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6:主導権を握り決定権を与える人生
しおりを挟む久遠さんを監禁して半年目の事だった。肌寒くなり、流石に裸で過ごさせるには酷過ぎるのと電気代の問題で服を着てもらう事にした。
ただの服じゃない。女装用の服だ。似合わないけど、とてもエッチ。
「中山くん、おかえり」
「……ただいま」
「どう?」
「上着着てください。フリル付きの裸エプロンはエロいですけど、風邪引いちゃいますから」
安物でチープな物ばかりだけど、久遠さんはちゃんとお出迎えに何かしら着てくれている。
「普通、監禁してるヤツにキッチン使わせるなんて頭おかしいとしか思えないけど、こういうシチュエーションが出来るのは強いよな」
「(……ああ、包丁とかあるから危険だって事か)」
今回は裸エプロンだ。もう少し着込んで欲しい。
首輪も新調して暖かい物にしたけど、そんな極所では意味がない。
「……コレは趣味じゃないか?」
「心配のが勝ります。セーターのヤツはエロかったですけど」
「お前ムッツリだなぁ」
この半年で久遠さんは料理を作ってくれるようになった。初めは焦がしたり、調味料間違えてたり、工程が多い料理は大分ボロボロだったけど地道な練習を繰り返して上達している。
はぁ……これは最早同棲だ。
「今日はグラタンとポトフですか。火傷してませんか?」
「痛いのはあんまり好きじゃない」
「?? Mなのに?」
「嫌いじゃないが、俺は苦しい方が好きだ」
「……Mにもいろいろあるんですね」
久遠さんの料理をありがたくいただく。グラタンに例のソースをかけてる久遠さん。今日のキスはお預けだな。僕の口が火傷する。
「苦痛ってひと言で言うのに、得手不得手あるんですね」
「理数系でも、理科が得意で数学が苦手なヤツもいんだろ」
「あーー、なるほど」
モロ僕だ。理科の成績は良いのに、数学がボロボロだった。
「……久遠さんは、学生時代なんの科目が得意でした?」
「…………そうだなぁ。俺は……俺は……」
記憶を探ってくれているのか、虚空を見つめたまま固まってしまった。
「俺は、何も出来なかったな」
「うぅん、まぁそういうのも、ありますか」
闇深そうな話題を振ってしまった。暗い顔になってしまった久遠さんを励まそうと、鎖を上に引っ張って顔を上げさせる。
『ジャラン!』
「!」
「貴方は出来ない事を嘆くより、出来るように努力してきたんでしょ? 料理だって練習して上手くなってますし」
「……ぉん」
「僕はとても助かっています。ありがとうございます」
鎖を緩めても、久遠さんは顔を俯かせる事なく僕を見つめてくる。
「変な気分だ……乱暴に優しくされるのは」
「嫌ですか?」
「……嫌じゃない。好きだ。うん、新感覚」
上機嫌になった久遠さんを眺めながら、食事を終えて、日課となっているソファでテレビを観ながらのんびり二人で過ごす。
「…………キスしねえの?」
「辛いソース食べてたので今日はしません」
「したら怒る?」
「怒られたいんですか?」
「ああ」
久遠さんからキスをされる。ピリリとした辛みと、舌に残る変な味。
「なぁ、怒ってる?」
「はーーっ……ぉえ、ケホッ……カッカッ……ぅ」
「…………それどころじゃないな。牛乳持ってくる」
コップに牛乳を淹れて、僕に渡してくれた。
グビグビと飲み干して、口元に白髭を作る。僕は辛いのが苦手だ。痛いし。
「痛いのは好きじゃないのに……辛いのは好きなんですね」
「ああ。痛みと辛味は似て非なる物だぞ。舌に物理的に針刺すのと唐辛子食べるのとじゃ、全然違うだろ」
「うっ……そう、ですね」
「……なぁ、怒んねえの? お仕置きとかねえの?」
「うーーん、そうですねーー」
期待の眼差しを向けられる。ココで放置プレイは悪手だ。ちゃんと構ってあげないと。
「じゃあ、お仕置です。僕がいいって言うまで、動いてはダメですよ?」
「!!」
腕を引っ張って寝室に連れていき、エプロンを脱がせる。下着のゴムに手をかけてゆっくり脱がせれば既に反応してる久遠さん自身がぷるんっと飛び出した。
ついに抱かれるのか……そんな興奮に濡れた表情で身を固くしている。
「うあっ……な、なんだ? 触ってくんねえの?」
「……お仕置きですから。触ったらご褒美になっちゃうでしょ? 動いたら、お仕置きもお終い。僕の言う事、ちゃんと聞けます?」
瞬きで了承を伝えられる。もうやる気満々だ。
……期待しているところ悪いが、久遠さんを抱く気はない。それこそご褒美になってしまう。
僕も下着をズラして、自分のものを取り出す。
「ぅ、わ……ぁ」
「あぁ、勃ってる状態見るの初めてでしたっけ? 久遠さんに興奮してこうなっちゃったんですよ?」
「お、俺に……」
