魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

27:変貌した町

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 大慌てのエイジ君の声に、魔王様とウリちゃんがじーっと目を開けたまま固まったかと思うと、神妙な表情で顔を合わせた。
「なになに? 何なの?」
「街の様子を千里眼で見たんですよ。確かに大変な事になってます。今すぐ行かないと」
「大変って?」
「何と言ってよいやら……」
 ウリちゃんが魔王様とザラキエルノ様を交互に見て言葉に詰まっている。その間にエイジ君は既に部屋から出て行ってしまった。
「何ですの? 街がどうかいたしましたの?」
 ザラキエルノ様が不思議そうに首を傾げておいでだ。
「襲われているというか、変ってしまっているというか、何というか」
「ちょっ……!」
 それは大変じゃないのよ! ひょっとしてまた魔王様のやっちゃったのせいで?! 思わす魔王様を見たが、難しい顔をしておいでだ。
「私も少し様子を見て来よう。すみません、折角お越し頂いたのに」
 魔王様も立ち上ってザラキエルノ様に軽く会釈をしてドアのほうに向かわれた。
「僕も行く!」
 ユーリちゃんも何処から出したのか剣を用意して魔王様に続こうとしたが、魔王様に片手で押しとどめられた。
「ユーリは待っていなさい。お前は私の代わりに城を守れ」
「でも……!」
「そうですよ、王子。もし魔王様に何かあった時は継いでもらわねばならない大事な身ですので。ここで城を守るのも立派な務めです」
 ウリちゃん、まあそれは正しいのだがそれ、フォローになってないから。すっごい不吉なこと言わないでよ。ユーリちゃんは何とか納得してくれたようだが。
「あのっ、私も!」
 私もついて行こうとしたが、既に部屋を出て行かれた魔王様の後を追おうとしていたウリちゃんにまたしても止められた。
「ココナさんもここで待っていてください。王子やリノちゃん達をお願いします」
「駄目、私も行く。幼稚園の子供達も街に帰ったんだもの。何かあったら……幼稚園の先生としては責任があるの!」
「……」
 もうウリちゃんは何も言わずに、くるりと身を翻して魔王様の後に続いた。気がつけばその後姿にはいつの間にか腰に剣があった。
「ザラキエルノ様、失礼いたします! ユーリちゃん、さっちゃん、後お願い!」
 お客人を置いて、私もみんなの後を追った。


