【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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2人の刑事と神林

組と警察

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 「若!」
 「たまにはいいだろ」
 「いけません。若はトラブル吸引体質じゃないですか」
 「そんなわけ」
 「先ほども警察に捕まって」
 「‥‥‥ありました」
黒木の遮る言葉に尊は肩を下げる。それを抱えるように後ろから隠岐が体重を乗せる。味方になってくれるのかと期待の目を向ける尊に男前に隠岐は笑みを向けた。しかし隠岐は尊の期待を裏切ってくれた。

 「まぁたまにはいいじゃないか。それか条件をつけるとか」
味方になってくれたと一瞬思った尊は続いた言葉に裏切りだという視線をぶつけ、それを隠岐は面白そうに受け止める。
 「GPS埋め込みますか」
 「はぁ! 俺のプライバシー!」
 「いいですね」
 「良くないよ!」
隠岐の言葉に黒木が賛同する。尊はたまったものではないと逃げ口を探した。そこに還田、木下、橋が顔をのぞかせた。

 「おかえりなさい、総長」
 「還田さん2人を止めてください! 俺にGPSを埋め込むって」
尊の言葉にあららと軽くあきれながら
 「総長にもプライバシーという‥‥‥ものが」
と言いかけた還田は一旦口を閉じて言い直した。
 「ものはありません」

 還田も尊の期待を裏切って隠岐と黒木に賛同した。黒木も隠岐も目が本気でこれは逆らうべきではないとわかった。裏切った還田から素早く木下、橋に縋りつくが苦笑いの無言の謝罪をされた尊はうなだれるしかない。
 「決定ですね」
 「総長だぞ!総長の命令」
 「これは関係ありません」
これまた遮られた言葉に尊は信じられないと黒木をみつめ、本気だと気がついた。困ることになる前に尊は宣言した。
 「腕時計を必ずつけます!」
 尊の宣言に当然だと頷き黒木はポケットから腕時計を取り出し腕時計を付け替えた。尊はまるで手錠だと恨ましく腕時計を見つめた。
 付けられた腕時計を見ながら歩き出す尊に組んでいた肩を外そうとした隠岐をちょいちょいと尊が引っ張った。そのまま引っ張った指で伊達眼鏡を軽く叩くとにんまりと尊は笑った。
 隠岐は目を丸くしその場に立ち止まりするりと肩を抜きながら先を歩いていく尊を凝視した。

 「どうしたんですか?頭」
還田が立ち止まった隠岐を不思議そうにみたが、隠岐はすぐに笑うとなんでもないと返し急ぎ足で尊を抱きしめるように肩を組んだ。眼鏡にGPSがついていることに気がつきながら、つけてくれる尊に隠岐は嬉しそうに笑った。


ーーー
 警視庁捜査第1課、堂園どうぞのが先輩刑事たちに『伝説の男』と笑い半分に称えられていた。こともあろうに神林かんばやし組総長 神林かんばやしたけるを知らなかったとはいえ引き留め、足を洗うように説いたというのだから。これをたたえずにどうするというもの。

 「うぅ、だって雰囲気が全然違ったんですよ。ねぇ‥‥‥先輩」
 「俺を巻き込むな。確かに、どこにでもいる大学生といった感じだな」

 長谷川はせがわは縋る堂園どうぞのを引きはがしながらたけるのことを思い出す。映像から感じた『鋭い空気を放つ男』と午前中の『さわやかな空気を放つ男』はいまだに完全一致していない。

 「まぁ怒られることもなく済んでよかったな」
 「うぇ?」
 「神林かんばやし組に勝手に警察が行ったようなもんだ‥‥‥いらない波風なみかぜを立てたとして良くてお叱り、左遷さかんだな」

 長谷川はせがわの言葉に堂園どうぞのはもう関わりたくないと情けない声を上げる。そこへ苦い顔をした課長が近づいてきて信じられないことを堂園どうぞの長谷川はせがわに声をかけた。

 「副総監がお呼びだ。長谷川はせがわもだ」
 「お、れも‥‥‥ですか」

長谷川はせがわまで死刑宣告を受けたような気分だ。周りを見れば手を合わせる同僚が自分たちを囲んでいるのをみて、あとで覚えておけよと泣きそうな堂園どうぞの長谷川はせがわは副総監室に引っ張った。


 副総監室に近づけば近づくほど重力が増し足が思うように動かないような気がしてくる。副総監室の扉をゆっくり3回ノックすれば、この前聞いた山戸やまど
 「入れ」
という声が耳に届いた。深呼吸を3回すると覚悟を決めて長谷川はせがわは脅えた表情の堂園どうぞのを連れて入室する。

 「捜査第1課3係長谷川はせがわ、参りました」
 「同じく堂園どうぞの参りました」

扉を閉めすぐに頭を下げる。これであってるっけ?などと正しい礼儀に焦る心で頭を悩ませる。

 「呼び出して悪かったね。この人が君たちに渡したいものがあるそうだ」

山戸やまどの言葉に顔を上げ山戸やまどの前に座る後頭部を見た。その後頭部はすっと立ち上がり、ピシッと決まったスーツを着こなしていた。その雰囲気と来ているものにどこかのキャリア組かと2人は思う。
 しかし、違った・・・・・・ 振り返った男は2人ににこやかにこう、あいさつした。

 「先ほどぶりです」


 ワックスで少しバック気味に整えられた髪型に伊達眼鏡をかけるたけるの姿があった。
 「さっき‥‥‥あっ」

堂園どうぞの長谷川はせがわも驚きの声を上げ、目の前に立つ人物が尚更わからなくなった。知的で優しそうな印象を与えるいうなればキャリアのような雰囲気を醸し出すたけるに目を白黒させる。

