てて体を起そうとしたけど、膝が震えて、お酒のせいもあってか仰向けになるのがやっとだった。弄られてたお尻がまだ気持ち悪い。
 横ではルイドが王様に襲い掛かっていた。
「弟に何する! 何だ、この黒いデカイのは。こうしてやるっ!」
 ルイド……本能はわかるけど、なぜいつもソコを狙う……。
「いいわよ、どんどんつつきなさい!」
 こ、この声はお姫様?
「大丈夫か?」
 リンドさんにそっと起されると、部屋の中は大変な事になっていた。
 うーんと……まず、僕の背中を起してくれたリンドさんがいるでしょ。王様は気を失ってるのか、床でほとんど裸で大の字でひっくり返ってるでしょ。で、お姫様がそれを冷めた目で覗き込んでるでしょ。ルイドはその横で王様のアレをつっついてるでしょ。マルクさんとラルクさんまでいる。僕に服を掛けてくれたよ。
 窓壊れてるね。テーブルもひっくり返ってるし、扉全開だし。
 何がどうなってるのか、さっぱりわからないんだけど。
「……あり?」
「あり? じゃないよ。痛いの? ふらついてるし辛そうだけど……」
 マルクさんが心配そうに僕の顔を拭いてくれた。涙出てたみたい。
「えっと、これは酔ってるから?」
「お父様ったら!」
 あのぉ、お姫様久しぶりに見るけど何でここに? ルイドもどう見ても魔法に掛かってる様に見えないね。お姫様、魔法を解いてくれたの?
「人間のこれは噛み噛みしやすくていいな」
 わあ、ルイド咥えて引っ張ってるね、王様のアレ。気に入っちゃった? 思わず、姫様を除く皆で自分のを隠す。リンドさんは知ってるもんね、同じ目にあってるから。
「はっ! な、何じゃ? 鳥っ?」
 あ、王様が目を覚ました。
「これっ! は、放さんかっ! もげるっ! 大変な事になるっ!」
 王様が大変なので僕は止めようとする。
「ルイド、もげたら大変だからもう放してあげて」
「もうちょい、楽しませろ」
 でもお兄ちゃんは止まらない。
「おおおおおおぅ!」
 あ、王様の……出た。


