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エドガーはアレクの出現に戸惑っている
九話
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「はぁ……」
小さな失敗ながら、あまりに失敗したエドガーは、アルタイル始め酒場の仕事仲間達から。
「エドガー、休んだ方がいい」
「エドガーさん、あまり無理をしないで」
「健康が第一だからな、ゆっくり体を休めなよ」
等と心配され、まだ夕暮れまで余裕があるにも関わらず、早めの帰路をトボトボと悔しそうな表情を浮かべ進んでいく。
人が行き交う大通りを歩き、やや湿気が残る狭い路地へ。
そして、右へ左へ迷路の様な路地を歩きながら、ミーナの待つ自宅へと入る。
「おかえり、エドガー君!」
「あ、ただいま~……」
元気のないエドガーと違い、ミーナはにこやかである。
そんなミーナは、早速エドガーに向け、自信満々にこう告げた。
「エドガー君、何を悩んでいるか分かりませんが、貴方の悩みを絶対解決してくれる方を紹介したいと思います!」
「えっ……?」
「それは隣に住むリアナなのです! だからエドガー君、話はつけてあるから行ってみなよ、リアナの所に!」
それは曇り気味だったエドガーの心に小さな光が刺したかの様な一言だった。
だが、仕事の失敗等で全体的にネガティブになりつつあったエドガーは。
(無理だと思うけどな……)
と考えてしまう。
しかし、ミーナの折角の親切を無下にする気にもなれなかったエドガーは結局。
「分かった、行ってみるよ」
作り笑顔、ネガティブ混じる声でそう告げ、リアナの住む隣の家にその足を運ぶのであった。
…………
《疫病神お断り》
リアナの家の扉に貼られたその掛け札を見た時、エドガーは一体どう言う事なのか考える訳だが、気が重いエドガーは結局答えは出なかった。
だから扉の前でしばらく立ち止まった後、扉を叩いたのである。
「あっ、すみません。 妻から話を聞いていると思いますが……」
「…………」
開いた扉の向こうには、実に不愉快そうな表情を浮かべたリアナの姿があった為、どんどん小さくなったエドガーの言葉は、遂に聞こえなくなってしまった。
しかし、気が重そうなエドガーの顔を見て、流石に追い返す気のが気の毒に思ったリアナは。
「はぁ……。 話は聞いている、中に入れ」
仕方なく自宅の中に招き入れ、相談に乗る事にしたのであった。
「そこのテーブルに座れ」
「は、はぁ……」
扉がバタンと閉まると共に告げられた言葉に従い、入口側の席に座ったエドガーは、目の前に座ったリアナから早速こう告げられた。
「お前、エドガルドだろ?」
「ギクッ!?」
その瞬間、エドガーの顔はまるで何か悪いモノを食べたかの様に青ざめ、体から大量の汗がブワッと一気に流れ出し。
(何故だ、どうしてバレた!? 一体何故!? それよりもどうする、どうする……!?)
エドガーの冷静さは完全に破壊された。
しかしながら、そうなる可能性を読んでいたリアナは、腕を組み冷静にこう続ける。
「安心しろ、この事実は誰にも話していないし、話すつもりもない。 相談は、アレクセイの事だろう?」
「えっ? た、確かに相談の内容は、アレクセイに見つからない様にするにはどうしたら良いか?ですが……」
(なるほど、そんな内容か……)
その時までリアナは、エドガーの悩みを具体的には理解してなかったが、その内容の簡単さに小さく笑みが溢れた。
「ふふっ、ならば簡単ではないか? アレクセイにどうすれば出会わなくて済むか落ち着いて考えば答えが出るだろう?」
「…………」
リアナのそんな言葉を聞き、エドガーは顎に右手を当てて考え出し、深刻な顔を浮かべる。
そして出た答えは、実に物騒なモノであった。
「……つまり、アレクセイを消せと?」
「……お前の頭、本当に大丈夫か?」
それは、エドガーが冷静さを欠いている為出てしまった答えだったが、それに対しリアナはつい呆れてそう口にしてしまう。
(まぁ冷静さを欠いているのだろうな……。 なら、どうするべきかはっきり伝える方が正解か……)
