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おまけ②
おまけ②・うららか家族
しおりを挟む純一郎は二つの命を身籠った。
性別はわからないが、祝福すべき事だ。
「赤ちゃんの名前?」
「ああ。そろそろ私のお願いが聞き入れられそうだからな」
「~~~~ッッ! やっっったあああ!!」
「まだ妹とは決まってないよ」
「けど妹かもしれない!」
食後に子ども達と新たに加わる家族の名前を一緒に考える事となった。
三つ子にはまだ難しい事柄だが、今後の為に同席させる。
「アカリ落ち着いて。まぁ、二年も待たせちゃったから、流行る気持ちはわかるよ」
ワクワクと身体を揺らすアカリの頭を撫でながら、純一郎は何枚か紙を取り出す。
「モモパパ、子どもの名前ってどう決めるの? どうしてそんなに大事なの?」
「新たな命に、想い、願い、生き様、そういった事を考えて決める。この作業を人間は“命名”と言うそうだ。個を確立して特別な存在にする。だから、大事な事なんだ」
「うーん。よくわかんない……」
「これから知っていけばいい」
モモがヒカリの背を叩き、純一郎の持つペン先を見つめる。
「ヒカリ、アカリ、ヒヨリ、ヒナタ、アサヒ……」
子ども達の名前が書き出されていく。
「ヒが多いね」
「多いね」
「お姉ちゃんだけ無いよ?」
「でも、お兄ちゃんとよく似てる」
純一郎の教育で聡い三つ子は簡単な文字列なら読めるようになっていた。
「……僕らの名前にも意味があるの?」
「ああ。皆、暖かい陽差しのような優しい子になるようにと、ジュンパパが名付けてくれた」
「…………そんな人になれるかな?」
「自由に生きればいいさ。破綻しない程度に」
「はたん??」
モモの言い回しに首をこてこてと傾げる。
微笑ましい光景を眺めながら純一郎はまだ見ぬ双子の名を考える。
「あったかい名前って何?」
「うー……ぽかぽか」
「ぬくぬく」
三つ子なりに考えてくれたようで、自分の考える暖かさを口々に呟く。
「ジュンパパ、私ね、ハルヒって名前考えてたの」
「ハルヒ! 良いじゃないか! うんうん」
「へへ、やったぁ」
候補として紙に書き記す。
「それこそ、ヒザシもありか」
「そうだな。うんうん」
それから幾つかの名前が候補に挙がった。最終決定は卵が孵り、性別が判明してから行う事にした。
「ふふ、楽しみ~」
「ヒヨリはお姉ちゃん。ヒナタ、アサヒはお兄ちゃんになるんだよ。しっかり妹……弟かもしれない子の面倒見ないとダメだよ」
ヒカリが三つ子に上の子としての振る舞いをドヤ顔で語っていた。
長男としての貫禄が少し出て来ていた。
「ジュン……絶対安静だからな」
「わかってる。でもほら、みんないい子どもだから元気いっぱいじゃん。洗濯物とか、掃除とか……出来る事させてくれ」
「…………わかった」
子育てを任せる罪悪感を抱えては、卵にも純一郎の精神にも悪影響が出かねない。
モモは渋々、純一郎の願いを聞く事にした。
※※※
純一郎が産気付いたのは、懐妊から十五日目の就寝前であった。
三回目ともなれば、慣れもありモモのサポートでスムーズに事が運ばれていく。
「ひっひっ、ふぅ~……んん!」
「いい調子だ。もう一個」
「くは……ふぅ~~……あ、ああ!」
『コポン』
「……よく頑張ったな」
布に包まれた卵は、拳ほどのサイズ。
正常な状態の卵にホッと胸を撫で下ろす純一郎の頬にキスを落とす。
「身体を休めてくれ。この子達は水槽に寝かせておく」
「……うん」
寝室を出て行くモモを見送った。
翌朝のリビングに新設された水槽を見たアカリが興奮のあまり絶叫して走り回っており、宥めるのに一苦労した。
「双子!? 双子なの!?」
「ああ。双子だ。落ち着けアカリ。落ち着け。ヒヨリ達がまだ寝てるんだ」
「……ふふ、あははは! モモパパ大好き! いっぱいお願いしてくれたのね!」
「ジュンパパもたくさん頑張ってくれたぞ。帰ったら撫でてやってくれ」
「うん!」
ヒカリは水槽に張り付いて、不思議そうに卵を眺めていた。
「……僕らもこんな感じだった?」
「そんな感じだったな。あの頃の純一郎はバタバタしていたが、産まれてくる二人の事をそれはそれは楽しみにしていた。今のヒカリみたいに水槽に張り付いて動かない卵をジッと見ている事も多かった」
