魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

52:借り物競走

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 もう騎馬戦だけで相当懲りてるのに、またも超高速で移動。飛んでるし。
「ねえ、何かあったの?」
「喋ってると舌噛みますよ」
 顔を見上げてもウリちゃんは真剣な顔で前を向いてるだけ。もう、わけくらい聞かせてくれてもいいのに。
 ああ、何か良くないことでも起きたんだろうか。わからないから心配になっちゃう。微笑み標準装備の人が真剣な顔しちゃってるし、わざわざ私を呼びに来なきゃいけない事って一体……。
 まさか事故とか、怪我人が出たとか? あああ、ドキドキするじゃないの!
 お城の入り口の扉の前まで来たら急にウリちゃんが止まった。羽根も引っ込めちゃったよ?
 相変わらず私を抱えたまんまだが、大きな扉を手も触れずに開けると今度は地に足つけて走り始めた。相変わらず速いけどね。
「あれ? 急いでるんじゃないの?」
「はい。急いでおりますよ。ですがここからは飛ぶのは禁止なので」
 ん? 禁止?
「じゃあ降りるから。重いでしょ?」
「降りないで! 離しませんからね」
 あ、なんかちょと薄々わかってきたかも。
「なぜ急いで行かなきゃいけないのかを説明して」
「今は駄目です。話したらココナさん赤組ですから拒否するでしょう?」
 やっぱりね。
 つまりアレだ。私って借り物競走の「物」なんだ!
 とか言ってる間に運動会の会場に到着。私を抱きしめたまま、ウリちゃんは脇目もふらずゴールテープの前にいる審判係の元へ。テープはまだ切られていない。ということは一着で来たんだね。だが、何で審判が笑いジラソレなのよ。司会交代して暇になったからだろうか。働くなぁ、植物魔人達。
「わはははは~、さて、指示は何かな? ははっ」
 ウリちゃんがジラソレにメモを渡した。
 そうこうしてる間に、他の走者も続々と何か抱えてやってくる。あ、ユーリちゃんも同じ組だったんだ。
「わははっ、ウリエノイル閣下への指示は『この世で一番大事な人』だ! これはココナ先生でいいかな?」
 お客さんからわーっという歓声とすごい拍手が上がった。
「え……」
 ええっと、とんでもなく恥ずかしいんですが。顔から火が出そうなんですが。
 ……というか、このメモ書いたの私じゃんか!
 これ、魔王様を誰かが連れて出るようにってマーム先生達と仕掛けたのよ。反対のチームが引いたら面白いよねーって。それに万が一魔王様本人がが引いてもさっちゃんを連れて出るから盛り上がるよねって。引いちゃったのかウリちゃんが!
 でもわざわざお城の中にまで私を連れに来たなんて。恥ずかしいけど嬉しいかも。
 ふふ、すました顔してるけどちょっと照れてるのわかるよ、旦那様。
 敵チームだけど今回は許してあげるわね。というわけで一緒にゴール。
「リノちゃんは寝てましたしね」
「あ、起きてたら私じゃなかったんだ? 拒否すればよかった」
 ……というのは嘘だけどね。娘が相手ではヤキモチも妬けませんよ。
「ど、どっちも大事だから、比べられるわけないじゃないですか」
「まあね、きっと私が同じのを引いてもウリちゃんかリノちゃん選ぶよ」
 お手てをぎゅーって握ると握り返してくれるのが嬉しかった。最近忙しくて自分達のことを後回しにしてたんで、なんかこういうの久々。
 とか盛り上がってたら、順位の旗を渡す係のスケルトンさんの声が掛かった。
「あのー、大変仲睦まじいのはわかりましたので、ちょっと横に」
 うっ、ここゴールでした。大変失礼いたしました!
 結局白組ウリちゃんが一位、二位はユーリちゃんの『婦人用スカート』だった。
「ユーリちゃん、スカートよく貸してくれる人いたねぇ……」
 赤組の席に戻ってもユーリちゃんは涙目だ。借りるのに苦労したんだろうな。
「僕、もうどれだけ恥ずかしかったか。重ね着でもう一枚履いておいでの方がおいでだったので借りられましたが。誰ですか、こんな借り物を考えたのは。」
 スミマセン、幼稚園の女性職員一同です。大人の男性のみの競技なのでちょっと、遊んでみましたが、まさか思春期真っ盛りの王子に当たるとは。
 どうやらウリちゃんとユーリちゃんの二人が一番難しい物を引いてしまったらしい。他の人達は無難にリボンだとか赤いバッグとか靴とか簡単なものだった。いや、待て。後何かメイア先生達が書いた、かなり意地悪なのがあったような。
 最終組は保護者に混じって赤組からは魔王様、白組からはエイジ君とマファル王キール様が出てる。なんか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか。
 よーいパーンで中央にある台の上の指示の紙まで、とんでもないスピードで走る魔王様達。メモを見て、ぐるりと会場を見渡すのはまあ普通だった。
 エイジ君は補助職員てんちゃんのところに走って、なぜか平手をくらった後、こっちに走ってくる。エイジ君、一体何があったんだ? 