だが、リアナはそんな部分も理解はしていた。
その為、リアナは一つ呼吸を置いて、こう告げるのである。
「つまり、お前はしばらく隠れていれば良い。 お前が見当たらなければお前がこの国にいないと思うだろう? お前がいないと思えば、お前の弟はこの国を去るだろう? だから病気のフリしてしばらく休んでいれば良いだろう?」
「確かに……。 確かにそうですね! よし、僕は今日、体調が悪い事にしよう! リアナさん、感謝します!」
先程までの深刻な顔から希望めいた表情へとエドガーは変化し、家から飛び出していった。
しかし、そんなエドガーの背中を見ながら、リアナは得体の知れぬ不安を感じていた。
(……しかし、わざわざこんな国までアレクセイはやってきている訳だが、果たして『見つからないから』と言う理由だけで諦めるだろうか……。 それに、何だか嫌な予感がするな。 アイツが見つかって、私に面倒事が運ばれてくる事にならなければ良いが……)
それはここ最近、リアナにとって好ましくない展開が続いているからこそ感じる思いであったが。
「危なかった……!? まさかアレクがこの辺りをまだうろついているとは……」
「私の家は緊急避難所じゃないぞ……」
また家の中へ戻ってきたエドガーの姿を見るに、その不安はギリギリの所で回避できたのかもしれない。
…………。
「うぅ……」
「おかえりなさい、エドガー君……って大丈夫ですか!? 何だが調子が悪そうですよ!」
「ミーナさん、どうやら疲れが溜まって体調が悪かっただけみたいだよ……。 だからゆっくり休めとリアナさんが……」
「そ、そうだったのですか!?」
扉を開け、家へ帰ってきたエドガーは体調が悪そうにしていた為、そう返したミーナだったが。
(あれ? でも仕事から戻ってきた時は普通の足取りでしたよね? 今みたいにフラついてませんでしたよね?)
と疑問を浮かべ首を傾ける。
しかし、ふと考えてみると。
(でもこれって、夫婦二人っきりの時間をしばらく堂々と過ごせますよね!?)
と疑問は小さな喜びに。
そして、それを更に考えてみると。
(はっ、分かりました! きっとエドガー君は、私と一緒の時間を過ごす為に病気のフリをしているのかもしれません! ……ふふふっ、もしかしたらエドガー君はメルシス教に目覚めつつあるのでしょうか……?)
小さな喜びは大きな喜びに。
だからミーナの表情はついに満面の笑みへと変化していた。
(あれ、ミーナさん何だか嬉しそうだな? ……そうか、そう言えばミーナさんってメルシス教徒だから、お世話出来るのが嬉しいのかもしれないな……)
そんなミーナの姿にエドガーも体調が悪そうな表情を浮かべつつもニッコリ。
しかしその反面。
(……でも、騙している様で申し訳ないな)
自分の行動にそう感じたエドガーは、どこか曇った表情へと変わっていくのである。
「エドガー君、とりあえずベッドに行きましょう」
「そうだね……」
「肩を貸しましょうか?」
「だ、大丈夫だよミーナさん……」
「……私、肩を貸したいですよ、エドガー君?」
「ミーナさん、ありがとう……」
さて、微笑ましいそんなやり取りをした後、ミーナに支えられてエドガーは二階への階段を登り、そしてベッドに座り、遂には寝転がった。
「ふふっ、私美味しいご飯を作ってきますね!」
「ありがとう、ミーナさん……」
そんなエドガーの姿を確認したミーナは、ウキウキした足取りで一階へ向かう。
「さてと……」
階段の下は食品棚になっており、扉を開くと魔石のひんやりした煙が床を張って流れていく。
そんな食品棚から米や野菜等を取り出したミーナは、吊り鍋に蛇口の水を少し入れ、それを魔石の火を起こる釜戸の上にぶら下がる鎖にかけ、温め始める。
そう、彼女が今作り出したのは野菜入りのお粥。
だがそれは、お粥にしては白く、そしてクリーミーな味がする、まるでクリームシチューの様なお粥であった。
ただそんな美味しそうな料理の匂いは。
「良い匂いがするよ、おかーさん!」
「レイチェルの言う通りだよ、おかーさん!」
「きっと、エドガーお兄ちゃんの家の方からだよ!」