「そうですよ。だから、ちゃんと見てください」
わざと大きくさせてから、ゆっくりと擦る。勃ったモノを目にして、ゴクリと喉を鳴らす久遠さん。
『クチュ……クチュ……』
控えめだけど、しっかり音が出るように愛撫をする。恥ずかしいけど、久遠さんが夢中になってくれてるのが嬉しい。
「……きっと、貴方は組み敷かれて屈辱的な言葉を叩き付けられながら、酷く抱かれたいんですよね?」
「は……ぁ、はぁ……」
僕の性器から目を離さないで返事もしない。この反応ではYESととるしかないだろう。
「今までにも、誰かにそう抱かれていたんでしょう」
ビクッと肩が跳ねてしまったが、それぐらいなら見逃しておく。
でも、図星か。
僕は嫉妬する程、素直な人間じゃない。今の久遠さんを手中に収めてるのは僕だから。過去に男や女が居たって気にしない。
身動き出来ない自分の上で自慰をされ、欲しいものはお預け状態。身体が疼いても動けない。
「僕にも抱かれたいんでしょうけど、生憎僕は性行為をお仕置きには流用しません。なので、身の焦げ付くような我慢をあげましょう」
「が、まん……ぉい……本気か?」
「ええ……好きで好きで堪らない久遠さんと触れ合う事なく、一方的に熱を発散して終わるんです。貴方が欲して止まない熱を、与える事はありません」
お仕置きなんですから。
そう言うと、久遠さんの表情が苦し気に歪む。言い付けを守って動かないところを見るに、このお仕置きは正解らしい。
主導権は僕にあるようで、お仕置きを中止する権限は久遠さんにある。動けば、お仕置きは終わりだと言ってあるんだから。
嫌なら拒める。
『クチュクチュ』
「ん、久遠さん……震えてる。可愛い」
動かないように力んでいるのかプルプルと震えている。
触れていないのに、しっとりと汗ばんでいく身体。勃ち上がっている性器。荒くなる息遣い。溢れる涙と涎。
与えられず、勝手に蓄積されていく体内の熱に侵されていく。
「……ふ、ぅ……ッ」
「もどかしいと思ってくれますか? 僕に屈服して抱かれたいと思ってくれてるんですね。嬉しいです」
シーツを握りしめて懸命に耐えている久遠さんが堪らなく可愛い。
こんなに口の端から涎を垂らしちゃって、恥もなく僕を食い入るように見つめている久遠さん。劣情を煽るには十分過ぎる。もっと苛めたいなと……育ってきた嗜虐心が湧く。
ちゃんと久遠さんに聞こえるように手の動きを激しくして、自分を追い込む。
「可愛いですよ久遠さん。お仕置されてるのに、一人で妄想して感じちゃうなんて、どうしようない淫乱ですね」
「ゔーーっ……」
苦しそうに歯を食いしばる久遠さんが僕を恨めしそうに睨んできた。そんな久遠さんを堪能しながら限界に達する。
「……っく!!」
『ビュクッ』
「んぁ」
射精の勢いが凄くて久遠さんのお腹から顔までかかってしまった。
「っはぁ……ぁ、ッ~~はあぁ」
凄い。一人でするのとは全く違う高揚感。一気に汗が吹き出る。久遠さんは顔を紅潮させてやっと動かせる身体を、くったりと脱力させた。
「ンッン……ふ、ぅあ……」
「……出した僕より感じてるんじゃないですか」
僕とは違って、勢いなくトロトロと流れ溢れる久遠さんの精液。
「中山くん、中山くん……これいやだ……さわれないの、嫌だ」
「そう思えたなら、お仕置きは成功ですね。こんなお預け状態じゃ、身体も頭もおかしくなりそうでしょ」
「ん、なる……おかしくなる」
「……良い子にしたら、ご褒美あげますからね。その時は欲しい物ちゃんとあげます」
「はぁ……絶対だぞ……ご褒美、くれよ?」
顔に飛んだ僕の精液を舐め取りながら、久遠さんは嬉しそうににんまり笑う。
過酷なお仕置きは絶大で、久遠さんから僕への好感度がだいぶ上がったみたいだ。
半年で漸く、依存という目標に前進した。
風呂上がりにベッドで横になりながらため息を吐いた。
「はぁ……監禁って難しいです。時間かかるし」
「飴と鞭がマイペース過ぎるんだよ。普通毎晩あれこれして、相手堕とす為に尽力すんのに……お前は、俺の居心地だとか体調だとか気にかけ過ぎてんだ」
「健康でいてもらわないと病院の為に外へ出さないといけなくなります。そんなの嫌ですぅ~ずっと家にいて欲しい~」
「おお~……イかれてんな」
身体壊して病院に行く羽目にならないよう、体調管理は万全にしなければならない。
ストレスもあまり感じて欲しくない。
「心配すんなって、見ての通り丈夫な身体だ。ちゃんと側に居てやるから……」
「はい……ありがとうございます」
ぎゅうぎゅう抱き締めながら甘える。久遠さんの暖かい体温が心地好い。
惰性で背に回される感情の篭ってない手も嬉しい。
「愛してます」
「知ってる知ってる」
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