8 / 9
8:エンパイアステートビル
しおりを挟むさすがに条約機構の本部ビルからは途中から方向が変わって、オレ達は5番街をまっすぐにセントラルパークの方に向かって進んでいた。人通りも多くて賑やかな通り。そして、エレクトラの足が一つのビルの前で止まった。ここは……
正直、驚いた。まさかこんなところだなんて! あまりにも有名で目立つ場所。観光名所にもなってるビル。
「……エンパイアステートビル……」
「すごく高いね」
フェイが見上げて溜め息をついた。
「大昔は一時世界一とか言われてたビルだからな。もう老朽化してるから取り壊すって話もあるけど、まだ中には沢山オフィスが入ってるし、観光客だって来る。オレも好きな場所」
停電騒ぎの真っ最中とはいえ、周囲にも中にも人が沢山いるようだ。っていうか、エレベーターも止まってるだろうから上の方にいる人々は閉じ込められてる状態じゃなかろうか?
なるほど、もしエレクトラが早々に捕まって、ドームの計画が失敗に終わったとしても、爆発するんだったら人が多くて目立つ場所がいい。そうすれば違う形でテロは成功するって事か。用意周到だな。式典のある会場と同じエリアだから注目度も高い場所だし……。
振り返ってエレクトラが上を指差した。
「ここか。あのさ……ひょっとして上の方だったりする?」
こくんと彼女は頷いた。
「うへぇ。エレベーター止まってるしなぁ……」
思わずぼやいてしまったが行かねばなるまい。
そこからは長い長い道のりだった。
ミーシャはここの展望室が大好きで、一緒によく来たものだな……オレはそんな事を考えて、アンニュイな気分になったりもしたが、さすがに階段で上がるなんてお馬鹿な事は初めてなので、途中からはもう考える気力さえなくなった。よくもまあ、こんなにいっぱい段を作ったものだとか、んなもん建てんなよ二十世紀の人間よぅ……とか、そんなとりとめもないことをせいぜい思うくらいで……足もだるいのを通り越して痛くなってきたし。でもエレクトラは黙々と段を上がってる。大事な者を助けるために。フェイも少し疲れた様子だが息を切らして一生懸命ついてきてる。女子供がこうなんだから男のオレが愚痴をこぼしてもカッコ悪いので、黙っていかにも平気だって顔で進み続けた。
普段よく訪れた八十六階の展望台を通り過ぎてもエレクトラの足は止まらなかった。ってことはまだ先か……下の方ではエレベーターが止まっているため、階段でビルから出ようとする人々にかなりの数すれ違ったのに、さすがにもう誰とも出会う事はなかった。
照明の切れたビルの階段。上のほうから差し込んで足元を照らしていた太陽の日差しも陰り暗くなってきた。あれから時間はどのくらい経ったんだろう?たかだか数十分だったようにももう何時間も過ぎたようにも思える。そんな時間の感覚さえ鈍ってきたころ、
「もうすぐ行くわ、オレステス……」
小さくエレクトラが呟く。そう、もう間もなく最上階の百二階に辿り着く。
「ちょっと待って!」
一番後ろにつけていたフェイがオレ達を止めた。
「どうした?」
「話し声が聞こえる。三・四人? 金属の触れ合う音や火薬のニオイもするからみんな銃で武装してるよ。気をつけて」
「どんな話をしてるかわかるか?」
「うんとね……」
フェイは目を閉じて聞き耳をたてている。その様子を見てエレクトラは不思議そうだ。
「この子、泳ぐのが速いから海獣のA・Hだって思ってたけど……」
「ああ、ワン公だよ。で、オレがニャン公。変な組み合わせだろ?」
「とってもいいコンビに見えるわ。兄弟みたいよ」
くすっと、小さくエレクトラが笑った。お、初めてみる笑顔だ。美女はやっぱ笑顔のほうがいいね。
だがその笑顔もすぐに消える。
「……ちょっとマズイ雰囲気。バレてるよ、あなたがここへ来てるの。そろそろ来る頃だろうって。それに……」
フェイが少し言いにくそうに口篭った。
「それに?」
「どっちにしても体内の仕掛けは爆発するんだからって……どうも無事あなたが弟さんのところに辿り着けたとしても、触れた途端に仕掛けが作動するようになってるみたいだよ」
「そんな……!」
くぅ! そんなこったろうと思った。どこまで抜け目がないんだ! しかも相手はテロリスト。中途半端に死もいとわないって奴らだからタチが悪い。ここで爆発したら自分達も命が無いことだってわかってるだろうに。このビル、その周辺にいる人達も道連れに……。
「よし、君はここで待ってろ。オレ達が行って弟さんを助ける」
「でも……!」
「大丈夫、仕掛けを解除すればゆっくり会えるんだから。あ、そうだ。君の弟ってことは、触るとやっぱりビリッとくるかな?」
確認しておかないと、助けるのはいいがこっちが感電してはたまらない。