「コ、ココナさん、下着の色は……?」
「はぁ?」
 何て事を訊くんですか! 
「ひょっとしてピンクですか?」
「う、うん」
 なんで正直に答えてるんだろう、私も。
「これ……」
 エイジ君が真っ赤になってメモを見せた。そこには『淡桃の下着の女性』と書かれている。この字はメイア先生だね。一番お年なのに茶目っ気ありすぎるでしょう。三歳児と同じくらいの大きさだけど。
「一緒に来てくれますか? 他の人に訊いて回るのはあまりに恥ずかしくて」
 恥ずかしいよねぇ確かに……で、なんで私になら訊けるんでしょう、エイジ君。まあ姉弟みたいなもんですけど、一応あなたは白組、私は赤組なんですけど。それに最後のメモを確かめる時に、ジラソレに自分の下着の色を全員の前で放送されちゃうんですけど。なるほどこれでてんちゃん平手をくらったのか。勇者様激ラブの彼女でもまだ十六だもん、これだけの人に聞かれたら恥ずかしいよね。
「やだ」
「ええ~?」
 そうこうしているうちに、今度は魔王様がすごい勢いでおいでになりましたよ!
「ココナさん、一緒に」
 いや、返事する前になんか問答無用で小脇に抱えられてるんですが? 私、セカンドバックじゃないんですからね? ちょっと、魔王様は一体どんな紙を引いたんですか?
「あーっ、魔王様、先にココナさんをみつけたのはオレですよ!」
 エイジ君も追いかけてくるし。なんてカオス。
「エイジは白組の方で探せ」
 私も拒否したことだし、魔王様に分があったようです。無難にペットの角ウサギを引いたキール様や保護者のパパを抜き去り、魔王様が私を抱えたまま審判の元へ。
「わははは~、またココナ先生が借りて来られたぞ? 今度の指示は何だ?」
 魔王様がジラソレにメモを差し出された。
「わはっ、魔王様への指示は『他所の奥さんを脇に抱えて連れてくる』だ。これは大正解だな、わははははは~!」
 まあ確かに正解だけどね。というわけで魔王様も一位でゴール。
 ちょっと待て。別に他の人でも良くない? 他所の奥さんだらけなんですけど、会場。なんでよりによって私なんですか魔王様。
「皆、私が近づくとひれ伏して話にならなかった。まして抱えるとなるとな」
 なるほど。自分の奥さんを差し出せる旦那様がいなかったわけか。で、やっぱり私ならOKと踏んだんですか、魔王様も……全く、私って何なんですか?
 結局エイジ君は棄権した。恥ずかしい思いをする女性がいなくて良かった。
 二回も私が駆り出されたのはどうかと思うが、爆笑と大盛り上がりの中借り物競争は終わった。本当はもうちょっと子ども達と居たかったのになぁ。
「後はリレーだけで終わりだよ、さっちゃん」
「楽しかったのでなんだかちょっと寂しいですね」
 いやぁ、できれば早く終わって欲しいよ。先代魔王様や神様のじぃじ達には気の毒な事をしたが、他はほぼ無事に来たから良かったけど、心臓に悪いよ午後の部。
「で、やっぱり連続ですが出るんですね? 魔王様も」
「勿論だ」
 思うのだが、見えないほど超高速で走る人達がリレーに出たら一瞬で終わると思うのですが……そこは対応済みと言う事で。
「精一杯応援いたしますので、頑張ってください、魔王様」
 さっちゃんに後押しされて、魔王様はやる気満々のご様子。大きな声では言えないが、私は密かに旦那様を応援するよ。頑張れウリちゃん。
 二人がアンカーなのは言うまでもないが、他も精鋭ぞろいだよ。
 子ども達のリレーは会場中央の一周四百ウル(一ウル約二十五センチ・百メートル)だったが、大人リレーは只でさえ速い面々、そして最終ということで倍の一周八百ウル(約二百メートル)の会場外周を一周ずつで繋ぐリレー。今度はお客さんが中に入って見る形だ。
 各組代表がスタンバイ。子ども達と違ってバトンタッチの練習もしていない俄チームだが上手く回せるのだろうか。
「おほほほほ~! 泣いても笑ってもこれで最後ですわよ。紅白対抗リレー、間もなくはじまりますわよ」
 もうすっかり司会も板についちゃったね、歓喜ヴェレット。ややお上品で女性声なので聞いてて気持ちいい。ジラソレの地位も危ういね。
「がんばれー!」
 あ、子ども達もお城のバルコニーから応援してる。
「よーい……」
 パーン。
 運動会最終競技のスタートの合図が鳴り響いた
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