私

チビ

チビは私が中学生の時に来た猫でした。
母が知り合いから貰ってきた猫で、獣医さんに捨て猫かと、小さくて長く生きられないと言われるほどの女の子でした。チビはその言葉とは反対に優しく甘えん坊でいい子に育ちました。名前を呼べば一階に居ても返事をして階段をかけ登ってくるような賢い女の子でした。
大学を卒業する半年前から私は一人暮らしをするようになりました。実家は車で30分くらいの距離でしたが、一人でなんとかして生活してみたかったので滅多に実家には帰りませんでした。寂しい夜は時々送られてくるチビの写真を見て寂しさを紛らわすこともありました。
一人暮らしを初めて二年程経った六月某日、深夜母からラインが来ていました。チビが死んだよと。雨の降る日のことでした。
その日私は用事があって夕方から車ででかけていました。当時の彼氏の運転する車の後ろに乗りながら、私は流れる街並みを眺めていました。ふと前を見ると雲の間から太陽の光が見えました。そして薄らと虹がかかっていました。それを見て私は初めてチビと過ごした十二年間を思い出したのです。初めて獣医さんに行った日。紙袋の中からこちらを見上げるあの子。母と喧嘩すると仲裁に入ってきて私の足を噛んだこと。帰りが遅くなると猛抗議しながら私の周りをぐるぐる回ってご飯を催促する様子を。鮮明に思い出しました。
あの虹を渡っていったあの子を、私は忘れることはないのでしょう。