虹色の約束

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9・準備

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 やってしまった。
 星波とセックスをしてしまった。媚薬の所為だとしても、勢いで生セックス。中出しなかった星波は偉いと思う。
 初夜から二ヶ月。
 あの日の教訓からか、星波は挿入無しで愛撫に愛撫を重ねて俺の理性がドロドロになるまで解してから擦り合わせで終わらせる様になった。
 俺としては負担が少なくて有難いが、俺だけ気持ち良くして貰ってばかりなのは不公平だろう。
 一度あの凶器を受け入れたのだから、過保護にされても仕方がない。
 しかし、素面でおねだり出来るほど俺も肝は座っていない。
 星波のしたいようにさせているが、俺も何かしてやりたい。

「うーーん……バイク雑誌見てもどれが良いかわかりません」
「俺が持ってる昔の雑誌じゃ、そりゃ若いお前にゃピンと来ないだろう」
「そういうもんですかね?」
「こういうのは、生で見るのが一番だ。行くぞ」
『ポイ』

 俺の出来る事と言えば、こうやって星波の足になるぐらいだ。しかも、星波がバイクを買うまでの間だけ。
 最寄りの中古バイクショップへ星波を連れて行く。
 
「うわ! 自転車ショップより圧がありますね!」
「デカいし幅もあるからな」

 星波は店内に展示されたバイクの多さに驚いている。
 土曜日という事もあり人は多いが、比較的スムーズに店内を見て回れる。

「うーん、どれもかっこいいですけど……何を見て選んだら良いのか」
「そうだな。初心者は立ちゴケが多い。取り回し重視で軽い方がいいかもな。あとは……やっぱり色かな」

 立ちゴケとは、停車中にバイクにまたがったまま車体を倒してしまう事だ。
 星波には好きなメーカーや型番があるわけでは無いから、ス◯◯を選ぼうが俺は目を瞑る。

「なるほど。座る位置も大事ですよね」
「踵がべったり付く奴がいいな。デフォルトで合うのが無ければ、車高の調整だ」
「ふんふん」

 ヘルメット選びも真剣に悩んでいる星波は楽しそうだった。
 一通り見終わった後、星波は一台のバイクの値札を確認していた。

「(ホンダ CB250R。しかもマットブルーか。黒と青の色合いは星波にピッタリだな)」

 価格は税込みで四〇万。中型バイクの中古にしてはちょっと高い。増税の影響だろう。

「この子にします」
「もう決めたの?」

 長考による焦りや、待たせている俺に遠慮している様子も無いから本当に気に入った様子だ。

「ちなみにどこが決め手?」
「一目惚れしたのはフォルムですね。あとは色」
「うん。いいと思う。カッコいい」

 星波の貯金額は流石に把握してないが、バイク乗りに必要な物はバイクだけではない。
 プロテクター、ブーツ、グローブ、メット、チェーン等、一式買うとなるとかなりお金が掛かる。
 けれど、揃った時の充実感は半端ない。
 
「次の給料日には買えそうです」

 思ったより直近で購入する事に驚いたが、「早く一緒に走りたいです」と言う言葉を聞いて嬉しくてつい口角が上がる。
 帰りにコンビニへ立ち寄り、飲み物を物色する。

「……そういえば、そのツナギってトイレ不便じゃないですか?」

 俺のレザースーツを指差して星波が言った。
 確かに、前を開けるだけならともかく、大をする時はトイレでほぼ全裸にならなければならない。
 かっこいいレザースーツやツナギを着る際にトイレでの大惨事が脳裏を過り踏み込めないライダーも多い。

「これ、後ろまでファスナーついてるんだ」
「え?」
「元はレディース向けに開発された物なんだが、最近メンズにも適応されたんだ。股下通ってるチャックも気にならないし、着やすいから」
「そうなんですか。知らなかった」

 トイレ問題は深刻だからな。きっとまだまだ良いものが出てくるだろうし、改善されていけばいいと思う。
 あと、一時期SNSで“羽化”と言う一発芸チャレンジがバズって一気に認知されたから需要も安定してる。

「俺も同じの欲しいです」
「ならプロテクターは青色にしたらどうだ? バイクのカラーと合うだろ」

 俺の提案に星波はパァッと顔を輝かせながら、何度も首を縦に振った。

※※※

 星波は相変わらず俺の家に来て、ご飯を食べたりテレビを見たりゲームをしたり、たまにセックスしたり。
 変わった事と言えばバイクの話をよくするようになった事ぐらいだ。
 それから、何処に行くかの計画を立てるようになった。
 共通休日が土曜日だけで、行くとなれば日帰りツーリングになる。
 接客業に祝日は無い。GWも年末年始も無い。金が店の定休日で土は星波の個人の固定休日。

「次の日仕事なのに、大丈夫か?」

「空矢さんと一緒に過ごせるだけで疲れなんて吹っ飛びますから。問題無いです」

 感情が疲労を凌駕し慰労するとは、なんと羨ましい。二十代の脂の乗った時期だ。俺だってまだ体力はある方だが、星波には敵わない。
 ああ~~……歳を感じる。

「若いな」
『フニ~』

 星波の頬を摘んで引っ張ると柔らかい餅みたいに伸びる。

「やめてくらはい~」

 星波は嫌がるが、構わずにむにゅっと潰してやる。

「肌触り良いな。なんかしてる?」
「アオさんにスキンケアは指導されました。店で化粧もするんで。肌は労われって」
「納得……凄いモチモチ」

 星波の頬に自分の頬を寄せて擦り合わせると、スベスベしていて気持ちいい。

「ふふ、髭がチクチクします」
「あ、ごめんごめん」
「……俺も髭生やそうかな」
「やめとけ」

 星波の綺麗な顔が損なわれるのは勿体ない。
 髭に適齢期みたいなモノは無い。これはただの好みの問題だ。
 星波の顎を掴んで、顔を改めてじっくり見つめる。

「俺は今の星波の顔が好きだ。もうちょっとだけ堪能させてくれ」
「…………ふぁい」

 ポッと赤くなる星波を眺めていると、なんだか自分の発言が恥ずかしくなってきた。
 照れ隠しに、もう一度だけ、ムニムニと柔らかな感触を楽しんでおいた。
 

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