「へぇー」
二人を学校へ送り出したら、次は三つ子の朝支度。
「水槽がある」
「卵だ」
「コレが妹?」
「なんで水の中にあるの?」
「ジュンパパは?」
早速質問攻めに合うが、律儀にちゃんと答えるモモ。
ジュンパパっ子のヒナタは毎朝泣きそうになりながら、純一郎をキョロキョロ探している。
「ジュンパパは、もうすぐ起きてくる。朝の支度が終わったら、遊んでもらおう」
「うん!」
三つ子の朝食を見守りつつ、卵の方も気にかけておく。
「ふぅ……おはよう」
「ジュンパパ!」
二階から降りて来た純一郎に三人が駆け寄って足に抱き着く。
「おっと、ふふ。寂しい思いさせてごめんね。もう大丈夫だから」
「あのね、あのね、今日は一緒に遊んでほしいの」
「おやつも一緒!」
「お昼寝も」
「うんうん……」
幸せそうに微笑みながら、子ども達の要望を了承する。
「モモ、任せっきりでごめん。ありがとう。今日から復帰するから、休んでていいよ」
「お言葉に甘えて、そうさせてもらう」
「夜、何が食べたい?」
「んー……焼き魚」
「わかった。腕によりをかけて作るよ」
その日は細かい家事を無しにして、純一郎は育児に没頭し、モモは一休みを入れてゆっくりとしていた。
『クゥン』
「カムフラ、構ってやれなくてごめんな。後で散歩に行こう」
モフモフの身体を純一郎に押し当てて、甘えるように喉を鳴らす。
わしゃわしゃと撫で回せば、腹を見せ喜ぶカムフラの姿に三つ子も撫でに加わる。
全員に身体を丹念に撫で回されて、至福の時を過ごすカムフラであった。
それから、帰宅したヒカリとアカリに労われたり、モモの卵のお世話講座が始まったり、孵化後水棲から陸棲になるまでの過程の説明に子ども達の首がこてこてと傾げられたりした。
数日後、緊張の瞬間がやってきた。
食事中に卵にヒビが入り、全員食べるのを中断して水槽の前に集まる。
「透けてる」
「ちっちゃい」
「頑張れ~」
「どっちかな」
「どっちだろう」
殻を破って最初に顔を出した方は……
「雄……男だ」
「弟だ!」
「もう片方も出てくるよ」
そしてもう一個の卵から出て来たのは……
「…………雌だ」
「……メスって、女の子だよね?」
「ああ。良かったなアカリ」
「ふぁああああ!! えっとえっと! 名前、二人とも名前決めてあげなきゃ!」
もう一人、妹が欲しいという願いは、二年の歳月を経て、叶えられた。
名前の決め方は……水槽に紙を貼り付けて、二人に選んでもらう事にした。
二人がピトっと水槽越しに触れた名前。
「弟がテルキ、妹がハルヒ。いいね。ヒカリとアカリの命名だ」
「……ふふ、あは、なんだかくすぐったいね」
自分が名付け親になる感覚に照れ臭そうに身を捩るヒカリ。
生まれたての双子を見つめて目を輝かせる三つ子。
水槽の中に純一郎が手を入れれば、すっぽりと掌に収まり、身を押しつけてくる。
その愛らしさに、子ども達は胸を打たれていた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん達、これから弟と妹をよろしくね」
「「はーい!」」
元気よく手が上がり涙をグッと我慢して満足気に笑う純一郎。
それに気付いたモモが純一郎の背をポンポンと叩いて念話を送る。
『ジュン、ありがとう。元気な子を産んでくれて……ふふ、愛しいものが増えていくな』
「ッ……ぅ、うう」
「パパ!? どうしたの? 泣かないで」
「ジュンパパ?」
モモの念話に決壊した涙腺から溢れる涙。水槽から手を抜いて、へたり込む純一郎の涙を子ども達が大きくなった手と小さな手でもみくちゃに拭う。
陽だまりのような温もりを持つその優しい掌に、愛しさが溢れて仕方がない。
子ども達を抱きしめて、幸福を噛み締める。
純一郎の涙に困惑気味の子ども達だが、抱きしめ返すのにそこまで時間はかからなかった。
新たな命の誕生。それは、家族が増えるという幸福の第一歩。
その一歩を無事に踏み出せた事に、純一郎は涙が止まらなかった。
そして、子ども達が涙を拭い続いけた。見かねたモモが、キスで涙を止めた所為で一悶着あったが、それはまた別の話。
END
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