 「やはりぱっとは気が付きませんね」

たけるは気が付かれないことに心の中でガッツポーズを決めた。朝の格好では失礼に当たる、かといって総長としての格好で警視庁を訪れることは憚られるような気がするたけるは今のような格好で訪れる。これがなかなか警視庁だけでなく、どこにでも溶け込めるからたけるとしては楽しいコスプレイベントだ。


 「いやぁ、いつも思いますが総長はころころ雰囲気が変わってなかなか気が付けませんよ」
 「誉め言葉として受け取りますね‥‥‥っと時間が」

山戸やまどの後ろにかかる時計を見てたけるはポケットから小さなケースを取り出した。差し出されたケースを堂園どうぞのにどうすればいいのかわからなかったが長谷川はせがわの目を見て恐る恐る受け取った。

 「では私はこれで。副総監、お邪魔しました」
 「わざわざありがとうございました」

 出ていくたけるにヤクザに頭を下げるのはと納得いかないものの頭を下げる副総監にならい頭を下げた。扉が閉まり3秒ほど間が空いたが堂園どうぞのは手のひらの小さなケースを開ける。

 「SDカード?」
 「強盗殺人が発生した時の監視カメラの映像だ。参考になれば幸いだそうだ」
 「なぜ?ときいてもよろしいでしょうか」

長谷川はせがわ堂園どうぞののSDを見ながら訝しむ声を漏らす。山戸やまどは湯飲みのお茶を飲みほし立ち上がった。堂園どうぞの長谷川はせがわに面白いというような笑みを浮かべる。

 「昔から協力関係にあるが6代目になってからは前よりも協力している。なんといってもカタギに迷惑をかけることをよしとしない堅物だ」
 「はぁ」
 「堂園どうぞのを気に入ったようで目をかけてほしいと頼まれた。それをもって捜査に戻りなさい」



 山戸やまどの協力関係にあるという言葉に少しショックを受けながら副総監室から無事に退室して、堂園どうぞのは横を歩く長谷川はせがわに不安そうに縋る目を向けた。
 「これ‥‥‥ウィルスとか入ってませんよね」
 「さぁな、鑑識に回そう」

長谷川はせがわは厄介なものに気に入られたものだとSDに視線を戻す堂園どうぞのを見る。関東最大組織6代目総長、神林かんばやしたけるに気に入られたなんて自慢にもならないと堂園どうぞののことを考える。しかし、考えたところでどうにもならないわけで苛立った長谷川はせがわは頭をかきむしった。

 「大丈夫ですか?先輩」
 「大丈夫じゃないのはお前だ」
長谷川はせがわ堂園どうぞのの頭もかきむしって押しつぶすと先を歩き出した。







 「課長、戻りました」
 「副総監の要件は何だった」

 戻ってきた堂園どうぞの長谷川はせがわに捜査第1課馬場ばば課長は駆け寄る。ずっと不安な思いで待っていたのだ。もしかすると自分の進退にもかかわるかもしれないと気が気ではない。口ごもる長谷川はせがわ馬場ばばは何を言いよどむ、と訝し気に見つめ堂園どうぞのに視線を向けた。
 課長の視線に堂園どうぞのもなんて報告すればよいのか悩み言葉が出ない。    

 「おい」
 「強盗殺人周辺の監視カメラのデータを頂戴しました」

長谷川はせがわはSDカードのことだけをまずは報告した。神林かんばやしのことを報告せずに済んでほしいと願った。

 「それはありがたいことだが、なぜ副総監が」
 「その‥‥‥神林かんばやし組からの提供で」

堂園どうぞのがポツリと答えると馬場ばばが椅子から立ち上がり目を丸くして堂園どうぞの長谷川はせがわを凝視する。ほかの捜査員もひそひそとマジかよとつぶやいているのが聞こえる。
 長谷川はせがわ堂園どうぞののカミングアウトにため息をついてからと驚愕から腰を上げた馬場ばばの耳に顔を寄せた。 

 「どうも、堂園どうぞのを気に入ったようで事件解決の糸口になるならと総長が直々に」
小さな声で囁かれた言葉に馬場ばばは丸くした目を更に開き小さくなっている堂園どうぞのを見る。身を小さくし自分を見る堂園どうぞのに詰めていた息を吐きだし馬場ばばは椅子に座り直す。
 副総監が堂園どうぞのを何もしていないということはこのままでよいのだろうと一旦考えることを放置した。

 「それで映像からなにかわかったか」
 「はい。映像の一つに怪しい男が映っておりました。これがその男です」

長谷川はせがわは印刷した映像を差し出す。差し出された紙を馬場ばばが見れば目がくぼみこけた男が印刷されている。目が飛び出しているように見え不気味な顔つきだ。

 「前科がないか身元を調査しております」

 長谷川はせがわの言葉とタイミングを合わせたかのように資料をもって小太り鑑識員が入ってきた。

 「お待たせしました! 前科ありました。福田ふくだ隆太りゅうた 45歳。銃刀法違反、窃盗せっとうで捕まってます」

 事件資料の張り出されたホワイボードに資料を張り付ける。捜査員がわらわら集まり資料を確認しメモしていく。

 「かなり危険な男だな。今も銃を所持しているかもしれない。すぐにこの男を捕まえるんだ」


馬場ばばの指示が捜査員たちに飛ぶと捜査員たちは返事と共に外に駆け出して行った。


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