 流石に魔王様自らが街のど真中に転移するのも危険かもしれないと言う事で、空から様子を見に行く事にした私達。
 エイジ君、羽根を広げたウリちゃんと共に空の上。私は羽根と角ありバージョンのでっかい魔王様の掌に乗せてもらっております。ウリちゃんが抱っこすると言ってごねてましたが、万が一のために剣を持っているので魔王様にお世話になっております。
「ココナさん、落ちないように気をつけなさい」
 はい。太―い指にコアラの様に掴っておりますよ。一応覆っては下さってますが、すっごい早いので指の隙間からの風がハンパ無いです。
 蠢く森を越えたら街が見えて来た。
「なに……? あれ」
 ドドイルの城下の街はいつもと全然違っていた。
 既に薄暗い時間のはずなのに、街が仄かに光に包まれていた。予想外に混乱した様子も悲鳴も聞えてこない。
 でも……危ないというか、なんだろうか、これ。
 沢山のものが降ってるし飛んでいるが、襲い掛かって来るような感じでも無かったので、皆で街の中央の噴水広場に降り立った。
「キレーイ!」
「はぁ……」
 エイジ君も溜息だ。
 街は確かに大変な事になっていた。
 あちこちに光輝く美しい花々が咲き乱れ、美しい声で鳴く鳥や青や黄色の美しい蝶が舞っているではないか。質素な建物を純白の蔓薔薇が覆い、地面にも花が咲き乱れている。色が変だったりやたらと強暴だったりする魔界の生き物ではない、美しいが私も良く知っている様な色彩や形の花や蝶や鳥達。降って来るのは芳香を放つ花びら。ただ、それは少し大きすぎるが。
 街は破壊どころか、美しく変貌を遂げていた。楽園というのがあるとしたらこんな感じなのだろうか。
 だが、じわりじわりと命を吸い取られるような、空気に混じる違和感。これはいつもの街じゃない。
 何より、気味が悪いほど街が静まり返っている。この時間は夕飯時で店も市場も賑やかな時なのに。
「これだけの異変があったというのに、私も何も感じなかった。それが不気味だな」
「皆怯えて家に篭ってしまっているようです」
 ひらひらと真っ青な美しい蝶が私達の目の前を過ぎった。宝石のように輝く美しい蝶。こういうの、昔図鑑で見たことあるな。それを見ながらウリちゃんが目を細めた。
「これは、魔王様の仕業では無いですね。魔界に有得ないものばかりです」
「ちょっと待てウリエノイル、私を疑っていたのか?」
 すみません、魔王様。私も絶対また無意識に何か出されたのだと思ってました。多分エイジ君も、お城で待ってるユーリちゃんもそうだと思いますよ。
「魔王様は城に剣を降らせたり、草を生やしたりという前科があるので」
「……」
 にっこりとハッキリ言いますね、ウリちゃん。思っても言いませんでしたよ、私達。
「じゃあ何なのかしら、これは。別に襲ってくる感じでもないけど怖い」
 大きな雪のように舞う花びらは地面に触れる前にすうっと消えてゆく。
「息苦しいですね。力が抜けて行くというか……」
 エイジ君がきつそうだ。私も実は結構来てる。何なんだろうこれ。
「まあ察しはつきましたが」
 ウリちゃんがワザと花びらに触れるように手を伸ばした。その腕の周りにあのピンクのシールドが広がった。
 ……ということは天界の力!?
「魔王様の降らせちゃうものより街の人達に危険じゃない?」
「危険ですよね。お遊戯会に来ていた者はバッジを外していなければ大丈夫でしょうが、他の者はじわじわと弱ってしまいます」
「私の降らせる物って……とにかく誰も家から出ないようにしないとマズイな」
「オレ、ちょっと街の人達の様子を見てきます!」
「わたくしも、注意を呼びかけてきます。天界の力に耐性のあるココナさんはここで魔王様をお守りしてください」
 エイジ君とウリちゃんが身軽に走って行った。
 魔王様が何やら呪文っぽいものを呟き始められたので、何か策があるのだろうかと思い、少しでもお守りしようと身を寄せるしかなかった時だった。
「わー、にゃんらこえー?」
 丁度近くに住むさんちゃんが家のドアから顔を出した。
「こら、出ちゃ駄目だ!」
 後ろからお父さんだろうか、声がするが子供は聞きはしない。
「あー、せんせー! まおうたまも!」
 心配していた子供達は無事みたい。気がついたさんちゃんが駆け寄ってきたが、出たら危ない!
「来ちゃダメ!」
 小さな体に花びらが触れる瞬間にシールドが広がった。良かった、直接キスした子供達にはまだよく効いてるみたい。
「さんちゃん、今お外は危ないの。お家の人にもそう言って」
「あぶにゃい? ヒラヒラ、キレイだぉ?」
 うーん、難しいなぁ、好奇心旺盛な子供に言って聞かせるのは。
 魔王様がしゃがみ込んで子供の目の高さに合わせて、さんちゃんに言って聞かせてくださった。
「これは美しいが悪いものなのだ。さんちゃんは勇敢な竜だ。お家の中でお父さんやお母さんを守ってあげてくれるかな?」
「あいっ!」
 目をキラキラさせてさんちゃんが元気に返事した。おお、流石は男の子のお父さん。魔王様お上手です。
 ばいばーいと手を振って去っていくさんちゃん。他の人達も心配だけどとりあえず幼稚園の園児とその家族は無事のようだ。
「でも……これは、まさかザラキエルノ様の仕業でしょうか?」
「いや、それは違うと思うが……」
 魔王様が空を見上げられた時、何処からかすごい風が吹いて来て私達の黒い髪を靡かせた。
「心配で来てしまいましたわ」
 上空に六枚の羽根を広げたザラキエルノ様が浮かんでおられた。そのでっかいお母様の肩にちょこんと乗っかっているのはさっちゃん。
 しゅるると小さくなって、私達の前に立った天使親子は辺りを見渡して難しい顔をした。
「これは大変な事になっておりますね」
「ええと……これってザラキエルノ様がおやりになったのではないですよね? 綺麗ですけど魔族にとっては命に関わる脅威です」
「私では無いです。魔界の方々を傷付けるつもりなどございませんもの。でも天界の者の仕業ではあるようですわ。即刻消し去らないと」
 良かった。ザラキエルノ様では無いのですね。
「これは……ゾフィ兄さんの絵だわ」
 さっちゃんが手を上げると、一頭の蝶がその掌にとまった。
「そうね。ゾフィエさんの絵筆から生まれた生き物達に違いないわ」
「絵?」
「私の異母兄で芸術の天使です。空に描いた絵を本物にして、世界に美しい生き物を増やす仕事をしているのですが……」
「って事はお兄さんも来ちゃってる?」
「そうかも……」
 お母さんの次はお兄ちゃんですか!? さっちゃんの家の家族、ぞくぞくと魔界にやってきてますけど。超ヤバくないですか、これ。

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