「うん、きっとそうだよ!」
目の前に住むネルブ家の育ち盛りの子供達の食欲を誘う訳で……。
小さな失敗ながら、あまりに失敗したエドガーは、アルタイル始め酒場の仕事仲間達から。
「エドガー、休んだ方がいい」
「エドガーさん、あまり無理をしないで」
「健康が第一だからな、ゆっくり体を休めなよ」
等と心配され、まだ夕暮れまで余裕があるにも関わらず、早めの帰路をトボトボと悔しそうな表情を浮かべ進んでいく。
人が行き交う大通りを歩き、やや湿気が残る狭い路地へ。
そして、右へ左へ迷路の様な路地を歩きながら、ミーナの待つ自宅へと入る。
「おかえり、エドガー君!」
「あ、ただいま~……」
元気のないエドガーと違い、ミーナはにこやかである。
そんなミーナは、早速エドガーに向け、自信満々にこう告げた。
「エドガー君、何を悩んでいるか分かりませんが、貴方の悩みを絶対解決してくれる方を紹介したいと思います!」
「えっ……?」
「それは隣に住むリアナなのです! だからエドガー君、話はつけてあるから行ってみなよ、リアナの所に!」
それは曇り気味だったエドガーの心に小さな光が刺したかの様な一言だった。
だが、仕事の失敗等で全体的にネガティブになりつつあったエドガーは。
(無理だと思うけどな……)
と考えてしまう。
しかし、ミーナの折角の親切を無下にする気にもなれなかったエドガーは結局。
「分かった、行ってみるよ」
作り笑顔、ネガティブ混じる声でそう告げ、リアナの住む隣の家にその足を運ぶのであった。
…………
《疫病神お断り》
リアナの家の扉に貼られたその掛け札を見た時、エドガーは一体どう言う事なのか考える訳だが、気が重いエドガーは結局答えは出なかった。
だから扉の前でしばらく立ち止まった後、扉を叩いたのである。
「あっ、すみません。 妻から話を聞いていると思いますが……」
「…………」
開いた扉の向こうには、実に不愉快そうな表情を浮かべたリアナの姿があった為、どんどん小さくなったエドガーの言葉は、遂に聞こえなくなってしまった。
しかし、気が重そうなエドガーの顔を見て、流石に追い返す気のが気の毒に思ったリアナは。
「はぁ……。 話は聞いている、中に入れ」
仕方なく自宅の中に招き入れ、相談に乗る事にしたのであった。
「そこのテーブルに座れ」
「は、はぁ……」
扉がバタンと閉まると共に告げられた言葉に従い、入口側の席に座ったエドガーは、目の前に座ったリアナから早速こう告げられた。
「お前、エドガルドだろ?」
「ギクッ!?」
その瞬間、エドガーの顔はまるで何か悪いモノを食べたかの様に青ざめ、体から大量の汗がブワッと一気に流れ出し。
(何故だ、どうしてバレた!? 一体何故!? それよりもどうする、どうする……!?)
エドガーの冷静さは完全に破壊された。
しかしながら、そうなる可能性を読んでいたリアナは、腕を組み冷静にこう続ける。
「安心しろ、この事実は誰にも話していないし、話すつもりもない。 相談は、アレクセイの事だろう?」
「えっ? た、確かに相談の内容は、アレクセイに見つからない様にするにはどうしたら良いか?ですが……」
(なるほど、そんな内容か……)
その時までリアナは、エドガーの悩みを具体的には理解してなかったが、その内容の簡単さに小さく笑みが溢れた。
「ふふっ、ならば簡単ではないか? アレクセイにどうすれば出会わなくて済むか落ち着いて考えば答えが出るだろう?」
「…………」
リアナのそんな言葉を聞き、エドガーは顎に右手を当てて考え出し、深刻な顔を浮かべる。
そして出た答えは、実に物騒なモノであった。
「……つまり、アレクセイを消せと?」
「……お前の頭、本当に大丈夫か?」
それは、エドガーが冷静さを欠いている為出てしまった答えだったが、それに対しリアナはつい呆れてそう口にしてしまう。
(まぁ冷静さを欠いているのだろうな……。 なら、どうするべきかはっきり伝える方が正解か……)
だが、リアナはそんな部分も理解はしていた。
その為、リアナは一つ呼吸を置いて、こう告げるのである。