 僕は今自分の部屋のベッド。
 頭ががんがんしてフラフラで足が立たなくて、リンドさんに抱えられてお風呂で洗ってもらった。髪とかベタベタだったし。
 服をちゃんと着せてもらって、酔い覚ましのお薬という苦いのを飲まされると、少しすっきりした。
「王様、怒ってるでしょ?」
「大丈夫。今、姫様が話をしてるから。心配しなくていいよ」
 リンドさんにふわっと抱きしめられて、胸が痛くなった。何でだろ……。
「すまなかった」
 リンドさんの声は震えてる。泣いてるの?
「なんで謝るの?」
「いっぱい嫌な思いをさせて……本当に悪かったと思ってる」
 ルイドの事? それとも王様が最後にした事? でも王様と約束したのは僕だし、あれ以外は優しかったよ。
「僕……王様との約束守れなかった」
「いいんだ。ほら、もう『お兄ちゃん』も自由になったし」
 うん、まあ……ルイド、そこにいるけどね。
 王様の部屋の窓を突き破って入ってきたルイドは、王様を吹っ飛ばしてアレをさんざんつついてひっぱった後、僕についてきた。腰を抜かしたおばさんを追い出し、狭い部屋の入り口をぎゅううっと通って、今部屋の隅で寝てる。隅といってもかなり場所とってるけど。
 お姫様が魔法を解いてくれたのはわかった。マルクさんとラルクさんが頼んでくれたんだって言ってた。それは嬉しいけど……。
「約束を破るのは悪い事なんだよ」
「……ああ、そうだな。本当にごめん……」
 別にリンドさんを責めたワケじゃないんだけど。
「でもシスは王の所にちゃんと行った。止めなかった私が悪いんだ。何をされたかは知らんが怖かっただろ? まさか酔わせて襲うなんて、王がそこまで酷い事をすると思わなかった」
 んと……誤解されてるよね、王様。ちゃんと話してあげなきゃ。
「酷い事なんか無いよ。王様、優しく色々教えてくれたもん。人間は人を食べないとか、オスは卵産まないとか。あとね、どういうのが気持ちいいか教えてくれたの。抱っこやちゅっちゅするのは嫌いじゃないし、すりすりして僕から白いの出してくれたし、ぺろぺろして王様のも出してあげたら顔にかかって、口に入っておえってなっちゃったけど、それでお酒飲んで酔っぱらっちゃったのは僕のせいだし。寝てたらお尻に指突っ込まれてくちゅくちゅされたのは、正直気持ち悪くて痛くて泣いちゃったし、さすがにあの大きいの入れられそうになったのは怖かったけど……」
「ちょ、ちょ、ちょい待てっ! そこまで詳しく話さなくていいっ!」
 リンドさん、顔がまた赤くなってる。
「えっと、とにかく王様は酷くないよ?」
「……いや、イかせた挙句、口でさせるとか顔面にかけるとか、充分えげつない。待ってろ、私も姫様と一緒に王と話をしてくる」
 赤くなったり怒ったり忙しいね、リンドさん。
 部屋を出て行くのを見届けると大きな溜息が出た。なんだかわからないけどすごく疲れた。
 ベッドから降りてルイドにくっついた。こうするとホッっとする。
「ルイド、寝てる?」
「ん? 茶色頭は出てったのか?」
 茶色頭……リンドさんの事そう呼んでるのか。ルイドはリンドさんの事は悪く思っていないようだ。森で助けてくれたのを覚えてるから。だから一緒にいても怒らなかった。
「うん。魔法解いてくれたのはいいけど、あのお姫様達がルイドに逃げられないようにしたんだよ。何で一緒に来たの? すぐに逃げられたのに」
 ルイドは首を上げて、僕の頭をかしかしってした。
「お前を置いて行けるわけ無いじゃないか。あのメスは俺に泣きながら謝った。そして話してくれた。お前が俺をもう一度自由に飛べるようにするために、自分を犠牲にして王とやらの所に行ったって。そうさせたのは全部自分達人間が悪いのはわかってる、でも、シスを助けるのに力を貸してって」
 ……泣きながら謝った……お姫様が。
「あれ? でもルイド、お姫様の言葉わかるの?」
「魔法というのか? ぼうっとするのを治す代わりに、もう一つ掛けられたみたいだ。人間の言葉がわかるのを」
 それっていいのか悪いのかわからないけど……。
「とにかくさ、俺は人間を信用はしないが、今回の事はもう怒ってない。シスも許してやれ」
「うん。ルイドがいいなら……」
 う~ん、お兄ちゃんにそう言われるとは思ってなかった。
「じゃあ王様は? 僕は怒ってないよ」
「シスがいいってんならいい。もうつついてやったし」
 白い首に抱きつくとふわふわしてて、やっぱりお兄ちゃん好き。
「ルイド大好き。僕、お兄ちゃんが飛ぶのを見たいよ。ねえ、今はまだ暗いから上手く飛べないけど、日が昇ったら帰ってね」
「帰れってお前……お前はどうすんの?」
「僕は行けないよ。飛べないもの」
 ルイドはふるふるっと首を振った。
「お前だけ置いていけない。それに巣立った今、もう帰る所なんか無いんだ。なあ、一緒に行こう、どこか遠くへ。俺、お前くらいなら乗せて飛べるぞ」
「え……」
 二人で遠くへ。考えてなかったワケじゃないけど、そう言われると胸がドキドキした。
 元々、王様が乗るために捕まえられたんだもの。僕だったら王様より軽いからルイドも平気かも。
「僕も行きたい。一緒に」
「決まりだ。夜が明けたらそこの窓から行こう」

 王様、お姫様、リンドさん、マルクさんにラルクさん。
 僕、行っていい?

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