僕に翼があったなら

まりの

文字の大きさ
上 下
19 / 86
籠の鳥

人間の街を見る

しおりを挟む

「君に刃物を向けるなんて、お芝居とはいえ私達も辛かったんだよ」
 マルクさんかラルクさんのどちらかが言う。悪いけど、ホントまだ二人の区別がつかない。もう何度目だろう、彼らはずっと僕に謝りっぱなしだ。
 ルイドにつつかれた傷が余程酷かったのだろう。綺麗な顔のあちこちにまだ残ってるのが痛々しい。
「二人には怒ってない。僕が許せないのはお姫様だけだよ。あと王様」
 リンドさんもそうだけど、二人が命令されて仕方なくやったのは幾ら僕だって理解出来る。群れのリーダーの言う事は絶対なのは、動物も人間も一緒だもの。下っ端は絶対服従が掟なのだ。
 僕はルイドに会わせてもらった。繋がれてはいなかったものの、魔法は解いてもらえず、無気力なルイドを見てすごく悲しくなった。でもルイドは、僕の事はわかったみたいで、抱きつくと頭をかしかしってしてくれた。
 僕は決めたんだ。お兄ちゃんを守るって。そしていつかルイドの魔法が解けたら、二人で遠くに逃げようって。
 その機会を待つ事にした。もう五日経つけど、その機会はまだ来ない。
 ちょっとイライラしてきたところに、気晴らしにと双子に誘われて一緒に街に出てみる事にした。お城の中ではどこで誰が話を聞いてるかわからないから、外で話した方がいいってリンドさんに勧めてくれた。
 リンドさんはああみえて、実はお城の人の中でもかなり偉い人であるらしく、とても忙しいみたい。
 お姫様は……お城の近くにお姫様だけの家があるそうで、そちらにいる。一度会いに来た時に、絶対に会いたくないって隠れたら、何も言わずに帰っていった。
「姫様も結構反省しておられるのですよ」
 そう双子は言うけど……。
「でもルイドの魔法を解いてくれないじゃない。そうだ、二人は兄弟でしょ? だからわかると思うけど、自分達が僕と同じで、どちらか一人が捕まったらどう思う?」
「……嫌だね。考えたくも無いよ。きっと姫様を恨むね」
 ぶるぶるっと身を震わせたのはどちらだろう。
「そうでしょ? ルイドは赤ちゃんの時から一緒に育った僕のお兄ちゃんなんだよ。大事な兄弟。人間じゃなくても一緒なの」
 僕の訴えに頷きながら、ちょっと涙ぐんでるのはラルクさんの方だろう。顔で見分けはつかないけど、性格がちょっとだけ穏やかなのが弟のラルクさん。ちょっとだけ勝気なのが兄のマルクさんだ。
 しばらく黙って顔を合わせてた二人が、鏡に映したみたいに同時に頷いて、僕の方を見た。
「よし、決めたよ。たかが使用人の私達に何が出来るかはわからないけど、シスのお兄ちゃんを放してもらえるよう、全面的に協力しよう」
「ホント?」
 うんうん、と何度も頷く二人に嬉しくて抱きついた。
「言ったでしょう? シスの人間のお兄ちゃんだもの、私達は。だったらルイドも兄弟でしょ? 兄弟が困ってるのは嫌じゃ無いか」
「ラルクさん、マルクさん……僕、嬉しい!」
 ここ数日で一番嬉しかった。ちょっと変な人達だと思ってたけど、やっぱりいい人なんだね。
「久しぶりに笑ったね」
「やっぱり笑ってる方が可愛いよ」
 また両方からナデナデ。
「じゃあ、街を案内してあげるね。相手を知るにはまず人間の事をよく知らなきゃね。人の生活や考えがわかったら何か思いつくかもしれないよ」
 おおお。さすがはお兄ちゃんだ。僕はすごく感動して、二人と手を繋いで一緒に街を歩いてみた。