「……いいえ、あの子は大丈夫。弟といっても血は繋がっていないもの。同じ研究所で生まれたA・Hだけど発電器官は無い普通の魚のA・H。私とは逆で耐電性があるくらいよ」
「それを聞いて安心した」
フェイの顔をちらっと見ると、フェイは何も言わなくても大きく頷いた。
「よっしゃ、行くぞ!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
Dragon maze~Wild in Blood 2~
まりの
SF
シリーズ二作目。Wild in Bloodの続編。あれから三年。突然A・Hの肌に現れる翼の生えた蛇の印。それは理想郷への免罪符なのか……暗号、悲劇、謎のメッセージ、箱舟から出た竜とは? 主人公をネコのA・Hカイに交代し、ここに新しい神話が始まる。
SEVEN TRIGGER
匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。
隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。
その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。
長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。
マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー
Wild in Blood
まりの
SF
宇宙・極地開拓の一端として開発が進んだ、動植物の能力遺伝子を組み込んだ新人類A・H。その関連の事件事故のみを扱う機関G・A・N・Pに所属する元生物学者ディーン・ウォレスは狼のA・Hに自らを変え、様々な事件に挑みながら自分から全てを奪った組織への復讐の機会を待っていた――約二十年書き続けているシリーズの第一作。(※ゲームやVRの要素は全くありません)
シンギュラリティはあなたの目の前に… 〜AIはうるさいが、仕事は出来る刑事〜
クマミー
SF
これは未来の話…
家事、医療、運転手、秘書など…
身の回りの生活にアンドロイドが
広まり始めた時代。
警察に事件の一報があった。それは殺人事件。被害者は男性で頭を殴られた痕があった。主人公風見刑事は捜査を進め、犯人を追う最中、ある事実に到達する。
そこで風見たちは知らぬ間に自分たちの日常生活の中に暗躍するアンドロイドが存在していることを知ることになる。
登場人物
・風見類
この物語はコイツの視点のことが多い。
刑事になって5年目でバリバリ現場で張り切るが、
少し無鉄砲な性格が災いして、行き詰まったり、
ピンチになることも…
酔っ払い対応にはウンザリしている。
・KeiRa
未来の警察が採用した高性能AI検索ナビゲーションシステム。人間の言葉を理解し、的確な助言を与える。
常に学習し続ける。声は20代後半で設定されているようだ。常に学習しているせいか、急に人間のような会話の切り返し、毒舌を吐いてくることもある。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』
橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く
遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。
だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。
そこに待っているのは……
新登場キャラ
嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー
コアネタギャグ連発のサイキックロボットギャグアクションストーリー。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第四部 『魔物の街』
橋本 直
SF
いつものような日常を過ごす司法局実働部隊の面々。
だが彼等の前に現れた嵯峨茜警視正は極秘の資料を彼らの前に示した。
そこには闇で暗躍する法術能力の研究機関の非合法研究の結果製造された法術暴走者の死体と生存し続ける異形の者の姿があった。
部隊長である彼女の父嵯峨惟基の指示のもと茜に協力する神前誠、カウラ・ベルガー、西園寺かなめ、アメリア・クラウゼ。
その中で誠はかなめの過去と魔都・東都租界の状況、そして法術の恐怖を味わう事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる