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「こうやって、指を追ってくるから……そう。誘導して、こうやって包む」
「ふむ」
「デジィさんの子ども達、お洒落だね」
「ねぇー」

 タスクとホープがデジィに子どもの世話の仕方を教えている。
 
「まぉさまぁ」
「タクトも喋れるようになったな。よしよし」
「魔王さま、私も喋る!」
「そうだな。マリーも上手に喋れるようになったな」

 獣耳の生えた二人の我が子を抱いて頭に頬を寄せる。

「魔王様、おままごとしよ」
「ああ、いいぞ」

 マリーが積み木で作った家を指差した。その家の中には小さなテディベアが置かれている。

「これが私で、こっちがタクト。魔王様はワンちゃん」
「わん」
「マリーがセリアス様を犬にしてる……羨ましい」
「こらホープ、ちゃんと集中しろ」
《私が居なくとも、もう皆様立派な触手の親になれますね。セリアス様も介助のない出産にも大分慣れた様子でした》

 隠居前の老人のような事を言うストールに、デジィは尊敬の眼差しを向ける。

「ストール殿にはまだまだ教えていただきたいことが山ほどあります。計画の為……いや、この子達との未来の為には知識が必要です」
「これからも増えるから、お世話慣れしてるプロは重要だね。次の子が擬態するまでヒヤヒヤする」
「ああ、俺のとこは昨日二人目になったぞ。ソフトと名付けた。後で見に来るといい」
「ええ、はやぁい。僕の子達もそろそろなのかな?」

 セリアスの番である面々の関係は良好である。

「……その、頻繁に呼び出しはされないんですか?」
「ぁ、あーー……出産の負担や子どもの世話を考えたら頻繁には出来ないですよ。連夜は特に。翌日産まれるんで」
「…………産まれる人数の差は、何か要因などあるのでしょうか?」
《ああ、デジィさん七回以上されたのに五体でしたからね》
「「七回以上……」」

 ゴクリと二人が生唾を飲む。
 セリアスの限界は七回だと思っていたのに、限界突破をする程に熱い夜を過ごしたようだ。

《個体数はお気にならず。種族による腸の長さの違いです》
「腸の長さ?」
《草食であるタスクさんとホープさん達は消化に時間がかかるので、肉食や雑食の方々より腸が長いんです。雑食のデジィさんは二人より消化時間が短いので腸も短い。子どもをこさえられるスペースが種族で違うだけですから》
「へぇーー! そうなんだ!」

 体内構造の違いを熟知している歴戦のセックスファイターストールの的確かつ丁寧な解説に感心する三人。

「お手」
「わん」
「おかわり」
「わん」
「ちんちん」
「ホープ」

 マリーの要求に保護者のホープを呼び付けるセリアス。

「なんて事覚えさせてるんだお前は……」
「あ、チンチンって、これですよ」
『ピト』
「……?」

 ホープがマリーと鼻を擦り付けている。

「ゴッチンをチンチンって覚えちゃったんです。鼻かむ時のチーンも混ざっちゃって」

 鼻をくっつける事を“チンチン”と覚えてしまったマリーに全員が苦笑いを浮かべる。下品を知らぬ無垢な子ども故の語感。

「ちーん?」
「タクトは覚えなくていいよーまだ早いなー」

 キョトンとした顔でマリーを見上げるタクトを回収するタスク。

「……そうか……我々の言葉を覚えるのか」
「口喧嘩は控えた方がいいな」
「…………セリアスの事をなんと呼ばせればいい。父様か?」
「好きに呼ばせてくれ。どんな名称であれ、私は親に変わりない」
「「魔王さま/まぉさま」」

 無邪気にセリアスを呼ぶ子ども達の頭を撫でる。

「ふふ、可愛いなぁ」

 現在触手の数は、三十二体。
 実験体である人間達の経過観察に基づくラージャの導く数は百体以上は最低限必要になる。
 
《(ローテーション的にもう一人居れば、完璧。産む数から考えたら草食のエルフか牛獣人の中からが好ましい)》

 ストールは四人の中に馴染めるメンバーを脳内で選出すると、自然と一人に絞られる。



「俺、ですか?」
《ヘルクラスさんは魔王様の事を好いていらっしゃるので、お誘いを》
「い、いやいやいや! 恐れ多い事です! 俺なんかが、魔王様の……その、番になどと……俺はエルフの中でもそれなりに歳もいっています。新参の魔族達との生活指導もあるし」
《エルフのリーダーとしての農耕や服飾の働きは、素晴らしい物があります。他の魔族達のまとめ役も担ってますし……ありがとうございます》
「魔王様やデジィさんのおかげです。皆、人間に怯えず暮らせる日々を泣いて喜んでいます」

 故郷も自身も焼かれ、長や戦士達によって生き延びたヘルクラス。戦士として役に立てず、逃げ延びただけの自分に自信を無くし、自己肯定感が低いエルフになってしまっていた。

「ぉ、俺じゃなくても……魔王様の番になりたいエルフは多いですよ。確かに、俺は恋慕を抱えているかもしれませんが……俺よりも相応しい者が沢山います」
《はぁ……そうですか……無理強いをしては魔王様に怒られてしまいます。けれど、保留という形にさせてください》
「……ストールさん、俺は」
「パパー! 見て見て! ハーピー達が羽根飾りをくれたんだ!」