 街は賑やか。せいぜい二階までの背の低い石と土で出来た建物がほとんどで、高い建物は見張り台の搭くらいしかないけど、人がいっぱいでいろんな物がある。果物を並べてるところ、綺麗な服を掛けてある所、表に椅子が置いてあって、人が物を食べたり飲んだりしてるところ……。
「店がいっぱいあるだろ? お金で物を買うんだよ」
「お金……」
 何となく思い出した。食べ物や飲み物、服なんかは自分で採ってくるんじゃなくて、お店で買うんだ。お金を払って。この世界も僕の記憶の中にある世界と同じなんだね。
「私達が持ってるから、欲しいものがあれば言ってくれればいいよ」
「お金はどうやって手に入れるの?」
「働くと貰えるんだ。仕事をするんだよ。私達は姫様の使用人だけど、王様からもらっている事になってるね」
「仕事……」
 マルクさんもラルクさんも、そういえば食事の用意やら、掃除やらしてたもんな。あれも仕事だよね。
 二人は色々と教えてくれる。
「仕事といっても色々あるよ。店で物を売ってる人も仕事。畑で野菜を作る人も、それを料理して出す人も。布を織る人もその布で服を作る人も仕事。ほら、あそこで槍を持って角に立ってる衛兵も、街を守る仕事だよ」
 人間ってすごいんだね。そして大変だなぁ。お腹が空いても働かないと食べられないんだね。
「僕もお仕事あるかな?」
「もう少し大人になったらね」
「巣立ったから僕大人なんだよ」
 くすくすっと二人が笑った。何か僕、面白い事言った?
「ほら、いい匂いがするね。ちょっと座って何か食べようか?」
 誤魔化された気がしなくも無いけど……ホント美味しそうなニオイがするぅ。
 串に刺したお肉を焼いてるお店で、マルクさんが慣れた感じで注文してくれた。お店の人は焼けたお肉を薄いパンみたいなのに挟んで、無造作に紙に包んで渡してくれた。あと、果物の匂いのする飲み物。
「美味し~い!」
 初めて食べる味だったけど、ものすごく美味しかった。夢中で食べてると、二人はじっと僕の方を見て手を止めてた。
「何? 何かついてる?」
「いや……あんまり幸せそうに食べてるから、見惚れちゃって」
 変なの。ああ、そうだ。ちょっと暑くなってきた。何故かお城を出るときに二人に頭から布を被せられて、頭隠れてるんだよね。
「ねえ、これ脱いでいいかな? 暑いよ」
「人が多いから……君の髪は目立つよ」
 そう言われてみれば、街ですれ違うのは黒や茶色、青っぽい濃い色の髪の人ばかりで、僕みたいなピカピカした色の人はほとんどいない。肌の色だって、双子もそうだしリンドさんもそうだけど、男の人は褐色や濃い人が多くて、僕みたいに白いのはたまにいても女の人だけだ。
「僕って……見た目が変? やっぱり人間じゃない?」
「変じゃないよ。違う国の人は君みたいに白くて金や銀の髪の人もいるから、不思議じゃないよ。でも……」
 それならいいや。暑くて汗をかいてきたから布を取った。
「あー頭が涼しくなった」
 なんか、周りがざわっとした気がした。道を行く人も思いきり僕を見て通っていく。横の席で同じのを食べてた人からも突き刺すような視線が。
「ほら……言わんこっちゃない」
「何? 思いきり見られてる気がする」
 僕、やっぱりおかしいんだろうか? わあ、何だか恥ずかしい!
「皆、見惚れてるんだよ、君に」
「うそっ。正直に言って。僕ってそんなに変? 気持ち悪い?」
 僕が慌ててるのに、はああっ、と双子は同時に溜息をついた。
「自分がとんでもなく綺麗だって自覚無いの? 鏡見たこと無い?」
「……無い」
 そういえば、僕、自分の顔って見たことが無い。気にもしてなかったから見ようと思った事も無かった。
「まあ、君のそういう所が可愛いんだけどね」
「あ……」
 どこかで聞いた事がある、この言葉……。

『晶のそういう所が可愛いんだけどな』

 ずき。頭が痛い。
 夢の中、はっきりと見えそうで見えない顔。何もかも忘れてもいい、でもその顔だけは思い出したい顔……あきら。その人はいつも僕の事をそう呼ぶ。それが僕の名前だったのだろうか。
「どうしたの?」
「……何でも無いよ」

 その後、色んな店や人が暮らしてる普通の家、広場の噴水、子供の遊んでいる所……そんな場所を案内してもらった。お金のいっぱいある人は豊かで、無い人は貧しい。そんな人間の陰のところも。
 でも皆生きている。自分が生きるために、また子供に与えるために命懸けで餌を獲ってくる鳥や森の動物達と、一生懸命『仕事』をしてお金を稼いで、食べ物を得る人間とはやっぱり似てるんだと思った。
 もう夕方近く、帰り道にマルクさんがふと呟いた。
「ねえ、シス。私の思い違いならいいんだけど、ひょっとして君は前世の記憶があるんじゃないだろうか?」

 どきっ

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...