「つまり、お前はしばらく隠れていれば良い。 お前が見当たらなければお前がこの国にいないと思うだろう? お前がいないと思えば、お前の弟はこの国を去るだろう? だから病気のフリしてしばらく休んでいれば良いだろう?」
「確かに……。 確かにそうですね! よし、僕は今日、体調が悪い事にしよう! リアナさん、感謝します!」
先程までの深刻な顔から希望めいた表情へとエドガーは変化し、家から飛び出していった。
しかし、そんなエドガーの背中を見ながら、リアナは得体の知れぬ不安を感じていた。
(……しかし、わざわざこんな国までアレクセイはやってきている訳だが、果たして『見つからないから』と言う理由だけで諦めるだろうか……。 それに、何だか嫌な予感がするな。 アイツが見つかって、私に面倒事が運ばれてくる事にならなければ良いが……)
それはここ最近、リアナにとって好ましくない展開が続いているからこそ感じる思いであったが。
「危なかった……!? まさかアレクがこの辺りをまだうろついているとは……」
「私の家は緊急避難所じゃないぞ……」
また家の中へ戻ってきたエドガーの姿を見るに、その不安はギリギリの所で回避できたのかもしれない。
…………。
「うぅ……」
「おかえりなさい、エドガー君……って大丈夫ですか!? 何だが調子が悪そうですよ!」
「ミーナさん、どうやら疲れが溜まって体調が悪かっただけみたいだよ……。 だからゆっくり休めとリアナさんが……」
「そ、そうだったのですか!?」
扉を開け、家へ帰ってきたエドガーは体調が悪そうにしていた為、そう返したミーナだったが。
(あれ? でも仕事から戻ってきた時は普通の足取りでしたよね? 今みたいにフラついてませんでしたよね?)
と疑問を浮かべ首を傾ける。
しかし、ふと考えてみると。
(でもこれって、夫婦二人っきりの時間をしばらく堂々と過ごせますよね!?)
と疑問は小さな喜びに。
そして、それを更に考えてみると。
(はっ、分かりました! きっとエドガー君は、私と一緒の時間を過ごす為に病気のフリをしているのかもしれません! ……ふふふっ、もしかしたらエドガー君はメルシス教に目覚めつつあるのでしょうか……?)
小さな喜びは大きな喜びに。
だからミーナの表情はついに満面の笑みへと変化していた。
(あれ、ミーナさん何だか嬉しそうだな? ……そうか、そう言えばミーナさんってメルシス教徒だから、お世話出来るのが嬉しいのかもしれないな……)
そんなミーナの姿にエドガーも体調が悪そうな表情を浮かべつつもニッコリ。
しかしその反面。
(……でも、騙している様で申し訳ないな)
自分の行動にそう感じたエドガーは、どこか曇った表情へと変わっていくのである。
「エドガー君、とりあえずベッドに行きましょう」
「そうだね……」
「肩を貸しましょうか?」
「だ、大丈夫だよミーナさん……」
「……私、肩を貸したいですよ、エドガー君?」
「ミーナさん、ありがとう……」
さて、微笑ましいそんなやり取りをした後、ミーナに支えられてエドガーは二階への階段を登り、そしてベッドに座り、遂には寝転がった。
「ふふっ、私美味しいご飯を作ってきますね!」
「ありがとう、ミーナさん……」
そんなエドガーの姿を確認したミーナは、ウキウキした足取りで一階へ向かう。
「さてと……」
階段の下は食品棚になっており、扉を開くと魔石のひんやりした煙が床を張って流れていく。
そんな食品棚から米や野菜等を取り出したミーナは、吊り鍋に蛇口の水を少し入れ、それを魔石の火を起こる釜戸の上にぶら下がる鎖にかけ、温め始める。
そう、彼女が今作り出したのは野菜入りのお粥。
だがそれは、お粥にしては白く、そしてクリーミーな味がする、まるでクリームシチューの様なお粥であった。
ただそんな美味しそうな料理の匂いは。
「良い匂いがするよ、おかーさん!」
「レイチェルの言う通りだよ、おかーさん!」
「きっと、エドガーお兄ちゃんの家の方からだよ!」
「うん、きっとそうだよ!」
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