 ヘルクラスの足元に駆け寄ってきたのは、自分の子どもだった。
 ハーピー達の階層に遊びに行っていたらしい。両手が翼のハーピーの羽根は魔族の間でも装飾品となる。勿論、抜け落ちた物に限る。
 人間は獣の特徴が強い両腕両脚を削ぎ落としてくる為、デジィによって避難誘導された中には四肢欠損のハーピー達も多かった。セリアスの治癒魔法と触手治療により元の姿を取り戻している。
 穏やかに過ごしているハーピー達。出来立ての階層にはまだ実りは少ない為、エルフの階層にある果物を一時運び入れていた。そのお礼にと抜けた羽根をくれるようになったようだ。

「お、おお、綺麗な冠だな。お姫様みたいだ」

 エルフ特有の綺麗な顔立ちをしたヘルクラスの娘は、羽根飾りの冠の華やかさに負けない輝きがあった。
 理不尽を乗り越えて、花のように笑っている次世代の存在。

《……ふーむ》

 ストールは階層を後にして、壁を這って移動する。
 
《(踏まれても死なない強い物達は繁殖に感情が付き纏う。求愛行動をする。好き嫌いもある。豊かな証拠であるのに、私には面倒でならない。生存戦略の違いは理解しているつもりでいたものの……はぁぁ、エルフ相手に保留なんてしたら五十年は踏ん切りにかかってしまう)》
「あ、ストールさん。こんにちは」
《ラージャさん、こんにちは。休憩中ですか?》
「雨が降ってきたので今日の訓練は中止です。ん? 何やら冴えない顔をしてますね?」
《私に顔は無いのに、何故わかるんですか?》

 ひょいっとラージャの肩に飛び乗れば、ラージャは嬉しそうにストールを撫でる。

「魔王様メインでしたけど、私は魔族の研究者ですよ。触手の気分ぐらい判別出来ます」
《そういうものですか。はぁーあ……ラージャさんも生粋の魔族なら推薦出来たのに……》
「また番問題ですか? 大変ですね」
《魔王様がもっと欲張ってくれれば苦労はないんですけどね》

 やれやれといった調子で頭を振るストール。

「魔王様は他者の心を尊重していますからね。自分に正直ですし、デジィさん達みたいな信念も持っています。所謂拘りですね」
《面倒臭いです》
「あははは! そうですね。面倒臭いですね。けど、それが魔王様を魔王たらしめる物ですから」
《わかってます。でも……このままじゃ》
「…………ストールさんの気持ちも尊重してくださいますよ。ちゃんと伝えれば、きっと考えてくださるはず」

 ラージャに後押しされ、ストールは夜にセリアスの元へ赴いた。部屋の前で深く呼吸を繰り返す。
 魔王様が要の計画である為、今回は魔王様に動いてもらうしかない。

「ぁ……うう……」
「!」

 防音のカーテンを捲って中へ入ると、セリアスとホープが励んでいた。

「んっ、んん、セリアスさまぁ」
「……はっ……はぁ……ホープ」

 愛おしそうに名を呼び合いながら繋がる二人をストールは部屋の隅で満足気に眺めていた。
 事が終わったのは、夜明け前。
 出産が終わったのは昼前だった。

《お疲れ様でした》
「ありがとう。疲れているのはホープの方だがな」
「スピー……」

 子どもを抱きながらすやすやと寝息を立てているホープの頬を撫でるセリアス。

《あの……魔王様、少々お話が》
「なんだ?」

 話を聞く為にセリアスは手を差し伸ばしてストールを掌へ乗せる。

「……番の件か?」
《お察しの通りです。私の話と言ったらそれぐらいですから》
「わかっているが……最低でもあと一人、必要なのだろう?」
《御三方はその気があったので、魔王様のお心次第でしたが……次はそうもいきません》
「次?」

 ヘルクラスについてストールは言及していく。

《私が見た限りでは、彼が魔王様に慕情を一番抱いています》
「ヘルクラスがか? どう判断した」
《自慰行為で魔王様の名を呼んでいる男性は今のところ彼だけですので》
「その事は絶対ヘルクラスには言うなよ! 首を吊りかねない!」
《そこは私だって弁えています。私は性欲と生殖に関する事は詳しいですが、恋心はいまいちです。バレたら羞恥心と罪悪感で死んでしまいそうなのに、ヘルクラスさんは魔王様が好きで堪らない様子でした》

 リスクのある行為をリターンを求めず、ただ自分の中で発散している。
 解消しきれない情を諦めて、見ないふりをしているヘルクラス。
 
《それに自分の価値を低く見積もっているので、私が声をかけたところで効果はありません。魔王様の側に自分は相応しくないと、言っていました》
「…………生き延びた負い目の所為か」

 火傷を治しながら声を掛けてはいたが、心の傷は治癒しきれなかった。
 本来ならばエルフは鼻につくほどの自尊心を持っているはずだが、人間によりそれはへし折られている。特にヘルクラスは自分の価値さえも地に落とす勢いだ。戦士としての役割を全う出来ずに生き延びた事が背にのしかかっている。
 命を賭して戦った戦士達や村長が、ヘルクラスにも生き延びて欲しかった心情の事実を受け入れて尚、苛まれている。

「(役目の事や、私の事で変に苦しんでいるのなら助けたいが、後者は私の気持ちも伴わなければその場凌ぎの慰めになってしまう)」
《……私が言いたい事はただ一つです》
「…………」
《彼を口説き落としてください! 魔王様のお気持ちは後からでも間に合いますので、早急に行動を!》
「わか、わかったから、そんなグイグイくるな」

 眠るホープの横でわちゃわちゃと話し合いは騒がしく幕を閉じた。
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