上 下
17 / 38

16:擬態

しおりを挟む

 初夜を迎えた次の日に、ホープは初の出産を経験した。

「六体……ホープ、大丈夫か?」
「ヒュー……カヒュッ」

 出産に伴う快楽にガクガクと内腿を痙攣させ、メスイキが止まらないホープ。
 その腕の中には、我が子がすやすやと眠りながら快楽で溢れた母乳に濡れていた。

「刺激が強過ぎたようだ」
《複数個体産むのにはやはり男でなければ耐えられそうにないですね。子宮だと多産のスペースが取れません》
「……女性に子宮破裂のリスクは負わせられないな」
「ふふ……末っ子だ」

 震えるホープの傍で、タスクは今朝産まれた一体を布に包んで抱いていた。
 周りには興味深そうに末っ子を覗き込む兄弟の触手達が集まっている。

「すぐに下の子が出来る。束の間の末っ子だ」
「っ……はい。そうですね」
「ん、んぁ……はぁ……」

 漸くホープが身体を動かせるようになり、セリアスが甲斐甲斐しく身体を拭き、服を着せていく。

「……不思議な、感覚です……ふへ、触手が生まれるなんて、へへへ……僕の子ども……は、ひひ」

 一生叶わないと思っていた子宝を少々特殊な形で授かったホープはくすぐったそうに笑いながら、ぷーすか眠る我が子に頬を寄せる。

「セリアス様……ありがとうございます」
「こちらこそ……私の子を産んでくれて、ありがとう」
「これからも、いっぱい子作りしましょうね」
「ああ。けれど、無理は禁物だぞ。出産の負担は身をもって知っただろう?」
「うっ……はい」

 シュンと垂れた牛耳を摩りながら、背を撫でる。

「子作りの為に私達は一緒になったのではない。愛し合う為に、助け合う為に……共にある」
「セリアス様……今更ですが、僕が番に加わっても、大丈夫ですか? 仲間に聞いたんですけど、龍人は一夫一妻の文化だって」
「それは龍人同士の文化であって、異種間の私達には関係ない事だ。気にしなくていい。どうか、私の番になってくれ」
「は、ぃ……嬉しいです」

 タスクとホープの肩を抱き寄せながら、セリアスは胸がいっぱいであった。




 だが、それから三日もしないうちに事件が起きた。
 いや、事件というにはあまりに摩訶不思議な神秘的な現象が起きていた。

「ぅ、ぬーー」
「あーぅ」
「…………どういう、事だ?」
「朝起きたら……子ども達が」
「……そっくり」

 子ども達は母体違いの兄弟別に寝床が用意されていたのだが、朝起きて見てみると子ども達の様子が一変していた。

「ス、ストール! ストールストール!」
《はい! お呼びですか魔王様!》
「ストール! この現象はわかるか!?」

 部屋に駆けつけたストールをセリアスが両手で抱き上げて、子ども達の前へ連れて行く。
 つぶらな瞳がストールに集まる。

《あぁ~~~~コレは……》
「だぅ」
「おっおっ」
《珍しい事象ですが、近い遺伝子を持つ触手が集まっていると遺伝子情報にある容姿を集団で模倣する習性があるんです》

 二人の子ども達は、セリアスの持つ青い鱗を体に散らした獣人の姿になっていた。それぞれ母体の特徴も持っている。
 兎の耳と尻尾を持つ赤子と牛の耳と尻尾を持つ赤子がセリアスと同じ金色の瞳でこちらを見つめる。

「何故……?」
《え? 何故ってそりゃ、同じ容姿であれば同族だと思って油断するじゃないですか。苗床獲得率グッと上がります》
「逞しいな」

 所謂擬態というモノだった。

《普通なら五十体以上似通った遺伝子が居ないと起こらない習性なんですが、この子達は魔族二体分の強くて濃ゆい遺伝子があったので少人数で模倣出来たのでしょう。今回は知能が低い段階での結合なので、ほぼ一個体の意識に統一されてますね》
「……僕の子達はタスクさんの子達より少なかったのに?」
《…………あのぉ……セリアス様が、ホープさんの後ろを解す際に、ホープさんの精液も使ったので、濃厚な遺伝子が取り込まれたのかと……》

 初夜におけるセリアスとの前戯を思い出して、ボッと赤くなるホープ。
 考えられる原因としては、それぐらいだ。

「……よいしょっと」

 タスクが抱き上げれば、兎の赤子は何もわかっていなさそうな無垢な瞳で見つめてくる。

「よしよし……俺がわかるか? 生みの親だぞ」
「ぅう」
「ふふ、姿が変わってもお前達は可愛い俺達の子に変わらない」

 タスクの赤子に慣れた抱き方を見習って、ホープも同じように抱き上げる。

「ち、ちっさ。潰しそうです」
「首をココに凭れさせて……そうそう」
「んぶ……あぅ」
『パク』
「「あ」」

 ホープの子が、服越しに乳首を食んでか弱い力で吸っている。

『ちゅぅ……』
「……授乳って、触手に必要でしたっけ?」
《いいえ。飲食は一切必要ありません。ですが、擬態している種に寄せた動きをするので、授乳されたがってるのは事実です》
「そう、ですか」

 おずおずと服を捲って、胸を差し出せばハムっと柔らかく小さな唇の感触があった。

「んっ」
「大丈夫か?」
「はい……んへへ、形だけでも僕の乳が本来の意味を果たせてると思うと、嬉しいです」

 人間の飲み物として搾取されてきた牛獣人の母乳は、本来は子を育てる為のものである。
 ホープは泣きそうな表情で、乳を飲む我が子を撫でる。

「いっぱい飲んで、大きくなるんだよ」
「あぅあ~」
「ストールや他の触手達のように喋れるようになるまで、どれほどかかる」
《個体差ありますが、半年程で言語でコミュニケーションは取れるようになります》
「そうか。ふふ、第一声が楽しみだな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)
BL
アシェルはオルシア大国に並ぶバーチェラ王国の侯爵令息で、フィアナ王妃の兄だ。しかし三男であるため爵位もなく、事故で足の自由を失った自分を社交界がすべてと言っても過言ではない貴族社会で求める者もいないだろうと、早々に退職を決意して田舎でのんびり過ごすことを夢見ていた。 しかし、そんなアシェルを凱旋した精鋭部隊の連隊長が褒美として欲しいと式典で言い出して……。 静かに諦めたアシェルと、にこやかに逃がす気の無いルイとの、静かな物語が幕を開ける。 「望んだものはただ、ひとつ」に出てきたバーチェラ王国フィアナ王妃の兄のお話です。 このお話単体でも全然読めると思います!

処理中です...